とりあえず、居場所が出来たということで。
この話で一旦終わりとなります。
翌日、俺は冒険者ギルドを訪れた。
冒険者ギルドの受付は、いつもは雑用をしている別の人が担当していた。
いつもの人、まだ出勤してないんですよ、と教えてくれた。
そこにギルドマスターが現れて、俺を部屋に通してくれた。
通された部屋は、エールが泊まった部屋だった。
その横で、ミーアが椅子に座ってうとうとしている。
エールは、起きていた。
「おはよう、エール」
エールは俺を見た。
その目は泣き腫らして真っ赤になっていた。
瞼もブヨブヨだ。
「…………」
「引っぱたかれにきた。
と、その前に」
俺は、ミーアの肩を叩いて起こした。
そして、エールと二人で話したいからと部屋を出てもらう。
ミーアは、その願いを聞いてくれた。
部屋に、俺とエールが残される。
「ごめんなさい」
罵詈雑言を覚悟していたが、彼女の口から出てきたのはそんな言葉だった。
「エールは、謝ることなんてしてないだろ?」
エールは、首を横に振った。
「ウィンさんの手を汚してしまいました。
ウィンさんに兄を殺させてしまいました。
そんなこと、させたくなかった。
なのに、貴方は私を止めた」
「魔方陣のこと言ってるのか??」
今度はコクン、とエールは頷いた。
「昨日、本当なら私たちを置いて貴方は討伐に行けたはずです。
でも、わざわざ私たちを連れていった。
なんでそんなことをしたのか、ずっと考えてました」
そこで言葉を切って、エールは俺を見た。
「昨夜のデートのことも聞きました。
ギルドマスターに聞きました。
全て、聞きました。
そう、デートの時のようにドラゴン討伐にも行けた。
一人で行けたはずなのに、貴方はあの時だけはそうしなかった。
なんでだろう?って考えました」
「答えは出たか?」
「はい。
ウィンさんは、兄が殺されるところを私に見せたかったんですね。
ちゃんと死んだと、殺されたと。
回復や復活の余地すらないのだと、思い知らせたかった」
「当たり」
そこから俺は、先代たちの遺志のようなものを話した。
あの時、言葉を交わした内容。
それを話した。
「エール、お前は守られた。
少なくともお前が、ひどい迫害を受けることは無い。
そうそう、お兄さん達の葬儀の手配はギルドマスターがやってくれるってさ」
「聞いてます」
「そっか」
「はい。
あの、それでウィンさんはこれからどうされるんですか?」
そこで、初めてエールの瞳が不安そうに揺れたのを見た。
また一人にされるんじゃないか、という不安に揺れていた。
「そうだなぁ。
とりあえず、冒険者ギルドに預けておいた馬車を引き取って、魔族討伐とドラゴン討伐についての報告書、書かないとだな」
さすがに、事が事なので報告書を書いて提出しろと言われているのだ。
「まあ、それが終わったら、エールが出ていけって言わないなら、まだちょっと世話になりたいんだけど、いいか?」
兄とその仲間を殺した奴などお断りだ。
そんな反応かなと思ってはいたが、エールの答えは違った。
「当たり前じゃないですか。
あそこは、ウィンさんのクランのアジトですよ」
色々思うところもあっただろうに、エールはここにいていいよ、と言ってくれた。
「そっか、ありがとうエール」
俺の言葉に、エールは泣き笑いの顔を向けてきた。
あの日、心が折れかけてた俺に居場所を与えてくれた子だ。
だから、その子のためなら悪者になってもいいと思っていた。
けれど、思った以上にこの子はいい子だったようだ。
「こっちこそ、ご迷惑をおかけしました。
これからも、よろしくお願いします、ウィンさん」
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