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無敵探偵活劇 アケチ大戦争  作者: anurito
玉村一族編
45/169

捕われた名探偵

 アケチ探偵は目を覚ました。見事に記憶は吹っ飛んでおり、これまでに何が起きたのかを思い出して、体も動かせるようになるまでには、かなりの時間を要したのだった。

 脳が働き出したとは言っても、薬の影響は消えきっていないのか、頭はグラグラして、悪酔いした時のあの嫌な感覚は、まだ続いているのである。

 とりあえず、あまりノンビリし続けている訳にもいかないのだ。アケチは、周りが揺れているように感じるのをグッと堪えながら、推理に集中し始めたのだった。

 最後に記憶にあった情景は、ニジュウ面相を相手にしたバトルである。ニジュウ面相に関して言えば、いちおう撃退はしたのだ。しかし、そのあとに、急に睡魔に襲われて、眠ってしまったようなのである。眠る前はコゴローだったのだが、たっぷり寝た事で、今はアケチの体質にと戻っていた。

 さて、この睡眠中に、事態は大きく進行してしまったらしい。普段なら、コゴローになったあとの熟睡中は、コバヤシ助手がアケチの世話を焼いてくれたのだが、今は、そばにコバヤシの姿は見当たらないのだった。

 と言う事は、爆睡してしまったあとに、無事にコバヤシに保護してもらえなかったのだろうか。では、今のアケチは、一体、誰の元に身を寄せていたのであろう?

 そのヒントになるのが、現在、彼がいる場所だった。

 見渡せば、どうやら、小さな個室らしいのである。その個室の一角に、簡易ベッドが置かれていて、そのベッドの上に、アケチは寝っ転がっていたのだ。

 他にも、部屋の中には、こじんまりとしたテーブルも置かれていた。床の上にあったものは、それで全部である。本当に、何もない、質素な部屋だったのだ。

 そもそも、この部屋には、窓も無かったのだった。天井には、バカでかい裸電球が灯っていて、それだけが、この部屋の光源となっていた。ドアは、ベッドとは反対側の壁に、一つ、あるだけで、どうやら、そのドアが、この部屋の唯一の出入り口らしかった。

 そして、他にも、ひどく目についたものがあった。この部屋の壁には、沢山の仮面が飾ってあったのである。日本の能面もあれば、外国の土着民族が儀式に使うような仮面もあって、種類もさまざまなのだ。しかし、こんな無味な部屋に、このような仮面だけを大量に展示している事自体が、なんとも異様で、悪趣味にも感じられたのだった。この部屋の持ち主、すなわち、眠っていたアケチをここに連れてきた何者かの感性を、つい疑ってしまうのである。

 アケチは、思い切って、立ち上がって、ベッドから下りてみる事にした。それから、ドアの元へ向かってみて、このドアがすぐ開くかどうかを確認しようとしたのだ。

 しかし、その時だった。アケチが行動を起こす前に、先に、そのドアが開いたのである。部屋の外から、誰かが、中へと入ってきたのである。

 それは、一人の女だった。髪を手前に垂らして、顔がはっきり見えないように隠していたが、体格から察すると、まだ若い娘らしかった。その子が、盆に乗せて、食事を持ってきたのである。

「お目覚めですね、アケチさん。きっと、お腹がすいたでしょう?これを食べてください」と、その女は言った。案の定、澄んだ、若い娘の声なのである。

 それから、彼女は、テーブルの上に、盆ごと食事を置いたのだった。

「あ、ありがとう」と、戸惑いながらも、アケチが礼を言った。「あのう。ここは、どこなのでしょう?僕は、なぜ、ここに居るのですか?あなたが連れてきてくれたのですか?それと、今日は何日でしょう?」

 アケチは、その娘に、矢継ぎばやに、色々と聞いてみた。せっかく、人が現われたのだから、自分で調べるよりも、まずは彼女に尋ねてみた方が早いのである。

「ここに、あなたを連れてきたのは、私の父です。道の真ん中に倒れていたのを見つけたのだそうです。そして、今日は11月の17日です」娘は、静かな口調で答えてくれたのだった。

