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無敵探偵活劇 アケチ大戦争  作者: anurito
玉村一族編
51/169

サーカスへの招待

 あれほど、いなくなる前のアケチ探偵が警告していたにも関わらず、結局は、問題の11月20日に、一番警戒せねばならなかった妙子の身にと事件が起きてしまった。彼女は、この日、全ての護衛の目をすり抜けて、突然に、蒸発してしまったのである。

 この体たらくには、当然、怒った善太郎の八つ当たりの矛先は、ナカムラ警部ひきいる警察やコバヤシ青年らにと向けられたのだった。全く、アケチがいないと、ここまで頼りにならないのであろうか。

 だが、そもそも、部屋に閉じ籠っていた妙子が一瞬で行方不明になるなんて、想定外の出来事だった。部屋の入り口の警備員が一人だけだったのが良くなかった、と言う指摘もあるかもしれないが、それだって、もし、普通に賊が襲って来ただけならば、十分に対応できる人数と配置だったのである。まさか、妙子だけがフラリと姿を消してしまうとは、誰も予想していなかったのだった。

 もっとも、ナカムラやコバヤシだって、ただ非難されてばかりはいないのである。彼らも、すぐさま、何かの手がかりが残っていないかを探し始めたのだった。

 それは、すぐに見つかった。事件解決のヒントになるものと言うよりも、犯人が残していったメッセージらしきものが発見されたのである。

 妙子の部屋にある、彼女の書斎机の上には、一枚の紙が置かれていた。その紙には、大きく「3」の数字が記されていたのだ。例の、暗黒星によるカウントダウンである。ついに、この恐怖のカウントダウンが再開したのだ。恐らくは、妙子の蒸発も、自分たちの仕業である事を、暗に誇示したのであろう。

 ただ、今回のカウントダウンは、少し、不可解な部分があった。この「3」が書かれた紙のそばには、4枚のチケットも添えられていたのである。見ると、それはサーカスの招待券なのだった。

 主催者は「グランド=サーカス」と書かれていた。そして、招待日というのが今夜なのだ。すなわち、11月20日の夜の部の奇術ショー用の入場キップなのであった。それが、4人分あるのだ。

 この奇妙な置き土産には、コバヤシもナカムラ警部も、さすがに首を捻ったのだった。何か意味がありそうなのだが、とても推理だけでは、真相を導けそうにはないのである。やむなく、彼らは、善太郎にと、このサーカスのチケットの事を尋ねてみたのだった。

「そう言えば、昨日は、妙子のやつが、急に、しきりに、『サーカスが見たい』と、わしにねだってきおった。そうか、この事だったのか」と、善太郎は、神妙に呟いた。

 なんと、善太郎は、このサーカスの件を知っていたようなのである。

「チケットがあると言う事は、観に行く予定だったのですか?」

「まさか。今日のような危険な日に、誰が外を出歩くものか。妙子のワガママには、ほとほと困ったものだよ。外出など絶対にダメだと、妙子には、きつく言いつけておいたのだが、実は、すでにチケットも入手しておったとはな。4人分あるとは、家族全員で観に行きたかったのか。それほど観たかったなんて、可哀想な事をしたものだ」

 善太郎がそのように告げて、何となく、事情も判明したかのようにも見えたのだが、コバヤシは、まだ納得した雰囲気ではなかったのだった。

「仮に、このチケットを購入したのは妙子さんだったとします。でも、『3』が書かれた紙の方は、賊が残していったものです。だとすれば、賊は、なぜ、このサーカスのチケットも、わざわざ、『3』の紙のそばに添えておいたのでしょうか?」コバヤシは言った。

「コバヤシくん。君は、このサーカスと賊の間に、何か、関連があると考えているのかね?」と、ナカムラ。

「もしかすると、このチケットそのものも賊が用意したもので、『このサーカスを観に来い』と言うメッセージなのかもしれません」

「おお!だとすれば、急がねば!指定された開演時間は、間もなくだ!」

「グランド=サーカスと言えば、老舗の有名なサーカス団だから、賊が変なワナが仕掛けている可能性はないとは思うのだが。それに、開催場所もオオモリ区らしいから、この近くで、すぐに行けそうだが」善太郎が、戸惑いながら、口を挟んだ。

「じゃあ、思い切って、行ってみましょう!何か、妙子さんの事が分かるヒントが見つかるかもしれません」

「だが、チケットは4枚だ。妙子がいないから、1枚余るのだが、誰が行くのだね?」と、善太郎。

「コバヤシくん。君が、妙子さんの代わりに、そのチケットを使いたまえ」ナカムラが言った。

「でも、ぼくよりも、ナカムラさんが同行した方がいいのではありませんか」

「わしは、警察の権限を使って、潜入捜査と称して、チケット無しで入場させてもらうよ」ナカムラは、ニヤリと笑ったのだった。


 さて、皆でサーカスへと探りを入れに行く事が決まったのだが、結局、事件のせいでナーバスになった一郎が同行を辞退した為、ナカムラ警部が、代わりにチケットを使う事となったのだった。

