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無敵探偵活劇 アケチ大戦争  作者: anurito
玉村一族編
48/169

18日の出来事

初掲載時の旧題「悪魔のおくりもの」

 アケチ探偵が姿をくらましてから、2日が経った。その行方は依然として不明のままであり、助手のコバヤシ青年も警察も、すっかり、お手上げしてしまったのであった。

 何よりも、現代進行形の玉村家の事件では、頭脳ブレインとしてのアケチを、過度にアテにしていたような状況だったので、彼がいなくなってしまうと、ほんとに、皆は、頼れる拠り所がなくなってしまったのである。

 しかし、だからと言って、困り果てている訳にもいかないのだ。

 アケチがいなければ、次に頼りにする人物は、当然、アケチの弟子のコバヤシと言う事になる。ナカムラ警部たちは、自然と、コバヤシにとアドバイスを求めるようになったのだった。コバヤシの方も、自分がそこまでの人材でないのを自覚しつつも、やむなく、自分の意見を述べたのであった。

「相手は、今までだって、奇抜なトリックを次々に実行してきた超一流の犯罪者たちです。電流の流れた塀を飛び越える方法として、気球とか忍者みたいな大凧を投入してくる事だって、十分に考えられます。とにかく、あらゆる不測の事態をも想定して、警戒するべきです」

 コバヤシは、過去の凶悪犯たちとの戦いの記憶をもとに、神妙に、そのように訴えたのだった。あくまで、アケチ探偵が言いそうな事を、言葉にしてみたのである。

 さて、コバヤシの真剣な提言を重く受け止めて、玉村邸の警備は、ますます、厳重なものとなったのだった。

 警備員も増員されたし、玉村家の家族の行動にも制限がかけられた。

 何と言っても、アケチがあれほど気にしていたXデーの11月20日が、もう目前なのだ。その日の主役が妙子である以上は、特に、妙子の警護が強化されたのである。

 妙子は、20日が過ぎるまでは、外出する事を全て禁止にされてしまった。のみならず、玉村邸の中にいる時でさえ、そばには必ず護衛ボディガードがつく事になり、妙子が自分の部屋の中でくつろいでいる時すらも、部屋の入り口には、常に番兵が立つようにもなったのである。

 これじゃあ、妙子も、さぞ窮屈だった事であろう。もとが、自由気ままに生きていた女性ならば、なおさらだ。

 実際、18日の夜も、妙子は、自分の部屋に完全に閉じ込められた状態になってしまい、彼女は、部屋の中で、ずっと不平をこぼし続けていたのである。

 今の妙子は、いっさい屋敷の外には出させてもらえなかったし、友達を家へと招く事も許されていなかったので、おとなしく、一人ぼっちで、部屋の中で待機しているしかなかった。それが、活動的で遊び好きだった彼女にとって、どれだけ辛い生活であった事か。

 しかも、部屋の周囲には、入り口にも、窓の外にも、がっつり、見張りがついているのである。彼らは、外部からの侵入者を防ぐだけではなく、妙子自身をも監視する存在となっていたのだ。妙子は、自力で密かに逃げ出す事すら出来ない有様なのであった。

 仕方がないので、彼女は、部屋の中に閉じこもり、一人で、ずっと時間を潰していたのだった。

 だが、こんな時に限って、ピアノは故障していて、ピアノを弾いて、気分を紛らわす事もできなかったのである。

 確か、ついこないだ、花崎の親子がこの屋敷に訪問した頃からだった。妙子の部屋のピアノは、一部の鍵盤が音を出さなくなってしまったのである。もちろん、その事については、妙子は、すぐに父の善太郎へと相談した。すると、善太郎は、次の彼女の誕生日に、新しいピアノをプレゼントする、と言い出したのだった。