 どうやら、今の返答を聞いた限りでは、わざと嘘をついているような部分は見当たらない。この娘のことは、素直に信用しても良さそうなのである。

「それで、行き倒れの僕のことを助けてくれたのですね。でも、それでしたら、このような部屋に連れてきて、介抱してくれなくても、警察に通報して、あとは任せてしまっても良かったのでは?僕の素性は、きっと、持ち物を調べれば、すぐに分かったでしょう?」

「ええ。あなたが誰かは存じてますわ。アケチコゴロウ先生でしょう?だからこそ、父は、あなたの事を、ここにまで連れてきたのです」

 なんだか、話の雲行きが怪しいのである。つまりは、どうも、ただの善意で、アケチの事を介抱した訳でもなかったようなのだ。

 それに、この娘のことも、アケチは、ひどく気になってきた。この子とは、前にも会ったような感じがするのである。それも、けっこう頻繁に。これは、デジャ・ヴと言うヤツなのであろうか。この子の体つきとか、喋り方だとか、身のこなし方とかが、なぜか、アケチには、よく見慣れたものに感じられたのである。

「今日は11月17日か。福田博士のところにお邪魔したのは、16日だったから、1日、ムダにしてしまった事になる。マズい。20日が、もう来てしまう。早く戻らないと」アケチは、娘にわざと聞こえるように、呟いてみた。

 だが、娘は何も答えようとはしないのであった。どうやら、必要以上の事は喋るのを禁止されているような様子なのだ。

「ねえ!教えてください!ここは、どこなのですか?あなたのお父さんと言うのは、誰なのです?」

「ごめんなさい。これ以上、私を困らせないで下さい。私は、父に命じられて、あなたの世話をしに来ただけなのです。多くを明かす事は許されていません。どうか、私の辛い立場を察して下さい」娘は、泣きそうな口調で、詰め寄るアケチへと懇願したのだった。

「と言う事は、僕の予想は、あらかた当たってるんだね?ここは、僕に恨みを持つ誰かのアジトなんだろう?要するに、僕は、自分の敵に捕まってしまった訳だ」

 娘は、やはり、アケチの言葉には答えようとしなかった。恐らくは、全て、図星なのであろう。

 だが、そうなると、あらためて、いろいろと厄介な話になってきたのである。敵は、すぐにアケチを殺すつもりは無かったらしい。一体、そこには、いかなる思惑があったのだろうか?そして、この捕われの身から脱出するには、果たして、どんな方法を使ったらいいものやら。

 娘は、アケチの監視役も言いつけられていたのか、まだ、アケチのいるベッドのそばで、じっと立っていた。この子は、それほど悪い人間ではなさそうだ。一つ、この子をうまく利用して、この牢屋から逃げ出してやろうか。

 アケチ探偵は、そんな事を思案しながら、娘が持ってきた食事にパクついた。わざわざ監禁しておいて、まさか、いきなり食事で毒殺するような事もないだろうと判断したのである。

 そして、その間も、アケチは、ずっと、娘の姿をじっくり観察し続けたのだった。

 ふと、アケチの頭の中で、モヤモヤしていた部分の謎が解けた。そうか。そうだったのだ!

 アケチは、いきなり、娘のそばにまで、体を乗り出した。娘は、ギョッとして、尻込みしたが、アケチの動作の方が早かった。娘は、アケチに、がっちりと肩を掴まれてしまったのである。

「君!ちょっと、顔を見せてくれないか!」と、アケチは、力強く、娘に言った。

「いや、ダメです!困ります!」

 娘は拒絶したが、アケチの手の方が先に動いていた。アケチは、素早く、娘の前髪をかき分けてみたのである。

 彼女の素顔を、一瞬、はっきりと拝む事ができた。なかなかの美人なのである。いや、この美しい顔は、今までにも見た事があった。彼女の顔は、妙子にそっくりだったのだ。

「ああ!やっぱり!」思わず、アケチは叫んだ。

 続けざまに、彼は、その娘の手足にも、目を向けてみた。すると、彼女の右手の手首には、包帯が巻いてあったのが、確認できたのである。多分、ほんの最近のケガの痕なのであろうと推察された。

「そうか、君だったのか!そうか。そうだったのか。やっと、分かったよ」

 アケチは、呆気にとられている娘の前で、ひたすら大声で笑い続けたのだった。

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