表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
130/146

見つかった惨殺死体

 アオヤマ区タカキ町の神社で、女の死体が発見されたのは、その翌々日の事であった。

 朝、犬の散歩をしていたタカキ町の住民がいたのだが、突然、その犬が神社の方に向かって、勝手に走り出したのである。犬は、社殿の前にまでやって来ると、その床下へと頭を突っ込んで、異常なまでに吠え続けた。

 どうやら、何かがあると察知した犬の飼い主は、すぐに、神社の神主へと報告したのだった。彼らは、電灯を使って、社殿の床下を覗いてみた。すると、問題の女の死体が見つかったのである。

 死体は、床下にある柱に寄りかかるような格好で、放置されていた。女性ながら、紺のスーツなどを着ていたのである。そして、彼女の胸には、短刀が突き刺さっており、その上半身は真っ赤な血で染まっていたのだった。すでに事切れていたのは、一目で分かった。

 このあと、この事件については、早急に警察へと通報されたのだ。間もなく、本署の方から、敏腕のナカムラ警部もやって来た。この案件は、彼が担当する事になったのである。

 ナカムラ警部は、死体の顔を一瞥すると、なぜか、驚いた表情を浮かべたのだった。警部は、まだ細かい捜査も済まないうちから、いきなり、アケチ探偵に連絡を取ったのである。

 そのアケチ探偵の事務所はと言えば、前日から、実に不穏な空気となっていた。と言うも、前々日から、探偵助手の一人であるフミヨが、姿をくらましていたからである。彼女は、誰にも何も言わずに、急に、蒸発してしまったのだ。その後、何の音沙汰もなかった。こうして、事務所内の皆がずうっと心配している最中に、ナカムラ警部からの知らせが届いたのだった。

 アケチ探偵と助手のコバヤシ青年は、ナカムラからの伝言を受け取るなり、急いで、タカキ町の事件現場の方へと向かった。ナカムラのもとに到着した時には、アケチもコバヤシも、ひどく険しい表情をしていたのだった。

「ナカムラさん。身元確認をしますので、すぐ遺体を見せてもらえませんか」アケチ探偵は、押し殺した声で、ナカムラ警部に、そう話し掛けた。

 アケチ探偵とナカムラ警部は、腕利き同士で、よく共同捜査を行なう、懇意の仲であった。だから、堅苦しい挨拶とかも抜きで、すぐに用件に取り掛かる事もできたのである。

「この度は、本当に気の毒な事をした。わしも確認したのだが、まず間違いないと思うよ」ナカムラも、沈んだ声でアケチに告げたのだった。

 それから、ナカムラに案内されて、アケチとコバヤシは、今回の事件の遺体が積んであるワゴン車の前にまで連れてこられたのである。ワゴンのバックドアは開いていた。そこから、中にある遺体を拝見できるのだ。

「どうぞ。君たちの目で確認したまえ」暗い表情のまま、ナカムラは言った。

 アケチとコバヤシは、決して取り乱したりもせずに、ワゴンの中を覗いてみたのである。そこには、血まみれになった無残な死体が、まだ、そのままの状態で保管されていたのだ。

 アケチもコバヤシも、渋い表情で、チラリと死体を拝んだ。

 すぐさま、アケチは目を背けて、こう言ったのだった。

「違います。この女性は、フミヨではありません」

 あまりに簡単に断言したので、ナカムラの方が呆気に取られたのであった。

「え、え?本当かね?もう一度、よく確認してみたまえ」と、ナカムラは言った。

「そうですね。どうやら、この女性の死体は、フミヨさんではないみたいです」少し遅れてから、コバヤシ青年も、そのように発言したのだった。

「でも、わしが見た限りでは、間違いなく、フミヨさんだと思ったのだが」ナカムラが、弱りながら、口にした。

「警部がおっしゃるように、かなり似てはいます。でも、別人ですね。毎日、いっしょに暮らしていた先生とぼくでしたら、その微妙な差異も分かるのです」コバヤシは、ナカムラに説明したのだった。

「では、この仏さんは誰だと言うのかね?フミヨさんにそっくりだと言う事は、もしや、玉村妙子嬢だとか?ほら、この仏さんには、左手の人さし指がないぞ!」ナカムラ警部が、ハッとしたように、主張した。

「僕も、その点は気になりました。警部、警察のデータバンクには、フミヨと妙子さんの指紋やDNA情報などが残っていたはずですよね。至急、この死骸と照合してもらえませんか」

「わ、分かった」ナカムラは、すぐに承諾したのだった。

 いやはや、この名探偵コンビの分析ときたら、他の皆が舌を巻くほどの速さなのである。

「それにしても、この死体が着ているスーツが気になりますね。これは、フミヨさんのものじゃないでしょうか。だから、全く、フミヨさんと無関係の事件でもないような気がします」コバヤシが口にした。

「そうだな。今のところ、行方不明のフミヨの手がかりは、この死骸だけだ。どうも、すごく嫌な予感がするな」アケチも、不安げに、そう告げたのだった。

 確かに、アケチたちの推理のキレは、普段と変わらないのだが、それでも、彼らがかなり動揺していたのは、やはり、隠し切れてはいないようなのであった。


 数日後、タカキ町の惨殺死体とフミヨとの間の指紋や歯型などの照合結果が出る事となった。

 それによると、死体は、フミヨとは別人である事が、はっきりと判明したのだった。妙子に関しても、同様である。DNA情報の照合を行なう事で、妙子の可能性も、完全に否定されたのだ。つまり、この謎の死体は、フミヨでも妙子でもなかった訳である。

 となると、この死体は、一体、誰だったのであろうか?

 困った事に、死体が着ていたスーツは、やはり、フミヨのものであった見込みが強くなってきた。それと言うのも、アケチの探偵事務所からは、フミヨの持ち物と言えば、この同じタイプのスーツだけが紛失していたからである。フミヨは、このスーツを着て、姿をくらましたらしい、と推察されるのだ。

 しかし、仮に、死体の着ていたスーツがフミヨのものだったとしても、なぜ、このスーツを死体が着ていたのであろう?その理由や過程が、まるで謎のままなのだ。

 ここに来て、捜査は、暗礁に乗り上げたのであった。この不可解な惨殺死体の身元が分からない限りは、これ以上の事は解析できそうにないのである。警察では、行方不明の捜索願なども丹念に当たってみたのだが、該当しそうな人物は、まるで届けられていないのであった。

 それから、さらに数日が経つ事になった。フミヨが蒸発した事は、アケチの探偵事務所内でも、ちょっとした事件として、皆にも知れ渡る状況となっていた。

 そんな矢先に、もとアケチ青年実働隊だった、スーパー山形屋の店員の鳥井青年が、申し訳なさそうに、アケチ探偵とコバヤシ助手の前にと、顔を見せたのだった。鳥井は、アケチたちに、何かを話したそうな様子であった。アケチたちは、もちろん、冷静に、威圧する事もなく、鳥井との対話の場をもうけてやったのである。

 そこで、鳥井は、自分が知っている事の全てを、アケチらにと打ち明けたのだった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