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第9話 絶望

 なるほどなあ。藤井さんが絶望の日なんて言っていた理由が良く分かった。


「それならお前の行動には少し矛盾が生じているぞ? なぜ魔法隊のみに干渉している? 百億ものモンスターを倒すには、戦闘に参加する人間が一人でも増えたほうが良いに決まってるだろう?」


 今のところ、レベルアップの原理も魔法省のみが把握しているらしいし、このまま三か月後を迎えたとしても、俺たちだけが戦闘に加わることになってしまう。


「今は実験段階さ。一か月後にはすべてに人類に神託を与えるし、重火器が使えなくなることもその時に知らせる。三か月後までに、世界中に出現するダンジョンでレベルを上げてもらう予定だよ」


「そんな簡単に行くもんかね? 自分の命を懸けるってのになんの対価もない。まして、今の科学技術を自らの手で衰退させるなんてだれもやる気になるわけないだろ」


「ああ、対価ならもちろん用意してるよ」


 そう言うと、神は自分のステータスボードを俺に見せてきた。しかし、それは俺の知っているステータスボードとは違うものだった。


「なんだこの、ランク0っていうのは……?」


「それが対価だよ。モンスターを倒せば倒すほどレベルが上がる。そのレベルによってランキングを付けることにしたんだ。そして、そのランキング1万位以内に入ることがボクの用意する対価を受け取る条件だ。対価は――新しい世界への招待券さ」


 そう言う神はとびきりの笑顔だったが、その表情には少し違う感情が含まれているように感じてしまった。


「どういうことだ? 新しい世界って」


「魔素が戻るにつれて、生成されるモンスターも強くなっていく。それこそ、上限無く」


「上限無くって……百億体倒せばお前が望む世界のバランスに元通りなんだろう?」


「もちろん。ただ、そんなモンスターでさえ倒してしまう力を手にした人間をそのままにしておくのも勿体ないし、他の世界で新しい生活でもしてもらおうと思って。生まれ変わって新たな人生を歩む転生でも今の容姿のまま新たな世界で生活できる転移でも良い。君たちの世界でもあるだろう?強くてニューゲームってやつさ」


「そりゃあ……食いつくやつはいるだろうな」


 その辺はさすが神様ってところか。全員とはいかなくても、誰かが食いつく餌を用意したということだろう。


「他の世界を管理している神様からも、科学技術を知っている人物を起爆剤のような形で世界に送り込みたいっていう話も来ているし、悪い形にはならないと思うんだ」


 確かに、話を聞けば飛びつくやつはいそうだな。異世界に飛び込むことになった冒険譚などが好きだという人も多い。だが……。


「……俺の亡くなった親父の話でな。こういう話がある……旨い話には必ず裏がある、ってな」


 そう、この話は妙に出来すぎている。そりゃあ、モンスターと戦うことになるなんてリスクはあるが、それの対価が異世界に行くことができる切符なのだ。そもそも、そこまで世界に干渉ができるならこんな回りくどいことをしなくても良いだろう。


 そこで俺の心を読み取ったのか、神はため息をついてしまった。


「アハハ、考えすぎだよ。多々良くんって石橋をたたいて渡らないタイプだよね? まあ、君の言う通り対価がないとこの計画もなかなか進まないし、他の世界ってやつに惹かれる人もそこそこ多いと踏んだんだ。それに、最初に出現するモンスターは魔素が少ないし弱いモンスターばかりなんだよ。子供でも倒せるくらいだし、一種のゲームとして参加する人もいると思うよ?」


「最初は、なんだな?」


 逆に言えば、徐々にモンスターが強くなっていくということだろう。


「そりゃあそうさ。魔素が濃くなっていく分、出現するモンスターも強くなる。それに、地上に現れるモンスターはダンジョンと同じように特殊なアイテムをドロップする。君たちの科学技術では説明がつかないほど優秀な素材もね」


「素材、か。それなら一般的な企業もモンスター討伐に参加してくるかもしれないな」


 未知の素材なんて、金儲けにはもってこいだろう。現に、魔法について研究している企業があるくらいだし。


「でも、地上にモンスターが出現するのはどうにかならないのか? それこそ、俺がさっきまでいたダンジョンのようなものでも良かったんじゃないか?」


「いや、それだとダメなんだよね。あくまでもダンジョンは君たちの世界とは別次元のものだから、倒したモンスターの魔素は経験値として君たちに還元される。地上に現れるモンスターは、ダンジョン産モンスターの半分くらいの経験値になるだろうね」


「なるほどね……大体分かった。ちなみに、ここまで細かい情報を一人一人に説明していたのか?」


 藤井さんの話だと、魔法隊の隊員はこの『神託』を受けていると言っていた。


「ああ、それぞれ話す内容はちょっと違うかもね。三か月後のことやダンジョンのことは話したけど、みんな気になっていることは違ったからね」


「へえ、じゃあ戻ったら色々聞いてみるよ」


「うん、それがいいかもね。さて、そろそろ戻ろうか。ずいぶん話し込んでしまったよ」


 そう言って神はパン、と手拍子を打った。

 すると、真っ白だった部屋に真っ黒な煙が充満し始めた。


「ボクは君のことが気に入ってしまったよ。またね、多々良くん」


 最後にそんな神のつぶやきが遠巻きに聞こえながら、俺の意識は深い闇へと沈んでいった。


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