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無敵探偵活劇 アケチ大戦争  作者: anurito
玉村一族編
22/169

時計塔のギロチン

 二郎は、慌てて、丸窓から首を引っ込めようとした。

 しかし、それが、うまい具合にもいかなかったのである。丸窓は、あまりにも小さすぎた。そして、時計の針の方も、すでに、かなりの位置まで進んでしまっていたのだ。二郎の首は、完全に、針と窓のさんの間にと挟まれてしまい、首より大きな頭を抜く事ができなくなったのであった。

 こんな危険な状態になりうると言うのに、なぜ、こんな危ない丸窓がずっと放置されていたのだろう?だが、この時計塔の文字盤が作られたのは、まだ戦前だった大昔の話だ。建築の基準だって、かなりユルかったのである。さらに、この時計塔は、父の善太郎が私物化して、自分の居住地にそのまま移築してしまった為、またもや、安全に改築される機会を逃してしまったのだ。そもそもが、この丸窓は、小さな子供では覗く事ができない程度の高さにと開いていた。まさか、しっかりした大の大人が、外に首を出して、まんまと時計の針に首を挟めてしまうとは、誰もが思いも浮かばないような事態でもあったのである。

 そんな訳で、二郎は焦ったものの、これは余りにも想定外の出来事だったので、ほんとに、全く対処できなくなってしまったのだった。

 果たして、この状態のままで、針が進み続けたら、二郎は一体どうなってしまうのであろうか。今の二郎の姿は、まるで、断頭台ギロチンにかけられた罪人そっくりなのだった。

 そんな時、二郎の耳には、ゆっくりと背後から近づいてくる足音が聞こえてきた。コンコンと床を叩く音も、同時に響いている。その足音の人物は、どうやら、杖をついているみたいなのだ。

「だ、誰ですか?お願いです、ここから早く僕を助けてください!」二郎は、狼狽しながら、謎の相手に向かって、大声で訴えた。

 だが、不幸なことに、その相手は、二郎の味方ではなかったのである。

「見事に、罠にはまったようだね。嬉しいよ、我等としても」その人物は、図太い男の声で、笑うように言った。

「あ、あんた、何者だ?」

「ほほう。君は、玉村家の二郎くんだな。ますます、かっこうの相手が引っかかってくれたものだ。おっと、君とは初めましてだったね。自己紹介しよう。オレの名は、クモ男だ。今回の殺人は、全て、オレの方でセッティングさせてもらった」

 そうなのだ。窓に首を挟まれた二郎の真後ろの立っていた人物とは、暗黒星のメンバーの一人、クモ男だったのである。その顔は右半分が大きく焼けただれ、白いダブルのスーツを着こなしていた。片手には、頑丈そうなステッキを握りしめており、さっきから、このステッキをついて、床を鳴らしていたのである。

 さらには、二郎へと自己紹介する時は、この怪紳士は、右手の甲を正面へと突き出し、そこに彫られていた蜘蛛のイレズミも披露していたのだが、言うまでもなく、二郎には、それを見る事はできなかった。

 と言うか、そんな事以上に、クモ男は、今の二郎にとっては、ひどく気にかかる事を口にしていたのだ。

「殺人?殺人だと?どう言う事だ?」二郎は、おののきながら、クモ男に聞いた。

「そうだ。殺人だよ。素晴らしい芸術的な殺し方だ。二郎くん、君は死ぬのだよ。今、これからね。その時計の針で、頭を切り落とされてしまうのだ」

「ま、待ってくれ!まだ、お前たちのカウントダウンは0になってないじゃないか!0の前までの数字では、脅かすだけで、何もしないのと違ったのか?お願いだ、こんな事、やめてくれ!」

「おいおい、誰が、0になるまで手を出さない、と言った?0は、あくまで、最後の仕上げの時のカウントだ。今回以降のカウントでは、君たちにも遠慮なく危害を加えさせてもらう」

「そ、そんなあ」二郎は、絶望した声をあげた。

 哀れにも、彼は、あまりにも性格が大胆で、敵を見くびり過ぎてしまったのである。

 暗黒星は、最初っから、この屋敷内の人間を、一人だけ、この時計塔におびき寄せて、この時計の針の罠に引っ掛けるつもりだった。その犠牲者は、実際には誰でも良かったのに、猪突猛進だった二郎が、おろかにも一番乗りで、この罠へ真っ先に飛び込んでしまったのである。

