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無敵探偵活劇 アケチ大戦争  作者: anurito
玉村一族編
42/169

福田博士の異常な研究

本章以降、当分の章は、作中の出来事が起きた日付が正確に設定されていますので、

よって、現実リアルの日付とシンクロさせて、公開アップしていきます。

 その日、アケチ探偵は、ようやくアポが取れた福田得二郎に会いに出かけていた。

 福田得二郎と言うのは、玉村善太郎の実の弟である。それだけではなく、つい最近まで、軍の兵器開発部門の総責任者も務めていた、我が国のトップの科学者で、最重要人物でもあったのだ。

 兵器開発部門の責任者を引退後も、その立場上、福田博士は、多くの重大な情報を知っていた為、国内外のスパイや悪人たちからも狙われる身となった。

 そもそもが、あまり社交的ではなく、いまだ独り身だった福田博士は、自身を守る意図から、現在の所在地を完全に伏せてしまい、全くの隠遁生活に入ってしまったのである。トーキョー・シティの西北の郊外あたりに住んでいると言う事以外は、福田博士の今日の居場所は、ほぼ謎であった。彼の現状については、政府の一部のお偉方しか知らず、それらのツテを頼る事で、アケチ探偵も、やっと、福田博士との接触が可能となったのである。

 とは言え、福田博士は、とにかく用心深かった。

 会ってもいいのは、アケチ一人に限定する。それも、そうとうに警戒して、絶対に、第三者には、福田博士の今の居住地がバレないように、十分に慎重な道順を通って、福田の所在地まで来る事をお願いされたのだった。

 だが、探偵であるアケチにとって、それは、もっとも得意な分野だったとも言えたのである。

 まずは、福田博士の現在の居住地の近くまで、助手のコバヤシと一緒に、車で乗り込んだアケチは、とりあえず、そこでコバヤシは待たせておき、あとは一人だけで、福田の住んでいる場所へと向かった。それも、お得意の探偵術を駆使して、もし尾行者がいたとしても、全て、まいてしまえるように、わざと無駄なルートや人気のない道ばかりを選んで、それらを通過して、やがて、そろそろ安全だろうと確信を持てた事で、ついに、福田のいる真の住居にとたどり着いたのである。

 アケチは、福田博士がいるはずの部屋のドアの前に立った。彼は、静かに、そのドアを叩いた。

「福田先生、いらっしゃいますか。約束していたアケチコゴロウです」と、アケチは、穏やかな口調で、ドアの向こうへと呼び掛けた。

「うむ。本物らしいな。よろしい。入りなさい」ドアの向こうから、老人の声が聞こえた。

 同時に、ドアのロックが、自動で外れたのである。アケチは、ドアを開き、その中へと入っていったのだ。

 ドアの向こうにあったのは、質素で、こじんまりとした部屋だった。中央には、月並みなテーブルが置かれており、その奥の方の椅子に、福田博士は腰掛けていたのである。

 福田博士は、兄の玉村善太郎よりも年下のはずであったが、はるかに老けて見えた。頭も禿げていたし、老眼鏡もかけているのだ。しかし、それは、これまでの人生で、彼が、それだけ激しく頭を使い、沢山の精力も費やしてきた事を意味していた。

 それから、博士は、太股ももの上に、一匹の白い猫を抱いていたのであった。猫もよく懐いていたし、博士もこの猫をとても可愛がっていたようだ。隠遁していたとは言え、実際は、博士も寂しい時もあったのかもしれない。

 さて、簡単な社交辞令の挨拶を交わしたあと、アケチは、福田博士の向かい側の席にとついたのだった。こうして、誰の邪魔も入らない状態で、二人の密談が始まったのである。

「アケチくん。君の名声は、わしの耳にも届いておるよ。探偵職を生業にしているようだが、やはり、人工生命体、そう、君たちが一寸法師と呼んでいる人物のことで、わしに話を伺いに来たのかな」福田博士が聞いた。

「はあ。一寸法師のことも、色々と教えてもらいたいとは思っていましたが・・・」そう言いながら、アケチは、背負っていたゴルフクラブケースを、テーブルの上におろした。クラブが数本だけ収納できる、細いタイプのケースなのだ。「とりあえず、こちらを見ていただきたかったのです」

