関西被り
予約投稿をミスってたみたいです
連続投稿 2/4
王女サマが俺の家に来た数日後、結界に反応があった。
「お。複数人の反応。これはナラ君たちが来たかな?」
「う?」
レオンと遊んでいた俺は立ち上がり、レオンをアイバーンに預けた。
「……本当に逃げていいのか?」
レオンを受け取ったアイバーンは、なぜか困惑した顔をしながらそう言った。
「元々そういう話だったろ? お前ら四人を町まで送る。もし、俺とメイリーンになにかあったときは、レオンのこと、よろしく頼むな」
俺がそう言うと、アイバーンは唇を噛んだ。
「……本当は、俺だってお前に加勢してやりたい。けど、俺じゃあ足手まといになるだけ……くそっ! 俺にもっと力があれば!」
俺は、そんなことを言うアイバーンの肩を叩いた。
「なに言ってんだ。お前とユリアがレオンのことを預かってくれるから、俺らはこうしてナラ君たちと向き合うことができるんだ。これは、お前にしか頼めないことだよ」
「……分かった。けど、一時預かるだけだからな。すぐ返すからな……すぐ迎えに来いよ」
「やめろお前。そういうの死亡フラグって言うんだぞ」
なんて不吉なこと言いやがるんだ。
「しぼうふらぐ?」
「ほら、物語とかでよくあるだろ? これが終わったら一緒に酒を呑もうとか約束した奴から死んでくってやつ」
「……確かに、不吉だな」
「それに、そんな心配すんな。ナラ君とは一度ちゃんと話してみたい。魔族との戦争で実戦経験を積んだみたいだけど……同時に心に傷を負ってる可能性もあるからな」
俺がそう言うと、アイバーンは少し顔をしかめた。
「お前も、今度召喚されたって奴も、十七歳なんだろ? まだ子供じゃないか。なんで十七歳なんだ」
確かに、十七歳と言えば日本ではまだ高二か高三。
十分子供だ。
そんな子供が戦争に駆り出される。
俺も、最初は異常だと思ってた。
「まあ、なんとなく分かるけどな」
「どういうことだ?」
「子供は物覚えがいいだろ? けど、ガチの子供だと戦力にならない。だから、ギリギリ子供だけど身体は成熟しかかってる十六から十七歳の中から選ばれてるんじゃないか?」
「なるほど……確かに、言われてみるとそうかも」
「まあ、それでもナラ君が子供なのには変わりないけどな。最初はちょっと様子を見るよ。まあ、問答無用で襲い掛かってきたらどうしようもなく戦闘になるけどな」
「やめろ馬鹿。そんなこと言ってると、本当になるだろうが」
「まあ、それもフラグか」
なんか取り留めも無さそうだったので、アイバーンとの会話はここで打ち切った。
「ユリア、アイラ、こっちに来てくれ。四人を町まで送るから」
「はーい」
「あい」
ユリアはいつものように軽く、アイラはママであるユリアの真似をしているのか元気よく手をあげて返事をした。
「か、かわ……」
「はいはい。そういうのは向こう着いてからやってくれ。送るぞ」
アイラの可愛さに表情が崩れそうになるアイバーンを留めて、俺は三人を町まで送って行き、すぐに戻ってきた。
「お待たせメイリーン。それじゃあ、行こうか」
「はい」
こうして、メイリーンと二人連れ立って結界に迷い込んでいるナラ君たちを向かえに行った。
ナラ君たちの反応がある付近に転移した俺は、森の中を彷徨い「なんだこれ?」と困惑していた。
なんでもないように見えた森で迷ってしまい、焦っているナラ君たちを驚かさないよう、俺はいきなり声をかけることはせず、ゆっくりと彼らの前に姿を現した。
「っ!? あ、あんたは……」
驚いて身構えるナラ君が俺に向かって誰何してきた。
ナラ君は身構えているだけだけど、周りの奴らは抜剣しちゃってるねえ。
それ、殺されても文句言えないよ?
