三人目の王女サマは大物?
遅くなりました
今回の話には、ある意味自虐ネタがあります
「おし。日も落ちたし、そろそろ初めっか」
俺は、後ろに付いてきている奈良君に声をかけたが、奈良君から返事がない。
「奈良君?」
「……なんスかこれ? 転移魔法? 飛行魔法? 摩耶さん、ヤバ過ぎません?」
奈良君は、転移魔法と飛行魔法であっという間にアドモス王都の目の前まで来たことに驚愕していた。
サプライズ成功、ってな。
「そらヤベエよ。この世界でこの魔法使えんの俺だけだもん」
「……なんでそんな魔法知ってんスか?」
「俺に魔法を教えてくれた魔族が持ってた魔法の指南書に載ってた」
「それだけで……ってか、それで覚えられるんなら、魔族は皆転移魔法とか飛行魔法使えません? なんで摩耶さんだけなんス?」
まあ、知らないと不思議だわな。
「その指南書さ、魔族でもネタだと思われてたんだよ。実際、誰も覚えられなかったらしい」
「それなのに、摩耶さんは覚えられた……」
「まあな。そこは異世界ボーナスじゃない? 元の世界の知識が役に立ったって感じだな」
俺がそう言うと、奈良君は納得した様子を見せた。
「高校まで通ってたのが役に立ったって事っスか」
「まあな」
「あ、でも、それだと太田も覚えられるってことに……」
そういや、もう一人の召喚者、太田君は近々放逐されるかもって話だったな。
それで生き延びた太田君がその魔法を覚えるかもしれないと。
「いやあ、その心配はねえんじゃねえかな?」
「なんで言い切れるんス?」
「だって、その指南書もう無いし」
「え?」
「それに、俺に魔法を教えてくれた反逆魔族たちも、俺と一緒に王城に攻め込んだときに皆死んだしな」
「……え?」
俺の魔法を見て自分たちも強くなったと思い込んだんだろうか? 無茶な特攻をして勝手に死んでいった。
なんか、後は俺に任せる……みたいな雰囲気だったけど、俺、人族から派遣された召喚者なんで、途中目標(魔族国王討伐)は一緒だけど、最終目標は違うの忘れてませんか? って最後まで言いたかった。
言わなかったけど。
「メイリーンの話だと、先々代の国王が倒れたあと、その反逆魔族のアジトに捜査が入ったらしくてな。そのアジトに置いてあった魔法の指南書が禁書ばっかりだったもんで、アジトごと燃やしたらしい」
「そんなことになってたんスか……」
「ああ。だから、転移魔法も飛行魔法も、今んとこ使えんのは俺一人だな。ああそうだ。もし奈良君が魔法覚えたいって言うなら、教えてあげてもいいよ?」
「マジっすか!?」
おっと。
奈良君のテンションが出会ってからみたことないくらい上がってんな。
やっぱ魔法は男の子の憧れか。
「俺、摩耶さんのこと絶対裏切らないッス!」
「おお、分かった。まあ、裏切ったらどうなるか、奈良君が一番分かってるだろうし……な?」
奈良君の目をジッと見ながらそう言うと、奈良君は冷や汗を流し始めた。
「も、もちろんス……絶対裏切りませんよ……」
「それはよかった。それじゃあ、アドモス城潜入作戦。スタートしようか」
「うっす!」
奈良君の返事を聞いて、俺は夜の闇に紛れて王城の塀を魔法で飛び越えた。
人族の身体能力を持ってしてもこの塀を乗り越えるのは至難の業なので、塀周りの警護は薄い。
しばらく王城に住んでいた奈良君の情報通り、簡単に場内に進入できた。
「あっちが俺らの部屋で、こっちが王族の住んでる区画です」
「オッケー。じゃあ、遮音の魔法もかけとくわ」
俺らの周囲に音を漏らさない……つまり、音の波を流れないようにする遮音の魔法をかけると、至近距離で話しをしていても気付かれない。
「……摩耶さん、マジでチートッスね」
「努力の結果だと言え。最初からこんな魔法使えなかったわ」
チートなのは、魔力量の多さだけだ。
「で? こっちであってんのか?」
「あ、はい。ここにいる間、何度も通ったんで覚えてるッス」
「へえ、何度も、ねえ?」
俺がニヤニヤしながらそう言うと、奈良君は慌てるではなく、照れた。
