二つの変事(その1)
大トーキョー・シティのスミダ川では、もう秋も終わりを告げると言う11月半ばになっても、まだ、ボートを川に浮かべて、レジャーに勤しむ強者たちがいた。
11月20日。その夜もまた、一組の若いカップルが、スミダ川へと小さなボートで乗り出して、二人っきりのロマンチックなひと時を楽しんでいたのだった。さすがに、他のボートの姿は見かけない。今夜は、彼らだけで、完全にスミダ川は独占なのである。
多少は風も冷たかったかもしれない。遠方に街の光は輝いていたが、川そのものの周辺は真っ暗なのだ。水面も、どす黒い色の液体と化していた。どこか不気味さも漂わせてはいたのだが、それでも、愛し合う二人にとっては、十分に幸せな空間だったようなのである。
このボートが、ちょうど、アヅマ橋の真下を通った時のことだった。
「あ」と、カップルの女の方が声をあげた。
「どうした?」乗り合わせていた男が尋ねる。
「何かが落ちてきたわ。橋の上からよ」
「危ないな。誰かが、橋から何かを放り投げたのかな」
「そうみたい。ほら、そこ。ボートの中に落ちたわ」
「どれ」
男は、ボートの底をまさぐった。暗かったが、異物はすぐに発見できた。彼は、それを拾い上げた。
落下物の正体は、小さな長方形の木箱であった。貴金属でも納めていそうな箱なのだ。
「何か、入ってるぜ」男は、箱を揺らしながら、笑った。
「要らないものを捨てたのかしら」
「だとしたら、俺たちで貰ってもいいのかな?」
「やめなさいよ。それって、きっと、こっそりと捨てたかったものなのよ」
だが、男は相手の言葉に耳を貸さずに、面白半分に、強引に、箱のフタを開けてしまったのだった。
その中に入っていたものに触れた瞬間、その物体の触り心地に、男はややギョッとした。
「こ、これは」
男は、恐る恐る、その物体をつまみ出した。しかし、その物体を見た途端、男も女も悲鳴をあげたのだった。男は、慌てて、その物体を放り出してしまった。
ボートの底にペタンと落ちた、その物体とは、人間の指だった!切断したばかりだったのか、まだグニャッと柔らかくて、切り口からは血も垂れていたのである。




