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魔族国国王

◆◆◆


 魔族国王城の一室。


 その部屋は、その部屋の主の手によってボロボロにされていた。


「くそっ! くそがあっ!! どいつもこいつも役立たずばっかりじゃねえか!!」


 新しい魔族国国王が、執務室にある備品を蹴り飛ばしながら叫んでいた。


 彼が怒り狂っているのは、先日、アドモス王国に現れた新しい召喚者を処分するための戦いで敗走させられたから。


 召喚されてから然程日にちが経っていない中で、今のうちなら召喚者を処分することができると踏んでのことだったのだが……。


 その作戦は、その召喚者自身の予想外の活躍もあり、ものの見事に失敗した。


 なので、その作戦を立案し決行した国王は怒り狂っているのである。


「へ、陛下、お鎮まりを……」


 怒り狂う国王をなんとか宥めようと側近が声をかけるが、その行動は国王の怒りの炎に油を注いでしまった。


「これが黙っていられるかっ!! だから、最初から俺が前線に出てれば良かったんだよっ!!」


 そう叫ぶ国王に、側近は慌ててそれを否定した。


「い、いけません!! 貴方は魔族国国王なのですよ!? そんな御身が最前線にでられるなど、あってはならないことです!!」

「うるせえっ!! そもそも手下どもがちゃんとした働きをしてたらこんなことにはならなかったんだよ!!」


 この新しい国王は、魔法の力という面で言えば確かにこの魔族国内でも最上位に位置する存在なのだが……如何せん考えが足りないところがあった。


 今も自分の立場を理解せず、自分が前線に出ていれば勝てていたと本気で信じている。


 そんな様子の国王に、側近は気付かれないように小さく溜め息を吐いた。


 そんな溜め息など吐かれていると露ほども思っていない国王は、存分に暴れまわって少しは溜飲が下がったのか、荒い息を吐きながら椅子に座り、そして頭をガシガシと搔きむしった。


「あああっ!! こんなことなら、国王になんてなるんじゃなかった! 一番強え奴が国王になるべきなのに、その国王が前線に出られないんじゃただの戦力ダウンじゃねえか!」


 それはそうだろと、側近は思う。


 そもそも、一番強い人間が国王になるべきなんて、そんな法はない。


 先代国王から指名されたものが次の国王になる。


 それだけが法なのだ。


 先代女王であるメイリーンは、先々代の国王からの指名は受けていない。


 先々代の国王がケンタに討ち取られたあと、国王の証である錫杖がケンタからメイリーンに譲渡されたので魔族国内の貴族たちから認められて女王になったのだ。


 国内貴族たちは、メイリーンの知性に期待していた。


 今まで、ずっと先々代国王の国土拡大路線に反対を唱えてきて、国内の平定を第一に考えていたメイリーンなら、この瓦解しかけの魔族国を立て直してくれると、そう信じていた。


 その貴族たちの期待に応え、メイリーンは人族との戦争で荒れた国内を平定し始めた。


 メイリーンなら、そう遠くない未来に魔族国は立ち直る、そう貴族たちは考えた。


 しかし、その希望はすぐに打ち砕かれた。


 メイリーンの弟であるメキドが姉に対して謀反を起こしたのだ。


 メキドは、魔族国国王にとって、武力が一番大事であると主張。


 その武力をメイリーンは持っていないことを理由に、メイリーンではこの国を治めることはできないと、その武力をもってメイリーンを女王の座から引き摺り下ろしたのだ。


 そのことが報じられたとき、貴族たちの落胆ぶりは凄まじかった。


 よりにもよって、あの知性の欠片もない弟が玉座に就くなど思いもしなかったのだ。


 それからの魔族国は、少しでも戦力が整うと近隣の人族の国へちょっかいをかけるようになった。


 ワイマールとの小競り合いもその一環である。


 国内が平定しきらないうちにすぐ次の戦を起こす。


 そんなメキドに、魔族国内、特に貴族の間では不満の声が大きくなっていた。


 このままでは、あの脳筋王に魔族国が滅ぼされてしまう。


 その前になんとかしなければ……。


 そんな機運が高まっているのだが、当のメキド本人はそんなことに全く気付いていない。


 彼の中の国王像というものは、全て歴史上最強と言われていた父でできている。


 父は、魔族国内で誰も適わない程の魔法力を持っていた。


 メキドは、だからこそ父は王になれたのだと、そう信じ切っていた。


 実際は、先々代の国王は武力だけでなく、知性にも優れており、いざという時は自分が前線にたつこともあったが、なにより部下を指揮するのが上手かったし内政も手腕も高かった。


