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無敵探偵活劇 アケチ大戦争  作者: anurito
玉村一族編
71/169

悪魔のアトリエ

 こうして、謎のタレコミ情報をもとに、アケチ探偵とコバヤシ助手の二人は、S町にある問題のアトリエへと出向いてみたのだった。

 この事は、警察やナカムラ警部には、まだ知らせてはいなかった。このタレコミが本物だと言う保証が、いっさい無かったからである。まずは、自分たちだけで調査してみるのだ。

 その謎のアトリエは、S町の一角にある大きな原っぱの、その隅の方にとポツンと建っていた。小さな平屋で、まるで物置小屋のようにも見えるのだ。周囲には、他に建物は何もなかった。

 近所への聞き込みも、手分けをして、迅速に済ませた。それによると、このアトリエは、綿貫創人と名乗る芸術家のものだったらしい。この人物は、全く人付き合いをしていない変わり者だったらしく、その詳しい素性は、聞き込みからは、少しも得る事ができなかったのだった。のみならず、綿貫は、アトリエを離れている事の方が多かったらしく、ほとんどの場合、このアトリエは無人だったらしいのだ。

 でも、その方が好都合だったとも言えた。アケチたちは、この怪しい綿貫なる人物と、じかに面会するよりは、アトリエの中にこっそり忍び込んで、何らかの証拠品を探した方が手っ取り早い、と考えていたからである。

 アケチとコバヤシは、アトリエから100メートルほど離れた位置にまでやって来て、そこにあった茂みの中にと身を潜めた。

「コバヤシくん。君は、ここで待機していてくれ。とりあえず、僕一人で、あのアトリエに潜入してみるよ。聞き込みの話では、クロである可能性がかなり高いと思う。幸い、あのアトリエは、今、家の主が留守みたいだし、忍び込んで、こっそりと証拠品を持ち出すのには、絶好のチャンスだ。でも、いきなり、主人が帰ってこないとも限らないから、君はここで見張っていてほしい。誰かが、あのアトリエに近づいてきたら、無線で僕にすぐに知らせるんだ。いいね?」

「分かりました」

 二人の作戦は、簡単にまとまったのだった。

 そして、アケチは、人目をはばかりながら、そおっとアトリエの方に近づいていったのである。コバヤシは、茂みの中で、師の行動を静かに見守っていたのだった。

 ところがである。突如、コバヤシは、後頭部にものすごい激痛を覚えた。それは、一瞬で気を失ってしまうほどの強烈な衝撃であった。

 誰かが、背後から、コバヤシの頭を鈍器で叩いたのである。アトリエとアケチにばかり、気にとられていたコバヤシは、こんな奇襲者が接近していた事に、まるで気付かなかったのだ。

 哀れにも、コバヤシは、失神して、この場にグッタリと倒れてしまった。コバヤシの頭を殴った謎の人物は、それを見届けて、ニンマリと微笑んだのだった。


 アケチは、コバヤシを襲った災難など露知らず、順調に、アトリエへと近付いていた。原っぱには丈の長い草がいっぱい生えていたので、少し背をかがめて歩けば、周囲には絶妙に姿を隠して、アトリエのそばにまで接近する事ができたのである。

 そうやって、アケチは、とうとう、アトリエの正面にまでたどり着いたのだった。想定はしていたが、アトリエの玄関のドアには、鍵が掛かっていた。しかし、多少のピッキング技術も心得ていたアケチにかかれば、この程度の鍵は無いにも等しいのだ。

 アケチは、たちまち、玄関のドアを開錠して、そのドアをそっと開いたのだった。

 玄関をくぐると、その奥には一部屋しかなくて、いきなり、アトリエになっていた。ムッと、異様で臭い空気が、続けざま、アケチの体を包み込んだのだ。アケチは、不快そうな表情になったのだった。

 なんて事だ。ここは、通常の芸術家のアトリエの雰囲気ではないのである。普通のアトリエでは、こんな匂いも漂ってないだろう。この匂いは、おそらく、血だ。アケチは、そのような感想を抱いたのだった。さては、ビンゴだったらしく、この部屋では、屠殺場のように、動物の血や肉片などが扱われていたみたいなのである。

 アケチは、さらにアトリエの奥にまで踏み込んでみて、周囲を見渡してみた。

 作りかけの石膏像やら描きかけのキャンバス、さらには、それらを作る為の道具などが、あちこちに散乱しているのである。多種多様な作品がいくつも置かれていて、一目みただけでは、何が専門の芸術家なのかすらも、分からないのだ。アトリエのはじの方には、大きな鎧櫃よろいびつがあって、その中に入っていたのであろう武士のヨロイまでもが壁に飾られていた。

 ああ。あの真っ赤な絵は、もしかすると、本物の血を絵の具にして、それで描かれていたのではなかろうか。さらには、あの石膏用のノミは、石膏以外のものも削った事があるのかもしれない。そして、何よりも、もし、この場所で、あの人間の肉体入りの石膏像が作られたのだとしたら?