 時計塔周辺の見張りや警備員を全て襲って、拘束してしまったのも、このトラップを成功させる為のお膳立ての一つなのだった。時計塔の窓から顔を出した二郎の目前で、暗黒星のメンバーが大げさにパフォーマンスを展開していたのも、二郎を前のめりにさせて、ギロチンの罠に引っ掛かるまで足止めするのが目的であった。そして、今、彼ら、魔術師、人間ヒョウ、一寸法師の三人は、まんまと罠にはまってしまった二郎のブザマな姿を地上から見上げて、おかしそうに、ニタニタと笑っていたのだ。

 半世紀以上も前に作られた大時計は、とても頑丈で力強くて、恐らくは、針の間に人間が挟まっていようと、お構いなしに、正しく時を刻む事だけを全うするのだろう。確かに、こんな殺人方法は他には例がないのだ。その犠牲者に選ばれてしまっただけでも悲劇なのに、その殺される様子を殺人者らに楽しく見物されてしまうとは、こんな屈辱的な死に様があるだろうか。

「嫌だあ。助けてー。助けてくれー!」二郎は、情けなく、半泣きで、訴え続けた。

 だが、そんな懇願に耳を傾けてくれるクモ男ではないのである。

「いい加減、諦めろ。お前は、玉村家の第一のイケニエだ」

 クモ男は、冷酷に、そう言いながら、バタバタあがいている二郎の背中に、ペタッと紙を貼り付けたのだった。

 その紙には、大きく「4」の数字が書かれていた。それは、まさに、文字通りの「死」のナンバーだったのだ。

「さあてと、この殺人の発案と担当者がオレである事を明示しておく為に、どこかに蜘蛛の死骸を置いておかなくてはな」クモ男は、そう呟いて、周囲をキョロキョロと見回した。

 彼は、自分が事件を起こしたあとは、その犯行現場に、トレードマークとして蜘蛛の死骸を置いておくのを、自分の慣わしにしていたのである。全く、自己顕示欲の強い犯罪者なのだ。

 ところが、その時だった。

「クモ男!そこで、何をしているんだ!」

 そんな怒鳴り声とともに、何者かが、この機械室に飛び込んできたのだった。

 一人ではなく、二人組である。それは、アケチ探偵とコバヤシ青年だった。彼らは、一郎に助けを求められて、急いで、この時計塔に駆けつけたのである。

 彼らが今までいた道路は、この玉村邸の敷地内では、外れの方にあった。特に重要な地点とも見なされていなかった区域である。でも、おかげで、彼ら二人は、途中で、暗黒星の地上班のメンバーにも襲われる事もなく、この時計塔まで真っ直ぐに救出に来る事もできたのだった。

「き、貴様は、アケチコゴロウ!またしても、オレの仕事を邪魔するつもりか!」アケチの方を振り返ったクモ男が、鬼のような形相で叫んだ。

「ア、アケチさーん!助けて!早く、早く!」アケチが助けに来てくれたと分かった二郎も、少しホッとしたような声で訴えたのだった。

「クモ男!いい加減、凶行はやめろ!おとなしく、もう一度、お縄につくんだ!」

「黙れ!俺は、まだ、貴様なんかには負けないぞ!」

 クモ男は、アケチへの対抗心むき出しで、手にしたステックを頭上に振り上げた。彼は、あくまで、アケチたちと戦うつもりなのである。

 しかし、ここで、彼は、すぐに、躊躇の表情を浮かべたのだった。

 格闘をしたくても、この機械室の中は、歯車やら心棒やらが、各所に張り巡らされていて、思う存分にステッキを振り回す事ができなさそうなのだ。素手で殴り合う事ならば、何とか出来そうだが、ただし、その場合は、二人掛かりのアケチとコバヤシの方が、断然、有利に違いなかった。

 そんな事を瞬時に思案しているうちに、アケチたちが、歯車や心棒の隙間をくぐって、ぐんぐん、クモ男の方に近づいてきた。

「チッ!」悔しそうに顔をしかめると、クモ男は、いきなり逃げ出したのだった。

 機械室の中は、歯車や心棒などの障害物のおかげで、ちょっとした迷路のようになっていた。アケチたちが一方から接近してきたとしても、クモ男は、別のルートを選ぶ事で、容易に逃走する事ができたのだ。

 いつの間にか、アケチとコバヤシが丸窓のそばにまで来ていて、クモ男の方が部屋の出口にまで移動していた。両者の位置は、完全に逆転した。クモ男は、そのまま、部屋の外へと走り逃げてしまったのだ。

「おのれ、クモ男!逃げるつもりか!」アケチが怒鳴った。

「ち、ちょっと、先生!犯人逮捕は後回しです!」コバヤシが、慌てて叫んだ。

 その声にハッとして、アケチも窓の方を見た。そして、二郎が今にも死にそうになっていたのを、アケチも、ようやく発見したのだった。

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