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宇宙怪人

 フェンシング勝負であえなくコゴローに敗れてしまったシジュウ面相は、ジリジリと後退していた。その先は岸壁のはしであって、もはや逃げ場はないのだ。

「やい、ニジュウ面相。お前のシジュウ面相だかは、どうやら、口ほどにもなかったようだな。さあ、今度こそ、素直に降参して、お縄についてもらおうか」コゴローは、フェンシングの剣を振り回しながら、意気揚々と、シジュウ面相に迫ったのだった。

 すると、岸壁のギリギリまで追い詰められたシジュウ面相は、そこで立ち止まり、可笑しそうに笑い出したのだ。

「シジュウ面相だけでは君に勝てそうにない事は、はじめっから想定内でした。にしても、君のパワーは、私が考えていたよりも、はるかに上回っていたみたいですね」と、シジュウ面相。

「だから、どうだってんだい?まだ、俺と戦うつもりなのか?」

「もちろんですとも。これからが本番ですよ。次は、私は、シジュウ面相の状態で、変身させていただきます。今度こそ、簡単に負けたりはしませんよ」

 そう言いながら、シジュウ面相は、ゆっくりと、顔に当てていた銀仮面を外したのだった。その顔は、すでに変身が始まっていた。今のシジュウ面相も、しっかり、全身に変身スーツを着込んでいたのである。

 そして、変身中のシジュウ面相の顔を見て、コゴローも顔をしかめたのだった。

 シジュウ面相は、明らかに、人間じゃない怪物に変わりつつあったのだ。ウロコのようなザラザラした皮膚、蛇のような丸い目、鳥のようなクチバシ状の口。シジュウ面相の顔は、そんな風に変貌していったのである。

 次の瞬間、シジュウ面相は、自ら、岸壁の下へと飛び下りた。

「あっ、このう!逃げる気か!」と、コゴローが叫んだ。

 だが、そうではなかった。下りたかと思えば、シジュウ面相は、またすぐに岸壁の上に飛び上がったのである。まるで、映像を逆回ししたみたいに。

 そして、再登場したシジュウ面相の姿を目にして、コゴローはもっと驚いたのだった。

 シジュウ面相は、岸壁の下に隠れながら、全身の変身メタモルフォーゼも完了させたのである。服も全て脱ぎ捨てて、彼は、変身後の完全体になって、その姿を披露したのだ。

 それは、初めて見る怪物であった。基本的には、人間のような形をしていた。二本の足で地面に立ち、頭と両手を持っているのだ。だが、背中には、コウモリのような巨大な翼を生やしていた。顔も、先ほど記したように、爬虫類みたいな不気味なルックスなのである。裸となった胴体の全面も、ウロコに覆われていて、それも、紫や緑や黄色が縞になった、なんともハデな極彩色なのだ。暗い夜中のはずなのに、なぜ、そんな色が分かったのかと言うと、この怪物の体は、夜光塗料でも使われていたのか、うす明るく、光っていたからである。

「おい!一体、何に化けたんだ?そんな動物、見た事がないぞ!」コゴローは、怪物と化したシジュウ面相むけて、怒鳴りつけた。

「知らなくて、当たり前です。私は、今、遠い星から来た未知の生物に変身したのです。宇宙怪人です。この姿は、他天体に棲む知的生命体なのです」怪物のシジュウ面相は、水かきのついた手を振って、しゃあしゃあと、そう答えたのであった。

「ふ、ふざけるな!デタラメも、いい加減にしろ!」

 ムッとしたコゴローは、すかさず、宇宙怪人と称するシジュウ面相に飛び掛かっていったのである。

 だが、次の瞬間、本当に、嘘みたいな事が起きた。宇宙怪人が、思いっきり、背中の翼を扇ぐと、その体は、軽やかに宙へと舞い上がったのだ。

 コゴローは、まんまと、宇宙怪人の体を掴み損ねてしまった。今や、宇宙怪人は、コゴローのすぐ真上の空に浮かんでいるのである。

「なんだ、なんだ?どうなってるんだ?」さすがのコゴローも戸惑った。

「だから、言ったでしょう。今の私は、宇宙怪人なのです。空だって飛べるのですよ」上空にいる宇宙怪人は、コゴローを見下ろしながら、せせら笑ったのだった。

 いくら、コゴローでも、相手が、手も届かないような上空にいたら、戦いようがないのである。

「先生!ニジュウ面相の体を、よおく観察してください!プロペラかジェット噴射器でも、背中に背負っていませんか?」少し遠い場所から、コゴローたちの決闘を見守っていたコバヤシ青年が、大声を出して、コゴローにそうアドバイスした。

「う、うん?あいつの背中には、何も無いみたいだぞ」

 宇宙怪人を見上げながら、コゴローは、歯切れ悪く、答えたのだった。どうやら、コバヤシ青年でも、宇宙怪人が飛行するトリックは見抜けないようなのである。

「愚かな地球人よ!だから、言っているでしょうが。私は宇宙怪人です。この大きな翼を使って、自力で飛べるのですよ。さあ、勝負を再開しますよ」宇宙怪人は、得意げに怒鳴った。

 このように、空を自由に飛べる宇宙怪人が相手では、コゴローの方が不利なのは、目に見えていたのだった。しかも、宇宙怪人の戦法はそれだけでは無かったのだ。

「では、行きますよ」

 そう言いながら、宇宙怪人は、腰につけていた物体を取り外した。それは、ピストルぐらいの大きさの、スポイトみたいな形の道具だった。彼は、このスポイトを手に持つと、その尖った先端をコゴローの方に向けてから、いきなり急降下してきたのである。

「うわっ!やるか、こいつ!」コゴローは、慌てて、手にしたフェンシングの剣を、向かってくる宇宙怪人の方へ突き出した。

 宇宙怪人は、全く動じずに、突進してくるのである。コゴローの剣の先の直前まで来た時に、彼は、巨大スポイトの先っぽから、何かをシュッと噴出させた。そのガス状のものが剣に降り掛かった途端、宇宙怪人は、クルッと方向転換をして、再び、コゴローのそばから離れて、上空に戻ったのである。

「あっ」と、コゴローは、思わず、フェンシングの剣を投げ捨てた。

 と言うのも、謎のガスを振り掛けられた剣は、無残にも、溶けてしまったからである。それは、白い煙を出して、サラサラの灰になってしまったのだ。

「いかがです!いかにも、星の科学らしい武器でしょう。このガスを浴びた地上の物質は、全て、原初の塵にと返ります。今のはデモンストレーションでしたが、次は手加減をしませんからね」上空で空中停止ホバリングしている宇宙怪人は、嬉々として、言い放ったのだった。

「何が、星の科学だ!どうせ、強酸か何かを霧状にしただけの武器だろ!」コゴローは言い返した。

 しかし、飛行する機動力に加えて、こんな危ない武器まで使用されたら、ますます、コゴローの方が不利なのは、間違いないのであった。見たところ、両者の優劣は、すっかり逆転してしまったのである。

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