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無敵探偵活劇 アケチ大戦争  作者: anurito
玉村一族編
24/169

悪魔の紋章

 その翌日は、玉村邸の方でも、主だった者が食堂にと集まって、今後の対策の相談を行なっていた。

 まずは、玉村家の一家。父親の善太郎と、一郎と妙子の兄妹二人。ただし、肝心の被害者である二郎は、まだ十分に心身の傷が癒えていなかったので、自分の部屋で休んでいた。

 次に、警察を代表して、ナカムラ警部。彼は、数人の警官の部下も連れてきている。

 それから、我らがアケチ探偵。だが、彼の忠実なる助手であるコバヤシの姿は、この場には見当たらなかった。珍しく、会合を欠席したようなのだ。

 最後に、この玉村邸の使用人の中でも、特にリーダー的立場にいる重鎮たち。

 今回の防犯会議に参加していたメンバーは、以上であった。皆は、椅子に腰掛ける者もいれば、立ったままの人もいて、かなりくだけた雰囲気の話し合いとなったのだ。

 アケチ探偵は、さっきから、少し離れた場所に立っていた妙子の姿をずっと観察していたのだった。

 なぜなら、彼は、コバヤシから聞いた話を、ずっと気に掛けていたからだ。もし、こないだの夜、妙子が屋敷の外を出歩いていて、道の上で、血が出るほど転んだというのであれば、今の彼女にも、必ず、その傷がまだ残っている事になる。アケチとしては、それを確認したかったのだが、こうして、遠くからチラ見した限りでは、なかなか、はっきりした事が分からないのだった。

 地面にも血をつけてしまったと言う事は、きっと、服の外に露出した部分をケガした事になるのであろう。しかし、今のところは、そのような傷の跡は、さっぱり見当たらなかったのである。

 やがて、妙子本人にと、アケチがしつこく視線を向けていた事がバレてしまった。ヘンな勘違いをされてしまったのか、妙子は、ムッとした表情を浮かべて、アケチの方から顔をそらしたのである。

「さて、この度、玉村家のご子息である二郎くんが、よりによって、この邸宅の敷地内にある時計塔において、賊の手によって、とても危険な目にあった件に関して、改めて、詳しく報告しておく事にしたい」ナカムラ警部が、進行役を買って出て、喋り始めた。

 そして、いかなる過程において、二郎が危うく時計塔で殺されかけたかを細かく説明したのだった。もちろん、二郎が助かったのは、アケチのお手柄であった事についてもだ。でも、これらの流れについては、皆さんもすでに知っておられる訳だし、ここで再び書き記す必要もないだろう。

「と、このように、これまでも、度々、屋敷内に出没していた犯人たちだったが、今回は、いっぺんに四人もの賊の姿が目撃されたのだ。これは、尋常な話ではない。犯人の一味が、なぜ、こんなにも簡単に、この屋敷の敷地内に忍び込めるのか、その原因を判明させない限りは、この屋敷の中に閉じ篭っていても、とても安全とは言えないだろう」ナカムラは、熱くなって、訴えたのだった。

「でも、ナカムラくん。この邸宅の防犯システムの完璧さは、君だって、よく知っているはずだ。一体、犯人たちは、どんな方法を使って、いつも、この屋敷の塀を乗り越えていると言うのかね?」と、善太郎。

「だから、わしも、それが不思議だと言っておるのだ」

「まあまあ。お二人とも、落ち着いてください」そう言って、アケチが割って入ってきた。「この屋敷の防犯装置にまだ破られた跡がないのも確かなのですが、賊が、幾度となく、この屋敷内に侵入しているのも事実なのです。私たちは、事実を前提にして、物事を解き明かしていかなくてはいけません」

「アケチくん。何を言いたいのかね?」と、ナカムラ警部。

「つまり、犯人たちしか知らない、この屋敷内への侵入方法や上手な隠れ方などが有るのではないか、と言う話なのです。あるいは、犯人たちだけではなく、他にも、その秘密を知っている人がいるのかも知れませんね。皆には黙っているだけで・・・」

