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無敵探偵活劇 アケチ大戦争  作者: anurito
玉村一族編
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終章・残された救い

 一郎の死後、玉村邸にあった彼の部屋には、再度、厳重な捜査の手が入った。

 すると、沢山の蔵書が積まれた部屋の中からは、違法の薬物とか、変わった形の道具類などがゾロゾロと発見されたのだった。その中には、未知の劇薬や、凶器となる刃物とかも、大量に混ざっていた。いずれも、一郎が、こっそりと世界中から取り寄せて、集めていた呪術用のアイテムなのであった。一郎は、かなり危ない域まで、オカルトや魔術にのめり込んでいたのである。

 ただし、この部屋の様子というのは、同時に、一郎の心の内面も写し出していたのだと言える。彼は、この広い玉村邸の中で、孤独に、我が身の不幸を嘆きながら、どんどん狂気の淵へと沈んでいったのかもしれなかった。

 一郎の部屋を捜索した者たちは、一郎に対して、強い憐れみも感じずにはいられなかったのであった。


 暗黒星のアジトであるプラネタリウ会場には、ニジュウ面相によって、魔術師とジゴクの道化師の二人組が呼び出されていた。今回の会合の参加者は、この三人だけである。

「何の用かね、ニジュウ面相?」魔術師は、静かに、ニジュウ面相へと尋ねた。

「魔術師くん。君に朗報があります。玉村善太郎が死にました」ニジュウ面相も、穏やかな声で伝えた。

「な、何だって!」

「たった今、手に入れた最新情報です。善太郎は、息子の一郎の手で殺害されたそうです。明日には、全国のニュースでも、正式に発表されるでしょう」

「あの善太郎が死んだとは・・・。信じられん」

「善太郎は、多くの人間の恨みを買っていました。このような最期を遂げたのも、まさに、相応の報いだとも言えませんか」

「そうか。あの善太郎が死んだか。せめて、あいつだけは、私の手で殺してやりたかったのだが」魔術師は、感慨深く、呟いたのだった。

「さて、魔術師くん。これで、玉村家を攻める最大の理由は無くなった訳です。で、今後の我らの方針は、どう致しますか?」ニジュウ面相が、あらためて、魔術師に尋ねた。

「私の狙いは、善太郎に復讐する事だけだった。奴がいなくなった今、残った玉村家を襲い続けても、ただ虚しいだけだ。作戦は、これで打ち切りにしても構わんよ」

「では、撤収という事にしても、よろしいのですね」

「ああ。ニジュウ面相、今までの協力をありがとう。本当に助かったよ。他のメンバーにも、礼を言っておいておくれ。にしても、そうかぁ、善太郎は死んでしまったか」

「待ってよ!」

 と、その時、ジゴクの道化師が、いきなり、話に混ざってきたのだった。

「ねえ!フミヨの奴は、まだ生きているのよ!父上、あの女の事は、どうするつもり?」ジゴクの道化師は怒鳴った。

「私のターゲットは、もともと、善太郎一人だった。あとの玉村家の人間をいたぶるのは、あくまで、善太郎にトドメを刺すまでのささやかな余興だった」と、魔術師。

「じゃあ、フミヨの事は、もう、このまま、放っておくと言うの?ダメよ!そんなの嫌よ!あたしは、あのフミヨだけは、絶対に許せないわ!義父の善太郎なんかよりもね!」

「では、娘よ。おぬしの好きにしたら良かろう」

「ええ、そうしますとも!あたしは、これからも、フミヨの事は狙い続けるからね!あたしを、こんな不幸な目に合わせた張本人だもの!そうよ!必ず、彼女だけは、あたしが地獄にと突き落としてやるわ!」

 それだけ言い放つと、ジゴクの道化師は、不機嫌そうな態度で、この会場の出口の方へ去っていったのだった。

 そんな彼女の姿を、魔術師は、冷ややかに見送ったのである。


 それから何日か後に、玉村善太郎と一郎の合同告別式が行なわれる事となった。

 確かに、一郎は、犯罪者として人生の幕を閉じた次第なのだが、それでも、彼の不幸な身の上を考えると、差別せずに一緒に弔ってやるのが良かろうと、残された者たちは判断したのであった。

 とは言え、これまで、さんざん、賊の襲撃を受けてきた玉村家である。この合同葬儀の場でだって、いかなる事件が起こるかも分からなかったのだ。よって、警察の方も全面的に協力して、ものものしい警戒態勢のもとで、やっと、この式は開かれたのであった。

 もちろん、ナカムラ警部やアケチ探偵も、この告別会には出席していた。表向きは弔問客として、そして、一方では、私服の警護員として、何か悪い事が起きないかを、くまなく見張っていたのだった。

