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無敵探偵活劇 アケチ大戦争  作者: anurito
玉村一族編
67/169

魔術師の娘

「賊の侵入ルートについては、大体は分かったよ。だが、それよりも、もっと知りたいのは、妙子嬢がどのような方法で屋敷の外へと連れ出されたかだ。アケチくん、それについても、解明できているのかね?」ナカムラはアケチに尋ねた。

「まあ。およそは見当がついています」と、アケチ。

「では、それを教えてくれないかな」

「先ほど、屋敷を捜索中の警官からも色々と話を伺いましたが、この妙子さんの部屋では、事件が起きた前の日、つまり、19日に、大掛かりなピアノの交換作業を行なったそうですね」

「うむ。善太郎氏のたっての希望だったからな。決して賊が紛れ込んだりはしないように、厳重な警戒のもとに、決行させてもらった。実際に、不審な事は何も起きはしなかった」

「でも、もし、20日の前に妙子さんが屋敷の外に出たとすれば、この作業の時以外は考えられないのです」

「だって、作業中は、妙子嬢は、ずっと、この部屋の寝室で控えておったぞ。彼女は、たまに顔も見せたので、それは間違いのない話だ。なのに、この作業の最中に賊に拉致されただなんて!」ナカムラがうろたえた。

「落ち着いてください、警部」と、ナカムラをなだめたのは、コバヤシ青年だった。「先生は、先ほど、妙子さんは替え玉とすり替わっていた、とおっしゃったでしょう?このピアノの交換作業の時には、すでに、妙子さんは偽物だったとは考えられませんか」

「ああ、そう言えば!妙子嬢は、確か、この日あたりから、体調不良を訴えて、部屋の中に篭りっきりでいたのだった」ナカムラも、思い出して、そう口にした。

「まさに、それが確たる証拠ですよ!妙子さんそっくりに化けていたとしても、しょせんは偽物です。他の家族と一緒に長い時間を過ごす事で、ボロが出てしまうのを恐れたからこそ、その妙子さんは、仮病を使って、部屋の中に一人でずっと閉じ篭っていたのです」アケチが、楽しげに、断言した。

「では、ピアノの交換作業をしていた頃には、本物の妙子嬢は、すでに、賊の手に落ちて、捕まっていたのかね?」

「そうです。本物の妙子さんは、このピアノ交換を利用して、屋敷の外へ連れ出されたのです」

「だがな、アケチくん。この時、屋敷の外へと持ち出されたものと言ったら、この部屋にあった古いピアノだけじゃよ?」

「はい、そうです。警部も十分に分かってるじゃありませんか」

 アケチは、ニコニコしながら、言葉を返したのだった。よく見ると、コバヤシも、余裕の笑顔なのである。どうやら、この二人には、どちらにも、すでに謎が解けているらしいのだ。

「え。ちょっと、君たち。では、妙子嬢は、ピアノの中に閉じ込められて、外に運ばれたと言うのかね?いや、まさか。そんな事が・・・」ナカムラはうろたえた。

 アケチは、微笑みながら、この部屋にある新品のグランドピアノのそばに歩み寄った。

「ピアノの内側と言うのはね、皆が思っている以上に、隙間だらけなのですよ。特に、このピアノの屋根の真下とかはね」

 そう言いながら、アケチは、屋根がしまった状態のグランドピアノに寄りかかった。それから、鍵盤蓋を開いて、鍵盤を露出させたのである。

「以前までこの部屋に置いてあったピアノが、急に壊れてしまい、いくつかのキーが響かなくなってしまったと言うのは、僕も、妙子さんから聞いて、知っていました。あるいは、ピアノが壊れた事自体が、賊のスパイによる事前工作だったのかも知れません。音の鳴らないピアノでしたら、もう誰も弾かないし、屋根を開ける事も無いでしょう。ピアノの内側は、まさに、絶好の、人間の潜伏場所になった訳です。しかも、この玉村家にあるピアノは、最大サイズのものですから、その点でも、物を隠す入れ物としては申し分ありません」

 アケチは、楽しそうに、指を広げて、両手を前に伸ばした。唐突ながらも、ここで、ピアノを弾いてみせるつもりなのである。

「妙子さんは、賊の手によって、ピアノの中に閉じ込められました。おそらくは、麻酔でも嗅がされて、眠らされていたのでしょう。そのピアノは、誰にも悟られる事もなく、ピアノの搬送員によって、屋敷の外へと運び出されてしまったのです!」

 そして、アケチは、さっそうと、鍵盤の上に、自身の10本の指を押し付けてみせたのだった。

 ところが、華やかなピアノの音は聞こえなかった。代わりに、なんとも鈍い、押し潰したような音が鳴り響いたのである。

「え。どう言う事かね?これは新品のピアノだ。妙子嬢が押し込まれていたのは、持ち去られた古い方のピアノだったのでは?」ナカムラはキョトンとした。

 のみならず、さっきまで笑顔だったコバヤシも、呆気にとられていたのだった。彼にも、これは、予想外の展開だったらしい。なおも、涼しげに笑っているのはアケチ探偵だけなのである。

