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リンドア王の浅慮

◆◆◆


「今回は無理を言ってスマンなリンドア王」


 リンドア王国の仮王城の一室で、アドモス王がリンドア王に対し鷹揚にそう言った。


 少しも悪いと思っていない態度が目に付くが、リンドアとしてはアドモスから少なくない支援を受けているため反論なんて出来るわけがない。


「いやいや、アドモス王にはいつもお世話になっていますからな。これくらいのこと、造作もないことです」

「そうか」


 下手に出たリンドア王に気分を良くしたアドモス王は、短くそう言ったあと満足そうな顔になった。


 これくらいのことで機嫌が良くなるならいくらでも頭を下げてやると、元々王族の親類ということで高位貴族ではあったが王族ではなかったリンドア王は、アドモス王に対してニコニコとした顔を崩さなかった。


「それでは、早速ですが召喚の遺跡に向かいましょうか」

「そうだな。時間は有限だ。さっさと用事を済ませて帰ることにするか」


 リンドア王の言葉にアドモス王も同意し、二人は遺跡に向かうことに。


 普通、他国の王族を迎え入れるとなると、様々な儀式や催しがあるものだが、アドモス側はそれを拒否してきたのだ。


 一日も二日もそう変わらないのだが、一刻も早く次の召喚者を招き入れたいというアドモス王の思いがそうさせていた。


 奈良を失ったことは、アドモス王にとって相当の痛恨事だったらしい。


 私情から自分でまだ未熟な奈良を健太の下に向かわせたことは、都合よく忘れている。


 こうして遺跡に向かおうとするアドモス王とリンドア王だったが、馬車に向かう道中でリンドア王の側近が王に近付いてきた。


「……陛下、少しよろしいですか?」

「うん? なんだ? ああ、すみませんアドモス王。先に馬車に向かって頂けますか?」

「うむ」


 側近に声を掛けられたリンドア王は、アドモス王に対して先に行くように指示すると、アドモス王から離れた。


「こんなときに、一体なんだ?」


 リンドア王が側近を咎めるようにそう言うと、側近は真剣な顔で声を潜めながら言った。


「……本当によろしいのですか?」


 側近のその言葉には、いくつかの意味が込められているようだった。


 本当にアドモス王の要求に従うばかりでいいのか? という問いと……。


「ああ、例の報告か?」

「はい……私も現地に調査に行きましたが、確かに異変が起こっています。少し、様子を見るべきなのでは」

「そうは言うがな」


 リンドア王とて、側近の言葉に全く耳を貸さなかった訳ではない。


 だがそれでも、今リンドアが国として保っていられるのはアドモスの支援があってこそ。


 そのアドモスの要望は断れないし、支援の代償が召喚魔法陣の使用権という、リンドアからしたら何も懐が痛まない要求はあまりに魅力的だった。


「ともかく、今回の召喚が終わったらアドモス王も落ち着くだろう。二階も続けて失敗しないさ」

「そうだとよいのですが……」


 側近は、あくまでリンドア王の側近なのであって、他国の王であるアドモス王に対して敬意も信頼もない。


 すでに前回の召喚者を失っているアドモス王のことを、側近は全く信頼していなかった。


 そんなやり取りのあとアドモス王と合流したリンドア王は、馬車で遺跡に向かった。


 そして、その道中に見た景色に、息を呑んだ。


「こ、これは……」

「ん? どうした? リンドア王」

「え? あ、いや……」


 リンドア王が見た光景は、報告書で既に知っていた。


 だが、実際に直接自分の目で見てみると、その異様さに絶句したのだ。


 以前まで生えていた草木が、全くなくなり、荒れ果てた荒野になっている光景に。


 遺跡に向かうついでに視察もしようとしていたリンドア王は馬車の外に意識を向けていたのでその光景に気付いたが、そんなことを知らないアドモス王は、全く気付いていない。


 リンドア王は内心で(どうする? このまま異世界召喚をしてもいいのか? もしかしたら、この光景がもっと広がるかもしれないのに……しかし、アドモスの要求は断れない……)と考えていた。