 幸い、葬式の方は、特に妨害を受ける様子もなく、順調に進んでいったのである。

 やがて、ちょっとした休憩の時間が取れたので、アケチとナカムラの二人は、葬式の会場の外に出て、コッソリとくつろいでいた。

「どうやら、暗黒星の奴らは現われないみたいですね」アケチは言った。

「それなんだが・・・」と、ナカムラが、ためらいがちに答えた。「さっき、報告を受けたのだが、受付の方で、おかしな香典袋が見つかったそうだ」

「何ですって?」

「実際の証拠品ブツは、鑑識の方に送ってしまった。写真は撮ってあるので、見てみるかね?」

「ぜひ」

 ナカムラは、何枚かの写真を取り出した。それは、今、話に出てきた、怪しい香典袋の写真なのだ。

「ふうん。香典袋そのものは、変な部分はありませんね」

「しかし、中には、お金は入っていなかったのだ。代わりに、奇怪な内容の紙片が入っていた」

 その紙片も写真に撮られていた。

 紙片の上半分には、大きく、黒い放射状の線が描かれているのである。

「これは、いつもの暗黒星のマークですね」アケチは呟いた。

 そして、紙片の下半分には、微妙な大きさで、「8」と描かれていたのだった。これを見て、アケチは、険しい表情を浮かべたのである。

「おかしな話じゃろ?カウントダウンが、いきなり、8に戻ってしまった。連中は、例のカウントダウンを、8からやり直すつもりなのだろうか?」ナカムラが言う。

「いや。ナカムラさん。違いますよ、これは。紙の向きが間違ってます。この紙は、90度、回転させて、横にして見るのが正しいのです」

 そう説明して、アケチは、脅迫文を撮影した写真を、クルリと回したのだった。すると、8の数字は、∞と言う形に早変わりしてしまったのである。

「この記号は、無限大です」

「え?無限大?」

「そう。この手紙は、全ての数字が消滅した事を伝えているのです」

「って事は?」

「善太郎さんも亡くなってしまった事だし、暗黒星も、玉村家への攻撃を終える事を、この香典で通達してきたのかもしれません」

「なるほど。じゃあ、我々も、やっと、玉村家の護衛から解放してもらえるって訳か」

「でも、連中が本当に素直に撤退してくれたのかどうかは分かりませんよ」アケチは、厳重に、注意を促したのだった。

 その時、この葬式の喪主である二郎が、大事な時間を割いて、会場から抜け出してきたのか、アケチらの元へとやって来たのである。

 二郎は、まずは、アケチたちに声を掛けて、軽く、挨拶とお礼を述べた。その上で、次のような事も、しんみりと語ったのだ。

「アケチさん、ナカムラさん。俺さあ、オヤジの気持ちを汲み取って、オヤジのやって来た事業を、全部、引き継ぐ事にしたよ。もちろん、オヤジが最後にやろうとしていた、皆への罪滅ぼしについてもね。どこまで、皆に誠意が伝わるのかは分からないけど、それは、オヤジの息子である俺がやらなくてはいけない仕事だと思うんだ。何年かかろうとも、頑張って、オヤジの悪名を晴らしていきたいと考えてるよ」

 それは、今回の事件で、いっぱい辛い思いをして、人間として少し成長した二郎の真摯な決意なのであった。

 さて、こんな三人がくつろいでいた場所に、今度は、葬式に参列していたコバヤシ青年とフミヨの二人も、近付いてきた。コバヤシは、フミヨのボディガードも兼ねて、常に彼女の横にいたのである。

「フミヨさん。無事に、お父さんを見送れましたか」アケチが、明るく、フミヨに声を掛けた。

「は、はい」フミヨは、戸惑いがちに答えた。

 続いて、二郎が、力強く、フミヨに話し掛けたのであった。

「フミヨさん。あなたを玉村家の籍に入れる作業の方も、間もなく完了する。これで、俺たちは、晴れて、真の家族になれるんだ。そしたら、俺のことも、気軽に『兄さん』と呼んでいいからね」

「あ、あのう」と、フミヨは口ごもった。「ごめんなさい。私は、まだ、新しい現実が、うまく受け入れられていないのです。善太郎氏が私の本物の父親だと言われても、今だって、ひどく他人事のように、その死を見送ってしまいました。だから、二郎さんの事も、なんだか、まだ『兄さん』とは心からは呼べそうにないのです。本当に、ごめんなさい。もう少し、時間をいただけませんか」

「なあんだ。ああ、でも、そうだよね。確かに、その通りだ。いきなり、今まで他人だった俺が兄弟だったと言われても、すぐには納得できるはずもないよね。いいんだよ、時間をかけても。少しずつ、二人の兄妹の絆を取り戻していけばいいのさ。だけど、残念だったな。フミヨさんみたいな良い子が、俺の右腕になってくれたら、この先、すごく心強いと思ったのに」

