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暗黒星の反省会

 暗黒星のアジトである謎のプラネタリウム会場では、今日も、彼らだけの秘密の会合が行なわれていた。

「それでは、皆さん、次の議題について、話し合いたいと思います」

 中央の投影機の横に立っていた議長役のニジュウ面相は、観客席に点々と座っている仲間たちへ、大きな声で話し掛けたのだった。

「すでに皆さんもお聞きかもしれませんが、私が中心となって進めていたプラン、倭文子夫人殺害計画ですが、こちらは、現時点では失敗してしまいました。最後の最後でアケチ探偵の邪魔が入って、我らが同志・クモ男くんは、倭文子夫人を殺し損ねたのです」

 ニジュウ面相の報告を聞き、観客席からは、冷ややかな笑いが漏れた。

「あんたら!勘違いしないでよ!あたしと父上の仕事は、十分に完璧だったんだから!ドジったのは、あの役立たずの人殺し野郎よ!あんな奴に最後の仕上げを任せたのが、間違いだったんだわ!」

 観客席の一つで、いきなり立ち上がり、そう息巻いたのは、ピエロ姿のジゴクの道化師である。

「まあまあ。ジゴクの道化師くん、落ち着いて。今回の場合、クモ男くんだけが悪かったとも言い切れません。むしろ、アケチ探偵が、我々が想定していた以上に活躍し過ぎたのです」ニジュウ面相が、落ち着いた態度でそう言って、ジゴクの道化師をなだめたのだった。

 槍玉にされているクモ男はと言えば、どうやら、この会合の場には居ないのである。

「まあ、何だっていいさ!この計画については、まだ続行するんだろう?だったら、今度は、おいらをチームに加えてくれよ!おいらだったら、クモ男みたいなヘマは絶対にしないぜ!なあ、おいらにターゲットをらせてくれよ!」観客席の一つで、しきりと飛び跳ねて、そうアピールしていたのは、小柄な怪人の一寸法師なのだ。

「一寸法師!お前ごとき三下は黙っていろ!」急に怒鳴ったのは、一寸法師のすぐ近くの席に座っていた人間ヒョウである。彼は、その野獣のごとき顔を、ニタニタさせて、ニジュウ面相の方にと向けたのだ。「なあ、ニジュウ面相。次は、オレ様の出番だよな?オレ様の方が、ずっと手際のよい仕事をしてみせるぜ」

 しかし、その時である。

「やい、ケダモノ!あんたこそ、引っ込んでなよ!あたしの方が、あんたみたいな強姦魔と手を組むのは、一切ゴメンなんだよ!」ジゴクの道化師が、間髪入れずに、人間ヒョウへ怒鳴り返したのだった。

 その勢いと凄みに驚いた人間ヒョウは、つい身をすくめたのであった。

 それにしても、この暗黒星の連中は、相変わらず、仲間のミスや好き嫌いには、やたらと厳しいのである。ニジュウ面相も、場の空気が悪くなっているのに、やや呆れているようなのだった。

「とにかく、この計画については、もう少し、手段を練り直す事にしましょう。皆さんも、それでよろしいですね?」ニジュウ面相が言った。

 反対の声は上がらない。基本的に、その方針に異論のある者は居ないようなのだった。

「しかし、アケチの奴には、本当に困ったものだな。ニジュウ面相よ、あの探偵には弱点はないのかね?」ジゴクの道化師の横に座っていたピエロ姿の魔術師が、ニジュウ面相に尋ねてみた。

「アケチくんは、通常時の頭脳は我々を上回り、第二体質のコゴローくんになった時は、体力の面でも強大なパワーを発揮します。まともに立ち向かったのでは、まず勝ち目はありませんね。でも、だからこそ、私は、そんなアケチくんを正面から倒してみたいのですが」ニジュウ面相は笑った。

「おぬしのポリシーはどうでもいい。私が知りたいのは、アケチの弱みだ」と、魔術師。

「もちろん、そんなアケチくんにも、全く欠点がない訳ではありません。私が調べた限りでは、アケチくんは、一度コゴローくんに変わった後は、アケチくんに戻る際には、しばしの休眠を必要とするようです。短くても半日、長ければ3日以上も眠り続ける事もあるらしいです。もし、彼に邪魔されないように、計画を進行させたければ、この空白時間に目をつけるのもアリでしょうね」ニジュウ面相は、妖しい笑みを浮かべてみせた。

