表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
無敵探偵活劇 アケチ大戦争  作者: anurito
玉村一族編
68/169

もう一人の妙子

 フミヨのいる部屋へ行く為に、アケチ探偵が、玉村邸の長い廊下を歩いていると、それを出迎えるように、すぐにナカムラ警部が走り寄ってきた。

「アケチくん。これから、フミヨさんの事情聴取を始めるのかね?それが、大変なのだよ」と、ナカムラは、うろたえながら、アケチに話し掛けた。

「おや。その驚きようは、さては、警部も、フミヨさんの例の秘密に気が付きましたね」

「あれ。君は、もう知っておったのかね?」

「ええ。あの子とは、魔術師の船の中にいた時からの付き合いですし」

「じゃあ、あれは、一体、どういう仕掛けなのかね?」

「それを、これから、本人の口から説明してもらうつもりなのです。それより、魔術師のその後はどうなりましたか?事故現場から、奴の死体は見つかりましたか?」

「いいや。水上警察がずっと捜索はしているが、いまだ死体は発見されておらん。なにせ、あれほどの火災事故だったからな。死体が粉みじんになってしまったり、何もかも焼け尽きていたとしても、決して不思議な話ではないだろう。それとも、君は、まだ、魔術師が生きている可能性を疑っているのかね?」

「はい。何しろ、相手は手品師ですからね。脱出の魔術だって、お手の物だったはずでしょう。あの大爆発を回避する事だって、十分にできたような気がします。それに・・・」

「それに?」

「あいつの最後の遺言も気になるのです。あいつは『自分が死んでも、玉村家への復讐は続く』と言っていました。これは、どういう意味なのでしょう?単に、自分はまだ死にはしない、と言うアピールだったのでしょうか。それとも、もっと恐ろしい計略でも、すでに進んでいたのか?僕には、船の爆発事故の直後に見た光景についても、なかなか衝撃的で忘れられないのです」

 アケチが見た光景とは、次のようなものだった。

 魔術師の乗った船が暗礁に衝突して、大爆発を起こした直後、その暗礁の周辺の海面が、突如、不気味に淀んだのである。暗礁を中心にして、なにやら、黒い糸のようなものが、無数に、その四方へと広がっていったのだ。その糸みたいな物体の正体は、蛇であった。どうやら、この暗礁には、そのような蛇が大量に住みついていたらしいのである。暗礁が火災となって、そこに住んでいられなくなったものだから、蛇たちは、慌てて、暗礁の外へと泳ぎ逃げた結果、このような奇妙な光景が実現したようなのであった。

「もちろん、偶然、そのような状態になっただけなのかもしれませんが、でも、一方で、僕には、この逃げ出した蛇たちが、まるで、魔術師の異常な怨念が、一面に散っていったようにも感じられて、少しゾッとしてしまったのです」アケチ探偵は、そのように回顧するのだった。

「そう言えば、これは、君を安心させる材料になるかもしれないのだが」と、ナカムラ警部が喋り出した。「昨晩、暗闇の中を、水上警察の目を盗むようにして、あの事故現場に近づいていた謎のモーターボートがあったそうだ。目撃者によれば、そのボートには、ノッポの男と子供らしき人影、それに、大きなケダモノが乗っていたらしい」

「え?そいつらって」

「そう。人間ヒョウと一寸法師、それに、人間ヒョウのペットの豹じゃないかと思う。つまり、暗黒星の奴らも、あの後の魔術師の生死の確認が取れておらず、事故現場まで様子を探りに来たのかもしれない。これって、魔術師のやつが、確かに死んでしまった事の証拠の一つになるんじゃないのかな」

「それに越した事はないのですが」

 アケチとナカムラが、そんな会話を交わしながら、廊下を歩き続けていると、その目の前には、二郎が現われたのだった。

 玉村家の次男の二郎である。魔術師の罠から救出された玉村親子は、この玉村邸内で治療を受けていたのだが、特に肉体も気力も強かった二郎は、早くも、起き上がれるまでに回復していたらしいのだ。

 もっとも、アケチたちの前に立ち塞がった二郎は、険しい表情で、アケチの方を睨んでいた。どうも、助けてもらった人間のようなムードではないのである。

「アケチさん!」と、二郎は、強い口調で、アケチに呼び掛けてきた。

「おや、二郎さんですね。良かった。もう元気になられたんですね」アケチは、親しげに返した。

「あの賊の恐ろしい罠から、俺たちを救ってくれたのは、アケチさんなんだってね。その事については、素直に礼を言うよ。でも、だとしても、俺は、アケチさんのことが許せないよ」二郎は、きつい態度で言うのであった。

「え?何の事です?」と、アケチ。

「アケチさんは、確か、前に、うちの玉村家の家族のことは、賊なんかには誰も殺させない、と言ってくれたじゃないか。それなのに、何だよ!アケチさんが居ない間に、俺の妹は、妙子ちゃんは、賊の手で、ものすごく残酷な殺され方をしちゃったんだぞ!なぜ、妹を守ってくれなかったんだよ。絶対に許せないよ。約束を守れ!依頼者一人、助けられないような探偵なんて、さっさと探偵業をヤメちまえ!」

「おいおい、二郎くん。それはムチャな言い掛かりだよ。アケチくんだって、この一週間ほどは、賊に拉致されて、大変な思いをしていたのだ。そのへんを少し察してやりたまえ」そう言って、先に、アケチを庇ってくれたのは、ナカムラ警部なのであった。

「ちょっと待ってください、二郎さん。なるほど、僕が敵に捕まっていた間に、こちらでも、いろいろと起きていたみたいですね。でもね、およその事情は伺いましたが、僕には、まだ、妙子さんが本当に死んでしまったとは信じられないのです」

