超人モナ
また投稿し忘れていました……
本日投稿2/3
『こちらモナ。ただいまアドモスに到着。これより王城潜入作戦を開始します』
俺の持つ無線機から、モナの声が聞こえてきた。
モナがここを出発したのが昼過ぎで、今は夜。
もうアドモスに到着したらしい。
「うおぉ……空飛んだらこんなに早いんスか……」
ここまで徒歩でやって来た奈良君が、あまりのスピードに唸っていた。
そういや、一週間くらいかかったって言ってたもんなあ。
その距離が半日って聞いたら、そりゃ凹むか。
「了解」
「おぉ、なんか摩耶さんカッケーッス……!」
コイツ……俺の前に現れた当初は、なんか影のある感じのキャラだったのに、今や完全に下っ端後輩キャラになりやがったな。
まあ、ここいれば生活には困らないし、彼女もいるし、友人もいるし、同郷人もいる。
今まで溜まっていた異世界生活ストレスが解消されてるのかもな。
ただ、人を殺したトラウマだけはまだ拭えてないらしく、時々うなされているとエヴァが言っていた。
こればっかりはな、俺は精神科医じゃないし、元の世界には奈良君と同じ高二までしかいなかったから解決方法なんて知らない。
時間が解決してくれるか、俺みたいに麻痺させるかしか方法はない。
……なんか、後者の方が簡単な気がしてきたな。
ただ、まあそれをやると、奈良君も世界の敵認定されるよな。
さすがにそれは忍びないな。
『こちらモナ。王城への潜入に成功。これから執務室に向かいます』
「お、もう潜入したのか。早いな」
『このフライングボードが優秀すぎます。これがあれば、どこにでも潜入してみせます』
「じゃあ、そんときはまた頼むわ」
『畏まりました。それでは、しばらく通信は遮断します』
「了解」
そう言ってモナからの通信は終わった。
「王城に潜入か……こっからが大変なんじゃないのか?」
俺とモナとの通信を聞いていたアイバーンが難しそうな顔をしてそう言っているが、モナに限ってはそんなことはない。
「元魔族国諜報部隊員だからな。潜入とか得意らしいぞ。気配を消す魔法とか使えるらしい」
「モナさんも、結構なチートッスね」
「ちーと?」
「スゲエって意味っすよ!」
「違うよ」
コイツ、本当にノリで喋ってんな。
マジで、最初の雰囲気どこに置いてきたんだよ。
「じゃあ、なんスか!? 摩耶さん知ってるんスか!?」
「チートって不正行為とかそういう意味だよ。だから、俺とか奈良君とか、この世界の人間からみたらズルい力のことをチートって言うんだよ」
俺がそう言うと、奈良君は驚いた顔になった。
「え、摩耶さん、向こうにいたとき、俺と同じ十七ッスよね? なんでそんなこと知ってんスか?」
「ああ。俺、向こうにいたときはFPS好きでよくやってたから。チーター絶許だ」
「へえ」
奈良君は感心した顔になったけど、そのあとのアイバーンの言葉で慌てふためいた。
「確かに、お前らはズルだよな」
「ちょっ! それは俺らのせいじゃないッスよ! ねえ? 摩耶さん!」
アイバーンがニヤニヤしながら奈良君に絡むと、奈良君は必死になって俺に助けを求めてきた。
「まあ、元から魔力が膨大にあって身体能力も高いってのは、ある意味チートだよな」
「そんな!? 認めるんスか!?」
「けど、それだけじゃあ俺たちはこんなに強くなってない。その地力を訓練と勉強で使い物にできるようにしてきたんだ。それに、俺たちと同じ力を貰ってるのに、活かせなかった奴がいるだろ?」
俺がそう言うと、奈良君は「ああ!」と手を叩いた。
「太田だ! そういえばアイツ、どうなったんスかね?」
「その辺りも、モナが調べて来てくれるだろ」
「そっスね」
まあ、もう一度異世界召喚をしようとしてる時点で、切り捨てられたんだろうなってのは想像が付く。
