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無敵探偵活劇 アケチ大戦争  作者: anurito
玉村一族編
38/169

変装と探偵犬

 イチャつく二郎と洋子と別れたアケチ探偵とコバヤシ助手が、そのあと、急いで、どこへ行ったのかと言うと、実は、妙子の警護に当たっていた警備員ボディガードへと話を伺いに向かったのだった。

 アケチは、そのボディガードと対面すると、すぐに、今日の妙子の動向を確認した。

「妙子お嬢さんでしたら、日中は、大学の講義にと出ていましたが」と、妙子専任のボディガードは答えた。

「他に、移動中とかに、街で遊んだりはしませんでしたか?」と、アケチ。

「いえ。こんな非常時ですし、予定にない場所には出かけていません」

「街のカフェに、その時の気分で、友達と食べに行ったりとかは?」

「とんでもない。そのように、飛び入りで別の予定を入れる事は、かたく禁じられています」

 どうやら、ボディガードは嘘をついてはいないようだった。

「先生。花園さんの見間違いだったのでは?他人の空似って事もありますし」コバヤシがアケチに言った。

「いや。僕の勘に狂いはないよ。花園さんが見たのは、絶対に妙子さんだ」

「では、妙子さんは、どうやって、警護の目を盗んで、カフェに足を運んだと言うのですか?」

 アケチは、少し考え込んだが、すぐにハッとした。

「待てよ。地図で調べてみると、妙子さんの通っている大学と、花園さんが妙子さんの姿を見かけたと言うカフェは、ほんの目と鼻の先だ。大学の講義に出るフリをして、本当はサボって、カフェで時間を潰すって事も、決して出来ない事ではなさそうだな」

「ア、アケチさん。私は、きちんと、妙子お嬢さんが講義に出るのをチェックしましたよ」ボディガードが、慌てて、口を挟んだ。

「だけど、講義がある教室へと入っていく光景までを見届けただけで、その教室の中でも、ずっと、妙子さんと一緒に居続けた訳ではないのでしょう?きっと、妙子さんは、教室に入ったあと、講義も受けずに、すぐに外へ出てきちゃったんですよ。ははは。あの子なら、やりそうな事だ」

「しかし、もし、そんな事をしたならば、出てきた彼女のことを、私だって気が付いたのでは?」

「あなたを責める気はありませんが、恐らく、妙子さんは変装していたのでしょう。人間って、ちょっと変装しただけでも、意外と分からなくなるものなのですよ。ましてや、あなたは、妙子さんが教室から逃げ出すなんて、ちっとも疑っていなかったから、完全に見過ごしてしまったのでしょう」

「そのへんの事情を、ちょっと、妙子お嬢さんに確認してみます!」うろたえたボディガードが叫んだ。

「いやいや。隠れて、講義を抜け出すぐらいですから、問い詰めたところで、彼女があっさりと正直に白状するとは思えません。それよりも、妙子さんの今後のスケジュールはどうなっていますか」アケチが聞いた。

「今夜は、街の方で、新作映画の集団試写会を観にいく予定になっていますが」

「映画鑑賞か。こりゃあ、今度も、彼女は、会場を内緒で抜け出すかもしれないな。よし。今夜は、僕も、妙子さんの警護にと付き添う事にしますよ。そして、もし、彼女が、やっぱり、皆に隠れて、独自の行動をとっているようだったら、僕が、彼女の秘密を全て暴いてやります」

「でも、そんな隠密行動をとって、妙子さんは何をしているのですか」コバヤシが言った。

「どうも、見知らぬ女の人と会って、楽しく遊び回っているらしい。全く、妙子さんときたら、内緒で逢い引きするのが好きな人だよ」

「ああ!じゃあ、それで、最近の彼女は、失恋したばかりなのに、また元気を取り戻してたんですね」

「そうだ。ほんとに困った人さ。よっぽど、火遊びするのが楽しいんだろうね。あるいは、こうやって、ボディガードを上手にあざむく方法も、その女性から教わったのかもしれない」

「では、もしかすると、その相手の女と言うのは、暗黒星の一味である可能性も?」

「うん。その線も否定はできない。だからこそ、今夜は、妙子さんを泳がす事によって、その謎の女をも、とっ捕まえてやろうって寸法なのさ」

 こうして、アケチたちは、急きょ、今夜の作戦を、慎重に練り始めたのだった。


 その日の夕刻、妙子は、当初の予定どおりに、新作映画の試写会を観に出かけたのであった。

 この試写会は招待制であり、妙子はずっと以前に案内状を貰っていたので、家庭内で事件が起きているからと言って、今さら招待を辞退したりもしなかったのである。

 代わりに、妙子には、ボディガードが一人、付き添う事になった。昼間、アケチたちも顔を合わせた、あの男の警備員である。彼は、妙子を試写会の会場まで運ぶ自動車の運転手もつとめた。

