コゴローの秘密
「皆さん。アケチ探偵の正体が判明しました。彼は、実は、二重体質者だったのです」ニジュウ面相は、力強く、そのように発表した。
この発言を、暗黒星の他のメンバーたちは、ポカンとしながら、聞いていたのだった。
ここは、暗黒星のアジトである謎のプラネタリウム会場。命がけの冒険をして、アケチ探偵の秘密を探ってきたニジュウ面相は、今、その成果を仲間たちへと報告していたのであった。
「二重体質者?なんだ、それは?二重人格とも違うのか?」と、誰かがニジュウ面相に質問した。
「二重人格は、心が別人にと変わってしまう現象です。でも、二重体質は、心ではなく、肉体が変化するのです。心の方は、ずっと、そのままなのです。もっとも、体質が変わる事で、態度が大胆になったり、感受性が強くなったり、性格への多少の影響はあるみたいなのですが」
ニジュウ面相は、二重体質のことを、さらに詳しく説明した。
「例えば、外国の童話の『シンデレラ』の主人公などが、典型的な二重体質者です。彼女の場合は、変身すると、見た目の美醜だけではなく、足のサイズまでもが変わってしまいました。非常に特異なケースなのですが、このような二重体質者が、ごく稀に、今の時代でも産まれるものなのです」
「アケチの奴が、それだったと言うのか?で、アケチは、どこがどう変化するのだ?」
「普段のアケチ探偵は、皆さんもご存知の通り、頭脳明晰だけが売り物のインテリ紳士です。ところが、二重体質が発動しますと、それが反転します。すなわち、非力なヤサ男だった彼が、運動能力も抜群のマッチョマンにと変貌してしまうのです」
「ふん。武闘派に変わるとは言っても、元の人間が、あのアケチだ。どうせ、たかが知れているのだろう?」
「いいえ。甘く見てはいけません。元が最高の頭脳を持つアケチくんだからこそ、厄介なのです。その実力が反転すると言う事は、つまりは、驚異的な運動能力の持ち主に変わると言う事なのです。ほとんど別人と見なしても良いでしょう。片や、知恵のアケチ探偵ならば、もう一人は怪力のコゴローです。ほら、これを見てください」
ニジュウ面相が、手に掲げて、皆に披露したのは、青銅の魔人のヨロイの胴当てだった。それは、分厚い青銅製だったにも関わらず、拳で強く殴られた跡があって、無残に、何ヶ所もヘコんでいたのだ。
「これは、コゴローの仕業です。奴と実際に戦ってみて、分かりましたが、そのパワーは、まるで未知数です。この秘密の剛腕と体力があったからこそ、彼は、これまでも、多くの危機的状態を切り抜けてきたのです」
「じゃあ、あの時計塔の完璧な罠から二郎を救い出したのも?」
「コゴローによるものです。間違いありません」
「何度、アケチを捕まえて、拘束しても、すぐ脱出されてしまったのも?」
「いずれも、コゴローに変身して、逃げ出していたのでしょう」
アケチ探偵の恐るべき裏の顔を知って、暗黒星の仲間も、がく然としていたのだった。
「くそう!何がコゴローだ!オレ様が、そんな奴、ねじ伏せてやる!」興奮した人間ヒョウがうそぶいた。
「いいえ。あなたの野獣の力でも、奴には、まず勝てないでしょう。コゴローを見くびってはいけません」
「なるほどな。アケチの奴が、無敵探偵などと呼ばれていた所以は、そんなところにあったのか」クモ男も呟いた。「おい、ニジュウ面相。コゴローには弱点はないのか?」
「あえて挙げるならば、アケチ探偵の時の賢さが、コゴローには、ほとんど欠けてしまう点でしょうか。コゴローは、確かに体力と運動神経は抜群なのですが、頭を使った行動は、あまり得意ではないみたいです。無限のパワーを得た代わりの、やむを得ない代償なのかも知れません」
「そうか。だから、アケチは、いつも、あのコバヤシと言う弟子を連れていたのだな。アケチの時には足りない労働力と、コゴローに欠けている思考能力を、あのコバヤシで補っていたのか」
「でも、コバヤシくんの役割は、それだけでも無いみたいですね。二重体質者がチェンジするには、色々ときっかけが必要で、例えば、お酒に酔って、意識が酩酊した時などにも、勝手に体質が変わりやすいらしいのですが、アケチくんの場合は、ある種の合言葉を決めていて、それをコバヤシくんから聞かされる事で、体質変化が起きるようにも、自分の体を慣らしていたみたいです」
「つまり、自分の好きな時に、変身できるって事か?」
「そう言う事です」
「おのれ!アケチ探偵め。そんな奥の手を持っていたとは!きゃつめ、あくまで我が目的を阻むつもりか!」魔術師が、とうとう、怒りをあらわにして、唸った。
「まあ、まあ。面白いじゃねえか。おいらは、ますます、今度は、そのコゴローとやらに会いたくなってきたぜ」一寸法師は、そう言って、のん気に笑うのだった。
「一寸法師くん、あなたのおっしゃる通りです」と、ニジュウ面相も、落ち着いた声で、発言した。「私も、今度こそ、絶対にアケチくんの事を殺してみたくなってきましたよ」
そして、ニジュウ面相は、怪しく微笑んでみせたのだった。
こうして、暗黒星の本日の集会は終わった。
そうなると、集まった犯罪者たちは、それぞれが、速やかに、自分のアジトへと帰っていくのである。仲間にだって場所を教えていない自分だけのアジトへと。しかし、今日は違った。
魔術師がプラネタリウム会場から出て行こうとすると、その前に、人間ヒョウが立ちふさがったのだ。
「おい、魔術師」と、ニタニタ笑いながら、人間ヒョウが、気安く、魔術師にと話しかけた。
魔術師の方は、気難しい表情を浮かべているだけで、何も言おうとはしなかった。
すると、人間ヒョウは、もっと馴れ馴れしく、魔術師のそばに近づいたのである。
「なあ、魔術師。どうして、娘は、ここには連れてこないんだ?たまには、会わせてくれよ」人間ヒョウは、ヘラヘラ笑って、そんな事を魔術師に告げたのだった。
「娘?何の事かね」と、魔術師。
「おいおい、しらばっくれるんじゃないよ。分かってるんだぜ。ほら、あの女は、お前の実の娘なんだろ?オレたちにまで隠さなくてもいいんだぜ」
「私には娘はいない。そんなのは、知らんよ」
魔術師は、あくまで突っぱねて、去っていこうとしたのだった。
そんな魔術師の背中へと、人間ヒョウは大声で訴えたのだ。
「オレ様はさあ、玉村家の小生意気なお嬢様なんかよりも、お前の娘の方が、ずうっと好みなんだぜ!娘に、そう伝えといてくれよな。おい、必ずだぞお!」
そして、人間ヒョウは、いつまでも、いやらしく笑い続けたのであった。