まあ、異世界人はこの世界の人間と比べて頑丈にできてるから、処刑はされないだろうけど放逐はされたんだろうな。
そんな話をしていると、モナから連絡が入った。
『こちらモナ。拍子抜けするほどアッサリと情報を入手しました』
「お、流石だな。で、どうだった?」
『リンドアに出した要求が承認されたとかで、来週の頭にリンドアに向かって出発するそうです』
「そんなことまで聞けたのか」
『この国の防諜意識はどうなっているんですかね? まるで無防備ですよ』
「まあ、人族の中に気配遮断とか隠蔽の魔法使える奴はいないからなあ。しょうがねえよ。あ、それで、太田君のほうはどうだった?」
『どうやら、役立たずの穀潰しとして城から放逐されたそうです』
やっぱり。
予想通りだったな。
『そのオータとやらの様子を見に、城下町を探索してから帰還します』
「了解。少しは羽を伸ばしてきてもいいぞ?」
俺がそう言うと、モナからの返事が一瞬途切れた。
「モナ?」
『……いえ、やはり城下町を探索したらすぐに帰ります。どうにも、家を空けることが不安で……」
「あー、そうね」
この家にいる女性陣は、元王女が二人に元探索者が一人。
手伝いはするけど、家事は、ほぼモナが賄っている。
さっき食べた夕食も、モナが作ったものを温め直しただけだ。
『それでは、また通信を遮断します。なにかあったら連絡します』
「了解」
そうして通信を終えたのだが、モナから再度通信が入ったのはすぐのことだった。
『ケンタ様』
「ん? どした?」
『……オータを発見しました』
その報告に、俺たちはお互いの顔を見合わせた。
「早過ぎね?」
『それが、最初に探索者協会に行ったところ、受付にしつこく絡んでいる探索者がいまして……』
「ほお」
『聞き耳を立てていると、なにやら大言壮語を吐いている様子で……その内この協会のえーすになるから期待していろ、といった趣旨の話をしていまして』
「ふんふん」
『その探索者の名前がオータでした。特徴も、ナラ様の仰った通りの男でした』
役立たずとして王城から放り出されたってのに、なんでそんなにポジティブなんだ?
……あ、もしかして……。
「それって、あれかぁ? 役立たずとお城を追い出されたけど、実は俺、最強でした。とか思ってるんじゃね?」
『っ!?』
俺の言葉に、トランシーバーの向こうでモナがメッチャ驚いてる。
「どした?」
『……驚きました。探索者協会から出てきたオータが口走った言葉と、一言一句違いないことを仰ったので……』
「まじかあ~」
『協会に戻ってオータのことを聞いてみたところ、力は強いけど戦闘はからきしだし、魔法が使えると言っても戦闘では役に立たないし、正直いるだけ邪魔だという認識だそうです』
「……あれ? 俺と奈良君がエヴァを拉致して来てそんなに日数経ってないよな?」
「……ッスね。まだ数日ッス」
「それなのに、もうそんな噂されてるんだ……太田君、ヤバくね?」
俺がそう言うと、奈良君とエヴァは、本当に嫌そうに顔を顰めた。
「やっぱ俺、アイツのこと嫌いッスね」
「私もですわ!!」
まあ、奈良君は結構な努力をしてきたみたいだし、エヴァは正義感が強い天然。
そんな二人に嫌われる太田君。
それだけで、どんな為人か分かるな。
太田君さ、どんな力を手に入れたって、努力しないと使い物になんてならないんだよ?
これは、太田君のことは放置で構わないな。
なんの脅威にもならないわ。
そんな判断を下した数時間後の深夜、モナが帰宅した。
一日でこことアドモスを往復して諜報活動までしてくるとは。
しかも、次の日の朝食の準備をしてから寝たらしい。
……超人か?
カクヨムにて先行投稿しています