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この世界の常識

また投稿し忘れていました……


本日更新1/3

「いてて……」


 リビングのソファで、奈良君が擦り傷の治療をしている。


 あの後、テンションの上がり切った奈良君はフライングボードを乗り回し、挙句の果てに盛大にすっころんだ。


 ゴロゴロと派手に地面を転がった奈良君を見て、エヴァは顔面蒼白になっていたのに、当の奈良君は地面に寝転んだまま「あははは!」と高笑いをしだした。


 正直、頭でも打ったか? と思ったが、どうやらこの世界には娯楽がなさ過ぎて、こうやって遊んだのも久しぶりとのことだった。


 久々に遊び倒して、テンションが上がってしまったらしい。


「ねえ摩耶さーん。魔法でちゃちゃっと傷治して下さいよお」


 傷口に薬を塗りながら、奈良君がそんなことを言ってきた。


 その言葉を聞いた俺は、スタスタと奈良君に近付いていき、奈良君の顔の前に手をかざした。


「あざーっす!」


 治癒魔法をかけてもらえると思った奈良君が、顔を伏せようとしたその額を……。


「てい」

「ぐっはあ!!」


 思い切りデコピンしてやった。


 俺の全力デコピンを受けた奈良君は、漫画みたいに後ろに一回転して床にうつ伏せに着地した。


「きゃはははっ!」

「あーいっ!!」


 その光景が面白かったのか、レオンとアイラが手を叩いて大笑いしている。


 そんな赤ん坊に笑われている奈良君は、うつ伏せのまま大の字になっている。


「ミ、ミツヒコ様!!」

「あー、ほっとけ。どうせ召喚者ボーナスで身体も強くなってんだから。あれくらいじゃ死なねえって」

「そ、それはそうかもしれませんが……」


 エヴァは、奈良君のもとに駆け寄り、倒れたまま動かない奈良君の側でオロオロしている。


 ピクピクしているから死んでないのは明らかだし、それに、さっきの発言は奈良君が悪い。


 エヴァもそれを分かっているんだろう。


 でないと、身体が一回転するようなデコピン、首がもげてもおかしくないのに何も言ってこない。


「い…痛ってええっ!! ちょっ!! なにするんスか摩耶さん!?」


 あ、もう復活した。


 やっぱ召喚者ボーナスはデケエな。


「それでモナ。お前の方はどうだった? アレ、使いこなせそうか?」

「ちょっと!」

「ええ、もう少し練習が必要そうですが、すぐに乗りこなせられそうです。ありがとうございます」

「ええ!?」

「別に気にすんな。必要経費だ必要経費」


 発注も受注も俺だけどな。


「アドモスに着いたら王城の様子と、あと、できればもう一人の召喚者のことを調べておいてくれ」

「嘘でしょ? なんで無視すんの?」

「畏まりました。ただ、私はそのもう一人の召喚者の容姿を知りません」

「それもそうか。おい、奈良君」

「やっと……やっとこっち見てくれた……」

「なに泣いてんだ?」


 俺がそう言うと、奈良君は涙目で俺をキッと睨んだ。


「さっきからずっと俺のこと無視するからでしょうが!!」

「無視? ああ、さっきのデコピンか。あれは、馬鹿なこと言ってたお前に対する罰だからな。気にすんな」

「気にすんなはコッチが言う台詞なんですよおっ!」


 そう叫んだ奈良君は、荒い息を整えてから俺を見た。


「っていうか、さっきのどれが馬鹿なことなんですか? 全然思い当たる節ねえっス」

「擦り傷に治癒魔法使えって言ってきたことだよ」


 俺がそう言うも、今一ピンと来ていない様子の奈良君。


「え? だって摩耶さん、治癒魔法使えますよね? だったら、小さい傷なんか魔法で一瞬でしょ? それのなにが悪いんスか?」


 ああ、そういやこの子、この世界に来て数ヶ月だったわ。


「お前、自然治癒力とか超回復とか聞いたことねえの?」

「失礼な。それくらい知ってますよ」


 まあ、元の世界に高二までいたんなら知ってるわな。


「魔法に頼り過ぎると、その自然治癒力とかが弱っちまうんだよ。だからこの世界で、擦り傷で治癒魔法を使う奴なんていないんだよ」

「そんなの知らないッスよ!」

「そうか。で、それ知ってるから、エヴァも文句言わねえだろ」

「……本当だ」

「あ、あはは。私たちには割と常識だったので、まさかミツヒコ様が知らなかったとは思いもしませんでしたわ」


 エヴァが奈良君の額を濡れタオルで冷やしながらそう言った。


 このお姫サマはやっぱり知ってて、今も魔法じゃなくて濡れタオルで額を冷やしている。


「ん? あれ、でも人族は魔法使えないんッスよね? それなのに簡単に治癒魔法を使うなってのが常識になってるっておかしくないッスか?」


 あー、そういう疑問ね。


「人族だって魔法使えるぞ?」

「え?」

「苦手で向いてないだけで」

「そう、だったのか……」

「まあ、本当にささやかな効果だけどな。人族の中でも比較的魔力量の多い奴が町で医者をやるのは割とあるあるだ」

「へえ。なんでッスか?」


 奈良君の疑問に、俺は親指と人差し指で輪っかをつくり、掌を上に向けた。


「そりゃ、儲かるからな。怪我人病人は絶えずいるし、料金も言い値。魔力の高い奴はこぞって医者になる」

「そういうことですか……」


 ところで、俺、今何話してたっけ?


「ケンタ様、丁度ミツヒコ様もおられますので、例の召喚者の話を聞いておきましょう」


 あ、そうだそうだ。


「奈良君さ。太田君ってどんな容姿なんだ?」

「太田ッスか。黒髪に平凡な顔……くらいッスかねえ」

「特徴ねえな、おい」

「しょうがないっスよ。元の世界でも顔と名前を知ってるくらいの奴だったし、この世界に来てからはアイツ、女とばっか一緒にいたんで」

「だ、そうだが。それで分かるか?」

「……ケンタ様と比べてどうかとか、そういうの分かりませんか?」

「あー、摩耶さんよりノペッとした顔してますね」

「なるほど、分かりました」

「今ので分かんの?」

「はい」


 マジか。


 もと諜報部隊スゲエな。


 こうして、数日間フライングボードやトランシーバーの使い方を練習したモナは、早速フライングボードに乗ってアドモスに向かって行った。


 はてさて、どんな報告が入ってくるのかね?



カクヨムにて先行投稿しています

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