 それから、アケチは、さりげなく、この会合に参加しているメンバーを見渡したのだ。すると、何となく、困ったような顔色を浮かべている人物が、確実に何人かいたのであった。そう、アケチは、このような話をする事で、ちょっとカマをかけたのだった。

「アケチくん。君には、その秘密が、まだ分かっていないのかね?」何も知らないらしいナカムラが、逆に、アケチに尋ねてきた。

「この屋敷は、こんなに広いんですよ。やみくもに歩き回ったって、すぐには謎の正体は探し出せませんよ。僕はね、もっと手がかりが増えるのを待っているんです。手がかりが多ければ、それだけ、探すポイントを絞っていけますからね。今のところ、一番怪しいのは、やはり、時計塔でしょうか。犯人は、いつも、あの時計塔を中心にして、事件を起こしています。恐らく、あの時計塔に何かの秘密があるのだけは、間違いないでしょう。今度、僕も、あそこを、もう一度、詳しく調べてみたいと思っています」

 すると、ナカムラが、急に得意げな表情になったのだった。

「それについてなんだがね、アケチくん。どうやら、わしの方が先に新しい手がかりを掴んだようだな。その事も、今日、皆さんに報告しようと思っていたのだよ」ナカムラは言った。

「ええ!そうだったのですか」と、アケチ。

「こないだ、あの時計塔を大々的に捜索した時の話だ。これまでは、何一つ、犯人に関係ありそうなものは見つからなかったのだが、今度ばかりは、ついに、重要な証拠を発見できたのだよ。恐らくは、犯人が残していった指紋だ。これを見たら、君もきっと驚くぞ」

 ナカムラの言葉が終わらないうちに、彼の部下の警官たちは、プロジェクターの準備を始めたのである。どうやら、ナカムラは、その新発見した謎の指紋を写し出して、皆にも見せてくれるつもりらしいのだ。

「さあ、見たまえ、これを。我々警察が大捜索した末、時計塔の5階の壁から採取した指紋だ」

 プロジェクターにかけられた写真が、白いスクリーンに大きく投影された。

 それを目にして、この場にいた人々は、誰もがおののいたのだった。

 そこに写されたのは、巨大に拡大された指紋なのである。だが、とても変わった指紋なのだ。一般には、一つの指紋に一つだけのはずの渦状紋(指紋の中の渦巻き状の模様)が、この指の指紋では、三つも並んでいた。いわば、非常に稀な、奇形の指紋なのだ。

 その渦状紋の並び方がまた、いやらしかった。上の方に、小さな渦状紋が二つ、横に連なり、下には、押し潰れた楕円状の渦状紋が、どんと大きく構えていた。それは、何だか、渦巻きの形をした両目と口にも見えるのだ。そう、渦巻きの顔の化け物みたいなのである。

「見ろ!なんて、恐ろしい形の指紋だ。まるで、お化けじゃないか。いや、それよりも、悪魔の顔だ。これは、まさに、悪魔の紋章と言ってもいい。犯人め、よくも、こんな気味の悪い指紋を、どこかから見つけてきたものだ。きっと、賊どもは、今度は、この不気味な指紋をあちこちにペタペタ残していく事によって、玉村家の人々を脅かすつもりなのだ」ナカムラは、声を張り上げて、大げさに主張したのだった。

 でも、この特殊な指紋は、確かに、それだけのインパクトはあったのである。

 その時だった。

「ちょっと待ってよ!」

 いきなり、ナカムラの言葉をさえぎる声があがった。皆は、その声の方に目を向けた。声を出したのは、妙子であった。彼女は、自分の左手の先を、まんじりと見つめているのだ。

「その指紋、あたしの人さし指の指紋よ」

 大きく目を見開いた彼女が、大真面目な顔で、そんな事を告げたものだから、この場にいた人々は呆気にとられてしまったのだった。

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