友人の忠告
「なあ……ワイマール王城が、何者かの襲撃を受けたらしいんだけど……お前、なにか知ってるか?」
ある日、いつものように俺に物資を持ってきたアイバーンが、俺と会うなりそんな質問をしてきた。
「ん? ああ、約束を守らねえから、俺が直接手を下してきた」
誤魔化す理由も必要もないので、正直に答えてやると、アイバーンは頭を抱えた。
「……やっぱ、お前だったかぁ……」
「おう」
アイバーンは予想していたみたいなので短く返答すると、アイバーンは深い溜め息を吐いた。
「お前なあ……その事件のせいで、今ワイマール王国はてんやわんやなんだぞ? 魔族との諍いもあるし、魔族の仕業なんじゃないか? って言ってる連中も出てきて、魔族に徹底抗戦するって国中大騒ぎだ」
「へぇ」
「他人事かよ! ……いや、お前にとっちゃ全部他人事か」
さすがアイバーン、俺のことをよく分かってらっしゃる。
「そういうこった。ワイマールがどうしようが、どうなろうが、俺の知ったことじゃない」
「まあ、お前はそうだよなあ」
アイバーンは荷物を出しながら疲れたようにそう零した。
「なんだよ。お前は違うのか?」
「あー、なんか探索者に義勇兵の募集が掛かったんだよ。周りじゃ結構参加するやつが多くてな。俺にも声がかかるから断るのが面倒臭いんだよ」
「なんで? 行きゃいいじゃん」
アイバーンの性格上、そういうのがあると真っ先に名乗りを上げると思っていただけに、断っているのは少々意外だった。
なので、行けばいいのにと軽く言うと、アイバーンは俺をジト目で見てきた。
「んだよ?」
「俺は、十中八九お前の仕業だと思ってたからな。皆は魔族に対する報復で士気が高いけど、俺はそうはなり辛いんだよ。そんな士気で参加しても皆の足を引っ張るだけだ」
「ふーん。相変わらず真面目だな、お前は」
アイバーンの真面目さは、今回はそういう風に作用したらしい。
「お前と王家のいざこざを知らなかったら俺だって義勇兵に参加してたさ。けど、はっきりいって今回のコレは魔族に対する冤罪だろ。申し訳ないって気持ちの方が出ちまうわ」
そんなもんか、と思いながらアイバーンが持ってきた物資の確認が終わった。
そして、二人で一服しているとアイバーンがなにかを思い出したように喋り出した。
「そういえば、今回の王城爆破事件のあと、お前の指名手配が解除されたぞ」
「へぇ」
アイバーンの話を聞いて、王家は今回の事件の真犯人が俺であることは認知しているらしい。
多分、妹姫サマを匿っているのがバレたと思ったので、俺の御機嫌取りのために指名手配を解除したんだろう。
こりゃ、アイツら相当俺にビビってんな。
なら、折角だしこのままビビッておいてもらおう。
いつか俺からの襲撃があるのか。
それともないのか。
分からないまま神経を擦り減らすがいいさ。
「指名手配が解除されたんなら、隠れてる必要もないか。そろそろこの結界も解除するか?」
「いや、それはちょっと待った方がいい」
「は? なんで?」
結界になにかが引っかかる度に、俺自ら確認に行ったり例の王女サマに着けてた監視カメラで確認しに行くのが面倒だったので解除しようかと思っていたんだけど、なぜかアイバーンから待ったがかかった。
なぜなのか? と理由を聞くと、驚きの答えが返ってきた。
「いや、解除されたのはワイマールだけだから。他の国では指名手配継続中だぞ?」
「は?」
いや、マジでなんで? 一か国が解除したんなら他も解除しろよ。
「そのせいで、王城襲撃が魔族の仕業じゃなくてお前の仕業だって噂もあるんだよ」
「噂じゃなくて事実だけどな」
「知ってる。けどそうなると、またお前を罪人だとか言って捕まえにくる奴とか出てくるかもだろ? だから、結界は現状維持のままで」
「はぁ、まだ面倒な生活続けないといけないのかよ」
「面倒でも、メイリーンさんを守るために結界は維持しておいた方がいい」
メイリーンの身の安全を持ち出されると、俺には結界を維持する選択肢しか取れなくなる。
「はぁ、メンドくせ……」
そこで、俺はあることが気になった。
「なあ、アイバーン」
「なんだ?」
「他の国で俺の指名手配が解除されない理由って、お前知ってるか?」
「あー……」
アイバーンはそう言うと、ちょっと言い辛そうに話し出した。
「多分だけど、お前のことを諦められないんだろ。手配書は生死不問ってあるけど、本当は殺さずに捕まえたいらしいから」
つまり、俺を都合のいい駒に使いたいってわけか。
「相変わらず、胸糞悪い連中だな……潰すか?」
「待て待て待て! 所構わず喧嘩を売ろうとするな! そんなことしたら、今度こそ全世界をあげてお前を討伐しにくるぞ!? メイリーンさんも子供もいるのに、それでいいのか?」
「む。それはダメだな。じゃあ、見逃してやるか」
「……お前の場合、それがただの上から目線じゃなくて、本当に見逃してることになるから恐えわ」
溜め息交じりにそう言うアイバーンの言葉を、俺は鼻で笑った。
「はっ。だったら手出ししてくんなってんだ。そうすりゃ俺もなんもしねえんだからよ」
一々手を出してくるから、俺も対応しないといけなくなるんだ。
いい加減大人しくしてろ。
「はは。まあ、まったくその通りなんだよな。お前って余計なちょっかいをかけなきゃ無害な人間なんだから」
「お、中々分かってるじゃねえか」
「まあ、こんだけ付き合ってればな。とりあえず、もうしばらく様子見してろよ」
「はぁ……面倒臭えなぁ」
アイバーンの助言を受けて、俺は結界をもうしばらく継続させることにした。
その忠告を聞いといて良かったと思ったのは、割とすぐのことだった。
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