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無敵探偵活劇 アケチ大戦争  作者: anurito
玉村一族編
21/169

眼下の奇術師たち

 二郎は、早足で、時計塔の方へと向かった。

 でも、この日に限って、途中の道路では、警備員にも、使用人とも、不思議と顔を合わせなかったのだ。

 結局、二郎は、誰とも会わぬまま、時計塔の下にまで、たどり着いてしまったのだった。おかしな事に、時計塔の入り口や周辺にすら、警備員の姿は見当たらないのである。彼らは、任務をほっぽらかして、一体、どこへ行ってしまったのであろうか。

 二郎は、ちょっと躊躇した。これでは、当初、予定していたように、仲間と連れ立って、時計塔を上る事ができないのである。

 だが、彼の意思は、好奇心や行動力の方が上回った。ここで誰かと合流できるのを待っていたら、せっかく、鬼火の秘密を明かせるかもしれないチャンスを、また逃してしまうかもしれないのだ。二郎としては、それだけは避けたかったのである。

 ついに、二郎は、一人で時計塔を駆け上り始めたのだった。


 一方、アケチ探偵とコバヤシ青年は、まだ、玉村邸の敷地内の怪しい路上の調査を続けていた。

 そこへ、一郎が、息を切らせながら、走って、やって来たのだった。穏やかな一郎が、こんなに慌てた姿を見せるのは珍しい。アケチもコバヤシも、キョトンとして、一郎の方に目を向けた。

「ああ。やっと、人に会えた。ア、アケチさん、た、大変です!」一郎は、ハアハアと息を吐きながら、アケチに訴えてきた。そうとう走り回ったのか、彼は疲労し、汗だくになっているのである。

「何か、ありましたか」驚きながら、アケチが一郎に聞いた。

「二郎が、二郎が無謀な事をしているんです!お願いです。助けてください!」一郎は、やっとの思いで、そう告げたのだった。


 さて、時計塔に上った二郎はと言えば、相変わらず、時計塔の中でも他人と遭遇する事はなく、そのまま、5階にまで到着してしまったのであった。しかし、ここが最終の目的地でもなかった。

 二郎は、さらに、階段を上って、最上階の機械室を目指したのである。

 そこは、あの大きな時計の文字盤の内側にある部屋だった。これまでの5階までの空っぽの部屋とは異なって、この部屋では、内部の一面に、巨大な歯車や心棒などが、所せましと詰まっており、それらを上手にさけたり、くぐったりしないと、部屋の中を隅々まで移動する事はできないのだ。

 もっとも、本当のことを言えば、この塔の大時計は、これらの歯車やゼンマイなどを動力にして、動いていた訳なのでもなかった。かつての時代はいざ知らず、現在は、この大時計も近代化されており、電力によって、針も回転していたのだ。その電動装置は、この部屋の一番背後の場所に設置されていた。そして、部屋の中にやたらと散りばめられていた歯車や心棒は、今では、雰囲気を持たせる為の、ただの飾りに過ぎなかったのである。

 二郎も、そのへんの事情は、十分に把握していた。この部屋にも、彼は、ちょくちょく、おとずれた事があったのである。だから、彼は、迷う事なく、文字盤につながった丸窓の方に足を向けたのだった。

 その丸窓は、こうして内側から見れば、直径が30センチほどしかない、小さな窓なのだ。ガラスなどは、はめられてない。高さも、人の背丈より、ずっと下なので、内部こちらから外を眺める事も出来たのである。だから、その昔、この時計塔が丸伝時計店の本店の上に建っていた時も、作業員がこの窓から景色を覗いたりして、それが幽霊に間違われたりもしたのであろうか。

 二郎にとって、もっとも残念だったのは、せっかく、ここまで上がってきたにも関わらず、またしても、鬼火の原因らしきものは、何一つ、見当たらなかった事であった。確かに、さっきまで、この場所で何かが光っていたはずなのに、やはり、一筋縄ではいかないみたいなのである。

 ところが、次の瞬間、二郎はハッとさせられる事になった。

 この機械室の内部には光る物体はなかったのだが、代わりに、丸窓の向こうに広がる景色の中で、何かがキラキラと輝いたのだ。

 驚いた二郎は、急いで、丸窓のすぐ手前にまで駆け寄った。のみならず、丸窓の外にと目を向けた。よく凝視する為に、どんどん、窓へと顔を近づけたのである。

 光の正体が分かった。

 窓から見える敷地内の、それも開けた広場となった路上に、何者かが立っていたのだ。もっともっと、頭を窓の外へと突き出して、その謎の人物の姿を、しっかりと確認してみると、そいつはピエロの格好をしているのである。

 赤い道化師だ。かつて、二郎も、コバヤシ青年といっしょに目撃した、あの時計塔の上のピエロと同一人物で間違いなさそうなのである。この怪人が、片手に小さな鏡を持っており、その鏡に太陽光を反射させて、二郎のいる時計塔の方に眩しい光を送っていたのだった。

 と言う事は、このピエロも、時計塔に二郎がいるのに気付いていて、このようなイタズラを仕掛けてきたと言う事になるのであろう。実際、ピエロは、二郎の方を見上げていた。うっかり、二郎とピエロの視線も合ってしまったのだ。ピエロは、怪しい、不敵な笑いを浮かべていた。

