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無敵探偵活劇 アケチ大戦争  作者: anurito
玉村一族編
79/169

フミヨと妙子

 ぼんやりと、フミヨは、目を覚ました。何だか、悪夢を見ていたような気分なのである。

 しかし、全てが現実であった。フミヨが起きた場所は、自動車の後部座席だったのだ。やはり、車に乗って、その運転手の顔がピエロだったのは、彼女が見た夢想などではなかったのである。

 どうやら、フミヨは、失神した後に、その車の中で目覚めたらしかった。車は走っておらず、エンジンも停まっている。運転手も居ないみたいなのだ。フミヨは、この車の中に、一人、取り残されていたようなのである。

 車の窓から見える外の空間は、かなり暗かった。すでに、夜中だったらしいのである。暗くて、外の景色は、よく見えなかった。ただ、月夜らしくて、真っ暗という訳でもないのだ。

 とにかく、この状態のままで、無防備に待っていては、何も先に進まないのである。

 フミヨは、頭がハッキリしてくると、この車から逃げ出そうと考えた。まずは、車の外に出るべきなのだ。

 彼女は、ゆっくりと上半身を起き上がらせた。そして、近い方の車のドアへと、ズルズルと身を移動させていったのである。

 だが、その瞬間だった。車がガクンと揺れた。

「きゃっ!」と、フミヨは叫んだ。

 車は、およそ50度近く、傾いたのである。フミヨが車内で動いて、重心がずれたからだ。この車は、それほど不安定な場所に停車していたらしいのである。

 フミヨは、車の険しい傾きに対して踏ん張る事ができず、そのまま、低い方に滑っていってしまった。その一番奥には、車のドアがあった。フミヨの体がズシリと寄りかかった途端、そのドアはバタンと開いてしまったのだ。元より、このドアはロックされていなかったのである。

「いやああっ!」フミヨは、再び悲鳴をあげた。

 彼女の体は、車の外に放り出されると、一直線に、真下へと転げ落ちていった。ドアのすぐ外には地面が無かったのだ。いや、正確には、垂直に近い急斜面になっていたのである。

 この車は、なぜか、崖のてっぺんに停まっていたのだった。それも、断崖のスレスレの場所にである。フミヨは、その事を気付かずに、崖側に開いていたドアから外へ出てしまったのだ。

 崖を滑り落ちるフミヨの体は、どんどん落下していった。だが、状況が分かっていないながらも、フミヨも死に物狂いになったのである。彼女は、崖の斜面を滑りながら、必死にあがいた。すると、右手の先に、ようやく、枝みたいなものが触れたのだった。彼女は、夢中で、それを掴んだ。これで、彼女の落下は、どうにか停まったのである。

 運よく、崖の斜面の途中には、小さな木の枝が伸びていた。フミヨは、それを掴む事で、何とか、一番下まで転落するのだけは、回避できたのである。もっとも、今の彼女は、崖の斜面に、ヤモリのようにへばりついてるような状態だったのであり、決して、助かったとも言えなかったのだ。

 フミヨのすがりついている場所からは、崖のてっぺんの様子も見上げる事ができた。夜だったが、月が明るかったので、かなり具体的に物の形も見取る事ができたのだ。

 たった今、彼女が飛び出してしまった車の半身も、ハッキリと目視できた。そして、その車の横には、ヌッ人の姿が現われたのだった。

 フミヨは、ギョッとした。

 その出現した人物とは、ピエロだったからである。車の運転席に座っていた、あのピエロだ。こいつは、姿をくらましたのではなく、ずっと、フミヨの落下する様子を見物していたのである。

