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無敵探偵活劇 アケチ大戦争  作者: anurito
玉村一族編
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境内の怪物

 まさに、今の妙子は、森の中で狼に遭遇した赤ずきんそのものだった。言いつけを守らなかった女の子は、全く、こんな恐ろしい目に遭ってしまうものなのだ。

 人間ヒョウは、ケダモノのように長い舌で舌舐めずりをしながら、気色の悪い笑顔を浮かべていた。

 妙子の方は、すぐに逃げ出す事ができなかった。恐怖で、体が震えてしまい、こわばってしまって、とっさに走る事ができなかったのだ。

 妙子が立ち止まっていたのを良い事に、彼女のそばへと、人間ヒョウはジリジリと寄ってきた。

「名前は、妙子と言ったな。近くで見ると、まあまあ、美人じゃねえか」人間ヒョウは笑った。

 彼の方は、ギンザのサーチライト事件の時に、すでに、妙子の姿は、遠くから観察していたのである。

 妙子は、少しずつ体が動くようになって来たので、ゆっくり後ずさりをした。でも、助けを呼ぶには、ノドの方がまだ震えたままで、大声が出ないのである。

 彼女は、タイミングを見計らって、人間ヒョウに背を向け、ダッシュで走り逃げようとした。

 しかし、そう思い通りにも行かなかったのである。

 なぜなら、妙子が、意を決して、体を回すと、そこにも、別の敵が居たからだ。

 それは、しなやかな体つきをした豹だった。確かに、豹なのである。猫なんかではない。その2メートル近い大きさや、皮膚の黒斑の模様などから、その動物は豹としか考えられなかったのである。

 こんな本物の豹が、実は、背後からも、妙子のことを見張っていたのだ。どうやら、妙子は、最初っから、走り逃げるなんて事はできなかったみたいなのである。

 それにしても、いくら郊外の林の中とは言え、日本の国内に、こんなに堂々と豹がいても良いものなのだろうか。

 妙子は、前後から、人間ヒョウと本物の豹に挟まれて、完全に立ち往生してしまった。

「兄弟。しっかり見張っててくれよ。でも、逃げ出しそうになっても、嚙み殺してはイケナイぞ。今日の目的は、こいつを襲う事じゃないんだからな」人間ヒョウは、楽しそうに、豹へと話しかけていた。

 そして、豹の方も、やたらと大人しくて、なんだか、人間ヒョウの言葉が分かっているみたいなのであった。

 人間ヒョウは、泣きそうになっていた妙子の目の前にまで迫ってきた。さらに、手を伸ばせば、互いの体を触れそうな位置まで近づいた時に、人間ヒョウは、バッと何かを妙子へと突き出したのである。

「ほら!これを持っていけ!」人間ヒョウが怒鳴った。

 彼がよこしたものは、一通の白い封筒だった。

 何だか分からないけど、震える妙子は、勢いに飲まれて、その封筒を受け取ってしまったのである。

「確かに、渡したぜ。それを、お前の親父とアケチの奴に見せるんだ。分かったな」

 つまり、妙子は、伝言を押し付けられたのである。相手の目的は、本当にそれだけだったらしいのだ。

 その証拠に、用事が終わると、妙子の背後を塞いでいた豹が、すみやかに、退路を開けてくれた。豹は、グルリと歩いて、人間ヒョウの隣にと移動したのだ。

「さあ、行け!さっさと帰るんだ!」人間ヒョウが、イヤラシイ笑顔で叫んだ。「いいか!これから、オレ様は、10から0まで数えるからな。0になっても、まだ、このそばをウロウロしていやがったら、飛びかかって、お前のことをズタズタにしてやる。この事をよく覚えておけ!行くぞ!」

 妙子はゾッとした。こんな怪しいバケモノの言う事だから、きっと本気に違いないのだ。その上で、彼女は、父のもとに「10」と書かれた謎の手紙が届いていた事も、一瞬、思い出したのだった。

「さあ、数えるぞ!じゅう〜う!」人間ヒョウが、大声で叫んだ。

 妙子は、無我夢中で、体をひるがえしたのだった。そして、人間ヒョウに背を向けると、大慌てで、必死に走り出したのだ。

 背後からは、人間ヒョウの数を数える声が聞こえてきた。でも、そんなの構わずに、妙子は、頭が混乱した状態のままで、急いで、走り続けたのだ。

「きゅう〜、は〜ちい、し〜ちい・・・」

 幸い、人間ヒョウの声は、どんどん小さくなっていった。だが、それでも、妙子は駆けるのを止める事はできなかったのである。彼女は、雑木林の中を、やみくもに走った。

「妙子さん。妙子さーん」

 ふと、前方の方から、自分を呼ぶ声が聞こえてきたのだった。優しい、男の声である。あの恐ろしい人間ヒョウの声を聞いた後だと、その穏やかな声は、安らぎさえ感じさせてくれたのだった。

 よく見ると、前方から、アケチ探偵が、妙子の方に向かってきていた。彼は、待ち合わせ場所に妙子がいなかったものだから、勘を働かせて、雑木林の中まで探しにきてくれたのである。

 アケチの姿を見た途端、妙子の今まで堪えていた感情がドッと噴き出した。

 彼女は、力強く、アケチの胸へ抱きつくと、そこで、わあわあと泣き始めたのだ。

「バカ、バカ!あなた、探偵でしょ!あたしを必ず守るって言ってくれたじゃない!早く帰ってきなさいよ!何やってたのよ!本当に、もうバカ!」妙子は、そう言って、アケチの胸で、しきりに泣き崩れたのだった。

 アケチの方も、妙子の身に何かがあったのを、すぐに察知して、やや困惑した表情になったのである。


 同じ頃、雑木林の奥では、人間ヒョウが最後の「0」を数え終えていた。

 もちろん、すでに、彼には、妙子の姿は見えていない。だから、急いで追いかけるような真似もしないのだ。

 ただし、すこぶる興奮してしまったのか、人間ヒョウは、急に高らかに笑い出した。その笑い声は、どんどん、吠え声のようなものに変わっていった。その声に共鳴して、彼の隣にいた本物の豹も、唸るような遠吠えを始めたのだった。

 その時、彼らの背後に忍び寄る者があった。

「やれやれ。楽しそうだね、人間ヒョウくん。役目の方は、きちんと完了してくれたのかな」図太い声で、その人物は、人間ヒョウにと話しかけた。

 その人物とは、魔術師であった。いつものピエロの化粧と扮装をしていて、体にはグルリと黒いマントを羽織っているのだ。

「心配するな。娘には無事に手紙は渡しておいたぜ。今回は、兄弟と一緒に仕事に当たったんだ。前みたいな失敗はやらかさないぜ」魔術師の方に振り返った人間ヒョウは、そう言いながら、相棒の豹の頭をなでた。

 豹の方も、すっかり人間ヒョウに慣れきっていたらしく、頭をさすられて、気持ち良さそうな表情を浮かべているのである。

「そうか。では、次のショーを始めるとするか」魔術師は、不気味に笑った。

 実は、この時、魔術師の横には、もう一人、新たな人物が佇んでいた。

 髪を正面に垂らして、わざと顔を隠している謎の女性である。見たところ、黒トカゲではない。むしろ、妙子と背格好が似通っている、若い娘なのであった。

 そして、この子こそが、のちの魔術師の犯罪ショーにおいての、重要なタネだったのである。

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