 その時だった。


「!? な、なんだっ!?」


 とてつもない轟音が、馬車まで聞こえてきた。


 その音に驚いた馬が止まってしまったことで一行の足が止まってしまった。


「ええい! 一体何事だ!?」


 突然の轟音に驚かされたアドモス王が、怒りに震えながら馬車から飛び出した。


「あ! いけませんアドモス王! まだなにかあったか確認を……」


 リンドア王がそこまで言ったとき、衝撃波が一行を襲った。


「ぬわああーっ!!」

「うわあっ!!」


 馬車から出ていたアドモス王はそのまま吹き飛ばされ、馬車内に残っていたリンドア王は、馬車ごと転がされた。


 派手に横転する馬車の中でゴロゴロと転がされたリンドア王だったが、咄嗟に護衛がリンドア王を抱えたため、大きな怪我をすることはなかった。


「陛下っ! 陛下っ!! ご無事ですか!?」

「っつ……いたた……ああ、咄嗟に守ってくれたからな。大事ない」


 リンドア王が護衛に向かってそう言うと、護衛はホッとした顔をしたあと、すぐに真面目な顔になって馬車内を見つめた。


「一体、なんだったのでしょうか?」

「分からない。とりあえず、外の様子が分かるか?」

「はっ! 少々お待ちを!」


 護衛はそう言うと、爆発の衝撃で吹き飛んでしまった扉から外に出た。


 そして……。


「な、なんだこれはっ!?」


 周囲の光景を見て思わず叫んでしまった。


「な、なんだ? どうした? 出ても大丈夫か?」

「しょ、少々お待ちを……」


 リンドア王の声掛けで護衛は周囲を確認すると、リンドア王に向かって声をかけた。


「どうやらもう危険は無いようです。出て頂いて構いません」

「分かった」


 そう言って馬車の外に出たリンドア王が見た光景は、想像を絶するものだった。


 吹き飛んだ馬車や馬や人があちこちに散乱していて、あちこちからうめき声が聞こえる。


 馬も、生きているものもいれば、全く動かないものもいる。


 人も同様で、動いた助けを求める者もいれば、ピクリとも動かない者もいた。


 そんなまるで地獄のような光景に、リンドア王は思わず言葉を失ってしまった。


「な、なんだこれは……」


 そうリンドア王は言葉を漏らすが、だれからも返事が返ってこない。


 それほど、現場は混乱していた。

 

 そして、しばらく周囲を観察していた護衛がなにかに気付いたように視線をある方向に向けた。


「あ、あれは!」

「ど、どうした!?」


 リンドア王は、思わず声をあげた護衛の視線の先を追って……驚愕に目を見開いた。


「い、遺跡が……」


 そこでリンドア王が目撃したのは、破壊され、跡形も残っていない遺跡の姿だった。


「……あの遺跡から、同心円状に爆風の痕が残っています。おそらく、これは遺跡が何者かによって爆破されたのでしょう」


 護衛の言葉でリンドア王もよく見てみると、爆発の痕跡が遺跡を中心に広がっていることに気付いた。


「……何者か、か。お前は誰だと思う?」


 リンドア王は、半ば確信に近いものを感じながらも護衛に聞いてみた。


「……この光景には見覚えがあります」


 その言葉だけで、護衛が誰を疑っているのか分かった。


「やはりそうか」


 状況を考えれば誰でも分かる。


 この異世界召喚は健太を討伐するために行われているものだ。


 そんなものが何回も行われようとしていたら、阻止しに来るに決まっている。


 しかし、それでも疑問はあった。


「それしか考えられないとは思うが……どうしてそれがマヤ殿にバレたのだ?」

「……分かりませんが、恐らくアドモス側の情報管理が甘かったものと……」


 そこまで言われて、リンドア王はようやく思い出した。


「そうだ! アドモス王は!?」

「!?」


 リンドア王の言葉に、護衛もようやくアドモス王の存在を思い出し、周囲を捜索し始めた。


 捜索を開始して少し経った頃、傷だらけで動かないアドモス王を発見した。


 その姿を見たリンドア王は一瞬背筋が凍る思いがしたが、ギリギリ生きていることが確認できるとホッと胸を撫で下ろした。


 アドモス王がリンドアで死んだなど、アドモスからしたらリンドアと戦争になってもおかしくない案件だ。


 重傷を負っているとはいえ、生きてはいるのだから。


 ただ、この状況もいい状況とは言えない。


 リンドア側がアドモス王を守り切れなかったということでもあるからだ。


 なので、リンドア王はその責任を他者に擦り付けることにした。


 それは……。


「皆の者よく聞け! 此度の召喚遺跡爆破は、先代の召喚者ケンタ=マヤの仕業と思われる! 自分を討伐しにくる者を召喚させないために、遺跡ごと吹き飛ばしたのだ! このような蛮行は、決して許されるものではない!」


 と、そう宣言したのだった。


 確かに犯人は健太で間違いないのだが、理由が違う。


 そのことを理解していなかったリンドア王は、アドモス王が重傷を負った責任を健太に擦り付けることができて、ホッと胸を撫で下ろしていたのだが……。


 その裏で、健太からの怒りを買っているとは夢にも思っていなかった。



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― 新着の感想 ―
>二階も続けて失敗しないさ ありがとう勇者殿。
この二人の王も吹き飛んでいれば良かったのかw 王にしてはバカだけどw
もう両国とも吹き飛ばせば良いんじゃね?(ハナホジ)
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