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無敵探偵活劇 アケチ大戦争  作者: anurito
玉村一族編
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玉村家をめぐる因縁

 とんだハプニングで幕を閉じた玉村家の食堂での集団説明会のあと、当主・善太郎とアケチ探偵は、善太郎の書斎にて、なおも、二人っきりの会合を続けていた。

 小さなテーブルを間に挟んで、ソファチェアに腰掛けた善太郎とアケチ探偵が向き合っている。

「先ほどは、お見苦しいところを見せてしまいました。でも、あなた方を狙っている敵が、いかに恐ろしい奴らなのかも、分かっていただけたのではないのでしょうか」アケチは、慎重に陳謝した。

「十分に警戒したいとは思っておるよ。でも、なんで、そんな連中が、よりによって、我々一家を狙っているのかね?そのへんが解せないのだが」と、善太郎。

「おや。本当にそうですか。実は、先の上映説明会では触れませんでしたが、私どもの方では、あなた方の一族と暗黒星の間の関係性についてを、もっと深く掘り下げていたのですよ」

 アケチの言葉に、善太郎は、ビクッと顔を引きつらせた。

「ほら。思い当たる事があるのでしょう?でも、何も知らないあなたのご子息たちに余計な不安を抱かせたくありませんでしたし、こうして、あなたにだけ、こっそり、僕たちの方で調べ上げた事をお話しておく事にしたのです」

「何を言いたいのかね、君は」善太郎は明らかに動揺しているようだった。

「隠したってムダです。あなたは、今の財産を築く為に、若い頃は、そうとうムチャな事もやってきたでしょう?もしかすると、その時に作った恨みが、今回の事件にも関係しているかもしれないと、僕は指摘しているのです」

「わ、わしは合法的に商売してきた。他人の恨みを買う覚えなどないはずだ」

「さあて、どうでしょうね。あなたが合法的なつもりでも、相手に多大の憎しみと屈辱を与えていた可能性もあります。例えば、ここから見えている、あの時計塔ですが・・・」

 アケチは、そばの窓へと目を向けた。

 そこからは、この玉村邸の別館の一つである時計塔の全景を拝む事ができた。文字通り、5階建てのひょろ長い建築物の頂上には、大きな時計の文字盤がついているのだ。こんなものを自宅に持っている事で、それは、玉村家の莫大な財力の象徴にもなっていたのだった。

 時は夕刻であり、薄暗い周囲の景色の中で、時計塔も黒ずんで、不気味にそびえ立っていた。

「あの時計塔の巨大な文字盤のある階は、もともとは、老舗の丸伝時計店が、自社のシンボルとして、本店の屋上にと飾っていたものでしょう?ところが、丸伝時計店は、戦後の販売競争に負けて、あなたの会社に吸収合併されてしまった。そして、あなたは、丸伝時計店の本店の方は取り壊してしまい、丸伝時計店に打ち勝った事をひけらかす戦利品のつもりで、あの文字盤だけを、自宅の敷地内に持ってきた訳だ。丸伝時計店の側の人間にしてみれば、この仕打ちは、さぞ、屈辱的だった事でしょうね」

「おいおい。それが、ビジネスの勝負というものではないか。その程度の事で、いちいち、命を狙われるほど憎まれたのでは、溜まったものではないよ」

「もちろん、丸伝時計店の話は、例えばの話に過ぎません。でも、もっと怪しい話が、他にも色々と見受けられるのです。あなた一人の周りだけではなく、玉村一族全体でね」

「なに?」

「そう。先ほども伺いましたが、あなたの家族には、もう一人、一番上の長女がいらしたそうですね。確か、綾子さんと言うお名前でしたっけ。彼女は、すでに結婚して、家を出てましたが、その嫁ぎ先を思い出してください」

「綾子の嫁ぎ先とは、綾子が亡くなったあとも交友を続けているが、決して、おかしな家柄の人間などではないぞ。花崎俊夫と言って、今でも検事として現役で働いている、とても立派な人物だ」

