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無敵探偵活劇 アケチ大戦争  作者: anurito
玉村一族編
23/169

助かった二郎

 二郎に仕掛けられていた奇怪なる殺人トラップを前にして、アケチ探偵もコバヤシ青年も、さすがに困り果ててしまった。

 小さすぎる窓の内側には、二郎の首がスッポリはまっていて、そこには手を突っ込む事さえもできない。そうなると、窓の外にある処刑道具の時計の長針にだって、当然、触る事すら出来ないのだ。これでは、二郎も、何の悪あがきもできないまま、針に首を切り落とされるだけなのである。

「二郎さん!この時計を動かしている装置は、どこにあるんだい?その装置をいじれば、針を止めたり、反対方向に回す事もできるんだろう?」慌てながらも、すぐに頭を切り替えたアケチは、とっさに二郎に尋ねたのだった。

「この部屋の一番奥にあったはずです!早く、アケチさん、早くってば!」二郎も必死に答えた。

「コバヤシくん、急いで!」

 アケチに言われて、コバヤシも素早く部屋の奥の方へと向かったのだった。アケチは、見守るように、二郎のそばに立ち続けていた。

 歯車や心棒をくぐって、コバヤシは、すぐに時計の操作盤のもとに到着した。しかし、そこで新たな問題に直面したのである。

「先生、ダメです!この操作盤は、壊されています!これじゃ、この装置で時計を動かす事はできません」

「何だって!」

 そうなのだ。用意周到なクモ男は、逃げ出す前に、しっかりと、時計の操作盤も壊しておいたのである。確かに、あの狡猾なる悪党が、こんな初歩的な救出方法をあっさり放置しておくはずがないのだ。

 じゃあ、もう、この悪魔の時計の針を止める手段は無いのだろうか。もはや、二郎は、アケチたちが見ている前で、むざむざと殺されてしまうだけなのか?

 可哀想な二郎は、気が動転して、頭が朦朧とし始めていた。首に当たった針の圧迫も、どんどん痛くなっていく。だが、間もなく、それは痛いだけでは済まなくなり、きっと、死の苦痛ももたらすのだ。

 錯乱する意識で、二郎は、まだ、外の景色を眺め続けていた。

 この機械室の下の階、つまり、5階の窓からスーッと白いロープが外へと飛び出すのが、彼の目には写った。さらには、そのロープを伝って、クモ男が地上へと軽やかに下りていくのも見えたのだ。この凶悪なる殺人魔は、逃走すらも合理的なのである。わざわざ、1階まで階段で下りたりはせず、持参したロープを使う事で、逃げる際の時間までもを縮めてみせたのだ。

 よく見ると、広場にいた三人の怪人たちも、走って逃げ出していた。クモ男が時計塔から急いで脱出していたのを目にして、不測の事態が起きた事を察知したのだろう。彼らとしても、二郎の死ぬ瞬間をバッチリ拝見したかったのかもしれないが、モタモタした結果、捕まるような事になったりしたら、それこそマヌケすぎるのだ。このように、状況に応じて、瞬時に、次の行動に移れると言うのもまた、彼らが一級の悪人であった事を物語っていたのである。

 二郎には、賊が全員逃げ出した事までは確認できたものも、それ以上の事を知る事はできなかった。彼の頭は、すでに1ミリも回せなくなり、逃げた連中の姿までは目で追えなかったからである。

 何もかもが、二郎が死ぬと言う前提のもとで進んでいた。二郎は、本当に、もう死ぬ以外にないのであろうか。

「やむを得ない。最後の手段だ」二郎のそばに立ち続けていたアケチが、神妙に言い放った。

「え。でも、先生・・・」と、コバヤシ。

「いや、いいんだ。やっておくれ、コバヤシくん」

「は、はい、分かりました」躊躇しながらも、コバヤシは了解した。

 それから、すぐの事だった。状況は突如として一変した。

 機械室では、奇跡が起こった。それは、誰もが、まるで想像していなかった大どんでん返しだったのである。


 結論から言ってしまおう。

 二郎は死ぬ事はなかった。かなり危うい状況ではあったが、すんでのところで助かったのだ。

 しかし、本当に際どい、ギリギリの状態での救出なのだった。あと十数秒でも遅れていれば、たとえ首が最後まで切断されていなくても、首の骨が折れたり、脊髄を損傷するなどして、彼は、死ぬか、二度と正常な体には戻れなかったであろう。

 だが、二郎は、ほとんど無傷の肉体で助かった。わずかに、首の皮と肉が傷ついただけで済んだのである。それは、数日で治るような軽傷だった。あれほど恐ろしい処刑の道具にかけられたにも関わらず、彼は、その程度のケガで助かったのだ。

