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無敵探偵活劇 アケチ大戦争  作者: anurito
玉村一族編
78/169

フミヨへの罠

 結局、バラバラ死体の主は、花園洋子だった。

 地方へ取材旅行に出かけた際の彼女は、その期間中は、職場や身内とは、いっさい連絡を取らない事を、自分の信条としていた。だが、その事が、なおさら、彼女の行方不明の発覚を遅らせる事になってしまったのだった。

 暗黒星が、なぜ、洋子を犠牲に選んだのか、その正確な理由は定かではない。ただ、彼女は玉村二郎の婚約者ではあったし、賊に狙われる要素は十分にあったのだ。また、彼女は、九州のS市へと出向き、魔術師の秘密を探ろうともしていた。その辺も、魔術師らに付け狙われる原因にもなっていたのかもしれない。

 とにかく、死亡していたのは花園洋子であり、玉村妙子については、あらためて、安否不明の扱いとなったのだ。

 せっかく、戦線復帰しようとした二郎ではあったが、この一件で、またまた、気力を失ってしまい、悲しみに暮れて、自分の部屋に閉じこもる状態に戻ってしまったのだった。

 そして、アケチ探偵とコバヤシ助手の二人に関して言えば、この新事実を踏まえて、玉村邸にて、再び、ナカムラ警部と対策会議を開いたのである。

「今回の死体入りの首像の発見に絡んで、ひどく気になった事があります」最初にそう口にしたのは、コバヤシであった。

「何かね?この際、どんな小さな事でも構わないから、気付いた事があったら、どんどん発言してくれたまえ」と、ナカムラが応じた。

「この首像には、トランプのカードが添えられていたのです。こんな演出は、初めてでした。もしかすると、何かの重要な意味があったのではないのでしょうか」

「このカードの事だね?」

 そう言って、ナカムラは、テーブルの上に並べていた証拠写真の中から、1枚を取り上げた。トランプのカードを写した写真だった。これは、あの首像に貼り付けてあったカードなのだ。種類は、スペードのエースなのである。

「スペードのエースは死を意味する。要するに、タチの悪いブラックユーモアだったのではないかね?トランプなんて、いかにも魔術師マジシャンが使いそうな小道具だし」と、ナカムラ。

「待ってください。このカードなのですが・・・」

 アケチ探偵が、横から、ナカムラの持っていたトランプカードの写真を奪い取った。説明するまでもなく、今の彼は、コゴローから知的なアケチにと戻っているのである。

「ほら、やっぱり。真ん中のスペードの絵柄の左横に、手書きで棒線が描かれてあります。僕がコゴローだった時には、すぐにはピンと来なかったのですが」アケチは言った。

「それが、どこか問題でもあるのかね?」

「この棒線は『マイナス』です。つまり、このカードは、ただのスペードの1ではないんですよ。とりあえず、トランプにも、スペードである事にも、大して意味はなくて、これは、本当は『マイナス1』だったのです」

 アケチの発言に、ナカムラもコバヤシもギョッとしていたのだった。

「じゃあ、もしかして?」

「多分、その思った通りです。これは、例のカウントダウンです。賊のあの脅迫のカウントダウンは、0まで進んで、すでに終了したはずでした。ところが、マイナスに引き継がれる事で、また復活したのです」

「何てこった。それじゃ、この狂気の事件は、まだ続くと言うのか!」

「先生。それでは、先生は、今後も、このカウントダウンは続行されると、お考えなのですか?」

「まあね。恐らく、僕の予測は外れてはいないだろう」

「じゃあ、アケチくん、どうしたら良いのだ?」

「警部は、これまで通りに、この屋敷の厳重な警備を続けてください。玉村家の皆さんが、また狙われる危険性が大ですから。賊が忍び込まないように、屋敷の周辺の警戒は、特に念を入れてお願いします」

「わ、分かった」

「とにかく、電流の塀で囲まれた、この屋敷は、中にさえ侵入されなければ、これほど安全な場所はないのです」

 敵の攻撃再開宣言を受けた事で、場の緊張感は、ぐっと強まったのだった。

「それと、バラバラ死体の残りのパーツの発見も急いだ方が良さそうですね。ナカムラさん、すでに回収されているバラバラ死体については、再度、検死を行なってくれたんですよね?」アケチは、ナカムラに尋ねた。

「ああ、もちろんだ。運良く、死体の各部位は、まだ火葬していなかった。至急、本物の黒川医師に調べ直してもらったのだが、花園嬢のもので間違いなかったよ。今度こそ、正真正銘の正しい検死報告だ。誤りはないよ」

