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無敵探偵活劇 アケチ大戦争  作者: anurito
玉村一族編
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フミヨの告白

「私の名前は、奥村フミヨと言います。父の名前は、奥村源造。父は、巷では『魔術師』の名で知られている、強盗団の首領です」フミヨが、穏やかに喋り始めた。

 その話を聞いて、アケチ探偵やナカムラ警部たちは、神妙な表情で、顔を見合わせたのだった。

「二郎くんが聞いた話でも、魔術師は、自分の事を奥村源造だと名乗っていたよな?」

「どうやら、デタラメではなさそうですね」

「しかし、だとすれば、源造氏は、本当に生きていた事になるのか?」

「フミヨさん。そのへんは、お父さんは、どう話していましたか?」アケチは、フミヨに尋ねた。

「私は、物心がついた頃から、父と一緒に暮らしていました。二人っきりの親子でした。私は、ただ、父から、玉村家への憎悪と復讐の事ばかりを聞かされて、育ったのです」

「君のお母さんは誰なんだい?」

「分かりません。私は、母のことは、何一つ知らずに、生きてきたのです。父も、何も教えてはくれませんでした。もしかすると、私は、父が商売女に産ませた娘だったのかもしれません」

「でも、それだと、戸籍はどうしたのかね?」と、ナカムラ。

「私に、本物の戸籍はありません。私は、父が乗り回す船の中で育てられたのです。たまに陸に上がって、身分証明が必要な時は、偽の素性があてがわれました。私は、実際には、この世に存在していない人間なのです」

「事故で死んだ事になっていた源造氏も、きっと、戸籍は無かったのだろう。どちらも戸籍を持たない幽霊親子だった訳か」ナカムラは呟いた。

「なぜ、あなたは、そんなに玉村家の妙子さんに似ているのですか?」今度は、アケチが尋ねた。

「それも、父の奇妙な育児方針です。父は、時たま、妙子さんの情報を手に入れてきて、私に手渡しました。妙子さんの姿を隠し撮りしたビデオや盗んできた身体検査の結果などを、私に与えたのです。そして、これらの内容に、私自身を似せるようにと、私に命じたのです。私は、それに従うしかありませんでした。私は、小さな頃から、妙子さんと同じ姿になるように、強制的に育てられてきたのです」

 フミヨの話には、アケチもナカムラも、ひたすら、驚くばかりなのであった。

「お父さんは、なぜ、そのような事を、あなたに強いたのだと思いますか?」

「将来的に、私と妙子さんを密かにすり替えてしまおうと考えていたみたいです。そうやって、私に玉村家を乗っ取らせる事こそが、父が最初に思い浮かべていた復讐計画だったらしいのです。結局、途中で、事情が変わってしまったみたいなのですが」

「なるほどね。そういう事だったのか」と、ナカムラ。

「事情が変わった、と言うのは?」アケチが尋ねた。

「父は、船を乗り回して、違法な仕事などを引き受けて、生計を立てていくうちに、自身も、より悪にと染まっていったのです。貯蓄も溜まりましたし、信頼できる部下も増えました。そうなる事で、とうとう、父は、自分がかつて保有していた宝石類を、力づくで奪い出すような事をやり始めたのです」

「それが、強盗組織・魔術団の登場だった訳か」

「私は、この頃から、父のやる事にはついて行けなくなっていました。しかし、父の暴走は、暗黒星と名乗る連中と手を結んだ事で、ますます、悪化してしまったのです」

「暗黒星か。ニジュウ面相やクモ男たちの事ですね?」

「その辺は、よく分かりません。私は、暗黒星の集会場所には、一度も連れていってもらえませんでしたので。しかし、暗黒星は、父の復讐計画に全面的に協力する事を約束したらしいのです。それからです。父は、本格的に玉村家への直接攻撃を始めて、私の役割も大きく変わってしまったのです」

 皆は、がく然として、フミヨの話に耳を傾け続けていた。彼女の話は、全て、事実と一致しているのである。

「父は、暗黒星の助けで、玉村家の屋敷の設計図を手に入れました。この屋敷の中には、抜け道や隠し部屋などの仕掛けが沢山あった事を知って、父は大喜びしていました。手品師としての顔も持っていた父にしてみれば、この屋敷は、最高のマジックの舞台にも見えたのでしょう。私も、当然、そのマジックの種の一つに使われました」

「妙子さんの替え玉役ですね」

「はい。私は、たびたび、妙子さんのフリをして、屋敷の中に忍び込む事を命じられたのです。主に、玉村家への嫌がらせのサポートをやらされました。抜け道にあった顔認証システムも、妙子さんと鏡写しの私だったら、問題なくクリアできましたので、他の仲間を屋敷の中に入れる時なども、私が彼らの手引きをしたのです」

