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忌みがわ狩るト壊いは無し

作者: くだか南

『忌みがわ狩るト壊いは無し』(『非霊感少女の視る世界』の前後)

主な登場人物

香那実(カナミ)、、美少女JK。

沙咲良(ササラ)、、人が見えないモノが視える、非霊感少女。

運転手、、バスを運転している。


1.

ピーーーー

バタン

「出発します」

こもった声の運転手のアナウンスが、車内のボロいスピーカーから響き、バスが動き出した。

さっきの停留所で親子連れが降りて、乗客は私と香那実(カナミ)の2人だけになっていた。



2.

私と香那実は、最後部の席に隣り合って座っている。

香那実が中央、私が運転席側に一つずれている。

「ところで、ずっと気になってたんだけどさ」

香那実が話しかけてきた。

「うん」

沙咲良(ササラ)、今日は眼帯してんだね?何?中二病?封印された古の力が疼いてるん?」

「うるせえ、少し調子悪くて、昨日病院に行ったんだよ」

香那実が心配そうに顔を近づけてき来た。

「目の調子悪いの?今日はやめる?また今度にする?」

香那実が私の顔を覗き込む。

相変わらずの美人だ。

同性でも、あまりにも整い過ぎた顔が間近にあると、ドキリとしてしまう。

一瞬、脈が少し速くなる。

「大丈夫、元々、左目はほとんど見えてないから、博物館を観てまわるくらい問題無いよ」

「そっか、良かった、でも無理しないでな」

「ありがと、ダメな時は言うから」

「うん、でもさ、視力は無くても、幽霊をいつも見てるんでしょ?沙咲良は」

「は?見てねえよ、そんなもん」

「見えないモノが見えるだろ?幽霊でいいじゃん」

「良くねえよ、私が視てるのは、ただの目と脳の障害が作った幻だよ」

「解釈不一致だなあ」

「私の体の事なんだから、お前との解釈はどうでも良いんだよ」

私は右手の腕時計を見る。

時間は充分に余裕があった。



3.

「で、沙咲良って怪談話好きだよな?」

いきなり香那実が言ってきた。

「嫌いだよ、大嫌いだよ、夜トイレ行けなくなるから絶対やめろよ」

「これは、私の叔母さんの義理の弟のクラ」

「待てこら、やめろって言ってんだろ」

「何でだよ、普段から幽霊見てるんだから、怪談話なんか何ともないだろ」

「幽霊なんか視てねーし、それに、幽霊なんてモノも存在しないんだよ」

「じゃあ、幽霊なんていないんなら、何も怖くないだろ、怪談話なんか余裕だろ?」

「幽霊がいなくったって、怖い話は怖いんだよ、それは本能だよ、生きとし生けるモノの生存戦略だよ、危機回避能力だよ」

「とにかく、私の叔母さんの義理の弟のクラスメイトの話なんだけど」

「普通それを赤の他人って言うんだよ、ってゆーか、サラッと始めんなよ」



4.

