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無敵探偵活劇 アケチ大戦争  作者: anurito
玉村一族編
9/169

恐怖のカウントダウン

 妙子から事情を聞いたアケチは、すぐに警察にと連絡したのだった。

 駆けつけてきた警官隊は、敏速に、神社の境内の捜索に当たったが、人間ヒョウはもちろん、本物の豹も見つかりはしなかった。何の手がかりを残さない点は、やはり、暗黒星の今までの手口と同じなのだ。

 しかし、今回は、重要な証拠品として、妙子が手渡された一通の封筒があった。

 そして、その翌日は、玉村邸の書斎にて、その問題の封筒をテーブルの上に置き、その周りを、当主の善太郎、アケチ探偵、ナカムラ警部の三人が取り囲んでいたのだった。

 封筒の表面には、例によって、暗黒星の黒い放射状の線のマークのみが描かれていた。その封筒の中に入っていたらしい便箋も、封筒の横に置かれてある。その便箋には、大きく「9」という数字だけが書かれていたのだ。

「これで、先の手紙の『10』の意味も分かってきましたね。前回が『10』で、今度が『9』。つまり、これは、カウントダウンだったのです」と、アケチが解説した。

「でも、何のカウントダウンなのだね?」と、善太郎。

「そのヒントも、人間ヒョウが妙子さんに伝えていました。妙子さんは、人間ヒョウに、『10数えるから、0になったら襲いかかる』と脅されたそうです。つまり、この手紙のカウントダウンも同じなのではないのでしょうか」

「じゃあ、0になった時、犯人は本気で行動を開始すると?」

「恐らく、そういう事でしょう」

「なんて、フザけた犯人だ!」善太郎は怒鳴った。

「だが、今のアケチくんの推理は、あくまで推測でしかない。明白な誘拐予告や殺人の宣言を受けたのではないので、警察としても、まだ本腰で皆さんの警備に乗り出す事ができないのだ。本当に申し訳ない」ナカムラ警部が、言いづらそうに、善太郎に謝った。

「そんな事、分かっておる!わしも、警察に頼ろうとは思っとらんよ」善太郎は、ひどく不機嫌だった。「要するに、こんなイタズラみたいなカウントダウンなんて、無視してしまえばいいのだ。そうだろう?」

「いや。軽々しく考えない方が良いかも」アケチが口を挟んだ。

「ふん。今後は、おかしな手紙が郵便受けに届いていたとしても、最初っから、ハネてしまう事にする。家族のものには、外出する時は、常に護衛を付けさせて、犯人の一味には近づかさせない。これで、これ以上、不愉快な数字を見せられる事も無くなるはずだ」

 善太郎は、傲慢に、そう言い切るのだった。

「しかし、相手は暗黒星です。果たして、それで通用するかどうか」アケチは、不安を口にしたのである。


 そして、案の定、善太郎の考えは甘かったのだった。間もなく、その事を、善太郎本人が思い知らされる事件が起きたのである。

 何日か経った日の夕刻、会社での仕事を終えた善太郎は、オオモリにある自宅の玉村邸へと帰ろうとしていた。

 いくつもの会社を束ねる大社長なので、言うまでもなく、善太郎は、自分専用の乗用車で、それも使用人の運転によって、各所への行き来を行なっているのだ。その日だって、その車の後部座席にどっしりと腰掛けて、自宅へ向かっていたのである。

 中途半端な時間だったので、野外は、ちょうど暗くなり始めていた。

「車のライト、点灯しますね」市内の大きな道路を走っている最中に、運転手が、穏やかに言った。

 それは、普段と何も変わらない、ごく当たり前の日常の一コマだった。

 ところが、車のヘッドライトをつけた時、全ては一変したのだ。

 善太郎の車の前方が、ぱあっと明るくなった。しかし、このあと、その光が、たまたま、近くの白い壁を照らすと、その壁には、大きく「8」の数字が浮かび上がったのである。

 善太郎も運転手もびっくりして、慌てて、車のブレーキを踏んだ。だが、停車しても、「8」の字はなおも鮮やかに壁にと描かれたままだったのである。

 不思議に思い、警戒しながらも、二人は車から降りてみた。

 すると、なんて事はない。車のライトの表面の方に、「8」の形が書き込まれていたのだった。壁の方には、それが影絵となって、大きく写し出されただけに過ぎなかったのだ。

 犯人は、運転手がこの車から離れた一瞬を狙って、ライトに、この仕掛けを施したのであろう。そして、夜になって、実際にライトをつけてみるまでは、この事実が誰にも気付かれないようになっていたのだ。

