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無敵探偵活劇 アケチ大戦争  作者: anurito
玉村一族編
72/169

アケチ探偵の危機

 さっきまでグチり続けていたクモ男が、急に、静かになった。しばし、沈黙の時間が続く。

 かと思うと、クモ男は、いきなり、鎧櫃よろいびつの方めがけて、バタバタと走り出したのだった。そして、彼は、ピョンと鎧櫃の真上に飛び乗ってしまったのだ。

「バカめ、コソ泥くん!お前が鎧櫃の中に隠れていた事に、オレが気付いていないとでも思ったのか?ふん。とうにバレバレなんだよ。残念だったね。これで、お前は、完全にオレの手の内だ!」クモ男は、得意げに、大声で言い放ったのだった。

 動揺したのは、鎧櫃の中にいたアケチの方である。とっさに鎧櫃に隠れてみたのはいいが、それが、どうも、逆に自分をピンチに追いやってしまったようなのだ。

 クモ男は、パチンと、鎧櫃のフタの留め金をかけた。これで、鎧櫃のフタは、ガッチリ閉じてしまったのである。内側から押しただけでは、とうてい開ける事はできないのだ。

「おい、コソ泥くん。すっかり捕らわれの身になってしまって、どんな気分だね?これから、ジワジワと痛ぶってやるから、覚悟してるんだね」外から、楽しそうに、クモ男が話し掛けてきた。

 この時、アケチは、自分の正体がまだクモ男にはバレていない事に気が付いたのだった。クモ男は、本当に、ただの空き巣がアトリエに忍び込んだだけだと思っているのだろう。だが、捕まえた相手が、空き巣狙いなどではなく、宿敵のアケチ探偵だったと分かれば、きっと、クモ男の態度は急変するに違いあるまい。こんな弄んだりはせず、すぐ、鎧櫃の中の敵を殺してしまう事であろう。

 ここは、アケチとしても、ぐっと我慢して、正体を見破られないようにしなくてはいけないのだ。

 アケチは、絶対に声を出さないように、息をひそめた。ところが、その息が妙に苦しくなってきたのだった。フタに留め金をかけて、きちんと閉じてしまったせいだ。この鎧櫃の中は密閉してしまったのである。外から新しい空気が入ってきていないのだ。

 となると、この状態が続けば、やがて、アケチは窒息してしまうかもしれない。やはり、どの方向に転んでも、今、アケチは非常に危機的な事態に置かれているようなのであった。

 酸素不足でボッとしてくる意識で、アケチは次の一手を必死に考えた。多分、コゴローになって、このピンチを脱するのが一番なのだろうが、今、ここにコバヤシはいなかったし、福田博士の作ってくれた丸薬もなかった。精神集中して、変身したくても、この現状では、苦しくて、心が乱れすぎている。残るは、極限状態での変身だけなのだが、果たして、本当に死ぬ前に変身が間に合うだろうか?

 鎧櫃の中で、アケチが色々と悩んでいた頃、外では、クモ男が、余裕で、アトリエ内を歩き回って、くつろいでいた。鎧櫃の反応を、遠目で観察しながら、楽しんでいるのである。

 だが、その時だった。

 鎧櫃の中のアケチは、アトリエの入り口のドアが、いきなり、バタンと開いた音を聞いた。クモ男が出ていったのではない。突然、誰かが、このアトリエへと入ってきたらしいのである。

「なんだ、お前は?」と、クモ男の怒鳴る声が聞こえてきた。

 どうやら、クモ男と、新たに訪れた人物は、顔見知りではないようなのである。

「え、え?お前は、魔術師か?いや、違う!魔術師は死んだはずだ。じゃあ、お前は誰なんだ?」クモ男が、かなり狼狽したような事を口走っていた。

 その内容に、アケチも、ひどく興味を抱いたのだった。鎧櫃の外では、何が起きているのだろう?生死不明だった魔術師でも出現したのだろうか?

「え、なに?アケチはどこだって?ふん、そんなの、知らねえよ。それより、お前こそ、よく、オレのアトリエに、恐れも知らずに、堂々と入ってきやがったな。お前のような愚か者は・・・」

 いきなり、殴った音が聞こえてきた。「ぐっ」と言う、クモ男の鈍い悲鳴も聞こえた。クモ男が、相手に、不意をつかれて、攻撃されたらしい。

「お、お前、何をしやがるんだ!」クモ男が叫んだ。

 しかし、そのあとも、相手は攻撃の手を休めなかったらしく、殴られる音が何度も聞こえてきたのだった。うっかり遅れをとったクモ男は、一方的に叩かれているようなのだ。とうとう、暴行を受けすぎたクモ男はぶっ倒れて、ノビてしまったらしく、その声も聞こえなくなってしまったのだった。

 クモ男をやっつけた怪人の方は、ずっと無口で、いっこうに喋ろうとはしない。

 アケチは、この謎の人物に声をかけて、助けてもらおうかと考えたが、ハッと思いとどまった。クモ男と敵対していたからと言って、この人物が、必ずしも自分の味方であるとは限らないのである。

