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魔族は把握してない

◆◆◆


「例の新しい召喚者の情報は入って来たか?」


 魔族国軍の執務室の一つで、現場指揮官であるヤーマンが諜報部の一人に話を聞いていた。


「いえ、召喚者はアドモスの王城に囲われているので……前回報告した、今回の召喚者は二人いるらしいという情報以降、有用な情報は入ってきておりません」

「そうか……」

「ただ、どうでもいい情報は入手しております」

「どうでもいい情報?」

「はい。どうやら、召喚者のうちの一人が頻繁に城に娼婦を呼んでいるらしいです」

「……マジでどうでもいい情報だな」


 諜報部からの情報に、ヤーマンは頭を抱えた。


 アドモスがリンドアに頼んで再度召喚者を呼んだという情報が入って来たとき、魔族国内に緊張が走った。


 なにせ前回召喚されたケンタは、歴史上最強とまで言われた前々国王を討ち取った。


 そんな召喚者がまた現れた。それが二人もとなれば、人族は今度こそ魔族国を滅ぼそうとしているのではないか? と思ったのだ。


「とにかく、どんな些細なことでもいいから情報を集めてくれ。もしかしたら、さっきの俗物的な話もなにかしらの情報を得る切っ掛けになるかもしれない」

「はっ! 分かりました」


 諜報部員はそう言うとヤーマンの執務室を出て行った。


 ヤーマン自身、さっきの言葉が欺瞞であることは分かっている。


 新しい召喚者が娼婦をよく呼んでいるという情報からなにが読み取れるというのか。


 どうやら性欲が強そうだということ以外なんにも分からない。


 一年近く前、なぜかワイマールとアドモスという人族の国同士で戦争を始めるという、魔族国にとっては双方消耗するとてもいい流れになっていたはずなのだが。


「一体人族はなにを考えているのか……」


 魔族は、世界においての絶対数が少ないので、周りの人族の国を滅ぼして領土を拡大しようという意識が少ない。


 攻めてくるのはいつだって人族なのだ。


 前々国王は歴史上最強とも言われていたので、そんな人族に攻め入られるばかりの歴史に終止符を打つために自ら周囲の人族の国に攻め入ったのだが、それは例外中の例外だ。


 そんな人族が、なぜか魔族国には攻め入ってこずなぜか人族同士で争い始めた。


 そのときは、人族とは誰かと争っていなくては気が済まないのか? と思ったものだが、その後のアドモスの行動がどうしても読めない。


「戦争に負けたから、失った領土の分を魔族国から奪おうとしているのか?」


 人族が召喚者を呼ぶ理由は、いつだって魔族国に討ち入りたいから。


 五十年以上前に召喚者が呼ばれた時も、やはり魔族国に攻め入ってきた。


 当時はまだ産まれていなかったヤーマンも、歴史でそう習った。


 ただ、そのときの召喚者は今回のケンタほど強くはなかったらしく、最終的には魔族に討ち取られている。


 今この世界に、ケンタ以前の召喚者がいないのはそういう理由である。


 ただ、今回呼ばれたケンタの強さは異常だった。


 そんな召喚者が、今回は二人。


「……早々に対処した方がいいのかもしれないな」


 そう呟いたときだった。


「ヤーマン殿。いらっしゃいますか?」


 執務室のドアがノックされ、そう呼びかけられた。


「ああ、いるぞ」

「入室してもよろしいでしょうか?」

「構わない」

「失礼します」


 そう言って入ってきたのは、国王の側近だった。


「どうした?」

「はっ。陛下がヤーマン殿のことをお呼びです。至急、陛下の執務室までご足労願えますでしょうか?」

「陛下が?」


 国王が自分のことを呼んでいるという事実に驚きながらも、間違いなくこの件だろうなとヤーマンは察した。


 そして、側近の指示通りに王の執務室に向かったヤーマンは、執務室に入って驚いた。


 そこには、魔族国の重鎮たちが集まっていたからだ。


「お呼びと伺い、参上しました」


 そう言って頭を下げるヤーマンに、国王は労いの言葉もかけず本題に入った。


「召喚者の件はどうなっている?」

「は。現在調べを進めておりますが、なにせ王城に匿われておりますので、詳しい情報が入ってきておりません」


 ヤーマンがそう報告すると、国王はわざとらしく「チッ!」と舌打ちした。


「はぁ、使えねえなあ。もういいわ。コソコソ調べても分からねえならもう調べなくていい。どうせ奴らの狙いは俺の首だ。だったら、アイツみたいに力を付ける前にとっとと処した方がいいだろ」


 国王からのキツイ言葉にヤーマンは一瞬イラッとしたが、国王の言っていることは的外れではない。


 正直、自分も少しそう思っていたので、ヤーマンは国王の言葉を否定できなかった。


「そう、ですね。正確に召喚した理由が分かったわけではありませんが、過去の歴史からみてもその線が濃厚かと」

「だろ? ほら、現場の指揮官もそう言ってるじゃねえか。これで行動を起こさねえのはただの臆病者だ」


 国王は並居る重鎮たちを見渡してそう言った。


 すると執務室にいた重鎮たちは何人かと顔を見合わせると、諦めたように小さく首を振った。


「ようやく理解したか。じゃあ、もういいな?」


 こうして新しい国王は、重鎮たちに向けて宣言した。


「これから、アドモスに戦争を仕掛ける。目標は……」


 国王はそう言うと、ニヤッと笑った。


「新しい召喚者どもの排除だ」


 こうして、アドモスと魔族国との戦争が始まった。




カクヨムにて先行投稿しています

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