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無敵探偵活劇 アケチ大戦争  作者: anurito
玉村一族編
57/169

そこに「1」が!

初掲載時の旧題「1000人のエキストラ」

 結局は、オオモリ区で開催された大サーカスは、何から何までが、嘘偽りのイミテーションだった訳である。

 あまりに本物らしく見せかけていて、大掛かりだったものだから、事の真相が判明するまでは、いっさい、誰にも見抜けなかったのであった。

 玉村家の人間をおびき寄せる為の4枚の招待券チケット。この段階から、すでに、実際のグランド=サーカスが発行したものと見間違えるほど、精度の高い偽物コピーが用意されていた。これじゃあ、この時点で疑う者もいるはずがなかったのだ。

 そして、実際に興行中だとしか思えなかったサーカス会場。これがまた、実は即席で作られた、全くの一時的な建築物だったのである。

 サーカスの大テントが設置されていた空き地は、ある資産家の地主の私有地だった。しかし、その地主は、この土地をほとんど顧みていなかったので、何者かが勝手に使用していた事に、事件が発覚するまで、まるで知らずに、気付いてもいなかったのである。

 これでは、賊の方もやり放題なのだ。本物のサーカスの会場用テントだって、4日もあれば、十分に設置する事ができる。賊だって、当然、同じ方法で、空き地に、偽のサーカス会場を、いきなり出没させる事ができたのだった。なおかつ、空き地の周辺に住んでいる人々だって、事前に何の情報もなければ、てっきり、本物のサーカスが巡回してきたと早合点するものなのであり、誰もヘンには思わなかったのである。

 これが、テントの解体となれば、話はもっと簡単なのだ。もともと、賊は、この大テントを今後も使い回す気はサラサラ無かった。だったら、解体時は、慎重にテントを取り壊す必要もなかったのである。だから、スピード優先で、雑にテントを崩しても良かったものだから、どうやら、たった半日で、テントを撤去してしまい、翌日には、元どおりの空き地にも戻してしまえたようなのであった。

 つまり、あの偽のサーカスが開演していたのは、まさに、玉村家が見物に行った奇術ショーの演目の前後の時間だけだったのである。

 なるほど、コバヤシ青年が、ガイコツ男を追い掛けて、舞台裏に忍び込んでみても、全く、他のサーカス団員と出くわさなかったはずなのだ。そう、この偽サーカスには、最小限の従業員と舞台装置、小道具しか配置されていなかったのである。

 さらに、のちに、この偽サーカスについて、一般へも広く情報提供を求めてみたところ、さらに、衝撃的な詳細が分かってきたのだった。

 なんと、奇術ショーの時に客席を埋め尽くしていた1000人もの観客もまた、どうやら、全員、サクラだったらしいのだ。つまり、驚くべき大人数のエキストラだったのである。

 彼らは、あくまで秘密裏に雇われたシロウトだった。けっこうな金額の報酬が支払われ、この事は外部には絶対に内緒にするという契約のもとで、この連中は、観客のサクラを務めたのである。彼らは、それ以上のことは、何も知らされていなかった。それで、素晴らしい手品ショーも拝見できたのだから、確かに、これは割りのいい日雇い仕事だったとも言えたのである。

 それでも、のちのちに、このサーカス公演の正体が、悪人たちの開いた犯罪の隠れ蓑だったと分かると、正しい良心に従って、観客のサクラを務めた事を白状する者が、ボツボツと、警察へと名乗り出てきたのだった。

 かくて、この偽サーカスのカラクリの全貌も、ほぼ、警察でも把握できる事になったのである。

 それにしても、これほどの大掛かりなトリックの犯罪を仕掛けてくるとは、全く、暗黒星とは、どこまで大胆で、スケールのでかい奴らなのであろうか。

 そして、わざわざ、玉村家の人々にだけ見せる為に、これだけの偽の舞台ショーを用意したのだと考えると、あるいは、あの奇術ショーの最中に、本当に、賊の手によって妙子が殺されたのではないか、と言う疑念の方も、いよいよ深まってきたのだった。

