ジャーマンスープレックスが綺麗にきまった話
雑誌の星占いだと、昨日と今日の俺の運勢は『ガラの悪い男性と急接近♡』とか書かれているに違いない。
などと、我ながらアホなことを考えて、ゾワッとした。
そんな占いを掲載してる雑誌が、もし本当にあったらクレーム入れてやる。
それはさておき。
昨夜に続いて、か。
まぁ、昨夜のことがそれなりに広まってるとみていいだろう。
「ちっ」
ガラの悪い男は舌打ちすると、拳を引っ込めようとする。
それに合わせて、俺も拳を受け止めた手の力を緩めた。
「テメェ、一人でスケイルを潰したんだってな」
男は俺を睨みつけてくる。
さて、どう答えたものか。
とにかく、表に出て拳で語った方が良さそうだ。
その方が早い気がする。
そう考えて、俺が提案しようとした時。
それよりも早く、エールが言った。
「そうなんですよ!!
ウィンさんはとっても強いんです!!!!」
なんか滅茶苦茶、力強く言われた。
そして、エールは続けた。
「昨夜だって、スケイルの人達手も足も出なかったんですから!!」
向こうさん、殴る蹴る、武器を使うの三拍子が揃ってて、手も足も出てたんだけどなぁ。
まぁ、言うと水を差すことになるから言わないでおく。
エールの言葉に、しかし男はピキっとこめかみに青筋を立てる。
「余計なことしてくれたな。
あのクランは俺が潰す予定だったのに!!」
「知るかそんなん」
あ、やべ。
素が出た。
「んだと?!」
ま、いっか。
「グチャグチャうっせーんだよ。
言いたいことがあるなら聞いてやるから、表出ろ」
ビキビキぃっと、男は怒りで顔を真っ赤に染める。
そして、俺の挑発に乗った。
それを、見ていたほかの冒険者たちの顔色が変わった。
鼻息荒く、男が外へとむかう。
それに続く形で歩きだそうとした俺の腕を、昨日と同じようにエールが掴んできた。
「すみませんすみません!
いま思い出したんですけど」
ん?
「あの人、独りで冒険者やってるマージさんです」
「……強いの?」
「ええ!
冒険者としてのランクはA。
噂じゃ、もうすぐこれまでの活動功績を評価されてSランクに昇級予定らしいです。
つい最近、高難度クエストをいくつも成功させたらしいです。
だから、もしかしたらそのさらに上のSSランクになるって話もあって」
なるほど、強いのか。
「よし、とにかく表で話してくるから。
エールはここで待ってて」
我ながら、笑みが止まらない。止められない。
強いのやつと戦えるのは、願ったり叶ったりだ。
この辺、ほんと母さんに似てきたなって自分でも思う。
さて、俺は男を追いかけ外に出た。
人の通りは疎らだった。
これなら、巻き添えはあまり気にしなくていいか。
コキコキ、ポキッと指を鳴らす。
「んじゃ、始めっか」
俺が煽るのと、男――マージが魔法を展開させるのは同時だった。
呪文もなにもなく、マージはそれを出現させた。
それは火の玉、ファイアーボールと呼ばれる攻撃魔法だ。
それをこちらへ放ってくる。
それをよく見て、避けてみた。
「……は?!」
背後でファイアーボールが爆発する。
少し遅れて、マージがそんな驚きの声を漏らす。
また、ファイアーボールを撃ってきた。
それを避ける。
ヒラヒラと避ける。
ドコドコドコ、と俺の背後でファイアーボールがやはり爆発する。
「ちぃっ、ちょこまかと!!」
なるほど、無詠唱で魔法使えるってのも、こいつの強さのひとつか。
うらやましいなぁ。
俺、魔法使えないし。
うっし、背後とったっと。
「つっかまえた♡」
俺は、マージの背後から腕を回し、ホールドする。
そして、ジャーマンスープレックスをやってみた。
綺麗に決まったぜ、イェイ!
ちなみに、マージは気絶した。
「うそだろ」
どこからともなく、そんな声が耳に届いた。
それは、冒険者ギルドの建物からだった。
それを皮切りに、ザワザワとにわかに騒がしくなる。
「あのチビ、マージに勝ちやがった」
「あのガキ、なにもんだよ!?」
スキルはたったの一個、加えて魔力ゼロを理由に百個の冒険者クランから門前払い受けた新人です。
そう思ったけど、口にはしなかった。
別の誰かが、
「お前、知らねーの?
昨夜、スケイルを潰した奴だよ」
なんて言った。
売られた喧嘩を買って、んで勝利をおさめたのは事実なのであえて否定はしなかった。
また衛兵にお世話になるかな、と思ったけれど、そうはならなかった。
冒険者は血の気が多い者が大半だからか、こういうことはよくあるらしく、衛兵も冒険者ギルドで起きた諍いは基本放っておくらしい。
ちなみに、衛兵は通報されればちゃんとやって来るようだ。
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