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無敵探偵活劇 アケチ大戦争  作者: anurito
玉村一族編
43/169

夜道にたたずむ女

 福田博士と会うと、たっぷりと話し込んでしまい、帰りは、すっかり夜になってしまっていた。アケチは、月の輝く夜空の下、市内の寂れた道を、一人、トボトボと、帰路を急いだのである。

 帰り道も、行きのルートのほぼ逆の道順を通る事になった。だから、その経路のほとんどが、脇道とか裏路地、人気のない道路ばかりなのだ。

 今、アケチが歩いていた場所も、他に誰の姿も見かけないような、ひっそりとした一本道だった。道の片側は崖となっていて、その下の方には、幅のある川が流れており、道のもう一方には、ずうっと、高い塀がそびえていた。そのような景観が、数百メートルほど続いていたのだ。

 夜に歩くには、かなり不気味さを感じさせる一本道ではあったが、それでも、ところどころに街灯は立っていたし、何よりも、今日は月夜だったので、そこそこに明るくて、周辺の様子はくっきりと見渡す事ができたのだ。

 ゴルフクラブケースを背負ったアケチ探偵が、この道をグングン進んでいくと、やがて、前方の道ばたに、うずくまっている人間の姿を確認した。

 その人物は、アケチの方には背を向け、川の方を見て、座り込んでいるのである。真っ黒い服を着ていた。きゃしゃな体格をしていて、どうやら女性みたいなのだ。

 アケチが、さらに、その人物のそばにまで接近すると、すすり泣く声が聞こえてきたのだった。その謎の女性が泣いていたようなのである。

「どうしましたか?」と、アケチは、その女性に声をかけた。

 名探偵としては、このような状況に遭遇したら、やはり、素通りする訳には行かないのである。

「あたし、大事なものを無くしてしまいましたの」その女は、顔を伏せ、アケチの方には背を向けたまま、答えた。

「それは、お困りですね。この近くで落としてしまったのですか」

「いえ。落し物ではありません」

「では、どのように無くされたのですか。僕は探偵ですので、見つけるのを、お手伝いしてあげますよ」

 すると、女は、ゆっくりとアケチの方に顔を向けたのだった。

「そうよ。協力して!あたしの大切なものを奪ったのは、あなたよ!返してちょうだい!」

 女が鋭く言い放ったので、アケチは、ハッとして、後ずさりしたのである。

 女は、ゆっくりと立ち上がった。夜の暗がりの中、うっすらと彼女の顔が見えた。

「あ!お前は、黒トカゲだったのか!」すかさず、アケチが怒鳴った。

 そう。その女の顔は、あの美しい黒トカゲのものだったのである。声も、確かに、黒トカゲだった。よく見ると、黒衣の右腕の部分も、中身がなくて、ぺちゃんこのまま、ブラブラ揺れているのである。

「アケチ先生。本当に、あなたはヒドい人だわ。あたしの右手を返してよ。ほら、隠してたって、分かるわ。そのゴルフケースの中にあるのでしょう?」

「これを君に戻す訳にはいかないよ。これは、警察の大事な回収物だからね」

「でも、本当の所有者は、あたしよ。返しなさいよ。返してよ」黒トカゲは、すがるように訴え続けたのだった。

 そんな彼女の姿を、アケチは、無言で、ずっと眺め続けていた。そのうち、アケチは、吹き出して、笑い出したのだった。

「お前、本物の黒トカゲじゃないな。さては、ニジュウ面相の変装かい?おい、一体、これは何のマネなんだ。羅生門の鬼ごっこでも、やろうってのかい?」アケチは、楽しそうに、そう尋ねたのである。

 途端に、対峙していた黒トカゲの表情が、ムッとしたものに変わったのだった。

「さすがですね、アケチくん。どのあたりで、私の変装だと気が付きましたか?」と、黒トカゲ、いや、ニジュウ面相は言った。声質も、すっかり男の低音になっているのである。

「悪いけど、黒トカゲとは、お前よりも、僕の方がずっと付き合いが長いもんでね。お前が付け焼き刃でマネしてみたところで、僕には、微妙なニュアンスの違いで、別人だと分かっちゃうんだよ。それに、本物の黒トカゲだったら、今のお前のような挙動は、まず取らないだろうしね」

「ほほう。その君の言葉を聞いたら、本物の黒トカゲくんも、さぞ喜んだ事でしょう。私の変身術も、どうやら、まだまだのようですね」

「で、今回、いきなり、こんなところに現われたのは、この義手の奪回が目的かい?」

「無論です」

「黒トカゲご本人は、なぜ自分で出て来なかったんだい?」

「君も、つくづく、女心の分からない人ですね。貴婦人レディーが、不完全な姿のままでは、殿方とは会いたくない気持ちを察してあげなさい」ニジュウ面相が笑った。

 続いて、彼の体がボコボコと変身しだした。ニョキッと背が伸び、セクシーなプロポーションが、たくましい男の体格にと変わっていった。無かったはずの右腕もピョンと飛び出して、あっと言う間に生えてしまったのだ。