「となると、あと見つかっていない体の部分は、どこでしょう?」と、コバヤシ。

「右腕だけって事になるか。そうか、残っているのは、右腕か」

「え、先生?何か、気にかかる事でも?」

「いや。そうだね、無事に見つかればいいんだけどね」アケチは、意味ありげに、口ごもったのだった。


 暗黒星のアジトであるプラネタリウム会場には、別に集会が開かれていなくても、暗黒星のメンバーが、くつろいで、たむろしている事があった。その日も、全員参加の会合はなかったのだが、何人かのメンバーが、会う約束をしていたらしくて、この会場にと集まっていたのだ。

 その一人が、ニジュウ面相だった。珍しく、彼は、中央の投影機の横には立ってはおらず、観客席の一つに、足を組んで、ゆったりと腰掛けていたのである。そんな彼の首に、背後から両腕を巻きつけて、嬉しそうな表情の黒トカゲが擦り寄っていた。さらに、二人の周りでは、これまた、陽気に浮かれている一寸法師が、楽しそうに、ピョンピョンと跳ね回っていたのだ。

「ニジュウ面相。あなたって、やっぱり、最高よ。ボク、これからも、あなたに付いていくわ」と、黒トカゲは、上機嫌で、ニジュウ面相に、甘く、ささやいていたのであった。

「黒トカゲくん。気に入っていただけて、私も光栄です」ニジュウ面相も、楽しそうに答えた。

「おい、黒トカゲ!その義手の奪回には、おいらも協力したんだぜ。お礼は、おいらにも言ってくれよ」二人の周囲をうろついていた一寸法師も、笑いながら、話に混ざってきた。

「そうだったわね。ありがとう、可愛いおチビちゃん」

 黒トカゲに優しく褒められて、嬉しかったらしく、一寸法師はキャアキャアと飛び回ったのだった。

「義手を取り返してくれただけではなく、新しい皮膚まで用意してくれたんですもの。あなたの行き届いたサービスには、全く、感謝の言葉しかないわ」と、黒トカゲは、さらにニジュウ面相を賞賛した。

「たまたま、ちょうど、新鮮な皮も手に入っただけですよ。君は、ただただ、運が良かったのです」

「いいえ。頼りになるのは、ほんとに、あなただけよ」

「そうさ。ニジュウ面相は、皆の希望を叶えてくれるんだぜ。おいらだって、今回は、思う存分に人殺しができて、とっても満足さ!」と、一寸法師も、ニジュウ面相のことを大いに讃えたのだった。

 よく見ると、一寸法師は、いつの間にか、刃物を取り出していて、それをオモチャのように振り回していた。この刃物と言うのが、大きな青龍刀ダンビラだったのである。どうやら、これは、あの偽サーカスで、美女解体ショーに用いられたものとも同一のようにも見えるのだ。

 そして、この時は、黒トカゲの方も、無くなっていた右腕を完全に取り戻していたのである。黒いドレスから露出していた、その右腕の義手は、確か、表皮を全て剥がされてしまっていたはずなのだが、今は、みずみずしい、入手したての人間の生皮にと包まれていたのであった。


 アケチ探偵の活躍で、法医学医の黒川医師の入れ替わりのトリックが暴かれ、バラバラ死体の実際の身元も判明されたのも束の間のことであり、暗黒星からは、すぐさま、新たな宣戦布告のメッセージを突きつけられて、すっかり、名探偵も振り回されてしまっていたようなのだった。

 アケチもコバヤシも、自分たちの事務所へと、いったん戻る事もなく、まっすぐ玉村邸の方へと向かい、そのまま、警護の為に屋敷にと滞在し続けていた。

 よって、オチャノミズにある彼の探偵事務所では、フミヨ一人が、まるで留守番のように、残されていたのだった。彼女は、本当は、事件の重要参考人であったのだが、その善良な性格が分かり、コバヤシらとも慣れ親しんでくると、すっかり、信頼されてしまったのであった。アケチたちからは、一人で置いといても、逃走するような事はないだろう、と判断されたのだ。

 とは言え、フミヨだって、賊に復讐される恐れはゼロではないのである。彼女自身も、もしかすると彼女の見間違いだったのかもしれないピエロの姿を見た事に、ひどく怯え続けていたのだった。

