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無敵探偵活劇 アケチ大戦争  作者: anurito
玉村一族編
74/169

ジゴクの道化師

 いきなり、フミヨの悲鳴が聞こえてきたものだから、コバヤシ青年は、急いで、彼女の部屋へと駆けつけたのだった。ドアを開け、部屋の中に入ってみると、そこでは、フミヨが、ベッドの上に座り込み、震えながら、真っ青になっていた。

「どうしたんですか?」と、コバヤシが聞いた。

「ピエロ・・・ピエロが!」やっとの思いで、フミヨがそう答えた。

 彼女は、窓の外の、隣のビルの窓の一つを指さしていた。その窓は、カーテンがかかっており、半開きになっていたが、すでに、そこには何者の姿もないのである。

「何もいませんよ。見間違いじゃありませんか」と、コバヤシ。

「さっきまで居たのです!あの窓から、私の方を見て、気味悪く笑っていたのです。それだけでは、ありません。たった今、路地を歩いていた時にも、怪しいピエロに出会いました。そのピエロは、私に、脅すような言葉をささやきかけてきたのです」フミヨは、必死に訴えたのだった。

「お父さんの事ばかりを考えていたから、ヘンな幻でも見てしまったのでは?」

「いいえ。確かに、ピエロは本当にいました!」

 フミヨが真剣に言い張るので、コバヤシも、モヤッとした気分になってしまったのだった。

 のちに、余裕ができた時に、コバヤシ青年は、隣のビルにと調査に出向いてみた。すると、フミヨがピエロを目にしたという窓の部屋は、現在、空き部屋になっていたのだった。だとすれば、不審者がこっそりと忍び込んで、ピエロの扮装をして、窓から顔を出すような事も、十分にでき得たかもしれない。

 とにかく、これらのスッキリしない出来事は、コバヤシたちに、何とも言えない、漠然とした不安を抱かせる事になってしまったのだった。


 さて、同じ頃、アケチ探偵はと言えば、ちょうど、玉村邸へとお邪魔していた。

 相変わらず、玉村家の善太郎、一郎、二郎の三人は、この屋敷の中で療養していたのだった。二郎に関して言えば、すでに、だいぶ体力を回復しており、屋敷内を一人で歩き回れるぐらいに、元気になっていた。しかし、善太郎と一郎の方は、外傷こそ無いものの、心に受けた傷が深すぎたものだから、いまだに、ベッドに寝込んだまま、部屋の外へも出てこない有様なのであった。

 ナカムラ警部も、賊の再襲来を懸念して、ずっと、この玉村邸に滞在していた。アケチは、まずは、そのナカムラと話を交わしていたのである。

「本当に面会してみるつもりなのかね?」と、ナカムラ。

「はい。どうしても、善太郎さんから聞かないと、分からない事がありますので」アケチは答えた。

「善太郎氏は、精神的ショックが激しくて、今でも、寝室で休んだまま、立ち上がれないでいる。興奮させるような問答をして、くれぐれも、病状を悪化させるようなマネだけはせんでおくれよ」

「もちろん、十分に承知しています」

 こうして、アケチは、自分の部屋で寝たきりの善太郎と、二人っきりで、会話させてもらえる事になったのだった。善太郎の部屋を訪れ、中に入ってみると、確かに、善太郎はベッドにと寝込んでおり、弱々しい様子で、おとなしくしていたのだった。

「善太郎さん。少し、お話をよろしいですか?」

「ああ。アケチくんかね」

「捜査の裏付けを取る為、どうしても、善太郎さんに確認したい事があるのです。今度こそは、全ての事実を素直に話していただけますか?」

「何を聞きたいのだね?」

「あなたと魔術師の間に、いかなる因縁があったのかは、多数の証言者から話を聞けて、およその事が分かりました。でも、一つだけ、まだ判明しない点もあるのです」

「何かね?」

「それは、21年前の話です。この時も、あなたと魔術師の間では、何か、一悶着があったのでしょう?それがキッカケとなり、あなたは、魔術師がまた襲ってくるのを恐れて、この屋敷を、どんどん、厳重警備の防御システムだらけにしていき、その中で自分たちの身を守ろうとした。そうなのでしょう?」

「まさに、君の想像どおりだ」

「その21年前の魔術師とのトラブルとは、どんなものだったのですか?これは、ただの、あなたと魔術師の間だけの問題じゃない。実は、生まれたばかりの妙子さんとも絡んだ事件だったのでしょう?」

