桜のおわり
桜のシーズンが終わった。
今年は毎日ウォーキングに出かけていたので、桜の開花から終焉までばっちりと見守ることができた。
真冬の枯れ枝がほのかに色づき始めた、三月下旬。
春の暖かさを感じた頃に、ポツリポツリとうすピンクの色が顔を出し。
公園内ですれ違う人たちが、上を向き始め。
写真を撮る人たちが、目に映るようになり。
ウォーキングの足並みに、さくらの花弁がお供するようになり。
木々の色合いに、黄緑と紅色が混じるようになり。
最高気温の上昇と共に、夏の気配を感じ。
公園の入り口には、ひときわ立派な桜の木がある。
毎日階段を上る時に、間近で開花状況を確かめた。
枝の先が膨らんできた、つぼみに色が付き始めた、薄ピンクが顔をのぞかせた、花が一つ咲いた、七分咲きかな、満開だ、花びらが散り始めた、葉っぱが出始めた、桜の見せ場は終わった……。
見る者を虜にする…桜の舞台。
なんとなく、枝が見回し始めて。
明らかに、枝がはしゃぎ始めて。
確かに、枝が自分を誇り始めて。
なんとなく、花に勢いがなくなって。
明らかに、花が引き際を悟って。
確かに、花は枝から旅立って。
なんとなく、恋物語を連想してしまうのは…、春という季節になって、私の中にも浮き足立つ感情が芽生えたということか。
三週間ほどの、目まぐるしい純愛物語は終わり…今はただ、名残を残すのみとなった。
公園に入る石階段の隅には、ひらひらと可愛らしく風に舞った、花びらだったものがうっすらと残っている。
華やかさの落ち着いた桜並木には、ほんのりと…桜餅の香りがする。
花びらが落ち、実をつけ始めた…?
花が散り、自分の時代がやってきたと…新芽がアピールしている?
やけに…桜餅が食べたくなる、香りだ。
新鮮な桜の…香り。
ほのかに香る、桜餅の面影。
朝一番の空気と混じり合う、食欲を増すフレグランスよ……!
「ねえねえ、帰りに桜餅買っていこ!!」
「いいねえ。」
コンビニに向かい、スイーツコーナーをのぞいてみると。
さくらパフェ、さくらプリン、さくらバウムにさくらサブレ、さくら茶まであるというのに…桜餅が、ない!!!
グぬぬ…この微妙に残念な商戦はどうだ!!!
三色団子はあるというのに、草餅はあるというのに…なぜ桜餅がない!!!
「残念だったね。」
「くそー、こうなったらデカいスーパー行って桜餅買ったろ!でもせっかくだからこのさくらシリーズも買ってったろ!!お父さんもお姉ちゃんも帰る頃には起きてるだろうし、全部食べるでしょ!!」
すっかり桜餅の舌になっていた私は、目当てのものを見つけられずに帰宅しましてですね。
……大きなスーパーに、家族そろって出かける事に、なりましてですね!
「よし、桜餅三種類買ったぞ!!じゃあ、帰って家でのんびりとお茶でも…」
……大きなスーパーには、ごく普通の桜餅がちゃんと売っていてですね!
「ちょっと待って!!なんか春の新商品いっぱい出てる!!!さくらチョコパイにさくらしるこサンド、さくら物全部買っちゃお!!!抹茶物も出てる、欲しい!!」
「ねーねーお父さんこのさくらモンブラン食べたい!!あとついでにザッハトルテも食べたいしシュークリームも、あ、このチーズケーキめちゃめちゃおいしいんだよね、プリンも買って!!」
「いい方の生クリーム買いたい、クレープミックスも。」
桜餅以外にも、山のように買い物をしたという、お話ですよ……。