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無敵探偵活劇 アケチ大戦争  作者: anurito
玉村一族編
46/169

白髪の復讐鬼

「フミヨ、もう良い。こっちに戻りなさい」

 まるで地の底から湧いたような不気味な声が、いきなり、部屋の中に響き渡った。この部屋には、スピーカーらしきものは見当たらなかったはずなのだが。

 でも、声が聞こえた途端、娘はギクッとして、オドオドしながら、アケチのそばから退いたのだった。

「ち、父が呼んでいます。私は、これで失礼いたします」彼女は、動揺しつつ、ペコッとアケチに頭を下げると、ドアを開けて、急いで、その向こう側へ出ていったのだった。

 ドアは、再び、バタンと閉められた。だが、鍵をかけたような気配はなかった。

 アケチとしては、もっと、この娘にいろいろと話を伺いたかったところだったのである。彼は、機敏に、ベッドの上から飛び下りた。言うまでもなく、娘のあとを追いかけて、ドアから外へ逃げ出す為だ。

 しかし、彼の願いは叶えられなかった。ベッドのそばから何歩か離れると、いきなり、アケチの右足がベッドの方に引っ張られたからである。

 落ち着いて、自分の足もとを観察すると、なんと、右足の足首には、鉄の輪がはめられていた。その鉄の輪が、太い鎖で、ベッドの足と繋がっていたのである。つまり、足かせだ。なんて事ない。アケチ探偵は、最初っから、この部屋に縛り付けられていたのであり、安易に逃げられる状態ではなかったのだ。

 アケチは、仕方なく、ベッドの上に引き返した。彼は、顔をしかめて、ベッドに座り込んだ。これでは、あらためて、この部屋から脱出する方法を練り直すしかないのである。

 彼は、無言のまま、部屋を見回して、考え続けた。まだ酔っ払った感じの頭をフル回転させて、モーレツに推理しているのだ。と、次の瞬間、彼は、ある秘密に気付いたのだった。

「なるほど。そう言う事か」アケチは、嬉しそうに、ニンマリと微笑んだ。

 彼の目の前には、壁にかかった沢山の仮面があった。その中には、道化師の仮面も混ざっていた。その道化の仮面とアケチの目線が、ピッタリと合ってしまったのである。

「おい。分かってるんだぜ。そろそろ、本物の仮面のフリをするのは止めろよ。実は、仮面どころか、あんたの本当の顔なんだろ?そんな方法で、僕の事をずっと見張っていたとは、さすがに、すぐには気が付かなかったよ」アケチは、その道化仮面めがけて、快活に話しかけたのだった。

 すると、その道化の仮面の方も、突然、表情が変わったのである。口もとが、よりハッキリと笑ったのだ。それだけではなく、両目もパチパチと瞬きしたのである。

「おぬしこそ、さすがだよ、アケチ探偵。このカラクリを、よく見破ったね」今度は、しっかりと口を動かして、道化の仮面が喋った。さっきの謎の声も、この道化仮面が、腹話術で発したものだったのである。

「その扮装が、君の普段の正装なのかい?だとしたら、君は強盗団のボスの魔術師だな?」

「その通りだ。おぬしの推察どおりだ。アケチよ、確か、おぬしとは初対面だったな」

「君とは、ずっと、会ってみたいと思っていたよ。どうだい。せっかくの初顔合わせだし、こんな壁ごしではなく、君もこちらの方に来て、きちんと向き合って、話をしないかい?」

「よかろう」

 続いて、道化仮面は、壁の中にスッと引っ込んだのだった。仮面があった位置には、ぽっかりと、暗い穴ができてしまったのである。

 それから、ほとんど間をおかずに、この部屋のドアが再び開いたのだった。

 入ってきたのは、今の道化の顔をした男である。顔ばかりではなく、体の方も、だんだら縞の道化服を着ているのだ。おしろいで顔を真っ白にした上に、今は、帽子もかぶっておらず、髪の毛まで、全て、白色だった。前もって知らされていなければ、この男は、本物のピエロにしか見えなかったであろう。

「我がアジトにようこそ。名探偵アケチコゴロウくん」と、この道化師、すなわち、魔術師は、こっけいな身振りで、アケチに挨拶した。

「こちらこそ、不本意なご招待をしてくれて、ありがとう」

 魔術師は、いったん喋るのをヤメて、アケチの顔をじっと睨んだ。アケチも、すました表情で、魔術師の顔を見返して、対抗したのである。

「おぬし、何ともないのかね?」と、ひょっこり、魔術師が聞いてきた。

「何が?」

「私に睨まれた相手のほとんどは、すぐ催眠暗示にかかってしまうのだが・・・」そう言ってから、魔術師は、大げさに笑ったのだった。「私の眼力に惑わされないとは、確かに、大物の名探偵だ」