 何しろ、暗黒星のメンバーは、奇抜なパフォーマンスが好きな奴らばかりだし、そのうちの一人である魔術師だって、並ならぬ恨みを玉村家へと抱いていたようなのだ。玉村家の人間により多くの苦しみと絶望を与える為ならば、彼らは、いかなる努力も惜しまないだろうとも考えられたのであった。

 これらの新しい情報は、すぐに、玉村家の方にも伝えられた。

 前回、コバヤシ青年が泣いて諭したものだから、今度は、善太郎や二郎も、そこまで激昂はしなかったものの、それでも、あの大サーカスが偽物で、バラバラになった足まで見つかったとなると、さすがに、善太郎たちも動揺を隠しきれないようだった。また、気の毒にも、ショックで寝込んでしまったらしい一郎に至ると、完全に自分の部屋に閉じこもってしまい、顔すらも出しはしなかったのであった。

 さて、賊のカウントダウンも、いよいよ、「2」まで来てしまったのだ。

 この「2」が、殺人ショーが行なわれた偽サーカスに振り当てられたものなのか、もしくは、発見されたバラバラの両足を意味したものだったのかは、よく分からなかった。でも、「0」までは、ついに、あと1回のカウントになってしまったのである。この「0」のカウントが提示される時こそが、もっとも警戒せねばならない瞬間なのだ。

 ただし、その前に、まだ「1」のカウントが残っていた。暗黒星は、最後の総仕上げに手をつける前に、もう一度、何かのパフォーマンスを披露するはずであろう。まずは、それを見極めるのが先だし、「0」のカウントに比べると、「1」で起きる事件は、きっと、まだ生ぬるいモノで済むであろうと言う、妙な安心感が、何となく、捜査する側の空気にも漂っていたのであった。

 ナカムラ警部もコバヤシ青年も、いったん、玉村邸からは離れた。とりあえず、厳重な警備と防犯システムで守られた玉村邸内では、すぐには大規模な事件は起きないだろうと判断したからだ。実際、妙子が姿を消した後は、事件の起きる舞台は、完全に玉村の屋敷の外へと移ったではないか。

 ナカムラ警部は、予想として、カウント1は、まだ見つかっていないバラバラ死体のどれかと一緒に発見されるのではないかと、考えていた。特に怪しいのは、頭の部分である。もし、妙子の頭部にカウント1がくっついて、何処から出てきたら、これほどショッキングで「1」に相応しい事件もない、と言えたであろう。

 これまでの傾向から、賊は、妙子のバラバラになった死体を、トーキョー内のあちこちにバラまいていたようにも思われた。だから、ナカムラ警部も、若干、玉村邸への警備の人員は減らして、浮いた人手を、バラバラ死体の捜索にと回すようにしたのであった。

 こうして、警察の総動員による、バラバラ死体の残りの部分の捜索活動は、徹夜で、日にちをまたいで、全トーキョー・シティ内を対象にして、実行されたのだが、サーカス跡での一件以降は、なかなか、死体の次なる断片は発見されなかったのである。

 このバラバラ死体事件については、玉村家の脅迫事件と関連させる形で、それとも別に、警視庁の中に新たに捜索本部が設けられていた。

 玉村邸から引き上げていたコバヤシ青年も、ひとまず、この捜索本部の方に、身を置いていたのだった。アケチ探偵が、いつ、ひょっこり戻ってきても、このバラバラ死体事件の概要をすぐに説明できるように、彼なりに、この事件のあらましを、きちんと飲み込みにきていたのだ。