 実は、この件もまた、今の妙子の気持ちを、さらに不機嫌にさせた原因の一つなのであった。

(もう!お父さまは、ほんと、何も分かっちゃいない)と、妙子は思っていた。

 善太郎にしてみれば、ピカピカの新品のピアノの方が娘は喜ぶと考えたのだろう。だけど、そうではなかった。妙子は、ピアノを買い替えるよりは、今のピアノの故障を直して、これからも使い続けたかったのである。だって、このピアノは、自分が幼い時から使っていたもので、色々な懐かしい記憶とも結びついていたのだから。何よりも、亡き母との思い出とかも、このピアノには染み付いていたのである。

 それなのに、明日の19日には、早くも、代わりのピアノが、この部屋にと到着するのだと言う。それは、誕生日当日の20日は、バタバタしたくないし、よけいな人間を屋敷内に出入りさせたくないと言う、善太郎の配慮だったのだ。と言う事で、この思い出のピアノとも、今宵限りでお別れなのであった。

 まあ、そんな次第で、妙子は、なおさら、今は気が立っていたのだった。

 ところで、妙子の部屋はたいへん広くて、数区画にと分かれていた。ピアノが置かれていた中央の部屋以外にも、周囲には、寝室や化粧室メイクルームなども配置されていたのである。まさに、富豪のお嬢様ならではの部屋の間取りだったとも言えよう。

 そんな妙子の部屋の中の小部屋サブルームの一つに、衣装部屋があった。この部屋には、妙子が持っている数多の服が保管されていたのだが、それでも、部屋の方がもっと大きすぎたものだから、まだ、かなりのスペースが余っていたのである。

 よって、現段階では、この部屋は、早めに届いた誕生日プレゼントの置き場にも使われていたのであった。そう、名士の娘である妙子のもとには、誕生日には、あちこちから誕生祝いの贈り物が届いたのである。そして、この衣装部屋を、誕生プレゼントの置き場にしておくのもまた、毎年の常例となっていたのであった。

 すでに到着済みのプレゼントの中には、大きなモノだって、いくつも有った。もちろん、今の厳戒態勢のもとでは、これらのプレゼントの内部に不審物が混じっている危険性だって、十分に考慮はされていたのである。プレゼントの箱は、妙子の部屋に運び込まれる前に、どれも、きちんと中身のチェックを受けた。贈り主とも連絡を取り、贈り主の指定した通りのプレゼントが入っているかを確認し、さらには、箱が二重底になっていて、秘密の隙間に危険物が隠されてないかどうかも、十分に調べられたのである。そうして、検査を通ったものばかりが、この衣装部屋に積み上げらていたのだから、決して心配はないはずなのであった。

 しかし、本当にそうだったのであろうか。

 敵は、魔法使いの集団のような暗黒星なのである。果たして、玉村邸サイドの検問は、どこまで通用したのだろうか?例えば、誕生プレゼントが、毎年、妙子の部屋の衣装部屋に持ち込まれる事は、緑川夫人を名乗っていた時の黒トカゲが、まんまと、妙子から聞き出していたかもしれない。また、プレゼントの内容だって、贈り主自身を買収して、操る事で、暗黒星にとって都合のいいものを選ぶ事もできただろう。あげくは、プレゼントの配送員まで、実は暗黒星の一味で、プレゼントの中身の確認の際に、こっそりと細工トリックを仕掛けていたとしたら?

 そう。アケチの補佐サポートも無しで、ナカムラ警部だけの指揮のもとでは、現在の玉村邸の警備は、まだまだ、不安な部分だらけだったのである。

 そして、たった今、プレゼントのうちの一つが、突如、ゴソゴソと音を立てて、震えだしたのだった!

 同じ頃、妙子はと言えば、メインの部屋の方で、暇つぶしに、トランプ占いなどに興じていた。特にやる事もなかったし、そうやって、ダラダラと長い夜のひと時を消化していくしかなかったのである。

 どうしても占いたかったテーマがあった訳なのでもない。ただ、テーブルの上にカードを広げて、適当にめくったりして、彼女は、何となく、気を紛らわしていたのであった。心の中は、ムシャクシャしたものが溜まった状態のままで。

 ぼんやりと、妙子は、テーブル上の裏返しのカードのうちから、一枚をめくってみた。そのカードを見て、彼女はつい顔をしかめたのだった。

 スペードのエース。それが、今、妙子のひいたカードであった。トランプ占いでは、不吉な「死」の意味も持たされているカードである。よりによって、このような時期にこのカードを引き当ててしまうとは!