「……ッス」
「なんだよ。ち、違いますよ! とか、そんなんじゃないッスよ とか言えよ」
「いや、俺とエヴァ、そういう関係になったんスから、否定する意味ねえっスよ」
「それもそうか」
どうやら奈良君は、元の世界でも彼女がいたことがあるらしい。
彼女のことを弄られてアタフタする段階は、もう過ぎてるのか。
つまんな。
「それに、摩耶さんたちお子さんまでいるじゃないっスか。そんな大人な人たちと一緒にいると、俺が幼く見えるというか……あんまりガキっぽい言動はしないようにしようって思ってるんスよ」
そういうことね。
「まあ、無理に背伸びすんなよ。そういうの、しんどいぞ」
「そうっすかね?」
「先達の言うことは信じられねえか?」
「……メッチャ説得力あるッスね」
そんな雑談をしながら王城の廊下を歩く。
気配察知の魔法を使っているので、誰かと遭遇しそうになると事前に隠れてやり過ごし、誰にも出会わずに、ある部屋の前まで来た。
「ここがエヴァンジェリン王女の部屋です」
「ん。ちょっと待って」
部屋をノックしようとした奈良君を止め、部屋の中に探知魔法をかける。
どうやら、部屋には一人しかいないようだ。
「いいよ奈良君。ノックして」
「はい」
俺がゴーサインを出すと、奈良君は扉をノックした。
「はい?」
「エヴァ……俺、ミツヒコ」
……あ、ミツヒコって奈良君の名前か。
ナラクンが言いやすすぎて忘れてたわ。
そんなどうでもいいことを考えていると、部屋の中でバタバタという音がして扉の鍵が開く音がした。
その時点で、遮音の魔法を起動。
それと同時に扉が開き、中から飛び出してきたネグリジェ姿の少女が奈良君に抱き着いた。
「ミツヒコ様! ああ、よくぞご無事で!!」
「……心配かけてゴメン」
「いいえ、いいえ。私は信じておりました! ミツヒコ様はご無事だって……そして、必ず私を迎えに来てくれるって」
「エヴァ……」
「あー、いい雰囲気のとこ申し訳ないんだけど、中に入れてもらっていい?」
このままだと、熱烈なラブシーンを見せられそうだったので、態と二人の間に入って行った。
「え!? ど、どちらさまですの!?」
「先代の召喚者。それより、こんなところでそんなことしてたら誰かに見られる。早く中に入れろ」
「あ! は、はい!」
王女サマはそう言うと俺たちを部屋の中に引き入れてくれた。
そして、部屋に備え付けられているソファーに座ると、対面に座った王女サマが怪訝そうな顔を向けてきた。
「先代の召喚者といえば……ケンタ=マヤ様、ですか?」
「お、よく知ってるな」
「それはもう。有名人ですから……」
そういう王女サマの顔には警戒心が浮かんでいる。
そんな王女サマの隣に座った奈良君は、王女サマの手をそっと握った。
「エヴァ、とにかく摩耶さんの話を聞いてほしい。摩耶さんのことを判断するのはそれからにしてくれ」
「ミツヒコ様……分かりました。どんなお話かは分かりませんが、お聞かせくださいませ」
王女サマの了解も得られたので、俺は奈良君に話したのと同じ話を王女サマにした。
俺がリンドアの裏切りに合ったところで目を見開き、冤罪を着せて処刑しようとしたところで憤慨し、王都を半壊させて逃げ出したところで拍手し、俺がメイリーンと再会し、夫婦になったところで感激していた。
なにこの子。
王族とは思えないぐらいメッチャ喜怒哀楽が表に出るんですけど。
「それで、このままだと俺は君の父上に処分されそうだ。だから、摩耶さんのもとに身を置くことにした」
「え……?」
そんな王女サマに奈良君が本命の話をすると、王女サマは目を見開いて一瞬固まったあと、意を決した表情になった。
「ミツヒコ様」
「うん」
「私も連れて行って下さいませ!!」
王女サマは奈良君の手をしっかりと握ってそう叫んだ。
「ミツヒコ様を呼んだのはこの世界のためだと思っていましたが、まさか私利私欲のためだったとは! お父様には幻滅いたしましたわ!!」
「……いいのか? 父親だろ?」