ただ、ここでいきなり奴らを殺してしまうとナラ君の警戒心が上がってしまうので、見逃してやった。
「ナラ君、でいいのかな? 初めまして、先代召喚者の摩耶健太だ」
俺がそう挨拶すると、ナラ君は一瞬驚いた顔をしたあと、身構えていた身体から力を抜いた。
「……奈良光彦です」
「おう、よろしく。ところで、ナラ君のナラって、奈良県のナラ?」
「そうです。それと、光に彦根の彦でミツヒコです」
「そっか。俺は……えーっと、なんて言っていいか分かんねえな。こういう字」
俺は近くに落ちていた木の枝を拾うと、地面に俺の名前を漢字で書いた。
「ああ、見たことあります。神戸にある山でしたっけ」
「そうそう。よく知ってるな」
「前にテレビで見ました。神戸の夜景が一番綺麗に見えるのは、有名な六甲山じゃなくて隣の摩耶山だって」
「へえ」
おお、なんか和やかに話が出来てるぞ。
これなら穏便に済ませられそ……。
「ナラ殿!! なぜ敵とそんなに仲良く談笑しているのですか!? さっさと斬り捨てなさい!!」
俺と奈良君が談笑しているところに、奈良君の周りにいた騎士が丁寧な口調でありながらも俺を斬るように命令してきた。
ほお? 敵?
「……敵、っつったか?」
「!?」
俺は、俺のことを斬れと言ってきた騎士を睨んだ。
すると、その騎士はその人睨みで立ち竦んだ。
なんだコイツ? 弱えくせに、なんでこんな偉そうなんだよ。
「なあ、奈良君」
「……はい」
「君は、俺の敵か?」
俺がそう訊ねると、奈良君は少し迷ったあと、下を向いたまま言った。
「……正直分かりません。ここに来るまでは……摩耶さんに会うまでは、アンタのことを世界の敵だと……そう思っていました。けど、摩耶さんは俺に話しかけてくれた。俺には、アンタがあんな恐ろしいことをしたとは思えない……けど、あの光景を……リンドアの光景が脳裏から離れない」
「あぁ、あれはなあ……」
リンドアの王都を半壊させたのは事実だしなあ。
どう説明しようかと迷っていると、奈良君はなぜか俺の隣にいるメイリーンに目を向けた。
「それに……摩耶さんの隣にいるのは、魔族の方ですよね?」
「そうだよ」
一応、メイリーンの名前も、彼女が俺の妻であることもここでは言わない。
そもそも、なんでそんな確認をしてきたのか、意図が分からんからな。
そう警戒していると、奈良君は突然メイリーンに向かって頭を下げた。
「す、すみませんでした!!」
突然深々と頭を下げて謝る奈良君に、メイリーンは目を見開く。
「あ、あの、それはなんの謝罪ですか?」
俺もそうだけど、メイリーンもこの謝罪の意味が分からなくて、その意味を聞いてみると、奈良君は辛そうな顔をしながら話してくれた。
「お、俺……俺は……魔族の人を、沢山……たくさん殺しました……」
奈良君はそう言うと、ポロポロと涙を流し始めた。
「あなたの同胞をたくさん……とても許される行為じゃない……本当に、すみませんでした……」
……あぁ、これは、相当心にキテるね。
よく分かるよ。
「な、なにを言っているのだナラ殿!! 貴殿の戦いは正に英雄!! 誇りこそすれ、謝るようなものではない!! ましてや、こんな魔族の女なんぞに……」
「あ?」
俺は、なにかを言いかけた騎士の首を、魔法で切り落とした。
それを見て、他の騎士たちの警戒心が跳ね上がる。
そして、奈良君は驚きで目を見開いていた。
「っ!? ま、摩耶さん!? アンタ、なにを!?」
「なにしてんのかって? 自分の女が貶されたんだぞ? キレて当然だろうが」
「で、でも……」
ああ、この子は……。
本当に召喚されてまだ数ヶ月の子なんだな。