 そうなのだ。魔術師は、マジシャンとして、催眠術をかける腕前も超一流だったのである。

「ところで、さっきの少女は何者だい?」アケチは、魔術師にと尋ねた。

「女の給仕の方が、おぬしも和めただろう?もっとも、よけいな詮索はヤメてほしかったがな。あの子は、私の娘だよ」

「君に子供がいたとは意外だな」

「悪いかね?」

「いいや。まあ、それ以前に、君自身の正体も、気になるしね。君は、玉村善太郎さんと関係のある人物なんだろう?僕も、もう、かなりの線までは突き止めているんだ。しかし、あと一つ、最後の決め手となるようなヒントがなくてね」

「私の事は、何歳ぐらいに見える?善太郎と同世代だと思うか?」

「じかに会えば、それも分かるかと思ったんだけどね。でも、君のその道化師の化粧は、ちょっと濃すぎるよ。とてもじゃないけど、性別以外は、何も見当がつかない。そこまで、素性を知られたくないのかい?」

 魔術師が、いやらしく微笑んだ。そして、アケチの方へ、自分の頭頂を向けた。

「これだけは、教えてあげよう。この白髪は、私の地毛だよ。でも、ここまでシラガになるほど、私は老人でもない。とても恐ろしい体験をしてね、一夜にして、私の髪は白くなってしまったのだ。そして、私をこのような目に合わせた、憎き仇こそが、善太郎なのさ」

「なるほど。そんな秘密の事情があったのか。だけど、復讐なんてものは考えるべきではないよ。ましてや、関係のない人間まで巻き込んだりするのは、どうも感心できないね」

「分かっておる。だから、私も、やたらと人を殺したりはしないように、自重しているのだ。殺すのは、善太郎と特に関わりの深い人間だけだ。おぬしの事だって、すぐに殺したりはせずに、まずは、ここに連れてきたではないか」

「それだったら、ついでに、もう解放してほしいものだがね」

「それは出来ん。逃がせば、おぬしは、また善太郎の味方について、私の妨害をするのだろう?」

「まあね」

「悪いが、おぬしには、私の復讐の全てが完了するまで、この部屋に居てもらう。そのあとに、好きなだけ、自由にしてあげよう。約束する。おぬしの命までは取ったりはしない」

「嫌だと言ったら?」

「もし、このアジトからの脱出でも強行してみたまえ。その時は、私の方も、おぬしを殺す事だって辞さない。よおく肝に銘じておくんだな」

 それだけ言い終えると、魔術師は、やや不機嫌な態度になって、この部屋から出ていったのである。

 部屋の中は、また、アケチ一人きりになった。

 アケチは、ベッドの上に座り込むと、気持ちを切り替えて、また、脱出の手段をあれこれと耽り出したのである。

(一番ラクな脱出方法は、やはり、コゴローになる事か。でも、コバヤシくんは居ないし、福田博士のくれた丸薬も切らしちゃったから、今は、瞑想法で、時間をかけて、コゴローに変わるしかないな。ただ、それだと、瞑想の最中に、敵の邪魔が入って、うまく変身に漕ぎ着けない可能性もあるな)

 アケチは、そんな事を、頭の中で、もくもくと考え続けていた。

 その時だった。部屋のドアが、再度、いきなり開いたのである。

 ハッとしたアケチは、ドアの方に目をやった。そこには、フミヨと呼ばれた、あの魔術師の娘が立っていた。予告もなく、彼女は、また、アケチに会いにきたのである。

 フミヨは、足早に、アケチのそばにまで走り寄った。

「どうしましたか?」と、思わず、アケチはフミヨに尋ねた。

 フミヨは、アケチの足もとに座り込んだ。そして、何をするのかと思いきや、鍵を取り出して、カチャッと足かせを外してくれたのである。

「え?どういう事ですか」アケチは驚いた。

「逃げてください。あなたは、ここに居るべき人間ではありません」真剣な口調で、フミヨは言った。

「まさか、魔術師が、僕のことを解放してもいい、と指示した訳でもありませんよね?」

「これは、私の判断です。父は恐ろしい人間なのです。今だって、父は、玉村家の人々に対して、とてつもない仕打ちを企てている最中なのです。それを阻止できるのは、アケチさん、あなたしか居ません。どうか、早く、ここから逃げて、玉村の人たちを救ってあげて下さい」

 フミヨの主張を聞いていて、アケチの抱いていた「この子は本当は味方だ」という思いは、強く、確信にと変わったのだった。

 だが、そこまでだったのである。

「フミヨ!一体、何をしておるのだ!」

 魔術師の凄まじい怒鳴り声が聞こえてきた。続けて、ドタドタと床の上を走る足音。

 そして、開けっ放しだった入り口のドアに、いきり立った様子の魔術師が現われたのだった。手には、大きなショットガンを構えて!

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