香那実の話を要約するとこうだ……。

少し前の話、ある地方の夏、6人の若者が山奥のトンネルにやって来た。

就職や進学で地元を離れた者が、夏休みで帰郷し、地元にいる者と落ち合って遊んでいたら、なんだかんだで、地元で有名な心霊スポットに行こうと言う事になったのだ。

男が3人、女が3人。

地元に残っていた男が、父親のワンボックスカーを借りて、全員を乗せて山奥のトンネルまで運転した。

トンネルはすでに使用されていない。

いわくは幾つもあるトンネルだ。

やれ、工事で生き埋めになった作業員が出るだの、トンネル内で車が炎上して、逃げ遅れた親子がどうだの。

噂の真偽はともかく、心霊スポットとして有名なトンネルだ。

山の奥、木々が生い茂り、街灯ひとつも無い真っ暗な場所。

入り口から少し離れた位置にバリケードがあり、車でトンネルに進入する事は出来なかった。

入り口の近くの空きスペースに車を停め、運転手の男を車内に残し、男2人、女3人が、バリケードの隙間から、トンネルに進入した。

もちろんトンネルの中にも灯りは無かったので、5人はそれぞ、携帯電話のライトを点灯して、足下を照らしながら、ゆっくりと歩く。

入り口から10メートルも離れていない場所で、1人の女が気分が悪いと言い出し、1人でトンネルの入り口に向かった。

残りの男2人女2人の誰もついて行かなかったのは、入り口がすぐそこに見えていたのと、この4人がそれぞれ良き仲だったからだ。

4人は1人の女を見送り、トンネルの奥に歩き出した。

数十メートルで反対側の入り口に到着し、そこもまたバリケードで塞がれていた。

4人はUターンして、元の入り口へ向かった。

トンネル自体は暗く怖かったが、肝試しとしてはそれなりに盛り上がり、何事も無く車まで戻って来た。

そして、ここで事件は起きる。

先に帰ったはずの女が、その場にいなかったのだ。

運転手に確認したが、車には戻って来ていない、との事だった。

トンネルの入り口と車は、バリケードによって少し離れた位置にあった。

入り口の真正面に車を停めていたわけではなく、運転席から少し左の方を向かなければ、入り口を見る事は出来ない。

それが昼間なら、入り口を意識しなくても、女が帰って来るのが認識出来たのかもしれない。

しかし、街灯一つ無い真っ暗な山の奥だ。

車のエンジンはつけたまま、ヘッドライトも点灯したままだったが、ヘッドライトの光線から外れると、運転席からは何も見えない。

女の行方は分からなかった。

それから、5人で女の捜索が始まった。

しかし、街灯の無い山の奥、車のヘッドライトと、各人が持った携帯電話のライトでは、なかなかに難しかった。

暫くして、あまりにも埒があかないので、110番をする事になった。

しかし、そこは携帯電話の電波が届かない場所だった。

仕方無く、全員で車に乗り、電波が届く場所まで山を下り、警察に電話をした。

全員が車に乗ったのは、そこに残るのが、急に怖くなったからだ。

再び5人はトンネルまで戻り、パトカーが来るまで、再び女を探した。

その後、警察やボランティアで捜索を続けたが、女は見つからなかった。

そして、数日後、そこから遠く離れた河口で、女の死体が発見された。



5.

「あのさ?」

私は香那実に訊ねる。

「何?」

「それが、怖い話なの?怪談なの?」

「他に何か?」

「そのぉ、意味が分かると怖い話とかじゃなく?」

「何それ?」

「意味が分かると……、え~と、あ~、ある男がある女の子に恋をしました」

「恋バナか?」

「男は猛烈に、何度も何度もアタックしましたが、女の子は応えてくれません、やがて、男は、脈が無かったのを理解して、女の子から去りました、とさ」

「へ?何それ?」

「意味が分かると怖い話だよ」

「つまり、どーゆー?」

「ちょっと、手ぇ貸して」

「ほいよ」

私は香那実の右手の指を、自分の左手首に置いた。

「香那実、お前ゲームとかやる?戦う系の」

「あんまりやんないけど、RPGなら前にやってたよ」

「うん、ゲームで、アタックって何の事だと考える?」

「アタック、まあ、攻撃とか?」

「じゃあ、今、お前の指先が感じてるのは、何だ?」

「何って、沙咲良の手首の脈拍?」

「男は女にアタックして、結果、脈が無いのに気づいた」

「脈が無い、脈が有る…、うわ!怖!気持ち悪!」

香那実の手が、私の手首から離れて、自分を抱きしめた。

数度、深く呼吸をして、香那実は私を見る。

「で?」

「で?」

「さっきのトンネルの話、どこが、意味が分かるとナントカなんだよ」

「ああ、いや、だって、運転手の男が女を殺したって真相なんでしょ?」

「え?…、どこをどうしたら、そうなるんだよ」

「さっきの短い話聞いたら、それしかないじゃん」

香那実は腕を組んだ。

「よし、話せ」

「何で命令形だよ」



6.

