召喚魔法陣
また投稿し忘れていました……
本日投稿3/3
「さて、情報通りならそろそろアドモスとリンドアの王サマ御一行がここに現れるはずだけど……」
「あ、あれじゃないっスか?」
俺は、奈良君が指さした方を見て、気配探知の魔法を使った。
「多分あれだな。こんな辺鄙な場所にこの人数はありえねえ」
「じゃあ、作戦決行か」
俺の言葉に反応したのはアイバーン。
今日はアイバーンが一緒に来ている。
俺たちが今、どこにいるのかというと、リンドア王国内にある召喚魔法陣がある遺跡の近くにいる。
モナからの情報で、アドモス王たちの出発日を知った俺たちは、そこから計算して王サマたちがここに現れる日を洗い出し、召喚の邪魔をしにきたのである。
そのモナは、家のことがあるからと、今日は同行していない。
その代わりに、アイバーンが同行してきたのだ。
とはいえ、正確にここに来る日が分かる訳じゃないので、数日前からここで寝泊まりをしている。
アバーンは元探索者ということもあって、こういったキャンプには慣れている。
俺が召喚者として魔族国と戦っていたときは流石に軍が全部やってくれていたので、俺にその技術はない。
奈良君も同様。
なので、慣れているアイバーンに頼んだ。
アイバーンも、久しぶりに男だけでの泊まり込みということで、二つ返事で了解してくれた。
まあ、たまにはこういう息抜きも必要だよな。
そのアイバーンは、王サマ御一行が見えてきたことで、テントをしまい始めている。
「それにしても、摩耶さん。インベントリとかアイテムボックスみたいな魔法とか無いんスか? それがあったらもっとキャンプが楽になるのに」
おっと、奈良君も意外とそういう文化に詳しいね。
「それなあ、俺も試してみたんだよ」
「……で、今現状使ってないってことは、ダメだったんですか?」
「ダメっていうか、なんか不思議な空間は開いたんだよ。けど、そこに入れた物が行方不明になってなあ」
俺がそう言うと、奈良君はブルっと震えた。
「ま、まさか……次元の間に……」
「異世界召喚なんてものが実際にある以上、その説が有力かもな」
ちなみにその時試したのは、そこらへんに落ちていた石なのでなにも問題はなかったのだが、これがもし大事なモノだったら目も当てられない。
なので、その手の魔法は使えないのだ。
「まあ、なにかしら隠蔽したいときには重宝するんだけどな」
俺がそう言うと、奈良君とアイバーンが目を見合わせた。
「俺、聞かなかったことにするッス」
「……そうか。アイツら、そんなとこに逝きやがったのか……」
おいおいお前ら、察し良すぎだろ。
それよりも、俺にはとても気になっていることがあった。
「そうしろ。ところで……なあ、奈良君」
「はい? なんスか?」
「ここに来たときからずっと聞きたかったんだけどよ」
「はい?」
「召喚されたときのこと、覚えてるか?」
俺がそう聞くと、奈良君は気まずそうに顔を背けた。
「……すんません。正直あんま覚えてないッス」
「召喚されたばっかなんだから当然だろ。ただ、なんか雰囲気とか違うと思わないか?」
「……そうっスか?」
「ああ。俺も四年前の話でうろ覚えだけど、それでも断言出来るぞ」
俺は、そう言いながら周囲を見渡した。
「……こんな草も何も生えてない荒野じゃなかった」
俺がそう言うと、奈良君はハッとした顔をした。
「そういえば……覚えてるのはこんな景色じゃないッス! もっと緑があったはずッスよ!」
「やっぱそうか」
俺は、遺跡の周囲を見渡しながら考えを巡らせた。
俺は召喚されて混乱の極みだったところにすぐに馬車に乗せられたからかなり朧気な記憶なんだけど、それでもこんな感じじゃなかった。
前は、もっとあったはずの草木。
それが、この数年でなくなり、荒れ果てた荒野に変わった。
それが意味するところは……。
「!!??」
俺が召喚されただけでは分からなかった、ある仮説が頭をよぎった。
その考えに至ったとき、俺は咄嗟に魔法式を構築した。
王サマ御一行が近付いているけど、そんなこと知ったこっちゃねえ!