 そんな次第で、コバヤシ青年も、フミヨへは、自分たちが留守の間は、絶対に事務所のドアは開かないようにと言いつけて、彼女を事務所へと残してきたのであった。

 事務所の中のフミヨは、その指示を、ずっと、しっかりと守り続けていた。つまり、不安を感じながらも、事務所はガッチリと戸締りして、その中にと閉じこもっていたのである。

 すると、いきなり、事務所の入り口のドアを、外から、激しく、ドンドンと叩く音が聞こえてきた。

「フミヨさん、いますか!僕です!コバヤシです!急いで、ここを開けてくれませんか」と、ドアを叩いている人物は訴えていたのだった。

 フミヨは、ハッとした。

 ドアの向こうの声は、確かに、聞き覚えのあるコバヤシのものなのである。だが、用心深いフミヨは、ドアについたカメラを通して、念のために、ドアの外にいる人物の姿を確認してみた。カメラに写っていた人物は、やはり、コバヤシで合っていたのであった。

 これで、フミヨも、ようやく安心して、入り口のドアを開いたのである。

「どうしたのですか、コバヤシさん」と、フミヨは、入り口の外にいたコバヤシにと尋ねた。

「大変なんです。暗黒星がまた活動を再開したようなのです!」コバヤシが、慌てた口調で言った。

「何ですって!父の仲間たちが?」

「そうです。と言う事は、彼らを裏切ったフミヨさんにも危険が及ぶかもしれません。それで、あなたの事を、安全な場所に移す為に、至急、迎えにきたのです」

「でも、安全なところって、一体?」

「玉村さんの屋敷にお連れします。あそこでしたら、玉村さんの家族と一緒に、あなたの事も護衛する事ができるでしょう。さあ、すぐに出かけましょう」

「は、はい。分かりました」

「このビルの外には、もう、移動用の車も待たせてあります。着の身着のままで構いませんので、すぐ、その車に乗ってもらえませんか」

 コバヤシがやたらと急かすものだから、フミヨも、そのまま、事務所の外へ飛び出したのだった。

「僕は、ちょっと、事務所で用事を済ませてから、玉村邸へと戻ります。悪いけど、フミヨさんだけ、先に車で玉村邸へと向かってもらえませんか」コバヤシは言った。

「はい」フミヨは、疑う事なく、素直に従ったのだった。

 こうして、彼女だけが先に、一人で、1階へと下りていったのである。

 コバヤシは、その後ろ姿を最後まで見送っていた。その後なのだが、彼は、なぜか、なかなか事務所の中へは入ろうとはしなかったのだった。

「ジゴクの道化師くん。あとは任せましたよ。君のお手並みを、とくと拝見させていただきましょう」と、コバヤシは、ニンマリと笑って、呟いた。

 そう。このコバヤシ青年は、実は、ニジュウ面相の変装だったのである!


 事務所を出て、ビルの1階まで来たフミヨは、すぐに、玄関からビルの外へと飛び出した。

 そこには、コバヤシが教えてくれたように、1台の乗用車が、停まって、待ってくれていた。フミヨは、迷わずに、その車の後部座席へと乗り込んだのである。

 車には、運転手しか乗っていなかった。乗客は、フミヨ一人なのである。

「お待たせしました。じゃあ、よろしくお願いします」

 フミヨは丁寧に挨拶したが、運転手は何も喋りはしなかった。代わりに、とっとと車を走らせ出したのである。

 かなり乱暴な運転なのだ。車内で揺れながら、いろいろな事を思い浮かべて、フミヨは、じょじょに不安な気持ちが膨らんでいったのだった。

 ふと、フミヨは、おかしな点に気が付いた。

「あれ?運転手さん。この車は、玉村邸へ行くのと違うのですか?玉村邸はオオモリ区のはずですよ。このままの道を進んだら、違う場所に・・・」フミヨが、心配そうに口にした。

「この道でいいんだよ」と、運転手は、しわがれた声で答えたのだった。

 そして、運転手は、急に車を停めると、ゆっくりと、フミヨの方に振り返ってみせたのである。

 その運転手の顔を見て、フミヨはギョッとした。なぜなら、その顔は、白塗りのピエロだったからである。こないだから何度も目撃した、あの怪しいピエロと同じなのだ。

「なあ、あんた。この世に絶望した人間の気持ちが分かるか?」と、そのピエロはフミヨに話し掛けた。

 フミヨはと言えば、ずっと張り詰めた心理状態が続いていた上に、今のピエロを見たショックがあまりにも強すぎたものだから、うっかりと、そのまま、気を失ってしまったのだった。

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