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無敵探偵活劇 アケチ大戦争  作者: anurito
玉村一族編
83/169

全ての真実

「一郎さん。もう、何もかも判明してしまったのです。あなただって、ほんとは、自分が犯人だと、すぐにバレるのを覚悟の上で、こんな犯行に及んだのでしょう?でしたら、せめて、あなたの口から、犯行の動機を語ってもらえませんか」アケチは、一郎へと、優しく話し掛けたのだった。

 すると、肩を落として、グズグズと泣きじゃくっていた一郎は、ようやく、ボソボソと喋り出したのである。

「ぼくは、ほんとの事を言うと、もともとは、玉村家の人間ではなかったのです。ぼくの生まれた頃の最初の名前は、瀬下良一と言いました。のちに、玉村家に引き取られて、改名もさせられて、玉村一郎になったのです。ぼくの母親は瀬下と言う姓で、実は、父・善太郎の愛人だったのです」

 皆は、神妙な表情で、一郎の話に聞き入っていた。だが、その内容は、決して初耳のものではなく、二郎ら身内のものは、うっすらと知っていた裏事情だったし、アケチらも、捜査の過程で、すでにある程度は聞き出していた話だったのである。

「父は、母とは大変に仲良くしていましたが、それでも、絶対に籍を入れようとはしませんでした。なぜならば、当時の父は、飛ぶ鳥を落とす勢いの有望株の会社経営者でしたし、それに比べて、母は、あまりにも卑しい身分だったからです。それでも、母は、父との愛の結晶であるぼくを産みました。母は、私生児と言う形でも構わないから、父の子を育てたかったのです。こうして、ぼくは、出生後、しばらくの間は、母のもとで、貧乏ながらも、愛情いっぱいに育ててもらったのです」

 ここで、一郎は、いったん、言葉を区切った。その顔には、静かに、苦渋の表情が広がり始めた。

「ところが、ぼくが8歳を過ぎた頃、ぼくは、母から無理やり引き離されてしまったのです。そして、ほとんど説明もなく、玉村家の屋敷にと連れてこられて、そこでの生活を強いられるようになったのです。全ては、父の仕業でした。その時期より何年か前に、ある資産家の娘と正式に結婚した父は、のちのちに、遺産分配や後継者の件で、トラブルを起こさないように、愛人の子であったぼくも、強引に自分のもとに引き取ってしまったのでした。そして、父のこの正式な結婚相手と言うのが、二郎や妙子の母親である君代さんだったのです」

 二郎は、一郎の話を聞きながら、古い記憶を思い出していた。そう言えば、二郎が物心のついたばかりの頃、この屋敷には、まだ彼の兄はいなかった。兄・一郎は、二郎が3、4歳を過ぎてから、ひょっこり、この屋敷に住みつくようになった人間だったのである。

「ただし、この屋敷にぼくが引き取られるのは、ぼくも母も全く望んでいないシナリオでした。ぼくの頭の中には、ぼくを強引に奪われた母が、半狂乱になって、嫌がっていた姿が、今でも思い浮かんできます。ぼくと母は、これっきり、二度と会う事はありませんでした。のちに噂で聞いた話では、母は、ぼくを奪われてしまったショックで、本当におかしくなってしまい、とてもミジメな死に方をしたとも言われています。ああ、可哀想なお母さん!」

 ここにいる皆も、いくらかは、そうした事情を知っていたが、実際に当人から聞かされてみると、あまりにも壮絶な話なのである。誰もが、一郎への同情を禁じ得なかったのだった。

「こうして、玉村家でのぼくの新しい生活が始まりました。でも、それだって、必ずしも幸せなものではなかったのです。あくまで、ぼくは、玉村家では、おまけの存在でした。義母の君代さんだって、それなりに、ぼくにも優しくしてくれましたし、他の家族と同様の贅沢も許されましたが、しかし、父の後継者は、最初っから、正妻の君代さんの息子である二郎に決まっていたのです。ぼくは、外で問題を起こさないように、ただ、屋敷の中で子飼いにされていただけだったのです」

「だから、あなたは、趣味に没頭するような生き方に身を委ねていったのですね?」と、アケチ。

「ただの趣味じゃありません。辛い現実世界を忘れるには、それだけ強烈な幻想に浸るしかなかったのです。ぼくは、完全に夢物語であるオカルトとか超常現象の事を考えている時だけ、なんとか、心の平常を保てたのです」

 思えば、一郎も、気楽な厭世主義者などではなくて、とても気の毒な人間だった訳である。

「ぼくのこのような生活は、暗黒星の出現で崩れる事になりました。賊の集団である暗黒星は、悪質だった父のことを素直に憎み、ストレートに攻撃してきました。この事は、ぼく自身にも、心の奥へと押し殺していた父への怒りを思い出させる引き金になってしまったのです。度重なる暗黒星の攻撃で、ぼく自身も命の危険に晒され、忘れていた妙子にまつわる秘密とかも思い出してしまったものだから、ぼくは、とうとう、父への反感や秘めたる憎悪を抑え込めなくなってしまったのです」