 そんな事を考えながら、アケチは、より丹念に、このアトリエ内を観察してみたのだった。そして、彼はハッとさせられたのである。

 アトリエの一角にあったテーブルの上にも、一つの石膏像が置かれていたのだ。それは、女性の首像だった。まるで、生首みたいに見えてしまう、実物大サイズの首像が、テーブルの上にポンと乗っかっていたのである。

 アケチは、つい、その首像をジッと見つめてしまった。

 妙子のものと思われるバラバラ死体のうち、頭の部分はまだ発見されてはいないのだ。胴体部が石膏づめにされていたのであれば、ひょっとすると、頭も石膏像にされた可能性はかなり高いのではなかろうか。例えば、今、目にしている、この首像とか!

 そんな風に思って眺めていると、この首像の顔が、何となく、妙子の顔のようにも見えてきたのである。いや、ずっと観察しているうちに、この首像は、妙子よりも、別の女性の顔に似ている感じもしてきたのだった。

 アケチは、恐る恐る、テーブルの方に近づき、その首像に触ってみようとした。

 しかし、それまでだった。玄関の方から、突然、ガサガサと音が聞こえてきたのだ。何だか、人がやって来た物音らしかった。つまり、このアトリエの主人か誰かが、まずいタイミングで、ここに来てしまったらしいのだ。

 全く、見張り番のコバヤシは、何をしていたのだろうか。実に、コバヤシとは思えぬ凡ミスなのである。

 アケチは、顔をしかめた。だが、今は、ひとまず、余計な事を考えている暇はなさそうなのだ。

 このアトリエ内への入り口が正面玄関だけである以上、まっすぐ外へ逃げ出すのは不可能なので、まずは、急いで、どこかに隠れるべきである。ここから完全に脱出するのは、その後で考えよう。

 アケチは、キョロキョロと、四方を眺めた。真っ先に、あの鎧櫃が目についたのは、言うまでもないのであった。

 彼は、素早く、鎧櫃のそばに走り寄った。鎧櫃のフタは簡単に開いた。ありがたい事に、中は空っぽなのだった。アケチは、躊躇せずに、鎧櫃の中へ潜り込んだ。そして、上からフタをかぶせたのである。

 大きな鎧櫃だったとは言っても、大の男が一人、隠れるのには、けっこう狭かった。アケチは、体を折り曲げて、身動きもできない窮屈な状態で、何とか、鎧櫃の内側にと身をおさめたのだ。

 一方で、外からやって来た人物は、ついに、玄関のドアの前にまで到着したのだった。

「おい、何だ、これは?鍵が開いてやがるぞ」と、そいつは怒鳴った。野太い男の声である。恐らくは、このアトリエの持ち主である綿貫創人じゃないかと思われた。

 さあ。アケチとしては、もし、ここで綿貫に見つかりでもしたら、不法侵入で訴えられてしまうのである。いや、鍵が開いている事に気付かれた時点で、すでに、不法侵入はバレてしまったのだ。

「ちくしょう!誰だよ!また、オレの秘密のアジトに忍び込みやがって!今度も、何かを盗んでいったんじゃないだろうな?そうだとしたら、逃がさないぞ!」綿貫と思われる人物が、忌々しげに、ののしった。

 これを聞いて、鎧櫃の中のアケチも、ちょっとヘンに感じたのだった。綿貫は、何を言っているのであろうか?何かを盗まれたとは?もしかして、あの胴体の石膏像の事を言っているのか?ならば、トヨシマ区の踏切に、あの石膏像を捨てていった人物とは、この綿貫ではなかったのだろうか?

「おのれ、許さんぞ!犯人め、どうやら、このオレの正体が、恐ろしい、あのクモ男だと知らなかったようだな。ふん、バカなコソ泥野郎め!見つけたら、必ず、ぶっ殺してやるからな!」

 綿貫が、そんな事もわめいていたものだから、アケチはギョッとしたのであった。

 やはり、そうだったのだ。アケチも、薄々とは感じていたのである。こんな血なまぐさいアトリエを使っているような芸術家なんて、しょせんは、殺人狂のクモ男ぐらいのものじゃないか、と。そう、ここは、もっともクモ男に相応しい、血にまみれたアトリエだったのである。

 とは言え、不審点でも見つけられて、通報されない限り、このアトリエが家宅捜索される恐れもなかった訳で、クモ男は、このアトリエを拠点にして、今まで、さんざん、非情な犯罪行為を繰り返していたのかもしれない。

 いやはや、アケチは、とんでもない場所に、うかつにも忍び込んでしまったようなのであった。

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