 メキドは、そんな父の知性的な部分には一切触れず、力の部分だけを切り取って王とはこうあるべきと信じ込んでしまったのだ。


 もう、この王はダメだな。と側近は思いつつも、メキドの取り巻きたちも魔法力という点についてはメキドと並ぶほどの力を持っており、簡単に謀反など起こせない。


 椅子に座ってブツブツと何かを口走っているメキドを、呆れと蔑みの視線で見ることしかできない。


 どころで、さっきから一体なにをブツブツ言っているのか? と聞き耳を立ててみると……「こんなことなら、姉上に女王を任せて、俺は前線で戦ってるほうが良かった……」と今更なことを呟いていた。


 だから、最初からそういう体制にしていただろうと、側近は心の底から呆れてしまった。


 それを不服としたのは自分自身だろうに。


 ここに誰もいなければ、盛大に溜め息を吐いてしまいたかった。


 目の前にメキドがいるので思い留まったが。


 しかしメキドはハッとした顔をしたかと思うと、その場に立ち上がった。


「そうか! 姉上を探し出して、もう一度女王になってもらえばいいのか!!」


 正に名案だ! と言わんばかりの顔でそう告げるメキドに、側近はすぐに言葉が出せなかった。


 自分から追い落としておいて、今更そんな話を聞いてもらえるとでも?


 それにもし聞いて貰えたとしたら、それはメキドの命が危なくなることを、メキドはちゃんと理解しているのだろうか?


 ……ウキウキしているメキドを見るに、していないんだろうなと、側近はそう思い、助言をしようとしたときだった。


「失礼します!」

「なんだ!」

「はっ! たった今、諜報部隊から連絡がありました!」

「分かった、入れ」

「はっ!」


 そう言って入ってきた兵士は、メキドの前で畏まり、諜報部隊からの報告を読み上げた。


「アドモス王国の召喚者が先代の召喚者に戦いを挑み、返り討ちにあったそうです!」

「は? マジか?」


 アドモス王国の召喚者は、今まさにメキドをイラつかせている存在。


 その存在が、先代の召喚者に戦いを挑み、返り討ちにあった。


 それを聞いたメキドは、思わず立ち上がってしまった。


「それで? アイツの生死は?」

「はっ! どうやら、討ち死にしたそうです」

「……」


 その報告を聞いたメキドは、力が抜けたように椅子にドカッと腰を下ろした。


「陛下?」

「あー、いや。なんだろうな。仇を横から掻っ攫われた気分だわ」

「……左様ですか」

「っていうか、先代の召喚者って、今回の召喚者の同郷の奴だよな? なにアイツ、そんな簡単に同郷の人間殺せるの?」


 メキドはそう言ったあと、眉間に皺を寄せた。


「やっぱアイツ、放っておいちゃ駄目な人間だわ。父上の仇でもあるし……その内討伐しないとな」

「はっ! 奴は危険な存在だと、私も思います。そして、それは人族でも同じ意見なのでしょう」

「どういうことだ?」

「どうやらアドモスは、再度ケンタ=マヤの討伐のために、異世界召喚を行うようです」


 その報告に、メキドは側近の顔を見た。


「なあ、これ、どう思う?」

「どう、とは?」

「この数十年行われていなかった異世界召喚が、この短期間で三回目だ。これって大丈夫なのか?」

「……申し訳ございません。私には陛下がなにを警戒されているのかが分かりかねます」


 側近にそう言われたメキドは、頭をガシガシと掻いた。


 どうやら癖らしい。


「いや、俺も言葉では上手く説明できないんだけどな……なんか、ヤバイ感じがしてしょうがねえ」


 メキドは、国王として国を治める力はないが、こと戦闘などにおいては空気を読む力や、わずかな違和感を感じ取るのが上手い。


 そんなメキドが、理由は分からないけど嫌な予感がすると言う。


「……どうやら、警戒しておいた方がよろしいようですな」

「そうだな……おい」

「はっ!」

「確か、異世界召喚はリンドアでしか出来ないんだったよな?」

「はっ! そうです!」

「なら、諜報部隊をリンドアに向かわせろ。もし何かあったらすぐに連絡を寄越せ」

「了解いたしました! では、失礼します!」


 兵士がそう言って部屋を出て行ったあと、メキドは、さっきまでの大暴れから一転して、真剣な顔になっていた。


「……なんだ? 俺は、一体なにに不安を感じている?」


 そう呟きながら窓の外を見つめるメキドを見て、側近は、もう少しこの国王を支えてみるかと、気持ちを持ち直すのだった。

カクヨムにて先行投稿しております

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― 新着の感想 ―
バカだけど感は良かったのかな してパカパカ召還してだいじょうぶか?
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