まだ、元の世界の倫理観を引き摺っている。
ここは、別の倫理観が支配する別の世界だというのに。
「それにな、奈良君。アイツは今、魔族を大勢倒した奈良君のことを英雄だと言った。彼女を、魔族の女なんぞと言った。つまりコイツらは、魔族を人と考えていない。そんな奴らの前に魔族である彼女がいる。すると、どうなる?」
「……危ない、ですね」
「だろ? それに……」
俺は今にも斬りかかってきそうな騎士たちを睨みながら言った。
「君のことも、ただの道具としか見てないよ」
「っ!! デ、デタラメを吹き込むな!! ナラ殿! こんな奴の話に耳を傾けてはいけませんぞ!?」
俺が奴らの本心を言ってやると、騎士たちは必死にデタラメだと喚き始めた。
俺の言うことを信じるなと言われた奈良君は、真剣な顔をして俺に聞いてきた。
「なんで……なんでそう思うんですか?」
その顔は、そんな扱いをされていたとは信じたくないけど、薄々気付いているような、そんな表情だった。
「だってさ」
俺はそう言ったあと、奈良君の肩をポンと叩いた。
「君、まだ十七歳らしいじゃん。そんな子供を、強いからって理由で戦場に駆り出すなんて、君のことを道具としか見てない証拠だろ?」
俺がそう言うと、奈良君は一瞬大きくめを見開いたあと、顔を歪ませて涙をっ零し始めた。
「ぐっ……うっ……ぐうぅっ!」
必死に泣くことを止めようとするけれど、どうしても止められない。
そんな嗚咽を漏らし始めた奈良君の頭をポンと叩いて騎士たちを見る。
「と、いうわけで、俺の敵はお前らだけだ」
俺はそう言って前に出た。
そして……。
「だから……死ね」
そう言いながら、俺は剣を抜いて騎士たちに斬りかかった。
いくら身体能力に優れた人族の騎士とはいえ、元々召喚ボーナスで身体能力が高いうえに、魔法で更に底上げができる俺の敵ではない。
まるでスローモーションの相手を斬るように、その場にいた騎士たち全員を一瞬で斬り伏せた。
「ったく、なんでコイツらは弱いくせに、こうも偉そうなんだろうな?」
剣に付いた血を振り払いながら振り返ると、そこにはもう嗚咽が止まり、唖然とした顔で俺をみる奈良君がいた。
「ん? どうかしたか?」
近付きながらそう聞くと、奈良君はちょっと顔を引き攣らせながら言った。
「摩耶さんって、シリアルキラーッスか?」
「お前も殺してやろうか?」
コイツらの支配から救ってやったというのに、なんて言い草だ。
俺は、すっかり生意気になった奈良君の頭をヘッドロックしながら家へと帰った。
当然、ヘッドロックをしたままなので、奈良君も一緒である。
「い、痛い! 遺体っスよ摩耶さん!」
「うるせえ。生意気な奴はこれくらいでいいんだよ」
「なんスかそれ!」
そんなやり取りをしながら歩く俺たちの後ろを、メイリーンが微笑みながら付いてきていた。
こうして、召喚者襲撃というより、アドモスの襲撃は、奈良君のお持ち帰りという結果で終わった。
あ、そうだ。
「あれ、処分しとくか」
俺はそう言うと、奈良君の頭を解放して後ろを向いた。
「? ケンタ? どうしたの?」
「いや、あれ、放っておいたら不衛生だからさ」
俺はそう言って、転がっているアドモス兵の遺体に魔法で火を放った。
「燃やしとかないと、虫が湧くだろ」
「ふふ、綺麗好きですね」
そうだろ?
メイリーンと和やかにそんな会話をしていると、奈良君がポツリと言った。
「……二人ともサイコパスだ」
奈良君の頭が、再度俺のヘッドロックの餌食になったことは言うまでもない。
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