俺は、魔法式を組み上げ完成させた魔法を、迷わず遺跡に向かって放った。
放たれた魔法は、遺跡の入口を通って遺跡内部に着弾。
その直後、大爆発を起こした。
「うおおおっ!!??」
「ちょおおっ!? なにやってんスか摩耶さん!?」
「おいアイバーン! テントは回収し終わってるか!?」
「あ、ああ!! 大丈夫だ!」
「なら荷物持て! ズラかるぞ!!」
俺がそう言うと、アイバーンは反射的に荷物を掴んで俺の腕に掴まり、奈良君も俺の腕に掴まった。
その直後、まだ遺跡から爆炎が上がっている最中に俺は自宅に転移してきた。
「あら? おかえりなさ……どうしたの?」
俺たちが自宅に転移で現れると、メイリーンが丁度いて出迎えてくれたのだが、息を切らせた俺たちの様子を見て首を傾げていた。
そして、奈良君は混乱している様子で問い詰めてきた。
「本当ッスよ摩耶さん! なんでいきなりあんなことしたんスか!?」
「そうだよケンタ。説明してくれ」
奈良君とアイバーンから問い詰められた俺は、少し自分の考えをまとめてから話し出した。
「これは、あくまで俺の仮説だけど……多分間違いないと思う」
俺がそう言うと、メイリーンだけでなくエヴァとモナとユリアも俺たちの前に現れていて、皆で俺の話を聞いていた。
「あの遺跡の周りは、俺が召喚された当時、もっと緑が沢山あった。それこそ、林だってあったはずだ」
「「!?」」
「「「「?」」」」
あの場所の光景を見た男性陣と、見ていない女性陣でハッキリと反応が分かれたな。
実際に見た二人は、その異常性に気付いたらしい。
「ちょっと待て……お前が召喚されたのって四年前だよな?」
「そうだ」
「え……ちょっと待って下さい。うろ覚えでもさすがにそれくらいは分かるッス。俺たちが召喚されたとき、そんな林なんて周りに無かったッスよ」
奈良君のその言葉で確信した。
これは、想像じゃなくて、限りなく正解に近い仮説だろう。
「アイバーンと奈良君は分かったみたいだな。多分だけど、あの魔法陣……周囲の魔力を吸って発動してるんじゃないか? それを昔の人間は知っていたから数十年に一回しか召喚しなかった。けど……」
「この短期間に二度も召喚をしてしまったから……」
「周囲から魔力が失われて……」
奈良君はそこまで言って自分で気付いたようだ。
「そうか。もしこのまま三回目の異世界召喚が行われたらあの周辺がどうなるか分からない……」
「それを阻止するために、遺跡ごと吹っ飛ばしたのか」
アイバーンも理解したようで奈良君の言葉を引き継いだ。
「そういうこった。俺がいきなり遺跡吹っ飛ばすような人間に見えるか?」
「「……」」
見えるらしい。
女性陣も俺たちの話を聞いて、ことの深刻さを理解したようだ。
「なんとまあ……」
「そ、それで!? その魔法陣と召喚はどうなりましたの!?」
メイリーンは呆れた顔をしているが、エヴァは元凶である魔法陣が気になったらしい。
「どうだろうな。とりあえず、遺跡が吹っ飛ぶくらいの魔法はぶっ放してきたけど、魔法陣がどうなったかは分からない。そのままあの場にいたら俺たちの存在がバレると思って、すぐに転移してきたからな」
「それであんなに慌てていたのね」
メイリーンは息を切らせた俺たちを見て不思議そうな顔してたからな。
「そういう訳だから、周辺の様子とかちゃんと見てない。これは……ちょっと調査が必要かもな」
俺がモナを見ながらそう言うと、モナは頭を下げた。
どうやら、了解らしい。
とりあえず、あの辺の状況を確認してみるか、と思っていると、ユリアが質問してきた。
「ねえねえ、そういや、今日アドモスとリンドアの王様が来てたんだよね? その人たちどうしたの? 遺跡と一緒に吹っ飛ばした?」
「……あ」
そういや、アイツらの安否も確認してねえわ。
「!?」
父であるアドモス国王と一方的に絶縁したとはいえ、エヴァにとっては実の父親。
さすがにショックを受けた顔になった。
「いや、さすがに一緒には吹っ飛ばしてないよ。遺跡からまだ大分離れてたけど……」
王サマ御一行の様子を見ていた奈良君が、エヴァに言い聞かせるように話しているけど、そこで切ったらマズイんじゃね?
そう思ったが、エヴァは少しの間ショックを受けていたが、すぐに立て直して俺に向き直った。
「マヤ様。どうかお気になさらないで下さい。元々父とは今後一生会わないつもりでおりましたし、父が人族を良くない方向に向かわせている気がしていました。そんな父は、この世界から退場した方がいい人なのかもしれませんので」
エヴァは、目に力を入れてそう言ってきた。
「まあ、そのうち情報が入ってくんだろ。そんな気にすんな」
俺がエヴァにそう言うと、奈良君がジトッとした目を向けてきた。
「いや、だから、それってエヴァの台詞なんスよね……」
「そうか? まあ、ドンマイ?」
「それも違うっす……」
なんだよ。
面倒臭えなあ。
それよりも、早急にリンドアの周辺を調査しないとな。
もしかしたら、マズイことになっているかもしれない。
カクヨムにて先行投稿しています