 アケチは、鍵盤の前から離れて、ゆっくりと、ピアノの屋根にと手をかけた。

「では、お二人にご紹介しましょう。この人が、今回の事件の種明かしです。すなわち、妙子さんの替え玉となった人物です」

 そう大声で叫びながら、アケチは、ピアノの屋根を開いたのだった。

 ナカムラもコバヤシも、息を飲んだ。彼らの目には、ピアノの中にうずくまっていた謎の人間の姿が、しっかりと見えたのである。

「さあ、出てきてください。もしかして、昨日から、ずっと、この中に隠れていたのですか。大変だったでしょう。大丈夫。もう、隠れ続けていなくてもいいのですよ」

 アケチは、ピアノの中の人物へ、優しく、声を掛けたのだった。その謎の人物は、オロオロと、体を起こした。それから、アケチに助けてもらって、その人物は、静かに、ピアノの外に出てきたのだった。

 それは、小柄な女性だった。確かに、妙子の替え玉と言われるだけあり、体型は妙子と同じなのである。そればかりか、妙子のものらしき服も身につけていた。顔だけが、前髪を深く垂らしていて、よく見えないのだ。

「あらためて、紹介します。フミヨさんです。この子は、あの強盗団の首領・魔術師の娘さんなのです」アケチは告げた。

 いとも簡単に紹介してしまったが、その内容に、ナカムラもコバヤシも、すっかり驚いていたのだった。

「魔術師の娘だって!」

「そうです。この子とは、僕は、魔術師のアジトの船の中で、一度、会っているのです。二郎さんの証言によると、魔術師の一味は、誰かをこの屋敷に置き去りにして、去っていったような様子だったらしいですね。それで、この子は、まだ、この屋敷に隠れて残っているのかもしれない、と僕は判断したのです」

「この子は、賊の一人なのだろう?なぜ、仲間と一緒に逃げなかったのかね?」

「この子は、本来、そんな邪悪な人間ではなかったのですよ」アケチは、フミヨの方に顔を向けた。「ねえ、そうですよね?あなたは、前から、お父さんの元から逃げ出したい、と考えていたのでしょう?」

 アケチが尋ねると、フミヨは静かに頷いたのだった。

「フミヨさん、教えてください。あなたは、魔術師の船がどこに停泊しているか、知っているのでしょう?それを僕に教える事は、あなたにとっては、父への裏切り行為となるのかもしれませんが、それによって、あなたの父も、ようやく捕らえられ、その悪事を終わらせる事もできるのです。あなたも、本当はそれを望んでいるのでしょう?どうです、僕を信じてくれませんか」

 アケチに真摯に話し掛けられて、こうして、フミヨは、アジトの船の停泊場所や、明日、身内だけで集合して、国外逃亡する計画である事などを、全て、白状してしまったのだった。その声も、まるで妙子と瓜二つであり、ナカムラやコバヤシをさらに驚かせたのである。

「とまあ、そう言う事です。まだ一日、時間があるようなので、僕は、それまでの間、もう少し、休息をとらせてもらいます」必要な情報を全てフミヨから聞き出したアケチは、ケロッと言った。

「この子の事は、どうしたらいいのかね?」と、ナカムラ。

「もっと詳しく調査は必要ですが、この子が、今回の事件の重要参考人である事だけは確かです。ひとまず、警察の方で、保護してもらえませんか。賊も、この子がここに居る事には、まだ気付いてないんじゃないかと思います。その事を知ったら、連中も、この子を奪回しに来るかも知れません。だから、とりあえずは、この子は、外には出さずに、この屋敷内に隔離しておいた方がいいでしょう。僕も、明日、魔術師の奴らと決着をつけてから、そのあとで、この子への事情聴取を始めたいと思います」

 アケチ探偵は、そのように指示を出し、実際に、そのような処置が取られたのだった。すなわち、魔術師の娘のフミヨは、警察署へは連行されず、そのまま、この玉村邸内に監禁されたのである。

 その翌日には、すでに記したように、コゴローとなったアケチ探偵と魔術師一味による、ツキシマ海岸での一大決戦が行なわれたのだった。この捕り物劇のあと、精魂を使い尽くしたコゴローは、再び、深い眠りにつき、やがて目覚めた彼は、ようやく、フミヨと再対面する事になったのである。

 アケチも、玉村邸内に部屋を用意してもらって、そこで睡眠をとっていた。眠りから覚めた時には、彼は、コゴローから普段のアケチに完全に戻っていたのだった。

 この時のアケチは、大変に機嫌が良かった。ようやく、魔術師との抗争も、ひと段落ついたからであろう。彼は、軽い食事を済まして、いくつかの前準備の指示を身近の者に伝えると、ようやく、フミヨがいる部屋へと、事情聴取をしに向かったのだった。

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