親歴数ヶ月
予約投稿をミスってたみたいです
連続投稿 3/4
「え!? メイリーンさんって、摩耶さんの奥さんなんスか!?」
「ええ、そうなの」
アドモス兵たちを処分したあと、家に帰る道すがら、俺はメイリーンのことを奈良君に紹介した。
名前と、あと俺の妻であることを。
「はあぁ、え、メイリーンさんって魔族ッスよね? どこで出会ったんスか? っていうか、魔族にとって摩耶さんって仇なんじゃ……」
奈良君は、王女サマから聞いていたとおり正義感の強い人間のようだ。
さっきも、自分が魔族を戦争で倒してしまったことを、同じ魔族であるメイリーンに謝罪していたくらいだしな。
それが魔族の王を討伐した俺ともなると、魔族なら絶対に許されない存在だと思ったんだろう。
しかしメイリーンは、奈良君の言葉を首を横に振って否定した。
「いえ。ケンタは、父を止めようとして、逆に殺されかけた私を助けてくれたのです。そして、私の代わりに父を倒してくれた……私にとってケンタは恩人なんですよ」
「へえ……ん? 父? 父って?」
「先々代の魔族国国王です」
メイリーンがそう言ったあと、奈良君は固まってしまった。
そして、ギギギとブリキのおもちゃみたいな動きで俺を見た。
「……え? メイリーンさんって、魔族のお姫様なんスか?」
「いや、一回即位してるから、元女王様だな」
「!?」
今度はアングリと口を開けて固まった。
「え? ん? え?」
どうやら奈良君は混乱しているようだ。
「まあ、歩きながらする話でもないし、家に帰ってから落ち着いて話をしようか。奈良君も、メイリーンのこと以外にも気になってること、あるだろ?」
俺がそう言うと、奈良君は驚愕した表情から真剣な表情に変わり、コクリと頷いた。
そんな訳で、森を通り抜け俺の家の敷地に出たとき、奈良君はまた目を見開いた。
「え……森の奥に、こんな開けた場所が……それに、あの家……」
奈良君は、二軒並んでいる家に目を向けている。
「俺たちの家と、友人夫婦の家だな」
俺がそう言うと、奈良君は今までで一番驚いた顔をした。
「摩耶さん、友達いたんスか!?」
「どういう意味だコラ?」
今度はヘッドロックではなく、アイアンクローを仕掛けてやる。
「痛い痛い!! 割れる! 頭が割れるうっ!!」
これ以上やると本当に頭が割れそうだったので、ほどほどで許してやった。
「言葉には気を付けろよ?」
「……うっす。っさーせんした」
……なんか、すっかり後輩ムーブが板に付いてきたな。
元々そういう子だったのか?
そんな奈良君を引き連れて家に近付くと、辿り着く前に家の扉が開かれた。
そこから現れたのは、断固としてアイバーンたちとの避難に同行しなかったモナだ。
モナは扉から出てくると、深々と頭を下げた。
「お帰りなさいませ、旦那様、奥様。それと……」
顔を上げて奈良君を見るモナ。
そのナラ君は……あ、コイツ、今モナの胸元見てやがった。
「ああ、このモナの胸元に視線が釘付けだった奴が今回の召喚者、奈良光彦……ミツヒコ=ナラ君だ」
「ちょっ!? なんて紹介の仕方してんスか!?」
「だって、事実だろ?」
「あれはしょうがなくないスか!? 自然と目が行くッスよ!」
「それでも見ないのが大人だよ奈良君」
「うわ、うぜぇ……」
いやあ、本当に生意気な後輩になったなあ。
「奈良君、コイツはメイリーンの姫時代の元侍女で、今はこの家のメイドをやってるモナだ」
「あ、奈良……ミツヒコ=ナラです」
「ご丁寧にどうも。モナです」
「モナ、奈良君と話しがあるから、そうだな……アイバーンも呼んでくるから、全員分のお茶と……あ、奈良君は紅茶とコーヒー、どっち派?」
「コーヒーッス」
「俺と奈良君とアイバーンはコーヒー用意してくれるか」
「畏まりました」
俺がモナに命令を下すと、モナは頭を下げてキッチンへと向かった。
その後ろ姿を見送っていた奈良君が、ふと俺の方を見た。
「ところで、アイバーンって誰ッスか?」
「隣に住んでる奴」
「ああ、例の友人さんッスか」
「……そう言われると、なんか自信がなくなってきたな。知り合いかも」
「もう、ケンタ。そんなことを言ったらアイバーンが泣きますよ。それより、早く迎えに行ってくださいな。私も、早くレオンに会いたいですわ」
「そうだな。じゃあ、行ってくる」
俺はそう言って転移しようとしたが、奈良君がまた話しかけてきた。
「レオン?」
「俺たちの息子」
「……は?」
また驚きで固まった奈良君を置いて、俺はアイバーンたちを迎えに行った。
「よ」
「うおっ! ビックリした!!」
アイバーンたちの町での拠点。
つまり、ベネットさんの管理するアパートにある部屋に直接転移すると、転移した先にアイバーンがいた。
突然現れた俺にメチャメチャ驚いて尻もちをついているアイバーンがウケる。
「あー!」
突然現れた俺を見つけたレオンが、ペタペタと部屋の床を這いながら俺に近付いてきた。
「おー、レオン。いい子にしてたか?」
俺がそう言ってレオンを抱き上げると、アイラを抱いたユリアが近付いてきた。
「それが、レオンちゃん、ここに来てからずっと元気がなくてね。パパとママに危ないことが近付いてきてるのを、なんとなく察してたみたい」
「……そうだったのか」
抱き上げたレオンは、いつも以上に俺にしがみついている気がする。
……いや、気のせいじゃないな。いつもより俺の服を掴む力が強い。
「……ゴメンなレオン。勝手な親父とママで」
「あぅ……」
レオンは大事だけど、俺もメイリーンもお互いが一番だ。
それはどうしても揺るがないが、俺たちは少しレオンのことを蔑ろにし過ぎたのかもしれない。
必死にしがみついてくるレオンをしっかりと抱いてやると、アイバーンが話しかけてきた。
「それで? その様子だと、自分勝手な両親たちの方は上手くいったのか?」
ちっ! ここぞとばかりに弄って来やがる。
「うぜえ……まあ、奈良君との戦闘は避けられたな。アドモス兵は処分したけど」
「……聞かなかったことにするわ」
「そうしとけ。それで、今奈良君が家に来ててな。お前たちも交えて話がしたい。という訳で、帰るぞ」
「はーい」
「あい!」
ユリアとアイラは、行きと同じく軽い返事で俺の側に来た。
アイバーンはというと、この短い時間の間に散らかした荷物を集めている。
「早くしろよ、置いてくぞ?」
「うるせえっ! だったらお前も手伝え!」
「あー、そうしたいのは山々なんだけど、どれが持ってきたもので、どれがこの部屋にあったものか分からんからなあ」
「私もー、アイラを抱っこしてるからあ」
「あうあう」
「あい」
俺とユリアの真似をするように、レオンとアイラもなんかあうあう言ってる。
そんな俺たちを見たアイバーンは、ガックリと肩を落として片付けを始めた。
その姿は、休日に慣れない家事をやらされる哀れな親父そのものだった。
その背中には……哀愁が漂っていた。
「早くしろよ」
「うるせえ!!」
程なくして片付けを終えたアイバーンも連れて、俺は家に帰ったのだった。
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