「本物の妙子さんも、よく、あの抜け道を利用していたみたいですね」

「そうです。妙子さんがコッソリと抜け道から出ていった時に、代わりに、私が屋敷の中に入れば、まず、私がニセモノだとバレる事はありませんでした。最初は、それでも良かったのです。でも、父の復讐行為は、次第にエスカレートしていきました。ついには、玉村家の人間を本気で殺そうとし始めたのです。さすがに、そうなると、私も、おとなしく、父には従えなくなってしまったのです」

「だけど、逆らう事を、お父さんは許してくれなかったでしょう?」

「はい。私は、これ以上の復讐はヤメるように、父に何度もお願いしましたが、父は聞き入れてくれませんでした。父が、玉村家のご主人によって、どれだけヒドい目に合わされたかは、私だって、よおく分かっています。しかし、それでも、私には、相手を殺すほどの復讐は認める事ができなかったのです」

 フミヨは、いつしか、涙を浮かべながら、喋っていた。その事からも、この子が、本当はネが善良である事が理解できたのだった。

「それで、君は、どうしたんだい?」

「抜け道の秘密が玉村家の側にもバレてからは、私は、完全に、父の復讐計画からは距離を置いていました。それなのに、父ときたら、今度は、あろう事か、アケチ先生を自分の船に拉致誘拐してきたのです。私は、これ以上、父に罪を犯させてはいけないと思いました。それで、なんとか、アケチ先生を逃がしてやろうと奮闘したのです」

「あの時は、ほんとにお世話になったよ。君がいなければ、僕は本当に死んでいたかもしれない。でも、僕の味方をした事で、君もヒドい目にあわされなかったのかい?」と、アケチ。

「もう一度、父の復讐の手助けをするように強要されました。それが、妙子さんの誘拐計画だったのです。私は、たとえ、妙子さんを誘拐したとしても、絶対に殺さないようにと、父に懸命にお願いしました。父は、それを約束してくれました。だから、いけない事だとは知りつつも、私は、もう一度、父の悪事に手を貸したのです。それなのに、まさか、あんな事になるだなんて!」

「あの後、妙子嬢に何が起きたのか、君も知ってるんだね?」

 フミヨは、辛そうに頷いた。

「私は、父の計略で、父とともに、妙子さんへの誕生日プレゼントの中に隠れて、妙子さんの部屋の中にまで忍び込みました。そして、私は、妙子さんと入れ替わったのです。父は強力な催眠術を使えます。その力で、妙子さんを眠らせると、彼女を古いグランドピアノの中に隠してしまったのです。その翌日、この古いピアノは運送業者が屋敷の外へと運び出してしまいました。この運送業者と言うのも、実は、父の部下たちが化けたものでした。このピアノを持ち去る際、父も、搬送員の一人に化けて、一緒に、屋敷からは逃げてしまったのです」

「ああ、そうだったのか!ピアノの搬送員は、屋敷に入る時は、厳重に身元チェックを行なったが、出て行く時は全くのノーマークだった。よもや、帰って行く人数だけが増えたりするとは思わなかったからな」ナカムラが、悔しげに唸った。

「こうして、私一人が、妙子さんの替え玉となって、屋敷の中に残りました。ニセモノである事を、なんとかバレないようにして、次の日の20日に、私は最後のトリックを実行に移しました。妙子さんの部屋で、ちょっとした騒動を起こして、警備の目がそちらに釘付けになっているうちに、私だけが逃げてしまったのです。逃げ場所は、まだ皆には知られていなかった屋敷内の地下シェルターです。これで、玉村家の人たちには、まるで、20日に妙子さんが誘拐されてしまったように思わせる事に成功したのです」

「魔術師が、君の想像していた以上の犯罪を犯していると知ったのは、いつ頃だい?」と、アケチ。

「シェルターに隠れていたら、外から、騒いでいる声が次々に聞こえてきたのです。それが『トーキョーのあちこちからバラバラ死体が発見された』と言うニュースなのでした。私はゾッとしました。私が誘拐の手助けなどをしたから、こんな事になってしまったのです。これがキッカケで、私は、これ以上は父とは居られない、と思いました。父からは『数日後に迎えに行く』と言う指示はもらっていたのですが、とても従う気にはなれませんでした。だから、私は、待ち合わせ場所だったシェルターからは抜け出して、その後は、ずっと、あの新しいピアノの中に身を潜めていたのです」

 以上が、フミヨによる、恐るべき内容の自供の全てなのであった。

 あまりの話に、アケチたちも呆然としてしまったのである。

「あのう、アケチさん。父とは会えたのでしょうか。父を無事に逮捕する事はできましたか?」フミヨが、すがるような態度で、アケチに尋ねた。

「うん。確かに、君のお父さんとは会ってきたよ」

「それで?」

「フミヨくん。君の父の一味は、逮捕する際に、激しく抵抗してね。それでも、君の父の部下については、あらかた捕らえる事ができたよ。ただし、君の父だけは、さらに逆らって、船で一人で逃げようとしたのだが、その船が大きな事故を起こしてしまった。船が暗礁にぶつかって、爆発を起こしたんだ。かなりの惨状だった。船の残骸からは、君の父の姿はまだ見つかっておらず、その安否に関しては、今も捜索中だ」アケチが話しづらそうなので、ナカムラが、代わりに告げたのだった。