 アケチがそんな事を口にしたものだから、ナカムラも、キョトンとしたのだった。

「アケチくん。君も、一体、何を言っておるのかね?現に、妙子嬢の屍体の断片と思われるものは見つかっておるのだよ。あ、もしかすると、アケチくん、君は・・・」と、ナカムラは途中で口ごもったのだった。

「ナカムラさん!何か、知ってるんですか?」二郎が、ナカムラの戸惑いに、あざとく、気が付いた。

 アケチもナカムラも、ちょっと躊躇しているような雰囲気なのだ。

「とにかく、二郎さん。この件については、後にしてもらえますか。あるいは、のちに、意外な良い知らせを伝えられるかもしれません」

 アケチはそう言って、二郎を振り切ろうとしたのだが、納得のいかない二郎は了解してくれなかったのだった。アケチとナカムラは、先を急ごうとしたが、その後ろを二郎も強引について来るのである。

 とうとう、三人は、フミヨが待っている部屋の前にまで到着してしまった。

「二郎くん。わしらは、これから、重要参考人の事情聴取を行なうのだ。悪いが、ここで引き取ってくれないかな」

 ナカムラが、そのように二郎にお願いしても、二郎はなかなか聞き入れようとしないのだった。

「仕方ありませんね。二郎さんにも立ち会わせてあげましょうか」アケチが言った。

 アケチが許可するのであれば、ナカムラも、やむなく、従うしかないのである。

 こうして、三人は、目の前の部屋のドアを開いたのだ。

 その部屋はこじんまりとしていて、実際の警察の取り調べ室のように、セッティングされていた。中央には、質素な机が置かれていて、その奥の方に、フミヨが、おとなしく座っているのである。

 だが、そのフミヨの顔を一目見るなり、二郎の形相が変わったのだった。

「妙子!妙子ちゃんじゃないか!」

 二郎は叫んだ。そして、バッと走り出して、フミヨのそばにまで詰め寄ったのである。

 二郎のこのような態度に、フミヨの方は、すっかり怯えていたようだった。

 そうなのだ。今のフミヨは、前髪を左右にかき分けて、素顔を完全に晒していたのである。その顔は、まさしく、妙子にしか見えなかったのだ。

「二郎くん、君にも、そう思えるかね。そうなのだよ。この人はね、この屋敷の中で発見されたのだが、妙子さんにしか見えないのだよ」ナカムラ警部も、呆れるように、そう話したのだった。

 二郎は、なおも、うろたえるフミヨの顔を観察し続けていた。

「二郎さん。それに、警部。残念ながら、この人は妙子さんではありません。それは、この人の話を詳しく聞けば、きっと、ハッキリするでしょう」アケチだけが、冷静に、そう語ったのだった。

 二郎は、まだ、フミヨの顔を眺め続けていた。しかし、やがて、彼にも、この女性が妙子ではない事が分かったのであった。さすがは、長年、一緒に暮らしてきた兄妹なのだ。わずかな雰囲気の違いから、この子と妙子が別人である事を悟ったようなのである。

「アケチさんの言う通りみたいだ。この子は、妙子ちゃんじゃないよ」二郎は、ガッカリとうなだれながら、フミヨの前から身を引いたのだった。

「二人とも、待ってくれたまえ。なぜ、君たちには、この子が妙子さんじゃないと言い切れるんだね?だって、この子は妙子さんにしか見えないじゃないか!仮に、この子自身が、自分は妙子さんじゃないと言っておっても、例えば、賊の奴らに催眠術でもかけられて、自分が妙子さん以外の人間だと思い込まされているだけの可能性だって、あるだろう?」と、今度は、ナカムラ警部が、強く、言い張り始めたのであった。

「いいえ。この子は、やっぱり、妙子さんじゃないんですよ」微笑みながら、アケチは告げた。

 その時、コバヤシ青年も、この部屋へと入ってきたのだった。彼は、一匹の小さな犬を抱えていた。以前にも、妙子の追跡の際に大活躍した探偵犬のシャーロックなのである。

「おお!コバヤシくん、ちょうど良いところに来てくれた」と、アケチは言った。「では、この子が妙子さんじゃない事を証明いたしましょう。コバヤシくん、シャーロックをフミヨさんに近付けてくれないかい」

 アケチに命じられて、コバヤシは言われた通りにした。つまり、手に抱いたシャーロックを、フミヨの方に寄せてみたのである。でも、シャーロックは何の反応も示さなかった。黙って、フミヨの方を見つめているだけなのだ。

「この犬は探偵犬です。実は、この犬には、事前に、妙子さんの臭いを嗅がせてあったのです。だから、もし、この女の人が妙子さんでしたら、同じ臭いがするはずなので、激しく吠えたはずでしょう。ところが、今、この犬は全くの無反応です。それは、この人の体からは、妙子さんの臭いがまるで感知できなかったからなのです。人間の目は騙されても、犬の嗅覚までは誤魔化せません。よって、この人は妙子さんとは別人なのです」アケチは、明朗に説明してみせたのだった。

 と言っても、このように立証してみせても、ナカムラや二郎は、まだ、腑に落ちないような表情を浮かべているのである。そもそも、妙子そっくりの女性が他にいると言う現実が、あまりにも奇怪すぎるのだ。

「まあ、すぐに納得できない気持ちは分かります。だからこそ、この人自身に、なぜ、妙子さんにそっくりなのか、その理由を語ってもらおうじゃありませんか」アケチは言った。彼は、フミヨの方へと顔を向けた。「よろしいですね。全て、自供してくれますね、フミヨさん」

「はい」と、フミヨは、従順に、小さく答えたのだった。

 かくて、ようやく、フミヨの事情聴取が始まる事になったのである。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