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無敵探偵活劇 アケチ大戦争  作者: anurito
玉村一族編
55/169

二つの変事(その2)

 実は、この夜は、トーキョー内の別のところでも、怪しい事件が起きていたのだった。

 時刻は午前二時うしみつどき。場所は、ギンザ通りの大きな百貨店デパートの三階の婦人服売り場である。

 もちろん、真夜中の話であるから、その時、このデパートは閉まっていた。ただ、デパートの警備員だけが、定時巡回として、デパートの各階を静かに見回っていたのである。

 かなり大きなデパートだったので、雇用されていた警備員も少人数ではなく、巡回も二人一組で行なっていた。その上で、警備室には交代の警備員たちも待機していたのだ。

 真夜中のデパート内部は、当然だが消灯されていたし、広い空間が、真っ暗な状態で、ガランとして、静まり返っている様子は、少し、うすら怖さもあった。だが、それでも、このデパートの警備員たちは、この仕事を続けている事で、このような環境にも、だいぶ慣れていたし、自分たちの巡回の作業を、そつなく、こなしていたのである。

 おかしな点は、三階にやって来た時に発見された。

 最初は、二人の警備員も、何も気が付かずに、売り場を歩き回っていたのだ。ここで光っている明かりは、彼ら警備員が持っている懐中電灯だけだったし、その丸い光によって、静止した売り場の各所の様子が、次々に照らされていた。動くものもなく、ほんとに、ただの休業中のデパートの光景だったのである。

 しかし、警備員の一人が、ひょっこり、その異変にと気付いてしまったのだ。

 この三階の婦人服売り場では、売り場のほぼ中央の地点に、丸いステージを置き、その上に一体の女性のマネキン人形を飾っていた。そのマネキンに、常に最先端のファッションを着せる事によって、この婦人服売り場の客寄せの見せ場にしていたのである。

 ところが、この時、警備員の一人が、何となく、このマネキンに懐中電灯の光を当ててみると、そこにはマネキンが二つ、立っていたのだった。一体は、いつもの女性のマネキンである。もう一体は、子供のマネキンで、女性のマネキンの横に立ち、女性のマネキンの左手と、手をつないでいたのだ。

 警備員は、はて、と思った。昨晩は、こんな子供のマネキンは、ここには居なかったからである。かと言って、今日の昼間に、この売り場のディスプレイを変えた、という連絡も、警備の方では受けてはいなかった。そもそも、売り場の配置変更を、いちいち、警備にまで伝える規則もなかったのであるが。

 とは言え、見慣れたマネキンの展示が変わってしまっていると、それを、こんな暗い夜中に拝見したら、何とも、異様な印象なのである。

 警備員は、ついつい、子供のマネキンにばかり、明かりを当てて、見入ってしまった。

「うわっ!」と、思わず、警備員が叫んだ。

 その子供のマネキンのとんでもない秘密を見つけてしまったからだ。

 そのマネキンは、大きさこそ、小学生以下の幼児みたいだったが、顔は違った。顔だけは、ヒゲ面のおっさんだったのである。子供の体に、大人の頭がくっついていたのだ。その大人の顔が、ニヤニヤ笑っているのである。

 いや、それだけではなかった。もっと詳しく観察すると、この子供のマネキンは、微妙に揺れているのだ。どうやら、動いているのである。もしかすると、人形ではなかったのかもしれない。

 ゾッとした警備員は、再び、恐怖に震えた声を漏らした。すると、もう一人の巡回の警備員が、急いで、そばに駆けつけてきたのである。

「おい。何か、あったか?」と、その警備員が、最初の警備員に聞いた。

「こ、このマネキン、おかしいよ。お前も、よく見てくれ」

 警備員が、二人がかりで、この子供のマネキンの事をよく探ろうとした矢先だった。

 そのマネキンは、突然、気色の悪い笑い声を出した。そして、バッと跳ねると、素早く走り出したのだ。

 驚いた警備員たちは、その場に立ちすくんでしまった。

 そう。子供のマネキンは、本物の人形じゃなかったのだ。それは、生きていたのである。と言う事は、幼児のようで、実は大人の顔を持った、奇妙な人間だった事になるのだ。

 この警備員たちが、国内で起きている犯罪事情にもっと詳しければ、あるいは、一寸法師のことも思い浮かんだかもしれない。だが、あいにく、彼らは、そうではなかった。

 こうして、警備員がちょっと怯んだ隙に、マネキンのフリをした怪人は、たちまち逃げてしまったのである。

 あとは、デパート側としても、すっかり大騒ぎになってしまったのだった。

 怪人を見つけた警備員たちは、すぐに警備室へと戻り、残っていた警備員仲間にも協力を求めた。普通の人間ではなかったとしても、あの小人が、デパート内への不法侵入者である事は変わりがないのだ。そうである以上は、まずは、警備員が皆で力を合わせて、あの怪人をとっ捕まえる事にしたのである。

 幸い、デパート内の戸締りは完全だった。あの怪人も、そう簡単には外に逃げられるはずはなく、警備員たちも、きっと、怪人はまだデパートの中のどこかに隠れているだろう、と判断したのである。

 しかし、複数の警備員の手で、デパートの内部のあちこちが探索されたものの、なかなか、怪人は見つからなかったのだった。そもそも、一寸法師は、犯罪者の中でも、特に逃走の達人なのだ。警察だって、ろくに捕まえる事ができない一寸法師のことを、普通の警備員たちが探し出せるはずもないのである。

 1時間ほど、捜索活動を続けた末、やはり、自分たちの力だけでの怪人確保は断念した警備員やデパートの管理者たちは、ようやく、警察へと通報したのだった。現時点では、盗まれたものとか壊されたものとかも見つかっておらず、不法侵入されただけなのであったのだが、それでも、きちんと警察に報告しておくに越した事はないのである。

 警備員の一人は、怪人が最初に出没した、三階中央のマネキンの置き場にと戻ってきた。

 思えば、怪人は、まず、この女のマネキンにと接触していたのである。もしかすると、このマネキンこそ、何らかの被害を受けていたかもしれない。

 そう思って、警備員は、女のマネキンに、そっと触れてみた。その途端だった。

 マネキンが、もろくも、グラッと揺れた。そして、続けざま、マネキンの左腕だけがゴソッともげて、真下に落ちてしまったのである。

 それを目にして、つい、警備員は鋭い悲鳴をあげた。

 床にゴロッと転がったマネキンの左腕は、肩のあたりの断面が、真っ赤な色で染まっていたからである。ぷうんと臭ってもきたし、恐らく、それは十分に乾き切っていない血だった。

 この左手は、マネキンの一部などではなく、本物の人間の片腕だったのだ。

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