 チケットで正式にサーカス会場に入るのは、善太郎、二郎、コバヤシ、ナカムラの四人。何かが起きた時の為に、戦力となる警官もいた方が良かったのであろうが、現時点では、事件が絶対に起きると確定した訳ではないし、サーカス主催者に不要の迷惑もかけられないので、援軍の警官たちは、サーカス会場の外で待機していると言う手はずとなった。

 こうして、コバヤシたちは、グランド=サーカスの会場へと向かったのである。時刻はすでに夕方で、野外は暗くなり始めていた。

 サーカス会場となる巨大テントは、オオモリ区の外れの方にある大きな空き地にと張られていた。昔ながらの移動式の山なりテントなのだ。このオオモリ区での営業も、きっと、期間限定のものなのであろう。この大テントの中では、恐らくは、連日のように、多種なサーカスの演目が披露されているのである。玉村家では、そのうちの、今夜の奇術ショーの鑑賞券を手に入れていたのだった。

 コバヤシは、サーカス会場に入る前の、テントの外にいる時から、入念に目を光らせていた。だが、現時点では、まだ、本物のサーカス興行のようにしか見えなかったのだった。会場の入り口は、出入りするお客たちで賑わっているのだ。それらを整理するサーカスの運営員たちも、あちこちで、せわしく働いていた。何もかもが、普通のサーカス会場の光景なのだった。

 コバヤシたちは、もぎりを済ますと、いよいよ、サーカスの大テントの中へと入っていった。チケットの番号を見ながら、自分たちの席を探してみると、四人とも最前列であった。さすがは、財界の名士だけあって、玉村家では、こんな良い席のチケットが手に入るみたいなのである。

 コバヤシら四人は、ひとまず、席へと着いた。

 中央にある舞台をグルリと取り囲んだ、円形の観客席なのだ。席はほぼ埋まっていた。多分、1000人は観客がいたのではなかろうか。そして、中央の舞台では、次の見世物である奇術ショーの準備のため、ちょうど、演目の方も休憩していたのであった。コバヤシたちは、ちょうどの時間のタイミングで、この会場に訪れたのである。

 コバヤシは、席に座ってからも、周囲への警戒を怠らなかった。探偵の弟子として、そのような習性が完全に身についてしまっていたのである。

 おかげで、彼は、間もなく、怪しいものに気が付いたのだった。

 それは、コバヤシたちとは反対の側の客席に座っていた謎の人物である。これほど沢山の観客がひしめき合って、どよめいていたにも関わらず、その人物は、すぐに見分けがつくほど、目立ったのだった。

 そいつは、全身がガイコツの格好をしていたのである。と言っても、本物の人骨ではあるまい。どうやら、表面に骨格の絵が描かれたマスクや服を身につけて、骸骨スカルマンのコスプレをしているようなのだ。

 こんなヘンな人物が、客席の一つに紛れ込んで、腰掛けていたにも関わらず、他のお客たちは、まるで反応してはいなかった。誰もが、何も見えてないかのように無視しているのだった。さては、サーカスの余興パフォーマンスの一つだとでも判断して、あえて触れないようにしていたのであろうか。

 だが、最初っから、このサーカスに疑いの目を向けていたコバヤシだけは、そう簡単に見逃す気にはなれなかったのだった。彼は、隣に座っていたナカムラへと、そっと耳打ちした。

「ナカムラさん。見てください。あそこに、おかしなガイコツ男が座っていますよ」

「うむ。そのようだね。でも、サーカスの団員が化けた仕込みではないのかね?」

「そうかもしれません。だけど、もし、賊が扮した怪人だったりしたら?」

 コバヤシとナカムラが、そんな会話をしている矢先、問題のガイコツ男は、すっくと立ち上がったのだった。いや、それだけではない。どうも、このガイコツ男の方も、コバヤシたちの姿を見つけて、ジッと見ているようなのだ。その上で、こいつは、席から立ったのである。

 もうすぐ、奇術ショーの始まる時間だった。それなのに、ガイコツ男は、わざわざ席を立ったのだ。そして、会場から出て行くような素ぶりを見せているのである。明らかに、ただの観客ではなさそうだったし、あるいは、サーカス団員の演出だったのかどうかも、はっきりとは判断できかねなかったのだった。

「やっぱり、気になります!ぼく、あのガイコツ男のあとを追って、探ってみる事にします」コバヤシは言った。

「だが、サーカスの舞台の方はどうするのだい?これから始まる奇術ショーで、賊が何かのメッセージを仕掛けてくるかもしれないぞ」と、ナカムラ。

「では、舞台の監視の方は、警部にお任せします」

「よし、分かった!」

 二人は分担を決めて、了解しあい、コバヤシは、さっそく、立ち上がったのだった。

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