 とは言うものの、精神的には、かなり深い傷を負ってしまったのは、間違いなかっただろう。二郎は、その後、しばらくは、自宅の自分の部屋にと寝込んで、養生する事になったのである。

 この結末に、何とも言えない疑問を抱いたのは、別に読者の皆さんだけではなかった。この罠を仕掛けた暗黒星の連中も、二郎を殺し損ねた事には、はなはだ不愉快な気持ちになっていたのである。

 彼らは、いつものように、プラネタリウム会場のアジトに集っていた。彼らの誰もが、納得のいかないような表情を浮かべているのである。

 暗闇の中、天井のスクリーンには、星々ではなく、玉村邸の時計塔の上階を外から眺めた写真が、大きく、写し出されていた。時計塔は高かったので、玉村邸の敷地の外部の土地からも、十分に観察し、カメラで撮影する事もできたのである。

 暗黒星の輩たちは、玉村邸の中から逃走後、二郎が無事に救出されたと言う噂を聞きつけて、すぐさま、こっそりと、時計塔の様子を撮影しておいたのだった。そして、その写真を、今、全員で検証させてもらっているのである。

 だが、それは、彼らの心を、さらに動揺させる事になってしまったのだった。

「一体、これは、どう言う事なのだ」顔をしかめて、魔術師が呟いた。

「嘘だ。信じられない」と、クモ男も、がく然としていた。

 天井に写された時計塔の写真のうち、文字盤のあたりが、ぐうんと拡大された。中でも、4の数字のそばに開いた丸窓の部分がアップになった。

 それは、目を疑うような光景だった。

 丸窓のさんが、ハデに引き破られていたのだ。それだけではない。時計の長針も、グニャリとへし折れて、動かなくなっているのである。丸窓の周りの壁だって、時計の針だって、固い金属製だったのだ。にも関わらず、それらは、かくも無残に破壊されてしまっていたのである。

 恐らく、この時計の破損ゆえに、二郎は、ほぼ無傷で脱出する事が出来たのだろう。だけど、一体、いかなる方法で、こんな風に時計を壊したと言うのだ?

「誰も、二郎くんが助かる瞬間は見届けてこなかったのですか?」中央の投影機のそばに立っていたニジュウ面相が、落ち着いた声で、周りの仲間にと尋ねた。

「皆、逃げるのに夢中だった。どうせ、この罠は絶対に回避できないと思ったので、安心して、その場を離れてしまったんだ」クモ男が答えた。

「ありえん。まさか、この最高の見せ場のショーが失敗に終わるだなんて」と、魔術師。

「やい、クモ男!きさま、今回の犯行の担当者だろ!どう責任を取るつもりだ」気性の荒い人間ヒョウが、すぐさま、クモ男をどやしつけた。そばでは、人間ヒョウの相棒の本物の豹も、鈍い唸り声を上げているのだ。

「そうだ、そうだ!この襲撃では、時計塔の罠にかかった人間以外は殺すな、って言われたんだぞ。おいらだって、ほんとは誰かを殺したかったのに、ぐっと我慢したんだ。なのに、肝心の目玉の殺人まで失敗しちゃうなんて、笑って許せる話じゃないぞ!」一寸法師も、一緒になって、クモ男の事をヤジったのだった。

「いや。あの状況では、確かに、アケチが介入したって、いかなる手を使おうと、犠牲者を救う事はできなかったはずなのだ」と、うろたえながら、クモ男が返した。

「でも、実際には助かったじゃないか」

「もしかしたら、アケチのやつが、探偵の秘密道具を用いたのかもしれない」クモ男が、神妙な口調で言った。

「探偵の秘密道具だと?」

「そう。アケチは、普段から、ポケットの中に、いろんな便利道具を隠し持っているのだ」

「だが、ポケットなんかに収まるような、ちっぽけなペンチやハンマーとかを使って、あそこまでハデに窓や巨大な針を壊せるものなのか?」

 皆は再び黙り込んでしまった。彼らの推理は、こうして、ふりだしに戻ってしまったのだ。

 ここで、投影機の横に控えていたニジュウ面相が、はじめて、ぐんと前へと体を乗り出したのである。

「分かりました。ここは、私が出向いてみる事で、アケチくんがいかなる魔法を使ってみせたのかを探ってみる事にしましょう。皆さん、それでよろしいですね?」ニジュウ面相は、穏やかだが、しかし、真打ちの貫禄を漂わせて、そう告げたのだった。

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