 捜索本部のデスクの上には、すでに、たくさんの資料が、所狭しと広げられていた。それを、席に着いたコバヤシは、コツコツと、一つ一つ、丁寧に目を通していたのであった。

「どうだね。何か、気になる点でも見つかったかね?」外回りの捜査から戻ってきたナカムラ警部が、気兼ねなく、コバヤシへと声を掛けた。

「今のところは、何とも。ただ、引っかかった部分としては、まず、なぜ、左手の中でも、人さし指だけを、さらに別パーツ扱いにしたのか、と言う点がありますね」コバヤシは言った。

「あの人さし指には、妙子さんのものである事をはっきりと証明している三重渦状紋が付いていた。犯人にしてみれば、確実に、すぐに発見させたかったのだろう。何しろ、デパートで見つかった左腕については、ヘタをすれば、まだ気付かれずに、放置されていた可能性もあったからね」と、ナカムラが答えた。別に、推理はアケチ探偵だけのお家芸ではなく、ナカムラだって、警部なだけに、そこそこに鋭い分析はできるのである。

「でしたら、なぜ、デパートの左腕にカウント『1』を添えておかなかったのでしょう?」

「その辺の事情は、よく分からん。まだ、切り分けた肉体の断片は残っておるし、『1』を表示するのは、もう少し先まで取っておきたかったのではないか、と言うのが、警察での見解だ。だから、今、わしらは、必死になって、残りの体の部分も探し回っているのだ」

 ナカムラ警部の言い分も、それなりに納得はできるのであった。

 少しずつ、バラバラ死体の断片が発見されていけば、それだけ、この事件も大げさになり、世に知れ渡る事になるだろう。なるほど、確かに、愉快犯である暗黒星が好みそうなシナリオではあるのだ。

 コバヤシは、スッキリしない気持ちを抑えながら、さらに、事件の資料を漁り、眺め続けていた。特に、デパートでの鑑識の分析写真を、今は、集中して、チェックしていたのである。

 現場の写真も、いっぱい有った。すなわち、例の本物の人間の左手が取り付けられていたマネキン及びその周辺の写真である。それは、いろいろな角度から撮られていた。こうして、じっくり観察し続けても、なぜ、ここが左手の置き場所に選ばれたのかが、いまいち分からないのだった。まあ、マネキンの左手が本物とすり替わっていたら、そりゃあ、皆、普通以上に驚きはするだろうが。でも、それだけの理由だったのだろうか。

 ふと、コバヤシの目が、一枚の写真の上に、ピタリと止まった。

「あ!これだ!」と、彼は、つい大きな声をあげた。

「ど、どうしたのかね?」ビックリしたナカムラが、コバヤシのそばに寄った。

「何てこった!間違いありません!怪しいとは思っていたんですよ。これです!やっぱり、この左手こそが、カウント『1』だったんです!」コバヤシが、慌てて、口にした。

「え?どう言う事なのだね?」と、ナカムラ。

「見てください。現場を広範囲に写した、この遠景写真を!証拠写真の中で確認できたのは、これ1枚だけです。だから、皆、この事実を、うっかり見落としてしまったのです!」

「だから、何の事だね?」

「ほら!この、左手が死体と置き換えられていたマネキン人形の真上の方を!小さな看板がぶら下がってるじゃないですか!これは、デパートの売り場内の区画を表示したものです。よく、ご覧なさい。『1』と書かれてますよ。つまり、このマネキンがあった空間は、この売り場の第一区画だったんです。でも、それは、同時に・・・」

「あ!」

「お分かりになりましたか。賊のカウントダウンの『1』でもあった訳です。これで、しっくり行かなかった部分は無くなりました。賊が、このデパートを死体の置き場に採用したのには、十分に意味があったのです」

「じゃあ、そうなると!」

「そうです!もう、いつ、カウント『0』の犯行が起きたとしても、おかしくありません。ぼくたちは、またしても、賊の陽動作戦に引っ掛かってしまったのです!」

「いけない!早く、玉村邸の警備に戻らなければ!」

「はい!急いで、玉村さんのところに向かいましょう!」

 コバヤシとナカムラ警部は、すっかり興奮して、すぐさま動き出したのだった。

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