「大前提として、それが事実かどうかは置いといて、普通に考えて、女が戻った先に運転手の男しかいなくて、結果、女が死体で見つかったんだから、運転手が女を殺したってのが一番の合理的判断だろ」

「でも、女の死体なんて、どこにも無かったわけだろ?車の中なんて論外だし、外に隠しとくにも、みんなでも探したし、すぐに警察とか来て捜索したんだし」

「うん、私、車の事ってよく分からないんだけど、普通車って5人まで乗れるんだよね?話の中では6人いたから、わざわざワンボックスカーってなったんだよね?」

「そーいえば、そーだね」

「ワンボックスカーでも色んな種類があるんだろうけど、たぶん、大きくて、背が高いよね?」

「そう、だね…」

「女は殺されて、そのワンボックスカーの屋根に載せられてた」

「あ」

「街灯も無い山の中、車のヘッドライトが、逆に屋根の上を見えにくくしてたんじゃないかな」

「うん、そうか…、足元は注意しても、目線より上は…、生きてる人間を探してるんだし、でも、でもさ、死体は遠く離れた河口で見つかったんだぜ」

「電波が繋がるとこまで山の上から下る時、カーブで屋根から転げ落ちて、ちょうど崖の下の川まで落ちて、そっから何日かかけて、河口まで流された、そんな感じじゃない?つまり、そいつらが車に乗ってる時、その頭のすぐ上に、女の死体があったんだ」

「怖い……、そうか、さすが霊感少女だ」

「霊感少女関係ねーだろ、怪談話とやらを合理的解釈してやったんだよ」



7.

「どーしたの眼帯ムスメ?そんな眉間に皺よせて」

「人を妖怪みたいに呼ぶな、ちょっと、ごめん、目薬さす」

「別に謝らなくてもいいけど、好きなだけ何ガロンもさしたら良いよ」

「そんなん致死量だろ」

私はトートバッグのポーチから目薬を取り出し、眼帯をずらす。

隣の香那実から正面に向きを変え、目薬をさす。

数秒目をつむり、開く。

「ああ~」

ため息まじりの声か出た。

「何?間抜けな声出して」

私は眼帯を元の位置に付け直し、香那実の方を向く。

ちらっと右手の腕時計を見た。

「では、なぞなぞです」

私は右目で香那実を見ながら、そう言った。



8.

「は?なぞなぞ?」

「荷台にリンゴと大根とキュウリを載せたトラックが、カーブで落としたのは、何でしょう?」

「何だよ突然、えーと、リンゴと大根と?」

「キュウリ」

「あ~、えーと、運転手のモラル?」

「何それ?」

「タバコの吸い殻を窓から捨てたんだよ」

「そんなアイテムどこにも無かっただろ、答は、スピードでした」

「スピード?うっわ、何それ」

「なぞなぞだよ」

言いながら、私は降車ボタンを押した。

ピンポーン



9.

『次、止まります』

車内アナウンスがボロいスピーカーから響いた。

「おい!まだ降りないよ、まだ先だよ」

「うん、知ってる」

「じゃあ」

「ちょっと歩こうよ、天気も良いしさ、この先下り道だしさ」

「別に良いけど…」

「ありがと」

すぐに停留場に到着し、私達はバスから降りた。

乗客のいなくなったバスが、排気ガスを吐いて走って行った。

私と香那実は、木漏れ日の下り道を歩く。

木々の隙間から海が見えた。

ゆるやかな風が、香那実の黒髪ロングを揺らす。

ふわりと白いシャツを着て、スリムデニムにスニーカー。

特別な物では無いのに、香那実が着ると、服も本人もすっきりと美しく見える。

美人は身に付ける物を選ばない。

美しい香那実が、綺麗に歩く。

グレイのワンピースの私は、香那実の影のような気分でよたよたと歩く。

まあ、それはそれで、幸せな時間だ。

私はスマホのマップを操作する。

「歩いて15分だって、博物館まで、思ってたより近かったね」

「そう、別に良いんだけど」

「何?」

「何でバスを途中で降りたんだよ」

「うん、あの運転手さん、ツキまくってて、何かアタリそうな感じがしたから」


(『非霊感少女の視る世界』で、なろうの仕様がよく解ってなくて、連載にしてしまいました。

それを学習して、此度は短編にて

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