 まさに、変身スーツを使用しているからこそ可能な、ニジュウ面相ならではの驚異の変身術なのである。

 顔は、黒トカゲのままだった。その美しい顔で、ニジュウ面相は、キッとアケチを睨みつけた。

「あいにく、今日はコバヤシくんを同伴していないようですね。今の君からでしたら、難なく、その義手を取り戻せそうです。悪いけど、実力行使と行かしてもらいますよ」

「こりゃあ、天下のアケチ探偵も、そうとう見くびられたものだな」アケチが、自嘲した。

 一方で、ニジュウ面相は、バッと右手を上げてみせた。

 すると、彼のそばに、横にあった塀の上から、何者かが飛び降りてきたのだった。

 一寸法師である。彼は、伏兵として、ずっと、塀の上で待機していて、アケチとニジュウ面相のやり取りを見守っていたのだった。

 なぜか、一寸法師も、カツラをつけ、厚い化粧をして、女ものの服を着て、女装しているのである。

「おほほ。あたいも、黒トカゲよ〜ん」と、ニヤニヤ笑いながら、一寸法師は、お色気を出して、言った。

 もしかすると、こいつは、ニジュウ面相が女に化けるのを見て、急に、自分も同じ事をやりたくなってしまったのかもしれない。全く、この人工生命体と言うのは、その精神構造がよく分からないのだ。

「あいにく、こちらは万全の態勢なのです。今の君を相手に、二人掛かりなら、まず任務に失敗する事もないでしょう。今回は、君を不必要に傷つける気はありません。だから、おとなしく、その義手を、こちらに引き渡していただけませんか」

「なるほど。ますます、面白くなってきたな」アケチは、笑ってみせた。

「コバヤシくんが居なければ、コゴローになる事もできないのでしょう?周りには助けてくれる人間もいませんし、君には絶対に勝ち目はありません。さあ、私の言う事におとなしく従ってください」

 一寸法師を引き連れたニジュウ面相は、すでに勝ち誇った感じなのである。

「どうやら、福田博士から貰った薬の効果を、いきなり、試してみる事になったようだな」決して諦めた様子ではないアケチは呟いた。

 そして、彼は、自分の服のポケットから、すばやく、小さな粒を取り出したのだった。

 それは、丸薬であった。アケチが二重体質だと聞いて、福田博士が調合してくれた、特殊な薬物なのである。正確に言えば、高濃度の食用アルコールを固体化して、凝縮したものなのだ。博士の説明によれば、この丸薬をアケチが服用すれば、一気に酔いが回ってしまい、すぐに体質チェンジができるはずなのであった。

 アケチは、ためらわずに、グイッと、その丸薬を飲み込んだ。

 すると、途端にである。アケチは、いつもの、コゴローに変わる時の感覚にと襲われたのだ。

 彼の姿は、たちまち、コゴローへと変わっていった。顔つきもキツくなり、筋肉も盛り上がっていった。あまりに早い変身に、ニジュウ面相たちも、うっかり、邪魔しそこねてしまったのである。

「こ、これは一体・・・」ニジュウ面相は、すっかり、うろたえていた。

 彼の目の前では、完全にコゴローと化したアケチ探偵が、やる気満々で身構えていたのだ。

「これで、形勢逆転だな」得意げにコゴローが言った。

 しかし、さすがは、超一流の怪盗のニジュウ面相であった。怯んだのは、ほんの僅かな時間だけで、次の瞬間には、とても愉快そうに笑いだしたのだ。

「そうですか。コゴローになってしまいましたか。でしたら、私の方も、手加減する必要はなさそうですね。ならば、私も全力で君にぶつかって、君を殺してでも、その義手を奪う事にいたしましょう」

 そして、今度は、ニジュウ面相の方が、変身する番となったのだった。

 彼は、両手を、ピンと真っ直ぐに頭上へと上げた。それから、急速に、彼の体に変化が起き始めたのだ。正しくは、彼が着ていた変身スーツが変形トランスフォームしだしたのである。

 ニジュウ面相の胴体が、全体的にムクムクと膨らみ出した。頭上にある両手の先の拳も、グングン大きくなるのだ。彼の尻からも、何かがニョキニョキと伸びてきた。脇腹からも、いくつもの細い触手がスーッと飛び出していった。当然、羽織っていた黒衣も裂けて、破れ散り、頭や顔だって、人間ならざるものに変わっていったのだ。

 たちまち、そこには、奇怪な生物が姿を現わした。

 全身が、真っ赤なのである。ニジュウ面相の変身スーツは、変形とともに、表面の色すらも切り替わるようなのだ。それが、明るい月夜だったものだから、はっきりと見えたのである。周辺が暗い中、そこだけが、切り抜いたように赤い光景は、なんとも異様なのだ。

 この怪物の正体は、サソリであった。ニジュウ面相は、人間よりも一回りも大きい、化け物みたいな巨大なサソリにと変身してしまったのである!

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