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無敵探偵活劇 アケチ大戦争  作者: anurito
玉村一族編
39/169

闇に踊る一寸法師

 歓楽街のすでに暗くなった通りを、小型犬ポメラニアンのシャーロックを先頭に立てて、アケチ探偵とコバヤシ助手が、敏速に進んでいた。

 追跡ターゲットである妙子は、もはや、300メートル以上は前の道路を歩いていて、もう目視では姿を確認できなかったにも関わらず、こうして、探偵犬に追わせてみれば、実にラクに尾行し続ける事ができるのである。

 コバヤシも、これには、すっかり感心していた。

「探偵犬が、こんなにも便利だとは、はじめて知りました」と、コバヤシは、ただただ、驚きの言葉を漏らしているのである。

 だが、当のシャーロックは、そんな賞賛には少しも興味を示さず、相変わらず、地面をガツガツ嗅ぎながら、ひたすら任務を遂行しているのだった。

「探偵犬のさらに応用した使い方を教えてあげよう」アケチは言った。

 彼は、仕事中であっても、弟子への教授を決して怠ったりはしないのである。

「今回は、身内の人間の追跡だったから、そのまま、シャーロックに追わせる事もできたが、実は、素性も分からない容疑者の行き先だって探り出す事ができるんだ」

「どのようにするのですか?」

「まず、その容疑者が使用している自動車を見つけ出す。その車に、こっそりと、コールタールの詰まった缶を取り付けるんだ。この缶の底には、小さな穴を開けておく。すると、車を走らせれば、地面には、ずっと、少しずつ、コールタールが垂れ続ける事になる。この地面のコールタールの染み跡は、人間には分からなくても、探偵犬なら嗅ぎ当てる事ができるんだ。だから、この地面のコールタールを探偵犬に追跡させれば、最後は、容疑者の住処にまで案内してもらえる訳さ」

 アケチのありがたい探偵テクニックの講義を、コバヤシは、真剣に、頷きながら、聞き入っていたのだった。

 そうして、二人が会話しているうちに、シャーロックは、次第にメインの通りを離れ始め、ついには、裏路地へと足を向け出したのである。

「おやおや。妙子さんったら、こんな目立たない道を通り抜けていったのか。さては、彼女も、誰かから、追っ手の上手なまき方でも入れ知恵されたのかな?」アケチは笑った。

 とにかく、シャーロックは、全く迷いも見せず、ビルとビルのすき間へと入っていこうとするのである。それならば、シャーロックの反応を信じて、おとなしく、ついていくしかないのだ。

 かくて、アケチとコバヤシも、シャーロックに引っ張られて、真っ暗な路地裏の中へと足を踏み入れたのだった。

 この細い脇道は、たいへんに暗かったが、懐中電灯をつける訳にもいかなかった。はるか前方には、まだ、妙子が歩いていたかもしれないからだ。灯りをつけて、尾行していた対象に見つかってしまうようなヘマな事はしちゃいけないのである。

 それだけではなく、脇道に入った途端、人混みも無くなり、多様な雑音も聞こえなくなって、一気に静かになってしまった。だから、アケチもコバヤシも、余計な音を立てる事はやめ、自然と、無口となったのだ。

 そうやって、もう少し、黙々と進んでからの事である。それは、いきなりであった。

「お前ら!この先は行かせねえ!」

 アケチたちの耳に、そんな男の声が聞こえてきたのだ。

 それだけじゃない。上方から、何かが、アケチの右肩のスレスレをかすめて、落ちてきたのである。

 その何かは、アケチたちの目の前に立ちふさがった。自分で動いているから、生き物らしい。暗くて、最初は、そのシルエットとなった何かの正体は、すぐには分からなかった。

 どことなく、大きめの日本猿に似ているのである。いや、猿にしては、姿勢がやけにピンとしていた。それ以上に、人間の幼児みたいな感じもするのだ。でも、だとしても、微妙に違和感があるのだった。

「さあ、引き返せ!怪我したくなければな!」

 そう怒鳴って、その何者かは、アケチたち目がけて、襲いかかってきた。

 かなり俊敏な動きなのである。よく見ると、こいつは、左右の手に、刃物を握っていた。物騒にも、それぞれの手に包丁を持って、振り回していたのだ!