 会場と言うのは、トーキョー・シティの中央の歓楽街にある有名なビルの一つで、ボディガードは、妙子のことを、このビルまでエスコートすると、最後は、試写会が行われる会場ホールの入り口にて、妙子とは別れたのである。

 妙子は、試写会場の中へと消えていった。あとは、ボディガードは、妙子が戻ってくるまで、この入り口で待っていないといけないのである。彼は、試写会に招待されていないので、会場の中にまでは入れてもらえないからだ。

 試写会場の外は、そこそこに、人混みができていた。それでも、ボディガードは、その人混みの中に紛れるようにして、妙子の帰りを待っていたのだ。

「やあ。様子はどうですか?」と、明るく、ボディガードに声を掛けてきた者があった。

 ボディガードが顔を向けると、そこには、鳥打帽にサングラスという風采の、ちょっと怪しい青年の二人組が立っていた。

「あ。アケチさん」ボディガードは言った。

 そう。この怪しい二人組は、アケチ探偵とコバヤシ青年だったのである。

 アケチは、鳥打帽にサングラスに加えて、つけ髭まで生やしていた。そして、両手には、小さくて可愛らしいポメラニアンまで抱いていたのである。

「いかがです。この程度の変装でも、すぐには、僕たちだとは気付かなかったでしょう?」アケチが、愉快そうに笑った。

「本当にそうですね。しかし、小犬まで抱いてくるなんて、少しディテールに凝りすぎでは?」

「いや。この小犬こそが、今日の大事な主役なんですよ」

「シャーロックって名前なんです。我が探偵チームの重要なメンバーの一人ですよ。今回の作戦のために、知り合いの元から、特別に借りてきました」コバヤシも得意げに説明するのであった。

「ところで、妙子さんは?」と、アケチ。

「今、会場に入ったばかりです」

「じゃあ、そろそろ、外に現われる頃かな」

 アケチたち三人は、試写会の会場の入り口の人の出入りにと注意を向けていた。

「あ。あの女の人じゃありませんか!」コバヤシが、声を潜めて、指摘した。

「え?妙子お嬢さまって、あんな感じでしたっけ」

「ほら。やっぱり、騙されてる。ちょっとの変装で、人間なんて、まるで別人に見えてしまうものなんですよ」アケチは言った。

 今、試写会場の入り口から出てきた女性は、確かに、妙子とは、服装も印象もだいぶ違っていた。だが、大きな婦人帽子で顔は完全に隠れていたし、服だって会場内で着替えたのだとすれば、決して、妙子のようにも見えなくはないのである。

「さあ、いよいよ、シャーロックの出番だな。よし、シャーロック、お前はどう思う?」アケチは、抱いていた小犬へと話しかけた。

 すると、この小犬のシャーロックは、小さく、唸り声を出したのだ。

「ビンゴだよ、コバヤシくん。まさに、あの女性が、妙子さんの変装だったようだ」と、アケチ。

「あ、あのう。どういう事なのでしょう?」ボディガードの男は、キョトンとしていた。

「この犬は、実は、警察犬なのです。もとい、今は、僕が使役してるのだから、探偵犬と言った方が正しいかもしれません。このシャーロックには、妙子さんの匂いを覚えさせておきました。そして、シャーロックは、今の怪しい女性からも、妙子さんの匂いを嗅ぎとったようなのです」

「え。そんな小犬なのに、警察犬の仕事をさせているのですか?」

「むしろ、シェパードなんかよりも、このような小型犬の方が、小回りがきくし、相手も油断させる事ができて、使い勝手が良いのですよ。実際に、このシャーロックは、大変に有能ですよ」アケチは、屈託なく笑った。

 それから、彼は、抱いていた小犬を、そっと地面にと下ろしたのだった。

「では、これより、シャーロックによる追跡を始めたいと思います。僕とコバヤシは、あの妙子さんらしき女性を尾行しますので、あなたは、今まで通り、何食わぬ顔で、ここで待機していて下さい。あと、余裕を見て、ナカムラさんの方にも連絡を入れていただけたら、助かります」アケチは、テキパキと、ボディガードに、そのように指図したのであった。

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