「おっしゃる通りです。本当を言いますとね、僕も、花崎さんの事は、大変よく存じ上げているのです。お互い、街を脅かす犯罪と戦う同志ですから。でも、そこに、ちょっと問題もあったようなのです」

「どこに?」

「猟奇殺人魔のクモ男については、食堂での説明会でも紹介しましたが、この犯罪者の事は、私どもも一度は捕えていて、刑務所送りにしています。だけど、この男を裁く際に、その裁判で検事を担当していたのが、花崎さんだったのです」

「何だって!」

「クモ男にしてみれば、自分を断罪した花崎さんの事は、逮捕した僕と同じぐらい、憎らしい相手だったでしょうね」

「じゃあ、何だ?わしの一家は、娘が嫁いでいたと言うだけの理由で、花崎氏に向けられるべき恨みまで、とばっちりで、向けられていたと言うのかね?」

「まあまあ、落ち着いて。これは、あくまで、考えられる動機の一つです。暗黒星の奴らは『玉村の一族を許さない』と言っていたでしょう?つまり、彼らは、あなたたち一家だけを憎んでいるのではなく、玉村家の血筋と結びついた人間のあちこちに恨みを抱いているようなのです。玉村さん、あなたには、他に、実弟もいらっしゃると、おっしゃってましたよね」

「ああ。子供の頃から、弟は、非常に学業成績が優秀でね。それで、商人の玉村家で育てるよりも、学者の家で学んだ方が良いだろうと判断されて、若いうちに、大学教授の福田氏の元に引き取られていった。それっきり、弟は福田を名乗るようになり、もちろん、その後は、とても優れた科学者になって、世に貢献したと言う話だ」

「ええ。そのへんの経歴も、すでにリサーチ済みです。弟さんの現在の名前は、福田得二郎と言いましたね?」

「うむ。そうだが」

「弟さんは、その頭脳と博識ぶりを買われて、最終的には、軍の兵器開発部門の責任者を受け持つほどになりました。今は引退して、隠遁生活を送っているとも聞きますがね。でも、この弟さんが、軍の開発部門で責任者をしていた頃に製造された兵器の一つが、どうやら、あの一寸法師だったらしいのです」

「ええ?」

「創造物と言うものは、自分を生み出した存在に対して、常に、憎しみも抱くものです。一寸法師だって、自分を作り出した元凶である福田得二郎氏に、ひそかに憎悪を持っていたとしても、決して有りえない話ではないでしょう」

「待て!弟のやらかした不始末のせいで、なぜ、わしらが狙われなくてはいけないんだ!」

「だから、連中は、玉村一族の全体が憎いのですよ。その根幹にいるのが、善太郎さん、あなたの一家なのです。それで、まずは、あなたの家族から襲う事にしたのかもしれません。でも、善太郎さん、あなたの事だって、実は憎んでいる奴がいるのかもしれないんですよ。それで、僕は、さっきから、心当たりがないかを聞いていたのです」

「知らんよ、そんなものは」

「そうでしょうか。実は、僕は、あの魔術師と名乗る犯罪者のことを調べていて、ちょっと気にかかる点を見つけたのです。彼は、凶悪な強盗団として、これまでに、何か所もの宝石店や金持ちの家を襲ってきたのですが、その被害先には何の共通点もないように思われてきました。杉村宝石店、早瀬時計店、小倉男爵家、北小路侯爵夫人家などが襲われていて、殺人すら起きているのですが、それにも関わらず、連中は襲撃先の財宝を根こそぎ奪っているのではなく、いつも、一部の宝石を奪うだけでとどめているのです。例えば、小倉男爵家の事件では有名なダイヤモンド、北小路侯爵夫人家からは首飾りだけが盗み去られました」

