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犯人たち

 三谷の推理はドンピシャリだった。

 彼が発見した偽マンホールは、本当に、抜け道の入り口だったのである。その抜け道の先は、道路の横の高い塀をくぐり抜けて、すぐ隣にあった廃屋の民家の庭にまで繋がっていた。警察は、この廃屋に関しては、完全にノーマークだったのだ。と言うのも、この廃屋の玄関は、問題の道路とは真逆の場所にあったし、その高い塀をよじ登って、この廃屋の中に入り込む事も不可能だろう、と考えられていたからである。

 だが、こうして、抜け道を使って、簡単に、この廃屋の敷地内に忍び込めると分かれば、話は変わってくるのだ。

 ツネカワ警部ひきいる捜査班は、さっそく、この廃屋の調査を行なったのだった。

 すると、廃屋の中から、人そのものは見つからなかったが、つい最近、誰かが滞在していたらしい痕跡はボロボロ発見されたのである。食べ物を食い散らかした跡や、捨てたばかりのゴミなどがだ。

 これで、茂を連れ去った誘拐魔が、一時的に、ここに潜んでいた事は、ほぼ確定となった。しかし、それによって、今後の捜査は、より困難なものになってしまったのだ。今までは、あの寂しい細道から、特定された時間に、犯人の乗り込んだ車が逃げ去った、と推測していたが、もし、犯人がこの廃屋の中で時間稼ぎをしていたとするならば、彼らが車に乗り込んだ地点も時間帯も、ぜんぜん違ったものになってしまうからである。もはや、短期間の聞き込みだけで調べ上げられる範囲ではないのだ。

 このように、警察がすっかり翻弄されている間も、刻一刻と時間は過ぎていた。それは、誘拐犯の側にとっても同じなのであり、彼らは、すでに、警察には探し当てられないような別のアジトにと移動していて、その場所でしっかりと茂を監禁していたのであった。

 茂が閉じ込められていたのは、地下室のような、窓もない、真っ暗な小部屋だった。その中で、茂は、わんわん泣き続けていたのだ。

 だが、それも仕方なかったと言えるだろう。その幼さゆえ、うっかり、怪しい女ピエロの後をついていってしまったが、その道中で、不気味なマンホールの中にと連れ込まれてしまったのである。仲間の飼い犬シグマとは、その時、はぐれてしまうし、茂は一人で謎の女ピエロに誘拐されてしまったのだ。

 初日こそ、まだ昼間は日の差すような廃屋の部屋に監禁されていたが、目隠しされて、車で移動した後は、こんな暗闇の部屋に連れてこられてしまった。部屋の中には自分一人である。まだ6歳の小さな少年にしてみれば、こんなに怖い経験は初めてだったに違いないのだ。

 さて、この監禁部屋のすぐ外に、誘拐犯たちの控え室もあった。

 そこでは、茂を誘拐してきた女ピエロも、誘拐時と同じ扮装のまま、くつろいでいたのだった。言うまでもなく、彼女は、あのジゴクの道化師なのだ。そして、彼女のそばには、彼女の父である凶賊・魔術師も控えていたのであった。魔術師も、ジゴクの道化師と同様の、ピエロの格好をしているのである。まさに、悪のピエロ親子だ。

「ジゴクの道化師よ。畑柳氏が、このアジトに到着したそうだ。おぬしも、感動の父子の対面を覗いてくるかね?」魔術師が、穏やかに、ジゴクの道化師にと話し掛けた。

 だが、ジゴクの道化師は、椅子に深く座ったまま、不機嫌そうな態度を取っているのである。

「どうした、ジゴクの道化師?おぬしは、自分に与えられた任務を、見事に果たしたのだぞ。初仕事にしては、実に上出来だった。何か、不満でもあるのか?」

「ないわよ。ただ・・・」

「ただ?」

 二人の声が途絶えると、あらためて、監禁室からの茂の泣き声が、よく響いてきたのだった。

「ほう、なるほど。そう言う事か」魔術師がニンマリと笑った。

「あたし、まだ何も言ってないわよ!」ムッとして、ジゴクの道化師が怒鳴った。

「いや、何も言わなくたって分かるさ。私だって、20年前だったら、畑柳氏の気持ちがよく分かっただろうからな。あの頃は、私も、娘の綾子に、つまり、おぬしの姉の顔を一目でも見たくて仕方がなかった。当時の私と今の畑柳は同じなのだ。そして、おぬしも、あの人質の少年に、何か、自分と重なるものを感じておるのだな」

「だから、あたしは、そんな事、考えてないってば!」

「ふふふ。まあ、それならそれでも良いのだよ。それでこそ、私の娘だ。さてと、今度は、私が一仕事してこなくてはいけない。では、行ってくるよ」

 魔術師は、冷ややかな笑みを浮かべながら、この控え室から出て行ったのだった。ジゴクの道化師の方は、相変わらず、ふてくされたムードなのである。

 そして、同じ頃、茂の監禁部屋でも、新たな出来事が起こっていたのだった。

 監禁部屋の入り口のドアが開いた。そこから、暗い室内に、わずかな光が差し込んだのだ。茂もハッとしたのか、少しだけ、泣き声が小さくなった。

 だが、入り口のドアが開いただけではなかったのである。そこには、二人の人間が立っていた。一人は、背の高い黒ずくめの男性だ。もう一人は、茂と同じぐらいの背丈の子供である。いや、よく見ると、この二人組は、全くノーマルな容姿ではなかったのだ。

 背の高い男は、顔がまるで骸骨のようだった。それから、子供に見えた人物の方も、その顔だけは髭面の成人男性だったのである。

「ほら、旦那。あんたのお望みどおりに連れてきましたぜ」小人の方が、ニヤニヤ笑いながら、骸骨紳士へ告げた。

 骸骨紳士は、少しヨタヨタしながら、茂のそばに近づいてきたのである。

 当然ながら、茂は激しい恐怖を感じたようなのだった。彼は、再び、わあわあと泣き出したのだ。

 しかし、骸骨紳士の方は、構わず、茂の目前まで寄ってきたのだった。茂には、どこにも逃げ場がない。逃げ出す事すら出来なかった。とうとう、骸骨紳士は、茂に触れられる位置までやって来たのだった。

 もちろん、それだけでは終わらない。骸骨紳士は、手を伸ばすと、そっと茂の顔をなで始めたのだ。茂がさらに大泣きしたのは言うまでもないのである。

 ところが、途中から不思議なことが起こった。茂が泣きやみ始めたのである。のみならず、彼は、ハッとした表情で骸骨紳士の方を見つめたのだ。

「この顔のなで方は、お父さま?」茂が優しい声で言った。

 その言葉に、骸骨紳士は少し動揺したようだった。それでも、彼は、震えながらも、無言で、茂の体に触れ続けたのである。

 いつの間にか、茂の方は、すっかり泣きやんでいた。

 この奇妙な状態が、もうしばらく続いたのだった。

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