 それを聞くと、フミヨはショックを受けた表情になり、目を潤ませていた。いくら、極悪犯罪者とは言え、フミヨにとっては、魔術師はたった一人の肉親だったのである。

「そうだったのですか。でも、それが因果応報さだめだったのかもしれませんね。仕方ありません。きっと、それで良かったんです。ええ、父が、たとえ、すでに亡くなっていようと、あとは、私が、父の分も、一生懸命に罪を償いますわ。そして、それが済んだ後は、私も、哀れなお父さまの事を、決して一人っきりにはしません」フミヨは、涙を流しながら、そんな健気な事を口にしたのであった。

 かくて、フミヨへの大まかな事情聴取は、ひとまず終わったのである。

「警部。他にも、お訊きしたい事はありますか」と、アケチがナカムラに尋ねてみた。

 ナカムラは、怪訝げに、フミヨのことを、じっと見つめている。ふと、彼は、ハッとしたように、フミヨのそばに詰め寄ったのだった。

「そうだ!やっぱり、おかしい。君の説明は、事実に一致しとらんよ。20日には、妙子嬢がすり替わっていたなんて、あり得ん話なのだ。君、ちょっと指紋を見せてくれたまえ!」

 ナカムラは、おののくフミヨの左腕を力いっぱいに掴むと、その手の指を強引に開かせたのだった。そして、人さし指の指紋を確認すると、彼は、思わず歓喜したのである。

「ほら、見たまえ!やっぱり、そうじゃないか!この子は、三重渦状紋だ。これは、妙子嬢だけが持っている特殊な指紋だぞ。わしはな、20日だって、妙子嬢の指紋を調べさせてもらったんだ。その時も、三重渦状紋をはっきりと確認した。つまり、20日に、彼女の部屋の中にいた女性も妙子嬢だったし、この子だって、正体は妙子嬢ご本人だったんだよ!」

「あのう。確かに、変わった指紋かもしれませんが、これは生まれつきなんです」フミヨは、オロオロしながら、弁解した。

「まさか!妙子嬢の替え玉として育てられた娘が、三重渦状紋まで持っていただなんて、そこまで出来すぎた偶然があるものか」と、ナカムラも一歩も譲らないのであった。

「警部。気の毒ですが、間違っているのは、やはり、警部の方ですよ。この子は、本当に妙子さんの影武者で、しかも、三重渦状紋の持ち主だったんです。三重渦状紋なんて、まず他にはない形状の指紋だったので、この指紋というだけで、同一人物だと錯覚してしまったのです。妙子さんの指紋は、警察本部の方に登録されているはずです。この子の三重渦状紋と照合してみたら良いでしょう。同じ指紋は、この世に二つは存在しません。二人の三重渦状紋は、全体が酷似しているだけで、実は全くの別物である事が、科学的に立証できるはずでしょう」

 アケチにビシリと言われて、ナカムラは口を閉じたのだった。代わりに、ナカムラは、アケチを引っ張って、フミヨから離れた場所にまで移動すると、ヒソヒソと、アケチにささやいたのであった。

「わしには、もう、何が何だか、さっぱり分からんよ。そもそも、三重渦状紋のような珍しい指紋が、二つも存在するものなのかね?ましてや、替え玉になった娘が、その三重渦状紋を持っていただなんて、まさに奇跡の一致と言ってもいい。わしは、まだ、魔術師の手品で、からかわれているような気分だよ」

「実は、この三重渦状紋の謎については、ある可能性が真実であれば、決して、あり得ない話ではないのですが、それを確定するには、まずは、その可能性についてのウラを取らなくてはいけません。もう少し、僕に、調査の時間をいただけないでしょうか」アケチも、ささやくように告げた。

「分かった。で、この子については、今後、どうしたらいいのかね?わしの方で、拘留しておくかね?」

「自供はしましたが、まず、その信ぴょう性を精査する必要があります。また、重要な事件の主犯ではなく、あくまで、軽い犯罪幇助のレベルの罪ですので、すぐに送検するのも難しいかもしれません。やはり、現段階では、重要参考人扱いにして、どこかで匿っているのが、無難かもしれませんね」

 アケチもナカムラも、フミヨの取り扱いに関しては、いささか頭を悩ませていたようなのであった。

 しかし、彼らが、このように、現状の問題でだけでも、ごたついていた最中にも、すでに、新たな事件は起き始めていたのである。

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