「ミツヒコ様を戦争の道具としか見ていない男なんて父でもなんでもありませんわ!! そもそも、幼い頃から殆ど一緒にいなかった人なのです。お父様よりもミツヒコ様の方が大切に決まってますわ!!」
アッサリと奈良君の提案を受け入れた王女サマ。
本当なら簡単すぎると警戒するべきなんだろうけど、さっきの喜怒哀楽全開の様子を見るに、隠しごとができないタイプなんだろう。
末姫だって聞いてるし、甘やかされて育ったのかもな。
なので、王女サマの言っていることは本音なんだと解釈し、俺は王女サマに話かけた。
「じゃあ、早速で悪いんだけど、荷物をまとめて貰えるか? ああ、服とかは俺の奥さんの服があるし、ドレスとか着るとこないからナシで。化粧品とかこれだけは持っていきたい思い出の品とか、そういうのだけで頼む」
「分かりました! すぐに用意します!」
そう言ってテーブルの上に設置されたベルを鳴らす王女サマ。
「……あら? メイドが来ませんわ」
「「マジか」」
この王女サマ、これから家出しようってのに、メイドに荷造りをさせようとしやがった。
「悪いけど、この部屋から外に音は漏れない。そういう魔法を使ったからな。それから、これから家出しようってのに、メイドに荷造りさせようとしてんじゃねえよ」
「あ、それもそうですわね」
王女サマにとっては割とキツ目に言ったはずなんだけど、なんにも気にしてない様子で荷造りを始めた。
奈良君が王女サマの手伝いを始めたので、割と早い段階で荷造りは終わった。
「じゃあ、とりあえず一番簡素なドレスに着替えて来てくれる?」
「分かりました!」
そう言って奈良君の手を引いて隣の部屋に行く王女サマ。
「え? え? なんで!?」
「ミツヒコ様。ドレスは一人では着れませんわ。お手伝いしてくださいませ」
「ええ……」
「俺は手伝えねえから。行ってこい」
「はぁ……分かりましたよ」
こうして、奈良君を連れて王女サマは着替えに行った。
それにしても……あれ、結構とんでもない王女サマだぞ。
敬意を欠片も見せない俺に怒ることもしないし、言うこと聞くし、もしかして今の状況を全部理解した上で最適な行動を取ってるんだろうか?
過大評価し過ぎか?
まあ、あの様子なら俺らの家に来てもストレスは感じなさそうだからいいか。
「お待たせいたしました!」
しばらくすると、王女サマが部屋に戻ってきた。
その様子は、とても楽し気だ。
マジで大物だぞ、コイツ。
「おし。じゃあ、今から家に帰るぞ。それと……エヴァンジェリンだったか?」
「はい! エヴァとお呼びくださいませ!」
「じゃあ、エヴァ。これからしばらく、奈良君と一緒に俺の家に住んでもらうけど、ウチには赤ん坊が二人いるから煩いぞ。それでもいいか?」
「わあっ! 赤ちゃん! 近くで見るのは初めてです!」
王女サマが初めて見るであろう赤ん坊のことを話すと、なぜか嬉しそうにするエヴァ。
これなら問題ないか。
「じゃあ行こ……奈良君、どうした?」
なんだかポカンとした様子の奈良君に声をかけると、奈良君はハッとした顔をした。
「い、いえ。エヴァってこんな物怖じしない子だったんだなって、ちょっとびっくりしてたッス」
「まあ、暮らしが合わないってメソメソされるよりいいだろ」
「そっすね」
「じゃあ、行くぞ。荷物持ったか?」
「はい!」
「じゃあ、二人とも、俺の腕に掴まれ」
「うっす」
「? 腕?」
「いいから言われた通りにしてみて」
「はい!」
奈良君に言われて素直に俺の腕を掴むエヴぁ。
それを確認した俺は、転移魔法を使用した。
「転移」
こうして、アドモス城から末姫エヴァンジェリンが姿を消した。
明日、大騒ぎになるんだろうな、これ。
「うわあっ! すごいですわ! すごいですわっ!!」
転移魔法で一瞬のうちに俺の家に着き、大はしゃぎしているエヴァを見ながら、そんなことをボンヤリと考えていた。
やっぱ、過大評価だな。
カクヨムにて先行投稿しています
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