「それで、なかば、計画的に、今回の犯行を実行してしまったのですね?」アケチは尋ねた。

 一郎は、静かに頷いたのだった。

「一郎さん。あなたは、暗黒星の名の由来をご存知ですか?暗黒星とは、目に見えない星のことです。だから、いきなり接近してきたとしても、その存在を察知する事ができませんし、突然、地球に衝突するかもしれないような、恐ろしい星なのです。一郎さん。あなたの方が、賊たちよりも、ずっと、暗黒星の名に相応しいかもしれませんね。まさか、こんな身近なところに、一番の伏兵がいたとは、僕も、さすがに気付く事ができませんでしたよ」

「そうです。ぼくは、悪魔の子なのです。誰にも、その生を望まれなかった、呪われた子供だったのです。だけど、アケチさん。ぼくは、父を殺した事を、少しも後悔はしていませんよ。これは、あのエゴイストの父が受けるべき、当然の報いだったのです。父は、魔術師をはじめとした、沢山の他人を踏みにじってきたばかりではなく、実の子供のぼくや妙子らまでもを不幸にしたのです。その天誅は、必ずや、誰かから受けるべきだったのです」

「一郎さん。あなたは、本当に、とんだ愚か者ですよ」アケチが、ため息をついた。「あなたは、今日、善太郎さんに呼ばれて、彼の部屋に出向いたのでしょう?そして、それを絶好のチャンスと考えて、そのまま、善太郎さんの殺害を決行したのですよね?」

「そうです」

「善太郎さんはね、実際には、これまでの自分の悪行の数々を、すでに深く反省なされていたのです。先日、僕と面会した時、彼は、心の底から懺悔していて、様々な事を語ってくださいました。善太郎さんは、皆に全身全霊で償う事を、ベッドの上で体を休めながら、ずっと考えておられたのです。事故死したと思われた魔術師こと奥村源造氏には、あれほど酷い目に遭わされながらも、立派なお墓を建ててあげようとしていました。魔術師の娘だったフミヨさんも、自分が引き取って、死ぬまで面倒を見る気だったそうです。そして、一郎さん、あなたについても、これまで無下にしてきた事を、たいへん詫びており、実は、あなたを、二郎さんと共同の後継者にする事を考えていらしたのです。あなたが、善太郎さんの部屋に呼ばれたのだって、きっと、その話をあなたと相談する為だったのですよ」

 アケチの話を聞いて、一郎は、がく然と、目を見開いてしまったのだった。

「まさか。あの冷酷で傲慢な父さんが、そんな事を考えてたなんて・・・」

「どうやら、あなたは、善太郎さんとは何も会話をされずに、いきなり、彼の喉をかっ切ってしまったようですね。可哀想に。声帯を潰された善太郎さんは、最後に一言、あなたに謝る事すらもできずに、無念の気持ちで、亡くなっていったのでしょう」

 アケチに言われて、一郎は、泣きながら、笑い出したのだった。

「アケチさん。確かに、ぼくは、世界一の大馬鹿だったかもしれません。でも、今となっては、もう、何一つ、やり直す事はできないんでしょうね」

 そう告げて、一郎は、さりげなく、皆へと背を向けた。そして、彼は、急に咳き込んだのだった。

 しかし、それは、ただの咳ではなかったのだ。よく見ると、口もとに当てた一郎の手が、赤い血の色に染まっているのである。

「あ!」と、それに気付いた誰かが、つい声を出した。

「しまった!一郎さん、毒を飲みましたね!ダメです!そんな事で、罪の償いなどをしては!」アケチが叫んだ。

 彼の推測は、見事に当たっていたのだった。

 口から血を吐いた一郎は、その場にヨロヨロと崩れ倒れていったのだ。彼は、万が一の為に、最初っから、毒物の入った袋を口の中に含んでいたのである。そして、自白を終えて、全ての責任を果たしたと感じた彼は、口内の袋を噛み破って、服毒自殺を図ったみたいなのだった。

 もちろん、周囲にいた人々は、慌てて、一郎を助けようとした。この屋敷に滞在していたお抱えの医者も、急いで、この応接室に駆けつけてきて、死にかけていた一郎を、至急、治療できる場所へと連れていったのだが、果たして、救命できたかどうかは、すぐには分からなかったのだった。

「一郎さんは、マンドラゴラなどの変わった猛毒植物も、コレクションとして、自分の部屋にと保管していた。もし、未知の毒物でも飲んでいたようだったらなら、医者でもお手上げかもしれない」アケチは、不安そうに、呟いたのであった。

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