 アケチは、クラブケースを開いた。すると、その中に入っていたのは、ゴルフクラブなどでは無かった。そのケースの中から、アケチが取り出したものは、銀色の金属製の義手だったのである。まるまる右手一つ分あって、かなり精巧なロボットアームなのだ。

 福田博士も、その鉄の義手を、驚いた表情で眺めていたのである。

「これを最初に入手した時は、表面が人間の皮膚で覆われていました。本物の人間の右腕にしか見えない状態だったのです。鑑識が分析する過程で、表皮は全て剥がしてしまいましたが、本体の方も驚愕すべきメカニズムです」

「これは、どこから持ってきたのかね?」

「それは、博士の方がご存知でしょう?だって、これは博士が開発したものなのですから」

 そう言って、アケチは、鉄の義手のはじの方に小さく刻まれた文字を、福田にと見せたのだった。そこには、「T.HUKUDA」と書かれていたのである。

「おっしゃる通り。これは、わしが作った特製の義手だ。まさか、ここで再会するとは思わなかったよ」福田は、呑気に笑った。

「何しろ、これは、あなたが、軍の兵器開発部門にいた頃に考案したものの一つですものね。もっとも、予算の関係でNGとなり、実用化はされず、幻の発明品になってしまったらしいですが」

「そこまで調べがついているのか?さすがは名探偵だ」

「でも、だからこそ、よく分からないのですよ。なぜ、開発中止になったはずの製品の実物が、このように存在しているのでしょう?見たところ、サンプル品でもないようですが」

「その義手は、特注品じゃ。わしが、個人的に作って、さる貴婦人にプレゼントしてあげたのだよ」

「なるほどね。そう言う事情だったのですか」

「その義手は、本来、戦場で手足を無くした兵士の為に開発したものだった。最新型だ。脳波によって、本物の手のように自由に動かす事ができるのだよ。だが、政府のお偉さん方は、コストがかかり過ぎると言って、量産ラインには乗せてはくれず、世には出回らなかった。この義手や義足が普及すれば、沢山の負傷者が以前のような生活を取り戻せたと言うのにだ」

「確かに、すごい製品だとは思います」

「ほんとを言えば、わしは、戦争には反対の考えを持っているのだ。戦いや争いは、人間を不幸にするだけだからな。にも関わらず、わしは、無理やり、兵器開発部門の責任者を任されてしまった。だからこそ、わしは、その地位を利用して、人を殺すよりも、むしろ、戦争の犠牲者を無くす目的の発明に専念したのだ。この義手も、そのような発明の一つだった。人工生命体を誕生させたのも、人工生命体を戦場の前線で戦わせて、人間の兵士は戦地に送らないようにする為だった。仮死剤クラーレだって、兵士を死なせない目的で開発した薬剤なのだ。それなのに、軍の上部は、これらの発明はいずれも不採用とし、しまいには、わし自体を兵器開発部門から追放しおったのだ」

「先生の平和への熱いご意志は、よく分かりました。でも、今はとりあえず、この義手について、もう少し、詳しい事を教えていただけないでしょうか」

「あれは、確か、緑川と名乗る、若い未亡人じゃったな。たまたま知り合ったのだが、気の毒にも、彼女は、不慮の事故で両腕を失っていたのだ。たいへん美しいご婦人でな。それだけに、両手のない姿は、ますます不憫じゃった。彼女が、どこで聞きつけたのか、軍のこの義手の情報を知っておったのだよ。そして、彼女の方から、わしに、自分専用の義手を作って欲しいと言う話を持ちかけてきたのだ」

「そりゃあ、完全に、義手目当てで、先生に近付いてきたんですね。その女の正体はね、黒トカゲと言う女盗賊だったんです。反対勢力の罠にはまって、両手を落とすような抗争か事故にでも巻き込まれたのでしょう」

「その辺の事情は、わしは知らん。わしは、ただ、彼女が気の毒に思っただけじゃ。だから、わしは、オーダーメイドで、彼女用の特別の義手を製造して、彼女に提供したのだ。あくまで、わしからのプレゼントだから、代金は貰わなかった。彼女は、本当に愛らしく喜んでおったよ」

「先生は、善意で、そのような事をしたのかもしれませんが、結果的には、それが悪の増長に繋がってしまったのです。両手を無くした事で、おとなしく、悪の社会から身を引いたかもしれなかった黒トカゲは、再び勢力を取り戻してしまいました。いや、優れた義手のおかげで、むしろ、より権勢を大きく広めて、暗黒街の女王にまで成り上がってしまったのです」