 善太郎は、神妙な顔になって、アケチの説明に聞き入っていた。

「善太郎さん。そろそろ、あなたも思い出してきたのではありませんか。そうですよ。これらの魔術師の強奪品は、いずれも、あなたの宝石会社が売りに出したものなのです。小倉男爵に特大のダイヤモンドを、北小路侯爵夫人には値打ちものの首飾りを販売した事を覚えていませんか。彼らは、これらの貴重な宝石類を購入したばかりに、魔術師に襲われ、中には、不幸にも、命を落とした者までいるのです!」

「わ、わしは、ビジネスとして、自社の商品を売っただけだ!これらの事件が起きたのは、わしのせいだとでも言いたいのか!」

「落ち着いてください。まだ、この話には続きがあります。僕はね、さらに、魔術師の強奪品の共通点も調べてみたのです。すると、これらの一連の宝石は、もとは、一人の財産家のコレクションだった事も判明したのです。おっと、知らないとは言わせませんよ。それは、奥村コレクション。あなたは、その持ち主である奥村源造さんが亡くなったあと、この宝石コレクションを譲り受けて、そして、自分の店で、売りに出したのでしょう?」

 全てが図星だったらしく、善太郎は、渋い表情のまま、何も答えようとしなかった。

「善太郎さん、別にあなたを責めているのではありません。奥村氏のコレクションを手に入れたのは、きちんとした法の手続きを踏んでの事だったのでしょうし、自分のものになった宝石を売りに出してしまうのも、あなたの自由ですからね。しかし、その事が、どうも、今回の事件と繋がっているらしい事だけは覚えていていただきたいのです」

「そこまで気付いているんだ。わしと奥村が、若い頃、交流があった事も調査済みなんだろうね?」

「ええ、もちろん。だから、奥村さんの死後、奥村さんの財産は、あなたが相続できたのでしょう?」

「奥村とわしは親友だった。でも、奥村は、アタミのカガミヶ浦で海難事故に遭い、行方不明になってしまった。わしは、その事で、一人になってしまった奥村の愛人を不憫に思い、わしのところに引き取ってやったのだ。愛人は妊娠中だった。のちに奥村の子を産むが、その子をわしの養子にしたのだ。だから、奥村の財産が、全て、わしのものになったとしても、それは全くの合法なのだ。アケチくん、そのへんも、すでに調べがついているのだろう」

「はい。全て、あなたのおっしゃった通りです。確かに、あなたは、奥村氏に対して、誠意の限りは尽くしていても、恨まれる筋合いはないはずなのです。ただし、そうだとしても、魔術師の正体が、どうも、亡くなった奥村氏と深く関わりのある人物らしい事だけは、心に留めておいていただきたいのです」

 善太郎は、しばし、黙り込んでいた。どうやら、昔の思い出に耽っていたようだった。

 さて、その時である。

「あ!あれは?」アケチ探偵が、素っ頓狂な声を出した。

 彼の目は、窓の外に向いていた。あの時計塔の方を眺めているのである。

 夜はさらに更けて、景色はかなり暗くなっていた。時計塔も、輪かくだけを残して、真っ黒なのだ。

 しかし、その時計塔の5階のあたりに、なぜか、チカチカと小さな光が灯っていたのである。

「ああ、あの光かい。気にしなくて良いよ」と、善太郎の態度は、意外と冷静だった。

「で、でも・・・」

「あの時計塔は、昔っから、幽霊塔とか呼ばれていて、よくある事なんだよ。きっと、何らかの自然現象なのだろうね。あのような古い建築物では、時には、不可思議な現象だって起きうるものなのだ。一郎などは、あの光を鬼火などと呼んでおったが。まあ、別に人に危害がある訳でもないし、いちいち、気にしていても、仕方あるまい」

「暗黒星の仕業とは考えられないのですか」

「あの鬼火は、もう半年も前から、時々、時計塔のあの場所に現われている。しかし、だからと言って、そのあと、何か悪い事が起きたという話もない。犯罪と関係があるとは思えんよ」

 今度は、アケチの方が、怪訝げに、黙り込む番だった。

 一方で、夜の時計塔の5階あたりでは、なおも、小さな光が怪しく輝き続けていた。

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