 二郎は、狼狽しつつも、それでも、ピエロの姿を眺め続けたのだった。

 今こそは、あの不審者を捕まえる絶好のチャンスなのではなかろうか。あんな見晴らしのいい地面に立っているのならば、四方から取り囲めば、すぐに捕まえる事もできそうだ。しかし、それなのに、なぜ、警備員や使用人たちは、あのような曲者がいるのに、まだ気が付かないのであろう。

 二郎は、このピエロが、またもや、風見鶏のように、片手を伸ばして、ある方向ばかりを指さしている事に勘づいた。当然ながら、そうなると、指さされている方に目を向けてしまうのだ。

 小さな窓から頭をぐんと前に突き出していたものだから、二郎の顔は、そう大きくは回らなかった。それでも、必死に、目だけでも動かしてみると、ピエロが指し示していた地点には、何やら、人の姿が見えたのだ。

 一人ではない。誰かが誰かを地面に押し倒して、押さえつけているみたいなのである。押さえつけられていたのは、どうやら、この屋敷の警護に当たっていた警備員なのだった。そして、その警備員を組み伏せていた人物と言うのが、やはり、前にも見た事のあるこうもり男の格好をしていたのだ。

 二郎は動揺した。

 この屋敷の敷地内に侵入した不審者は、一人だけではなかったのだ。しかも、今は、二人同時に忍び込んでいたようなのである。

 いや、実は、その程度でも済まされていなかったのだ。

 こうもり男のそばに、さらなる三番めの怪人までもが現われた。それは、白い幽霊だった。あの、小さな、シーツをかぶったような化け物までもが、軽やかに舞いながら、どこかから出現して、こうもり男と合流したのである。

 最悪の展開なのだ。不審者は、そもそも、はじめっから三種類いて、一人一人が違う日に現われて、この屋敷の人間を脅かしていたのである。そして、ついに、その三人が、今日は、全員が揃ってしまったのだ。こんなに、片っぱしから不審者に侵入されてしまうとは、この屋敷の防犯システムも警備の網も、厳重なようで、実は全くのザルもいいとこではなかろうか。

 のちに、屋敷の警備員たちに聞いて、分かった話なのであるが、この時、この三人の怪人たちは、片っぱしから見張りや巡回中の警備員を捕まえて、その全員を動けないように拘束していたのだった。二郎が時計塔にたどり着くまでの途中の道で、なぜか、誰とも会わなかったのも、この為だったのだ。全ては、賊によって計算され尽くした罠だったのである。

 連中に不甲斐なく捕まってしまった警備員らの証言によれば、あの赤いピエロにいきなり睨まれると、急に頭がクラクラしてしまい、戦う意志も萎えてしまったのだと言う。その隙を突かれて、彼らはこうもり男や白い幽霊に縛られてしまい、どこか人目につきにくい場所へと移動させられたのだ。幸い、彼らの目的は、それだけだったらしく、殺されたり、ケガまで負わされた者はいなかったのである。

 さて、そのようにして、邪魔者の警備員を一通り片付けたコウモリと幽霊の二人の不審者は、余裕で、ピエロのいる地点へと歩き出したのだった。

 二郎も、その様子を食い入るように見物し続けていた。あまりに驚くべき光景の連続だった為に、二郎は、声を出すのも忘れて、ただ、連中の様子を追い眺めてしまったのである。

 ついに、こうもり男と白いお化けは、赤いピエロとも合流した。ここに、三匹の化物が集合したのだ。

 ノッポのこうもり男に、デブの道化師。そして、小人のような白い幽霊。なんとも、異様な組み合わせなのである。まるで、サーカス団の見世物のようなのだ。

 そして、彼らは、自分たちの事を、時計塔の二郎がずうっと観察しているのを、よおく納得した上で、次の行動にと出たのだった。

 こうもり男が、バアッと自分の扮装を剥いだ。そこから現われた彼の正体は、人間ヒョウであった。白い幽霊も、かぶっていたスーツを、ガバッとめくり上げた。中から出てきたのは、一寸法師だ。そして、最後の一人であるピエロは、そのまんま、魔術師で間違いはないのであろう。

 いずれも、以前に、ナカムラ警部にプロジェクターで見せてもらった「暗黒星」のメンバーなのだ。彼らは、ついに、これまでの全ての犯行が暗黒星の仕業であった事を暴露し、堂々と、玉村家に挑戦してきたのである!

 とにかく、二郎にとっては、目を離せない出来事ばかりが、眼下で繰り広げられていた。おのずと、彼は、時計塔の丸窓のもとにと釘付けにされてしまったのである。

 そして、それがいけなかったのだった。

 ふと、二郎は、首筋に、強い圧迫感を覚えた。何かが、上の方から、二郎の首を押さえつけているのである。

 最初こそ、何が起きたのか分からず、困惑したものの、二郎に、すぐ原因を悟った。

 大時計の長針である。いつの間にか、時計の針が丸窓のそばまで回ってきていて、窓から飛び出ていた二郎の首にと突き刺さりだしたのだ。

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