 アケチに、次々に言い当てられてしまうものだから、善太郎も、つい黙り込んでしまったのだった。だが、やがて、善太郎はボソボソと口を開き始めた。

「確かに、あれは、妙子たちにも、とても可哀想な思いをさせてしまった事件じゃった。ほんとに、わしは、あの時、どうかしていたのだと思う。なぜ、あんな事をしてしまったのか、わしは、今では、あらためて、妙子たちに謝りたい気持ちなのだ」

 そう語る善太郎の目には、じんわりと涙が浮かんでいたのだった。

 そして、このあと、善太郎の口から語られたのは、驚くべき真実だったのである。


 暗黒星の仲間が集う謎のプラネタリウム会場では、今宵も、悪の会議が開かれていた。

 今、彼らにとって、一番の重要案件だったのは、玉村家への復讐計画についてであった。肝心の総指揮官である魔術師は、アケチ探偵との闘争に敗れ、行方が分からなくなってしまった。また、これまでの重要な作戦のほとんども、アケチ探偵の活躍により、ほぼ失敗に終わってしまったのである。もはや、この復讐計画そのものが、全て、手詰まりを起こしていたようにも思われたのだった。暗黒星としても、これ以上、この作戦を続行すべきなのかどうか、大事な岐路にと立たされていたのである。

「では、皆さんのご意見の決を採りたいと思います。まだ、玉村家を陥落させる計画を続けたいと考えている方はおりますか?」議長役のニジュウ面相が、皆に尋ねた。

 しかし、賛成に挙手する者は、一人もいなかったのであった。

「どうやら、全員の意見は、玉村家への復讐は中止する方向で一致したようですね」ニジュウ面相は、冷ややかな口調で、最後の決定を言い渡そうとした。

 その時だった。

「待ちたまえ、諸君。途中で、やりかけの仕事を投げ出してしまうなんて、我らの面目にも関わる話だとは思わないかね?」そんな声が、この会場の入り口の方から聞こえてきたのだった。

 ハッとした暗黒星のメンバーは、入り口の方に顔を向けた。

 そこでは、入り口の観音扉が開き、外から眩しい光が入り込んでいた。その逆光を受けながら、魔術師が、颯爽と、中へと入ってきたのである。

 魔術師の姿は、以前と何一つ、変わりはしなかった。あのピエロの顔と扮装のままなのだ。魔術師は、あの海上事故で死ぬどころか、しっかりと逃げており、ピンピンしていたのである。

「お前は、魔術師!死んでなかったのか!」思わず、誰かが怒鳴った。

「そうだ。私は、偉大なマジシャンだ。あの程度の爆発事故なんて、いくらでも偽装できるのだよ」魔術師は、冷ややかに笑ったのだった。「発案者の私が存在する以上、玉村家への復讐計画は、これからも続行させていただく。それで構わないね、諸君?」

「まあ、そのような事でしたら、君の意見をまず尊重するしかないでしょうね」ニジュウ面相が、ひどく柔軟な態度で、魔術師に答えたのであった。

「おっと。私の方から、もう一つ、お知らせがある。新たなメンバーを、この暗黒星に迎え入れたいと思うのだ。どうだね、悪い話ではないだろう?」魔術師は、楽しげに言った。

「どんな奴を、新たに加えるつもりなのだ?」

「さあ、娘よ、入ってきたまえ!」魔術師が叫んだ。

 すると、このアジトの入り口から、またしても、逆光になりながら、一人の人物が、中へと入ってきたのだった。

 その人物の姿が、明確に分かるにつれて、暗黒星のメンバーも呆然とした。

 その新人も、ピエロの格好をしていたからだ。まさに、魔術師と合わせれば、ピエロの親子なのである。もっとも、第二のピエロは、実際に魔術師と対比すると、かなりディテールが異なっていた。その二人めのピエロは、魔術師よりもひと回り小さかったし、体型もホッソリしていたのである。正確には、女性のプロポーションだったのだ。その上で、道化服の柄だって、魔術師がだんだら縞だったのに対し、二人めのピエロは水玉模様なのだった。

「あ!こいつだ!オレのアトリエに押し入ってきて、火をつけやがったのは!」ハッとして、クモ男が叫んだ。

「つまり、クモ男さえも手玉に取るほどのワルだと言う事だ。これは、彼女のほんのデモンストレーションに過ぎない。さあ、諸君、娘の実力を認めて、暗黒星への参加を認めてくれるね?」魔術師が得意げに笑った。

 ここで、魔術師に「娘」と呼ばれた怪人が、ようやく自己紹介したのである。

「あたしの名前は、ジゴク(地獄)の道化師」

 彼女は、若い女の声でそう名乗り、そして、妖しく微笑んだのだった。

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