「運がいい女だね。まっすぐ落ちないで、途中で引っかかったのかい?」と、そのピエロが、よく通る声で言った。その声が、意外にも、若い女の声だったのである。

 色々な意味で、フミヨはハッとした。

「あなたは誰なのですか?なぜ、私をこんな目に合わせるのですか!」フミヨは、思い切って、見下ろしているピエロむかって、訴えてみた。

「あたしが誰かだって?全く、のん気な女だよ」ピエロは、吐き捨てるように、罵った。

「教えてください。なぜ、こんな酷い事を私にするのですか?あなたは、もしかすると、私の父の関係者ですか?だから、ピエロの格好なんかを?」

「分からないのかい?あたしの声に聞き覚えはないかい?」

 ピエロに言われて、フミヨは突然に思い当たったのだった。

「その声は、私とそっくり。ひょっとすると、あなたは妙子さん?」

「その名前は、もう捨てたよ。今のあたしの通り名は、ジゴクの道化師。魔術師の娘さ」

「え?魔術師の娘って、どういう事?お父さまの子供は私一人だったはず・・・」

「それが、全て、間違いだったのさ。本当の魔術師の娘は、あたしだ。あんたは、実は、玉村家の令嬢だったのさ」

「え、え、え?何を言ってるの?」

 ジゴクの道化師と称するピエロの打ち明け話に、フミヨは、ただただ、呆然とするばかりなのだった。

「何もかも、教えてあげるよ。あたしとあんたはね、生まれた日にすり替えられたんだ。それ以来、あたしは玉村家の令嬢として、あんたは強盗団の魔術師の娘として、育てられてきたんだよ」

「う、うそ。なぜ、そんな事に?」

「21年前の話だ。玉村善太郎に恨みを抱く魔術師こと奥村源造、すなわち、あたしの本当の父は、善太郎への復讐として、あたしとあんたを密かに取り替えたのさ。あんただけを誘拐するのではなく、二人を入れ替えたのは、誘拐の事実をすぐに気付かれないようにする為のトリックだった。あたしは、手品で言うところの替え玉に使われたのさ。で、のちのちに、父は、善太郎に誘拐の真相を告げて、あたしとあんたを交換するつもりだった」

「ど、どうして、誘拐なんかを?」

「あんたの身と引き換えに、あたしの父は、善太郎にその罪の全ての自白を迫ったのさ。ところが、善太郎は、その要求に応じなかった。それどころか、誘拐の事実そのものを無かった事にして、善太郎は、あたしの事を自分の娘として、しゃあしゃあと育てる事にしやがったのさ」

「何ですって!」

 恐ろしいカミングアウトを聞かされて、フミヨも、頭がクラクラしてきたのだった。だが、ジゴクの道化師は、喋り続けるのを止めはしなかった。

「あんたの親父は、ホントに、とんでもないクソ野郎だよ。おかげで、あたしは、アカの他人の夫婦に、偽りの寵愛を受けて、育てられてきたんだ。ああ、お母さま!あたしは、あなたの事を本物の母親だと信じて、心から慕っていたのに!実際は、お母さまは、ヨソの子と知りつつ、ママ母として、あたしに接していたのよ。だから、時々、あたしへの態度が冷たくなったり、十分な愛情を注いでくれなかったんだわ」

 ジゴクの道化師は、激しく嘆いていたが、その心境は、フミヨだって同じなのだった。フミヨも、自分が凶賊の魔術師の娘だと思って、ずっと罪悪感に悩まされ、それでも、恐ろしい父のことを憎み切れずに、今まで生きてきたのだ。彼女のこれまでの苦悩こそ、一体、何だったのであろう。

 いつしか、崖の上のジゴクの道化師は、童謡の「赤とんぼ」を口ずさみ始めていた。妙子でもある彼女に、玉村家の母親が子守唄として歌ってくれたという曲だ。崖の上の澄んだ空気の中で、その歌声は、繊細に、そして、とても物悲しく響いていた。ジゴクの道化師自身も、ボロボロと涙を流しているのである。

 フミヨも、枝にぶら下がった状態で、何とも言えない気持ちで、その歌声に聞き入っていた。

 やがて、ジゴクの道化師は、「赤とんぼ」を最後まで歌い終えたのだった。彼女は、あらためて、フミヨの事を、キッと睨みつけた。

「なかなか、往生際が悪いみたいだね。あんたが力尽きるまで待っていられないよ。こうなったら、あたしの手で、あんたの息の根を止めてやる!」

 ジゴクの道化師の手のひらには、パッとトランプのカードが1セット出現した。彼女は、その一枚を抜き取ると、さっと頭上へと振り上げた。彼女は、このトランプを、凶器として投げつけて、フミヨを枝から払い落として、真っ逆さまに崖の底へと叩き落とすつもりなのである!

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