表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
100/146

アケチ青年別働隊出動!

 さて、何が起きたのか、もう少し詳しく説明する事にしよう。

 小学六年生の小泉信雄は、アケチ少年探偵団の一員だった。彼は、夕刻の学校帰りに、一人で、シブヤの小さな公園の前を通りかかったのだが、そこで怪しい人物を見てしまったのである。

 そいつは、その公園の中に、ポツンと一人っきりで佇んでいた。ネズミ色のオーバーを着て、頭にもネズミ色のソフト帽をまぶかく被っているのだ。背が高くて、男性かと思われた。

 小泉少年は、なんとなく、その男の姿を眺めていたのだが、ソフト帽の奥にある顔がチラッと見えた時、ギョッとしたのだった。そいつは仮面をつけており、その仮面こそは黄金仮面だったのだ。いや、顔のデザインこそ黄金仮面なのだが、色は黄金ではなく銀なのである。言うなれば、黄金仮面の亜種の銀仮面だったのだ。

 小泉少年は、この銀仮面の男に見つからないように、慌てて、木の陰に身を隠した。そして、少し迷った末に、この怪人の素性を探る事にしたのである。

 しばらくしてから、銀仮面は、ゆっくりと移動を開始した。公園を出て、外の舗道を歩き始めたのだ。小泉少年も、そのあとを、こっそりと、つけていったのだった。

 さいわい、小泉少年は、親の言いつけで、学校にも自分専用の携帯電話を持参していた。彼は、謎の銀仮面をじょうずに尾行しながら、その最中に、アケチ探偵の事務所へも電話を掛けてきたのである。

 この話を聞いて、事務所にいたアケチは怪訝そうな表情になった訳なのだが、実は、アケチもまた、ほんの最近、銀仮面の情報は耳にしていたのだった。こないだ、事件に巻き込まれた国立博物館の館長が、銀の仮面をつけた賊に襲われた、と警察で証言していたのである。

 だとすれば、今回、小泉少年が発見した銀仮面も、この博物館の事件と関連していたのだろうか。もし、そうだとしたら、このまま、この銀仮面を逃してしまわない方がいいのだ。

 かくて、小泉少年には、正式に、銀仮面尾行の許可がおりたのであった。

 銀仮面は、人目を避けて、あまり人通りのない道ばかりを、ゆっくりと歩いて、たくみに移動していたようだった。彼とすれ違った通行人の中には、うっかり、銀仮面の顔を見てしまった者もいたのだが、そもそも、世間には、すでに、黄金仮面のコスプレをして、路上を平気で闊歩する奴も現われていたので、今さら、銀仮面を目にしたところで、いちいち気にとめる人もいなかったのである。

 小泉少年も、そんな銀仮面のことを、実に巧妙に追い掛けていた。彼も、少年探偵団に参加しだしてから、だいぶ経っているのだ。上手な尾行術だって習っていたし、その練習や実践だって、日頃から怠った事がなかったのである。この程度の尾行なら、すでにお手の物なのだった。

 仮に、銀仮面が、車にでも乗って、高速で移動するような事にでもなれば、その時は、小泉少年の方でも、GPS(位置特定システム)の発信機をすばやく相手の車に取り付ける準備だって出来ていた。しかし、銀仮面は、徒歩で移動するのみであり、小泉少年も、黙々と、歩いて追い掛けるハメとなったのだった。

 すでに、小泉少年が銀仮面をつけ始めてから、2時間が経過しようとしていた。彼が銀仮面に見つかるような事態にもならなかったが、一方で、銀仮面の方も、長距離をブラブラ歩き続けるばかりで、いっこうに目的地にたどり着く気配もなかったのだ。

 そのうち、あまり好ましくない状況にとなってきたのであった。

「少年探偵団が活動していいのは夜9時まで、と探偵団規約で決まっている。もう夜もだいぶ更けてきた。これ以上は、小泉くんを働かせる訳にもいかないから、そろそろ彼には帰宅してもらおう。代わりに、この先の尾行は、青年別働隊に任せるんだ」アケチが告げたのだった。