「観自在菩薩、行深般若波羅蜜多時」

 その何者かが、アケチとコバヤシのそばを横切って、反対方向へと抜けていった。ただ脅すのだけが目的だったのか、実際には、包丁を切りつけては来なかったのである。

「照見五蘊、皆空。度一切苦厄」と唱えながら、その何者かは、軽やかに跳ねた。

 驚くべき跳躍力なのだ。左右のビルの壁へのバウンドも利用して、三角跳びの要領で、一気に、アケチの身長以上の高さにまで飛び上がったのである。そして、そいつは、今度は、アケチたちの頭上を、鮮やか飛び越えていったのだった。

「あ!分かったぞ!こいつ、一寸法師だな!」アケチが叫んだ。

 彼は、すれ違う瞬間に、素早く、この怪物の全身を見切ったのだった。その正体は、猿でも幼児でもなかった。子供のような体に、大人の男の顔を持った凶悪犯罪者、一寸法師なのだ。

「え!なぜ、こんな場所に一寸法師が?」と、コバヤシもうろたえた。

「へえ。お前らは、おいらの事を知っているのかい?」正体を看破された一寸法師が笑った。別に素性がバレたところで、何も気にしてはいないようなのだった。

 小柄な一寸法師は、実に身が軽かった。アケチたちを翻弄するように、彼らの周りを、前後左右、さらには上下へと、まるで踊りでも舞っているように、せわしく飛び回っているのだ。

「舎利子。色不異空。空不異色」

 彼は、そんな念仏を口にしながら、時々、アケチたちの方へも向かってくるのだが、本気で、包丁で切りつけてくるようなマネはしなかった。どうやら、目的は、あくまで、アケチたちを怖がらせて、追い払う事だけらしいのだ。

 アケチたちも、一寸法師の奇襲を前にしては、完全に足止めを食らっていたのだった。

「ほら!いい加減、逃げたらどうだ!」

 しびれを切らした一寸法師が、ピョンと飛び上がって、アケチの顔に蹴りを入れてきた。そのキックは、アケチの顔面をかすめ、掛けていたサングラスを弾き飛ばした。

「あ!お前は、アケチコゴロウ!」

 相手の顔を見て、誰だったのかを初めて知って、今度は、一寸法師の方が驚いたのであった。まさか、こんな場所でアケチと対面するとは思っていなかったのだろう。

 一寸法師は、ちょっと本気モードになったのか、サッと両手の包丁を構えた。

 アケチとコバヤシも寄り添って、相手の次の攻撃にと備えたのである。

 その時だった。

 これまで大人しくしていたシャーロックが、いきなり、一寸法師のそばへと向かっていって、勇猛に吠え出したのだ。これには、一寸法師もビックリして、後ずさりしたのである。

 基本的に、こんな狭くて、暗い場所での戦闘は、体の小さい方が、小回りもきいて、断然に有利だった。だからこそ、一寸法師も、この路地裏を襲撃場所に選んで、身を潜めていたのだろう。実際に、今までは、一寸法師の方が、常に、自分のペースで、戦いを進めていたのだ。

 ところが、ここで、急に状況が変わってしまったのである。一寸法師よりも、小型犬のシャーロックの方が、はるかに小さいのだ。さすがの一寸法師も、自分より小さい奴が相手では、これまでのような戦術では立ち向かえないのである。しかも、シャーロックは、これでも立派な探偵犬だった。犯人に飛びかかっていくだけの勇気や、それなりの戦闘訓練だって受けていたのである。

「こいつ、こいつ!」

 一寸法師は、包丁を突き出して、シャーロックを追っ払おうとしたが、なかなか思った通りには行かなかった。シャーロックは、巧みに、包丁の先から身を避けてしまうのだ。そして、隙を見つけて、今度は、自分の方が一寸法師に噛み付こうとするのである。

 たまらなくなった一寸法師は、パアッと跳ね上がった。この跳躍で、一瞬でもシャーロックの眼をくらますと、その間に、一寸法師は、たちまち逃げ出してしまったのだった。

「おっと、シャーロック、追わなくてもいいよ」と、アケチが素早く命令した。

 すると、賢いシャーロックは、アケチの声に従い、その場にと伏せたのである。

「逃がして良かったのですか」と、コバヤシもアケチに聞いた。

「今は、妙子さんを追う事の方が先だ。幸い、一寸法師のやつは、僕たちが歩いてきた側の方角へと逃げちゃったようだから、当面は、また妨害しに現われる事もないだろう」

「でも、なぜ、こんなところに一寸法師がいたのでしょう?」

「敵は、よっぽど、妙子さんの行き先を知られたくなかったんだろうね。妙子さんに、こんな裏道を歩かせたり、尾行者を邪魔する刺客まで待機させておくとは、僕も、自分の推理にと、ますます確信を持てたよ」アケチは、楽しげに笑った。「さあ、寄り道はここまでにして、追跡にと戻ろう。おい、シャーロック、頼んだぞ」

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