 二郎は、本当に残念そうな感じで、苦笑いしたのであった。

「おっと、そうだった。フミヨさん。君に対する法的処分が、大体、決まったよ」唐突に、ナカムラ警部が、話に加わってきた。

「え。私の処罰がですか?」と、フミヨ。

「処罰なんて、大それたものではない。君の罪は、軽犯罪ばかりだったからね。しかも、随所で、賊の悪事の妨害や警察への十分な協力も行なってくれた。だからね、花崎判事の寛容な計らいもあって、大幅な減刑となった。恐らくは、執行猶予だけで済むだろう」

「本当ですか」と、嬉しそうに、フミヨの声も弾んだのだった。

「さて、ここからが本題だ。執行猶予期間だが、その間は、君には、十分に、反省の意思をしめす仕事に従事してもらいたいと思う。玉村家の籍に入れたからと言って、すんなり、玉村家に返したりはしないよ。君はね、今後は、アケチくんに身元引き受け人になってもらって、当分は、彼の事務所で働くのだ。分かったね?」

 ナカムラが伝えた指示に、フミヨは、驚きの表情を浮かべたのだった。

「おや。何か、不服かね?」

「あ、いえ。とっても満足してます。そのような処分にしていただけて、本当に良かったです。私、これからは、アケチ先生の事を、一生懸命、お助けしたいと思います」

「そうか。それは、良い心がけだ」ナカムラも、たいそう、ご機嫌なのであった。

 そして、ニコニコ顔のアケチが、フミヨの方へ手を伸ばした。

「そんな訳だ。フミヨさん、これから、よろしく頼むよ」

「いいえ、私の方こそ、新しい助手として、どうぞ、よろしくお願いします」

 フミヨも、アケチの方に手を伸ばし、二人は、優しい握手をかわしたのだった。フミヨは、言葉を続けた。

「それと、アケチさんのそばに居れば、きっと、色んな事件が舞い込んできますよね。もしかしたら、それらの事件を通して、私の義父の魔術師や、あるいは、妙子さんとも、いつの日か、また会えるかもしれません。私、この二人の事は、やはり、どうしても、見捨てる事ができないのです。どうにか、踏み外した道から、こちらの世界にと連れ戻してあげたいのです。それが、私のやるべき使命だと思っています」

「うん、その通りだ、フミヨさん。僕たち探偵の仕事は、悪人をやっつける事でも、裁く事でもない。どんな悪い奴が相手であろうと、その人物が更生する可能性も信じて、あくまで、中立的正義の立場を保たなくてはいけないんだ。一郎さんのケースを見ても、それがよく分かっただろう?そうさ、いつか、きっと、妙子さんにも、再び会える時が来るよ。その時には、なんとか、彼女を元の正しい道へと連れ戻してあげよう。実は、僕も、彼女が悪に身を落としてしまった件に関しては、だいぶ責任を感じているからね」

 どうやら、アケチとフミヨは、すっかり意気投合して、心を通わせているような雰囲気なのである。

 ほんとは、アケチの探偵事務所に預ける事で、暗黒星の報復からフミヨの身を守ろうと言う思惑があったナカムラとしては、アケチたちの今の様子には、ちょっと呆れているのだ。

「さて、うちの事務所へのフミヨさんの就職も決まった事だし、これで、僕には、二人の弟子が出来た訳だ。コバヤシくんより、フミヨさんの方が年上なのだし、つまり、姉弟子って事になるのかな」楽しげに、アケチが述べた。

「ええ?待ってくださいよ、先生!ぼくの方が、先生の一番弟子なんですよ。それなのに、フミヨさんが姉弟子なんて呼ばれたら、まるで、ぼくがおとうと弟子みたいじゃないですか!」コバヤシが、慌てて、アケチに抗議したのであった。

 そんな微笑ましい光景を、この場にいた皆が、可笑しそうに笑って、眺めていた。フミヨもまた、楽しそうに、顔をほころばせていた。それは、ずっと薄幸だったフミヨが、久しぶりに見せた、明るい笑顔なのでもあった。


玉村一族編・終

  <解説>

本「玉村一族編」は、原作小説からは、

「魔術師」「暗黒星」「塔上の奇術師」「地獄の道化師」をベースに用いて、

ところどころの小ネタとして、

「妖人ゴング」「悪魔の紋章」「地獄風景」「灰色の巨人」「一寸法師」「白髪鬼」などを使用、

また、ニジュウ面相が変身する怪人・怪物は、

「青銅の魔人」「妖怪博士」「妖虫」「サーカスの怪人」「透明怪人」に登場したものを使いました。

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