「その義手には、そんな危険な機能は備わっていなかったはずだが」

「ところが、そうでもないのですよ。この義手は、持ち主の脳波を、直接、感知して、その指令どおりに動きます。生きた人間の手足を動かす構造だって、脳からの電気信号の伝達によるものなので、似たような仕組みなのですが、こちらの義手は、機械メカニックである分、命令の伝わるスピードが、生身の体よりも、格段に早いのです。よって、この義手を駆使する黒トカゲは、超一流のスリ、早撃ちなどの才能を発揮するようになったのです」

「道具をどのように使うかは、持ち主の判断に委ねられている。義手そのものを非難すべきではないと思うが」

「いいや。実は、他にも、問題があるのですよ。この義手は、表皮に、人間の皮膚を採用してますよね?」

「うむ。少しでも、本物の肉体らしく見せる為にね」

「でも、人間の皮膚を使ってますと、この表皮を傷つけた場合は、修復する為には、また新たな人間の皮膚が必要になってきます。黒トカゲはね、この義手の表皮を、いつでも、きれいな状態に保てるように、不正なルートから、人間の皮膚を仕入れているらしいのです。死体から盗むケースもあるでしょうし、皮膚が目当てで、人殺しもしているかもしれません。なんにせよ、人間の皮膚なんて、マトモな手段では、普通は手に入りませんからね」

「そんな事になっておったとは、わしも、ちょっと想像しておらんかったよ」

「あなたは、人工生命体すらも開発していたのです。せめて、義手用に人工生命体の皮膚を用いる事とかは考えなかったのですか?」

「人工生命体の細胞はね、死ぬとすぐに崩壊してしまうのだ。義手の表皮には向かなかったのだよ。義手用の皮膚は、やはり、本物の人間の皮を使うに限る」

 福田博士の口からは、黒トカゲの知られざる秘密が、次々に明かされていくのだった。

「聞きたい話は、これで全てかね?」ひと通り喋り尽くした福田博士が、アケチに尋ねた。

 だが、アケチとしては、せっかく、謎の人物だった福田博士に、ようやく会えたのだ。この機会に、義手以外の事も、色々と話を聞いておく事にしたのである。

「あなたの実の兄である善太郎氏が、現在、ある事件に巻き込まれている事については、ご存知でしたか?」

「一応はね。だが、わしには関係のない話だ。兄とは、もう20年以上、連絡を取っていない」

「しかし、賊は、どうやら、玉村家の血縁者全てを憎んでいるかのような様子なのです。博士も、身の回りには、どうか、お気を付けてください」

「わざわざ、ご警告ありがとう」

 軽く表面的なやり取りを交わした後、いよいよ、アケチは本題に入ったのだった。

「ところで、あなたには、玉村の家や善太郎さんの事をそこまで憎んでいる人物について、何か、心当たりはないでしょうか」

「兄は、昔から、とにかく狡猾な人間だった。きっと、多くの人間から、恨みを買っていただろうね」

「例えば、奥村源造氏と関係のある人で、善太郎さんを憎んでいた人物とかは、記憶にありませんか?」

「奥村源造?ああ、あの資産家の?彼の事だったら、わしも、よく覚えておるよ。一時期は、本物の兄弟のわし以上に、善太郎とは仲が良かった。いや、正確には、完全に、兄の金づるにされていたのだがな。奥村くんは、人の良い世間知らずじゃった。そのクセして、宝石蒐集や歴史的遺物の探索など、趣味が豊富で、親が残した財産を湯水のように使いまくっておった。そこへ、まだ新進の宝石商だった兄が、うまく取り入って、甘い汁を吸っていたようにも見えたのだが」

「奥村さんの最後は気の毒でしたね。確か、アタミのカガミヶ浦で海難事故に遭って、行方不明になったとか」

 アケチがその話を持ち出すと、福田は、急に、口もとだけで笑い出したのだった。

「その事故なんだがな、今だからこそ、お話するが、どうも、不審な部分がいっぱい合ったらしいのだ。奥村くんの死体は、結局、見つかっていない。実は、他の場所で殺されて、あとから、カガミヶ浦で遭難した事に、偽装されたのではないかと、当時から、一部の人間の間では、噂もされていたほどなのだ」