 少年探偵団のメンバーは、基本的に、10代前半の子供たちで組織されていたので、夜の仕事はさせられなかったのである。それ以前に、この探偵団には危ない任務は与えないと言うのが、発足時に決めていたルールであった。よって、これ以上、小泉少年を使う事は NG だったのだ。

 そして、青年別働隊の出番である。正式な名称はアケチ青年別働隊と言う。これは、アケチ少年探偵団発足にあたって、アケチが同時に立ち上げた別系統の助手チームだった。名前のとおり、少年探偵団と比べると、少し年長の、20代前後の若者たちによって組織されているのである。

 ただし、少年探偵団と違って、この青年別働隊は、誰でも参加できる訳ではなく、加入者は少年院の出所者のみに限られていた。それは、子供たちの更生を心から願うアケチ探偵の粋なはからいだったとも言えた。

 少年院の出所者と言うのは、時として、せっかく出所した後も居場所が無くなっている場合があるものなのだ。その為、出所後も、良い再就職先も見つからず、やむを得ず、悪の道に戻ってしまうケースだって少なくなかったのである。

 そんな不憫な少年院出身者たちに、アケチが救いの手を差し伸べたのが、この青年別働隊なのだった。アケチは、就職先もなく、行き場のなかった彼らを、積極的に採用して、自分のところで受け入れたのだ。有名なアケチのもとで働けると言うのであれば、雇われる側としても、最高の働き場所なのである。

 こうして、発足時は16人ほどだった青年別働隊も、今では20人以上に膨れ上がり、日夜、アケチ探偵の裏の戦力として活動するようになっていたのだった。

 アケチ探偵のもとで、多くの事を学べれば、青年別働隊を勇退した後だって、その知識や才能を、様々な場面で活かす事ができるのである。のみならず、「アケチのもとで働いていた」と言う経歴だけでも、それだけで、ぐんと受け入れてくれる再就職先も増えたのであった。まさに、青年別働隊の隊員たちにとっても、この隊に名を連ねておく事はいい事づくしだったのである。

 ちなみに、少年探偵団と同様に、青年別働隊の隊長も、アケチの一番弟子のコバヤシ青年が任されていた。青年別働隊の方には、コバヤシよりも年上の部下もいたが、それでも、コバヤシは、優しく、時には厳しい態度で、彼らをけん引、指導していたのであった。

 さて、アケチより命令が下ったので、コバヤシは、さっそく、その手配を始めた。小泉少年には、すみやかに任務を終えるように伝えて、代わりに、青年別働隊のメンバーと連絡を取ったのである。

 手の空いている青年別働隊の隊員は、すぐに見つかった。彼らは、至急、小泉少年が今いる場所へと急行し、小泉少年の任務を引き継いだのだ。つまり、銀仮面の尾行を彼らが続行したのである。

 追跡者が青年別働隊に代わってからも、相変わらず、銀仮面は、あちこちを歩き回っているだけみたいなのであった。尾行を巻いていると言うよりも、わざと、とりとめもなく歩いて、時間を潰しているような感じなのだ。実際に、銀仮面の移動ルートは、やたらとクネクネと曲がっており、よく調べると、以前に歩いた場所に戻っている時もあったのだった。そうやって、さらに夜遅くになっていったのである。

 青年別働隊の尾行者も、一人では担当しきれず、途中で、千太から三吉へと交代する事となった。それでもまだ、謎の銀仮面は、都内をさまよい歩き続けていたのだ。とうとう、時間も真夜中になってしまった。ゆうに、5時間はずっと歩き続けていた事になる。

 とは言え、夜も24時を回った頃、銀仮面と青年別働隊の追っ掛けっこも、ようやく終わりとなったらしかった。

 アケチの事務所に、電話で連絡が届いた。青年別働隊からで、そろそろアケチ探偵らにも出動してほしい、と言う要請なのである。その待ち合わせの場所は、スミダ川の河口付近だった。

 アケチ探偵とコバヤシ青年は、さっそく、コバヤシの運転する車に乗って、事務所を後にしたのである。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