「だけど、すごいわあ、アケチさんって。頭が良いだけではなくて、格闘でも超一流なのね。ボクも、いつか、ぜひ、コゴローさんの方にも会ってみたいわ」そんな事を、なんとなく、嬉しそうに口に出してしまったのが、女賊の黒トカゲなのであった。

「なに、敵のことを褒めてんのよ!そんな事だから、あんたは、あの探偵に勝てないのよ!」と、またしても、ジゴクの道化師が、口汚く、黒トカゲを罵ったのだった。

 黒トカゲも、ちょっとムッとした表情になったのである。どうも、さっきから虫の居所が悪い感じの娘の姿を見て、魔術師も、やや苦笑したのだった。

「ところで、この案件の依頼主である畑柳だが、見たところ、我々だけには任せきれないらしくて、自身でも、頻繁に現場を動き回っているようだな」魔術師は、さりげなく、話題を変えてみた。

「そうなのです。実を言いますと、その件でも、少し頭を悩ませていたのです。何しろ、今の畑柳くんは、とても人に見せられる風貌をしておりません。それなのに、あの顔のまま、あちこちをウロチョロするものだから、目立って、現場でもウワサになり始めているようなのです」と、ニジュウ面相。

「確かに、それは、ほっとけない話だな。せっかく、彼のために、我々が骨を折っていると言うのに、彼がうかつに警察に捕まりなどしたら、我々の行動にも支障が出かねない」

「そう言えば、その肝心の畑柳が、ここには顔を出していないみたいだな。奴はどうした?」人間ヒョウが怒鳴った。

「畑柳くんなら、妻のことが気になって仕方がないらしく、当分の間は、隠れて、彼女のそばに居続ける事にしたそうです。まあ、そうやって身を潜めていてくれた方が、我々としても助かるんですけどね」ニジュウ面相は、冷ややかに、静かに、そう告げたのであった。


 その日の暗黒星の集会が終わった。

 ほとんどのメンバーはすでに解散していたが、プラネタリウム会場には、ちょっと沈んだ雰囲気のジゴクの道化師がまだ残っていて、席の一つに座り込んでいたのだった。それに、一寸法師も帰ってはいなかった。彼も、この会場の中で、まだブラブラして、陽気に飛び跳ねたりしていたのだ。今、この場にいたのは、この二人だけだった。

 薄暗いホールの中、ボンヤリとしていたジゴクの道化師の前で、能天気に、一寸法師は遊び回っていた。そんな彼が、ふと、ジゴクの道化師のそばへ寄って来たのである。

「ねーちゃん、どうしたんだよ、暗い顔をしてさ。なにか、イヤな事でもあったのかい?」一寸法師は、笑って、ジゴクの道化師へと話し掛けた。

 ジゴクの道化師の方も、意外そうに、一寸法師の事を見つめたのである。彼女は、皆にケチばかりつけていたので、てっきり、自分は全員から嫌われていたと思っていたのだ。

「あんたは、一寸法師って通り名なのかい?」ジゴクの道化師は、なんとなく、一寸法師に聞いてみた。

「そうだよ」と、一寸法師。

「本当の名前は?」

「そんなもの、無いよ」

「無いって、どうして?」

「おいらにも分かんないよ。おいらは、生まれた時から、名前も、過去の人生もない人間なのさ」

 一寸法師のとぼけた言い草に、ジゴクの道化師も、クスッと笑った。

「あんたって、面白いヤツだね。でも、あたしだって同じようなものさ。あたしも、過去も、これまでの人生も捨てた女なんだ」

「じゃあ、おいらたちって、仲間だね!」

「そうかも知れないね」

 二人は、互いの顔を見て、笑い合ったのだった。

「そうだ。あんたには、あたしが名前をつけてやるよ。人間っぽい名前をね。あたしだけは、あんたの事を、その名前で呼んであげる」思いついたように、ジゴクの道化師は言った。

「ええ!本当かい?」

「ああ、約束さ。そうだな、進一って名前はどうだい?」

「進一?うん、とっても良いよ!おいら、その名前は気に入ったぞ。これからは、おいらは進一だ!」

「そうよ、進一よ」

 二人は、楽しそうに笑い続けたのだった。どうやら、ここに、孤独だった者どうしの奇妙な結びつきが生まれたみたいなのでもあった。

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