 何者かがライトに手を加える機会は、これまでに幾らでもあった事になり、これでは、犯人の特定などは、とても出来そうにないのである。

「なんて、人騒がせなイタズラなのだ」善太郎が、呆れたような口調で、吐き捨てた。

 しかし、その表情には、明らかに、焦燥も感じられたのである。


 悪い事は続くのである。いや、善太郎の警戒なんて、そもそも、暗黒星にとっては、最初から無いに等しかったのだ。何と言っても、連中は、恐るべき魔法使い揃いだったのである。

 車のライトの事件が起きてから二日後に、早くも、次の変事が起きた。

 早朝から、玉村家の家族や住み込みのアケチ探偵らは叩き起こされ、玉村邸の正面門のすぐ横にある外側の塀の前へと集合させられる事となった。

 だが、いざ、やって来ると、彼らは、誰も不平などは言えなくなってしまったのである。

 と言うのも、そこには、次の数字が書かれていたからだ。5メートルの高さの塀の壁の下の方に、2メートルほどの巨大さで、黒々と「7」と言う数字が書き込まれていたのである。

 まさに盲点であった。まさか、大胆にも、こんな近くで、イタズラ書きをされるとは、全く想定していなかったのである。だからこそ、敵は、手際よく作業を済ましてしまう事で、この難題を見事にこなしてしまったのだ。

「くそう。悔しいなあ!こんな間近な場所に、犯人のメッセージを許しちゃうなんて!」血気盛んな二郎が、真っ先に怒鳴った。

 恐らく、他の玉村家の人間も、同じ気持ちだったのではなかろうか。

 警察にも連絡したが、ここに来るのは、もうしばらく、かかりそうだった。となると、ひとまずは、この場にいたアケチ探偵の出番となるのである。

 アケチは、さっそく、軽く現場を検証した。

「『7』と言う数字は、直線だけで出来ているので、書くのは比較的簡単であり、たとえ、この大きさでも、5分もあれば、作業は終わったのではないでしょうか」と、アケチは推測を述べた。

 さらに、彼の観察が続く。

「背の高い人物ならば、脚立や台を使わなくても、この字の一番上の部分には届きそうですね。もしかすると、この事件の実行犯は、人間ヒョウかもしれません。あいつは、悪人の中でも、ダントツで長身ですから」

 その時、コバヤシ青年が、きびきびと、アケチに報告した。

「先生!すぐそばの地面に動物の毛が落ちていました」

「ほほう。黄色い毛か。あとで鑑識に調べてもらうけど、もしかしたら、人間ヒョウが連れていたと言う本物の豹のものかもしれないな。そうだとすれば、この犯人は人間ヒョウで確定だ」

「そいつって、確か、妹を怖がらせた卑劣漢だよね。まだ、すぐ近くに潜んでいるかもしれない。アケチさん、急いで、近所を探してみようよ!」二郎が興奮ぎみに提案した。

「いや。相手は暗黒星の一員です。多分、そう簡単には捕まらないでしょう。それよりも、数字の書かれている場所が、どんどん近づいている事が気になります」

「と言うと?」

「最初の『10』の手紙は、九州から送られてきました。次の『9』の手紙は、トーキョーの郊外で手渡されています。そして、『8』の数字は、市内を走っていた車のヘッドライトの上に。今回の『7』は、とうとう、この玉村邸の外側の塀にと書かれました」

「何を言う!バカげてる!そんなの、思いつきに過ぎんよ!」憤っていた当主の善太郎が、思わず、声を張り上げたのだった。「わしが全力をかけた防犯システムが、そうもあっさりと破られるものか!大体、こんな風に、塀の外に文字を書いたのだって、ここまでが限界だったからだ!これ以上の事が、犯人に出来る訳がない!」

 しかし、その時、皆の耳には、激しい笑い声が聞こえてきたのだった。それは、まさしく、地獄から響いてくるような、うす気味の悪い笑いであった。

 自然と、皆の目は、玉村邸の内の方へと向いた。謎の笑いは、その方角から聞こえてきたからだ。

 そして、あの時計塔の頂上に、怪しい人影を発見するまでは、ちょっとの時間もかからなかったのである。

 この場にいた全員が、驚愕した表情になった。

 そう、時計塔の外壁には、謎の人物が居たのだ。

 そいつは、時計塔のてっぺんで、頂上にある避雷針にしがみつき、風に吹かれながら、きぜんと立っていた。その外見も奇怪なのである。黒いマスクで顔を隠し、全身にフィットした黒い服を着て、大きなマントを強い風になびかせていた。マントは、大きく、派手に、周囲の空にと広がっているのだ。そして、この怪人ときたら、頭には、悪魔のような角の飾りもつけていたのだった。

 その容姿の印象は、さしずめ、こうもり男なのである。さらに、この人物こそが、恐らくは、玉村邸の人間をあざけるかのように、先ほどからの不気味な笑い声も発していたようなのだ。

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