 アケチは、もう少し、様子を伺ってみる事にした。

 すると、しばらくして、バチバチと言う音が聞こえてきたのだった。その音が大きくなり出すと、再び、アトリエの入り口のドアが開く音がした。謎の人物は、さっさと、出ていってしまったのである。

 このバチバチと言う音は何なのであろう?アケチは、嫌な予想がしたのだが、まだ、その推測を、すぐには信じない事にした。

 間もなく、気絶していたクモ男が目覚めたのだった。彼は、ビックリしたような声を出した。

「何だ、これは!あの野郎、火をつけやがったな!」

 アケチの嫌な予感は当たったのである。バチバチとは、火が燃える音だったのだ。謎の人物は、クモ男を失神させた上に、その隙に、アトリエに放火したのであった。

 クモ男がゴホゴホと咳き込んでいる音が聞こえてきた。さては、すでに、火はかなり広がっていたらしい。キャンバスなどの木の素材も多かったから、このアトリエは燃えやすかったのだろう。

「ちくしょう!ちくしょう!」と、クモ男は怒り続けていた。

 その声は、次第に遠くなっていった。彼は、消火活動もせずに、急いで、このアトリエから逃げていったのだ。それほど、火災の方が、もう手に負えないぐらいに激しくなっていたのかもしれない。

 さて、そうなると、この場には、アケチだけが取り残されてしまったのである。しかも、鎧櫃の中に閉じ込められたまま、まるで動けない状態なのだ。このままでは、間違いなく、この火事にと巻き込まれて、彼は焼死してしまう事であろう。

 アケチは動揺した。鎧櫃内の空気不足によって、息苦しさの方も、相当なものなのである。アケチは、気が遠くなり始めた。いよいよ限界なのか、意識を失いかけたのだ。

 その時、彼の体質変換が起きたのだった。肉体に危機が及んだ瞬間、アケチは、本能的に、コゴローにと変わる能力を持っていたのである。もちろん、それは、本当に危険な状態のシグナルでもあったのだが。

「うおおおおっ!」と、コゴローは吠えた。

 彼は、折り曲げていた体をグンと伸ばした。すると、その勢いで、鎧櫃は、たちまち、メキメキと音を立てて、壊れ始めたのだ。コゴローがさらに踏ん張ると、ついには、留め金がひしゃげて、鎧櫃のフタも真上へと押し飛ばされてしまったのだ。

 コゴローは、鎧櫃の中で、すっくと立ち上がった。

 周囲を見回すと、すでに炎と煙だらけなのである。あらためて考えると、鎧櫃の中でコゴローに変身できたのは、彼にとってはラッキーだったのかもしれない。火事の煙を、変身前に吸わずに済んだからである。もし、煙を吸っていたら、コゴローに変わる前に、一酸化中毒でヤラレていたかもしれない。

 とにかく、コゴローは、敏速に、現状を理解したのだった。彼は、すぐに息を止めた。そして、そのまま、体を気張らせると、炎も煙も物ともせずに走り出したのである。

 コゴローのたくましさは、呆れるほどのものだった。彼は、燃えさかる火炎の合間を突っ走り、あっという間に、燃え上がるアトリエの中から、その屋外へと脱出したのだ。

 外には、すでにヤジ馬が集まり始めていた。消防車はまだ来ておらず、消火活動も始まっていなかったようだ。こうしたヤジ馬たちの中に、コゴローは、コバヤシの姿も見つけたのだった。

 火事の建物の中から、いきなり、コゴローが飛び出してきたのを見て、ほとんどのヤジ馬は驚いていたが、コバヤシだけは、喜びの笑顔を浮かべた。

「良かった!先生、助かったんですね!そうか、コゴローさんになるのが、どうにか間に合ったんですね!」と、コバヤシは、泣き声で訴えた。

「バカ。ヨシオ、なんで、オレにすぐに連絡をくれなかったんだよ!」コゴローは、逆に、コバヤシを叱りつけたのだった。

「すみません。でも、ぼくも、先生と別れたあと、急に何者かに襲われて、ずっと気絶していたんです。目が覚めたのは、ほんの少し前でした。気が付くと、もう、そこのアトリエは火に包まれていたんです」

「何だって!」

「一体、アトリエの中では何があったんですか?」

「このアトリエの持ち主は、暗黒星のクモ男だった」

「え!ほんとですか!」

「でも、そのあとの事がよく分かんないんだ。俺は、鎧櫃の中に隠れていたんだが、外では、クモ男以外の人物も入ってきたようだった。そいつがクモ男とケンカをして、あげくに、このアトリエに火をつけたんだ。俺が鎧櫃から脱出する前に、クモ男もその謎の野郎もさっさと逃げ出したようだった」

「謎の人物ですって?内輪揉めじゃなくて?」

「らしいな。クモ男の知らない奴みたいだった」

「じゃあ、暗黒星の一味とは違うのでしょうか。もしかして、第三の敵?新たな凶悪犯罪者の出現とか?」

「分からねえ。何とも言えねえよ」

 コゴローもコバヤシも、心配そうな表情になった。二人は、あらためて、業火に包まれているアトリエの方に目をやったのだった。

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