門前払いした所なんて、こっちから願い下げだド畜生め 前編
老婆と男の子を見送った後、俺たちも外出した。
まずは距離的に冒険者ギルドの方が近いので、そちらに向かう。
冒険者ギルドから発行されているギルドカード、俺のランクがあがるのでその更新手続きをする為だ。
その後に、銀行本店へ行く予定である。
冒険者ギルドに着くと、何故か出入口に人集りが出来ていた。
「昨日の今日ですけど、またなにかあったんですか?」
エールが入口近くにいた冒険者に訊ねる。
その冒険者が答えてくれた。
「いや、それが【白薔薇騎士団】と【堕悪皇帝】の連中が揉めてて」
「へ?!
戦闘系クランで有名なとこじゃないですか。
なんでそんなクランがこんな所に??!!」
エールが滅茶苦茶驚いた。
んー、なんか聞いた事あるクラン名だな。
あ、あれか、それぞれ十回目、四十回目に門前払い受けたとこだ。
戦闘系クランで有名なところってのは知ってたけど、それ以上のことは何も知らないな。
「その二つのクランって、よく揉めてるのか?」
俺はエールに聞いてみた。
「あ、はい。
どちらも総長同士の仲がすこぶる悪いことでも有名です」
「ライバルって意味じゃなくて?」
「違いますね。
とにかく、お互いがお互いを毛嫌いしてるんです。
あの二つのクランが協力したのって、お兄ちゃんのクラン――先代【神龍の巣】を潰そうとカチコミかけてきた時くらいです。
今から五年くらい前の話です」
それ、抗争って言わない??
「怖い怖い」
正直に俺は感想を呟いた。
「お兄ちゃん達にコテンパンにやられて、神龍の巣には手を出さなくなったんですけど。
でも、事ある毎に衝突しあってるクランです。
戦力差は同格。
なので勝って負けてをそれぞれ繰り返してます」
ふむふむ、なるほど。
「でも、悪い人達ってわけでもないんです。
お兄ちゃんが亡くなった時、それぞれの総長がお葬式に香典を持ってきてくれましたし。
お兄ちゃんの死を悼んでくれました」
香典持ってきたんか。
何気にちゃんとしてるな。
「香典返しにとても悩みました」
「そう。
……要するに、基本的には顔を合わせれば喧嘩する間柄のクランがここに揃ってる、ってことか。
でもなんで、そんなことに?」
俺の言葉に、出入口にいた冒険者が嘆息して俺を指差した。
「はい?
……え、俺??」
冒険者が頷く。
そして、説明してくれた。
曰く、この数日間のことが各クランの上層部に伝わったらしい。
加えて、昨日の盗賊退治がダメ押しになって戦闘系クランの有名どころが揃って俺の事を勧誘に来たのだとか。
それも、どちらも総長が来ているらしい。
「そんな」
エールが悲しそうに声を漏らした。
俺が勧誘されて、【神龍の巣】を抜けることを危惧したのかもしれない。
なんて、ちょっと自意識過剰だったかな。
「……エール、この人集りだと中に入るのは難しそうだから、先に銀行行こう」
そう提案して、俺は冒険者ギルドの建物からさっさと離れる。
その時に説明してくれた冒険者にも礼を言っておく。
「え、え??」
「ほら、早く」
エールが戸惑いながら、俺の後を追いかけてきた。
「あ、あの、お話聞かなくていいんですか?」
エールが聞いてくる。
「俺とエールは、ここには来なかった」
「で、でも!」
「勧誘されても行く気は無い。
門前払いされたところだし」
エールはまだ何か言いたそうだったけれど、何も言わなかった。
ただ、少し。
ほんの少しだけ、嬉しそうに見えた。
「とりあえず、冒険者ギルドには午後にもう一回来よう」
時間を置けば、勧誘しにきた人たちも帰っているだろうし。
それから銀行に行って口座を作った。
その後、丁度よくお昼になったので適当な食堂に入って昼食を取った。
そこから腹ごなしに、散歩をして時間を潰す。
時間を確認して、冒険者ギルドに向かう。
冒険者ギルドの前に、なんか死屍累々の光景が広がっていた。
「……なぁに、これぇ」
「うわぁ、抗争みたいになっちゃってますね」
白と黒の衣装を着た連中が共倒れしていた。
その中心で、戦っている奴らがいる。
「白衣の戦士の格好した方々が【白薔薇騎士団】の人たちです。
もう片方の、黒衣の方々が【堕悪皇帝】の人たちです。
そして、あそこで戦ってる人達がそれぞれのクランの総長です。
白い甲冑の金髪の人が 【白薔薇騎士団】の総長、ラインハルトさん。
黒のローブを着て、ツンツン髪の方が【堕悪皇帝】の 総長、ビクターさんです」
エールが説明している間にも、二人は戦い、否、殺し合いを続けていた。
昨日もそうだったけど、誰も通報していないのだろう、衛兵の姿が見えなかった。
「詰所に通報しに行こう」
喧嘩は好きだが、他人の喧嘩には巻き込まれたくなかった。
俺らくるりと踵を返す。
その時、総長同士の決着が着いた。
相打ちだった。
あ、よかった通報しなくて済みそうだ。
総長二人は立ち上がる気配がない。
気絶しているのだろう。
その横を俺は通り抜ける。
そんな俺に、エールが着いてきた。
「エール、冒険者ギルドで手続きが終わるまでは、絶対に回復魔法つかわないでくれよ?」
「わかってますよ!」
この子、結構肝がすわってるというか、いい度胸してるんだよなぁ。
さすが、かつてテッペンをとったクラン、その創設者の妹といった所だろう。
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