「何ですって!」

「この事故については、当時のニュースや新聞記事を、あらためて、よく調べてみたまえ。きっと、探偵の君なら、色々と不可解な点にも気付くだろうと思うよ。わしだって、本音を言えば、奥村くんの事故には、実は、うちの兄が絡んでいたんじゃないかと疑ったりしているのだ。はっきりした証拠はないんだがな」

「なぜ、善太郎さんが怪しいと?」

「当時の奥村くんの愛人だった瑠璃子さんなのだが、彼女は、裏では、うちの兄とも繋がっていたんだよ。つまり、不倫していた訳さ。これは、一部の身内しか知らない秘密だった。のちに、瑠璃子さんは妊娠したのだが、その子が本当に奥村くんの子だったのかも、ひどく怪しいものだ。奥村くんの死が認定された後は、うちの兄は、腹のなかの子供ごと、瑠璃子さんを引き取っている。瑠璃子さんの子が、兄の子だとすれば、そのような対応をしたのも当然だろう。しかも、その子と一緒に、兄は、奥村くんの残した全財産まで、手に入れちゃった訳だ。全く、ずる賢い兄がやりそうな事だよ」

 いやはや、福田博士に話を聞けて良かったと言うものだ。まさか、こんな貴重な裏話を聞き出せるとは!

「で、その奥村さんの忘れ形見というのは・・・」

「うちの兄の養子となった。それが、兄の子供たちの一番上の娘の綾子なのさ。綾子ちゃんは、花崎俊夫という検事に嫁いだので、探偵である君も、全く知らぬ存在でもないだろう?」

「はあ。花崎氏とその娘のマユミさんとは、こないだもお会いしました」

「奥村くんも、まことに気の毒なものだ。財産も家族も、根こそぎ、うちの兄に奪われてしまったのじゃからな。全ての事実を知ったら、とうてい浮かばれる事もできんじゃろう」

「奥村さんに、他に、家族とか、親しい仲間とかは居ませんでしたか?」

「さあな。わし自身も、そこまで、奥村くんと懇意にしていたのでもないからな。わしの知る範囲では、奥村くんには、兄と瑠璃子さん以上に仲良くしていた人物はいなかったような気もした。現在では、瑠璃子さんも綾子ちゃんも亡くなってしまったので、彼女らも、君の探し人には該当していないだろう?」

 とにかく、もっと掘り下げたい新事実の連続なのである。アケチは、推理を働かせてくなってきて、ちょっと考え込んでしまったのだった。

「さてと、アケチくん。どうも、わしばかりが話をしていたようだ。それは、いささかフェアじゃないような気もする。君も、わしの為になるような情報をよこしてくれても良いんじゃないかな」

 最後の最後で、福田博士は、突然、そんな事を言い始めた。

「え?何を知りたいのですか?僕の顧客の不利にならない範囲の情報でしたら、ご提供いたしますが」

「なあに。君の顧客の話なんかじゃないよ。わしが知りたいのは、君自身の事だ」

「僕の情報?」

「そう。君は、二重体質者だそうじゃないか。わしも、二重体質の仕組みについて、ぜひ、じかに調べてみたいと思っていたのだ。で、どのような感じなのかね?君は、どんな時に、体質が入れ替わるのだい?」

「二重体質の変身症状は、色々あります。僕も、自分の体質は、そこそこに研究してみました。お酒で泥酔とかすると、僕の意思とは関係なく、変身してしまう事もありますが、とりあえず、僕は、自分を鍛えて、条件反射によって、ある種の合言葉を聞くと、即座にチェンジできるようにもなりました」

「なるほど。興味深い話だ」

「それ以外にも、時間はかかりますが、心を落ち着けて、精神統一を続けていれば、なんとか、体質を入れ替える事もできます。あと、肉体が極度のピンチに陥った時も、本能的に変身チェンジしてしまった事もありました。と言うのも、僕のもう一つの体質は、肉体的ダメージにたいへん強いのです」

「つまり、体質変化を起こすには、まだまだ、不確定な部分に委ねられていると言う事だね。そこでじゃ。実は、わしも、二重体質の事を密かに分析していて、新しい試みを閃いたのだが、あいにく、これまでは良い被験者が見つからなくてね・・・」

 ここで、福田博士は、アケチに、何やら、ある提案を持ちかけてきたのだった。

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