 その時。

「おやおや。それは最強のカードだろう?お前は嫌いなのかい?」と、いきなり、背後から、野太い男の声が聞こえてきたのである。

 ギョッとした妙子は、後ろを振り返った。

 そこには、なんと、ジョーカーが立っていた。いや、正確には、ジョーカーの絵柄として描かれているような道化師の格好をした、ガタイのいい中年男が、いつの間にか、出現していたのである。

 驚きすぎた妙子は、その怪人の姿を見つめながら、体が固まってしまった。声も出ないし、手足も動かせないのである。実は、これは、この謎のピエロの目を見てしまったせいであった。このピエロの正体である魔術師は、催眠術の名人なのだ。彼の目に睨まれただけで、普通の人間なら、簡単に催眠暗示にかかってしまい、金縛りになってしまうのだった。

「ふふふ。驚いているようだね。聞きたい事がいっぱい有るような顔をしているな。私が何者なのかとか、どんな方法を使って、この部屋に入ってきたのかとか、ここに現われた目的は何なのかとか」魔術師は、意地悪く笑った。

「あ、あなた、賊の一人ね」妙子は、喉に力を込めて、何とか、小さな声で、それだけ発した。

「その通りだ。お前には、ずっと会いたかったのだよ」

「こ、殺すつもり?」妙子は、恐怖に震えて、目を潤ませながら、相手に尋ねた。

「殺すだって!とんでもない!なぜ、私がお前を殺さなくちゃいけないのだ」と、魔術師は、大げさな身振りもまじえながら、強く否定した。

「じゃあ、あたしに何の用事?」

「おお。我が娘よ。分からないのかね、この父のことを?」

 魔術師の口からは、意外な言葉が飛び出したのであった。

「娘って?うそ。そんなはずがないわ」

「可哀想な奴だ。本当に、何も知らなかったらしいな。お前はね、実際は、玉村家の娘ではなかったのだ。元々は、この私、奥村源造の娘だったのだよ。生まれた時に、すぐに、お前と玉村家の実の娘は取り換えられてしまったのさ。非常に重要な事情わけがあってね。この事は、お前の義父の善太郎は、きちんと気付いていた。だが、彼は、この真実を世間に公表する事なく、お前を本物の娘のように育ててきたのだ。全ては、スキャンダルになるのを避けたかっただけの理由でね。善太郎は、自分の保身の事しか考えない、全く汚い人間だ。ほら、お前だって、何か、思い当たる事は無かったかね?」

 魔術師の驚愕のカミングアウトに、妙子は呆然としていたのだった。

「ああ!確かに、お母さまもお父さまも、あたしに対しては、どこかヨソヨソしいところがあったわ。お母さまは、あたしに愛情をたっぷり注ぐのを加減していたように見えたし、お父さまも、あたしへは、モノは何でも買い与えてくれても、父親らしい形で愛してくれた事は一度もなかった。そうね。そういう訳だったのね」

「まさしくだ。よく気が付いたな。お前は、血の繋がった娘でなかったから、そのような不当な扱いを受けたのだ。分かったか。今こそ、お前は真の自分を知る時が来たのだ」魔術師は、力強く、言い放ったのだった。

 妙子は、魔術師の顔を見ながら、ボロボロ涙を流していた。催眠暗示の効果もあって、彼女は、すっかり、魔術師の話を受け入れてしまったようなのである。

 こうして、二人は、このまま、この夜は、ずっと、秘密の面会を続けていたのだった。

 しかし、この出来事は、この部屋のすぐ外の入り口で番兵をしていた警備員をはじめ、玉村邸の中にいた人間の誰にも悟られる事はなく、何事もなかったように、その夜は更けていき、次の日の朝を迎える事になったのであった。

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